魔法少女リリカルなのは 『神造遊戯』   作:カゲロー

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お待たせしました。空白期の日常編スタートです。


『日常』編 その1
未来の大魔女


「……やりすぎだろうが」

 

焼け野原と化したかつての草原の有様を見て、No.“Ⅰ”ことダークネスは痛む額に手を当てた。

荒野の中心でキャッキャキャッキャとハシャイでいる元凶をじろりと睨み、すぐに言っても無駄なことかと諦め、溜息を漏らす。

彼女の性格はこの数週間で把握した彼の身としては、もはや諦めの境地に足を踏み入れつつあったといって過言では無いだろう。

なぜなら、この惨状の元凶たる少女……アリシアは天真爛漫という言葉がピッタリな正確の持ち主だったからだ。

 

「あれ~? どうしたのダークちゃん? 疲れた顔してるよ?」

「誰のせいだと思っている……なあ、そんなに魔法が使えるようになったのが嬉しいのか? いくらなんでも、テンションが高すぎだと思うのだが?」

「うん! すっごく嬉しいよ! 前はリンカーコアが無かったから魔法は使えなかったし……それに、これは元々ママのリンカーコアでしょ? なんていうか、その、いつもママと一緒に居るみたいな気がして……えへへ」

 

恥ずかしそうに笑いながら、アリシアは両手を胸元に当てる。その奥で輝く紫色のリンカーコアは、たしかに彼女の母親であるプレシア・テスタロッサのリンカーコアを移植したものだった。

リンカーコアの移植など本来なら不可能な技術である。しかし、ダークネスの純粋な魔法では無い特殊な術式と、プレシアの命を繋ぎにすることでリンカーコアとその内より溢れ出す魔力をアリシアの生命力に変換、定着させることでアリシアの蘇生と成ったのだ。

蘇生から二週間もした頃には、仮死状態だったアリシアの身体も本来の生命力を取り戻しており、生命力に変換されていた体内魔力を魔法として使えるようになったわけだ。

元々、アリシアの死因は窒息であったが、同時に魔道炉の暴走が引き起こした大量の魔力素をその身体に取り込んでしまったことも原因の一つと言える。リンカーコアの無い人間にとって、体内に大量の魔力を注ぎ込まれてしまえば、拒否反応のひとつも起こすというものだ。

だから魔力生成器官であるリンカーコアを作ってやれば、それが体内の残留魔力を吸い上げてくれるとダークネスは考えたのだ。

しかし、擬似的なリンカーコアを生み出す技術も知識も無かったダークネスは、戦力として勧誘しようと赴いたプレシアの元である可能性を思いついたのだ。それはプレシアの肩の上に浮かぶ、半透明の金髪の少女の幽霊。そう、アリシアの魂は幽霊となって、プレシアの傍で漂っていたのだ。

なぜダークネスに幽霊が見えたのか? それは左目でもあるデバイス、兼、義眼“黒智”にあった。

この“黒智”には『暗黒の叡智』と呼ばれる者の能力が内包されており、それを身体に埋め込んだことで、いまやダークネスはデバイスと半融合状態にある。故に、デバイスに記録されていた異世界の魔法の一つ『霊的な存在を認識することができるようになる魔法』を使うことで、霊的な存在が感知できるようになったのだ。

この魔法を使ってアリシアを目視可能とすることで正気を取り戻したプレシア。

狂気が若干だが薄れた彼女と対話する機会を得たダークネスは、可能な限りの身の上を話して討論を繰り返した結果導き出した答え、それが『肉親であるプレシアの魂を繋ぎとして彼女のリンカーコアをアリシアに移植する』というものであった。

肉親の魂なら拒否反応はさほど出ないだろうし、人造のリンカーコアを作るには時間が足りなさ過ぎる。リンカーコアを取り出すのはフェイトからでも可能ではあったが、フェイトの周りにはダークネスと同じ転生者がいて彼女の味方をするであろうこと、そしてプレシア自身がフェイトを嫌っていたことから、この案が実行されることになった。無論、幽霊状態のアリシアは母に止めるように訴えたが、どうしてもアリシアを生き返らせてあげたいというプレシアの懇願と、プレシアの立てた当初の計画が失敗した場合にのみこの案は実行させる、という条件で不承不承ながら納得させた。

そして計画実行まで、アリシアをダークネスの力で実体化とまでは行かなくても常人にも姿を見れるように魔法を行使し続けることで、二十数年ぶりに再会を果たした『親子だけの時間』が繰り広げられる横で、ダークネスは術式“再誕”の構築を行いつつ、庭園内に身を隠していたわけだ。

 

その後、プレシアの計画が阻止されたことにより、プレシアの命を代償にアリシアは蘇生され、ダークネスと共に管理外世界を転々としていた。

理由は、大魔導師の魔力と知識を引き継いだアリシアが魔法を暴発させないように、きちんとコントロールを教え込むため。

そして、ダークネスやアリシアを追う連中の目を振り切ることだ。

時の庭園での一部始終の記録は、すでにアースラより本局へと報告がなされている。

むろん、願いを叶えるロストロギアをコントロールして見せた上、死者蘇生すら成し遂げたダークネスや、奇跡の体現者であるアリシアの存在は、多くの上層部に属する者たちの目に留まることとなった。

長年不可能とされてきた死者蘇生を成功させただけでも前代未聞なのに、それを成した人物も、生き返った少女も管理局とは敵対関係をとる可能性が高い。

これは不味い。このような奇跡を成し遂げる力は我ら管理局の手にあってこそ意味がある!

法の守護者を名乗っていても、組織を動かすのは人の意思である。ならば、そこには当然、利己的な思想が入り込むのもまた道理。

人の命はいずれ尽きる。どれほどの富と名声を得ても、等しく襲い来る“老い“。

それを克服できるかもしれないともあれば、権力を手にした人間たちが挙ってソレを手に入れようと躍起になるのはある意味当然の事だった。

管理局最高評議会を初めとする上層一派に、管理局という組織に対して強い発言力を持つ、大手のスポンサーたち。彼らは挙って直属の部下を動かし、あるいはコネを使って部隊を動かし、ダークネスとアリシアを捕縛しようと動き出していた。

ただし、手を出そうとしている彼らは万病に効く良薬などではなく、彼らにとって毒にしかならない劇薬、否、殲滅兵器クラスの存在であると知るのはしばらく時が過ぎた後のことである。

こういった事情もあり、二人は“ゲーム”第二幕が始まるまでの間、気ままな二人旅としゃれ込んでおり、冒頭に戻るというわけだ。

 

現在、アリシアが振り回している箒はかつて彼女の母が愛用していたもの。

時の庭園で回収したプレシアの杖型デバイスはとある世界のデバイスマイスターに依頼して、アリシア専用機へと改造された。

その姿は柄の長さがアリシアより頭一つ分ほど長い程度の大きさである、誰もが一度は手にした事のあるであろう掃除道具……『箒』であった。

最も、ホームセンターで五百円で売っている市販のそれとは、完全に別物であったが。全体を機械的なフレームで構成されたそれは、柄部分に取り付けられたコアの周囲を金色の外部フレームが覆う、メカっぽい魔法使いの乗り物的な意匠となっている。

特に目を引くのが組み込まれたカートリッジシステムだろう。

仕様は八連装リボルバー型。二人でデバイス改修のアイディアを出し合っていた際、アリシアの受け継いだプレシアの知識の中に、ミッド式専用のカートリッジシステムの考案計画が含まれていたことに気付き、それを実現させたのがこの新カートリッジシステムであった。

原作でなのはたちがデバイスに組み込むことになるシステムはベルカ式のパーツを無理やり組み込んだものなので術者の肉体にかかる負担も大きく、デバイスにも負荷がかかってしまっていた。その欠点を克服し、初めからミッド式専用のカートリッジとして考案されたのが今回アリシアのデバイスに採用されたシステムだった。

新たに生まれ変わったデバイスの名を【天雷の箒 ヴィントブルーム】。魔女の箒の名を冠するアリシアの愛機である。

紫電の魔女から、雷統べる魔法少女へ。

母娘の絆と共に紡がれたチカラは、確かに少女の胸のうちに宿ることとなったのだった。

 

「はしゃぐのもその辺にしておけ。もういいだろうが……さて、それでは形態変化を試してみろ」

「うん! りょうか~い! ヴィント! モードセカンドッ!」

【Yes sir! 2nd mode 『Des size』】

 

アリシアの手の中でヴィントブルームがその姿を変えてゆく。

穂先が紫のコアに収納されるように引っ込み、コア周りに王冠のように取り付いていたフレームが形状を変え、杖身とほぼ同じ長さの巨大な刃を発生させる。

一見するとバルディッシュのサイズフォームと似ているが、刃の部分が魔力を実体化させたものであること、その表面を薄く紫の魔力光が覆っていることなどが違いとして上げられるだろう。

小柄なアリシアからすればこの形態は小回りが効きそうに無く、持ちまわしも癖があるものの、射程、威力共にバルディッシュを上回っているといって良いだろう。

まさしく死神の鎌と化した愛機を振り回し、具合を確かめるアリシア。

軽々と振り回す様子から見て、数度模擬戦を行えば十分に使い物となるな、と嬉しい誤算に内心でほくそ笑む。

 

「よ~っし! それじゃー、フルドライブ! いってみるんだよ!」

【OK! Master! Full Drive mode 『Magus brume』! set――】

「――って、止めんか、この暴走特急共が!」

 

――が、調子に乗ったアリシアとノリノリのデバイスが試運転だと言うのにフルドライブを発動させようとしたため、流石にそれは不味いと判断したダークネスから待ったがかかる。

 

「え~? 何でなんだよ~?」

【良いではありませんか、ダークネス様。お嬢様も望まれておられる御様子……これに応えずして、何がデバイスですか!!】

 

テンションマックスなお子様~ズ(元々、プレシアの杖にはAIが組み込まれていなかったので、ヴィントブルームのAIも生まれた直後の子供の様なもの) から揃ってブーイングの嵐。しかし不満の声を正面から受けて立ったダークネスはアリシアの眼前に突き出した右手の人差し指を立てながら順をおって説明する。

 

「はぁ……いいか、お前たち? まず一つ目。『フルドライブは肉体にかかる負担が大きい』。生き返ったばかりで、元々今日はリハビリがてらだと説明してただろうが……おまけにデバイスも生まれたばかりの赤ん坊同然ときたもんだ。ここで無理をして後遺症が残るようなことがあったらどうするつもりだ?」

「【う……】」

 

ダークネスの語る正論に、揃って呻き声を漏らす一人と一台。

実際アリシアは今日、始めて魔法を使った訳であり、本人は興奮のためにわかっていないだけで、実際彼女の身体には始めての魔法の使用からくる疲労がそれなりに蓄積されつつあった。普段なら術者の体調管理もデバイスである【ヴィントブルーム》の役目であるのだが、彼も生まれたばかりのせいかそれにリソースを割っていなかったらしい。

そんな二人に向かって、ダークネスは二本目の指をぴん、と立て、

 

「二つ目、『ヴィントブルームのフルドライブは未完成』だということ、お前ら完全に忘れているだろう?」

「【……あ】」

 

どうやら素で忘れていたらしい。あまりにもノーテンキ過ぎるおバカ主従に、本日何度目かになる溜息を漏らさずをえない。

アリシアは見かけこそ幼女でこそあれ、中身(魂)は二〇数年分も加算するとそれなりにいっているはずなのだが……やはりアレだろうか? 精神年齢も肉体に引っ張られるという奴であろうか?

具体的には、高校生の癖に出しゃばりな探偵が幼児逆行した○ナン君が、時間の経過と共に、子供っぽい言葉遣いをすることに違和感を感じなくなっているように見える的な?

見た目は幼女! 中身はオバサン! その名も、魔法少女アリシア!! ――あれ? 意外とピッタシっぽいかも?

 

「まあそういうわけだから、今日はこの辺で戻るとしよう。それに、そう遠くない内に管理局も動き出すだろう……今は一つずつやれることをこなして行くのが最善だ……いいな?」

「なんかしつれ~な事言われた気がしないでもないんだけど……まあ、うん!」

【了解です】

『いい子いい子』と頭を撫でられ、首を竦めているアリシアの姿から小さな子犬の姿を連想し、思わずダークネスは頬を綻ばせてしまう。

「ん~? なんかダークちゃんが笑ってるんだよ」

【きっと、お嬢様の愛らしさに劣情を大いに刺激され、その胸の奥で燃え盛る情欲が溢れ出してしまっているのですよ。よっ! この魔神殺し♪】

「い、いや~、それほどでも~……(てれてれ)」

「褒めてない……全然、褒められていないからな、ソレ……それとヴィントブルーム? どうやらAIに重大なバグがあるようだな? ……戻ったら、初期化」

【そ、そんな!? それはあまりにご無体ですよ、親方様!?】

「やかましいわ!? 変な知識ばかり披露しおってからに……!」

「だ、ダークちゃん! この子は生まれたばっかりなんだから、そんなに怒ると可哀想なんだよ!?」

 

額に青筋を浮かべながらにじり寄るダークネスと、その様子に怯えた悲鳴を上げるヴィントブルーム。そして小柄な身体の背中に回し、必死になってヴィントブルームを守るアリシア。

 

これが“Ⅰ”一味の平凡で平和な日々の一幕である。

 




アリシアとダークネスの掛け合いが書いてて楽しいです。

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