『G』の異世界漂流日記   作:アゴン

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今回の戦いのイメージはセルゲームでの悟空VSセルをイメージしてみました。

さぁ皆集まってー、人外大戦が始まるよー!(まる子感


その23

 

 

「あの、本当に良かったの? 私まで一緒に来ちゃって…………」

 

「今更それを言うデスか? 人助けをしたいって付いてきたのはそっちなのに」

 

封印されていたフロンティアの復活、可動した古代遺跡は先史文明の技術の目覚めと共に浮上し、空に向けて今も上昇を続けている。重力の制御という破格の力を有するこの遺跡は近付くモノを許さない鉄壁の要塞と化していた。

 

そんな中、先の戦闘で自ら投降してきた暁切歌と共にフロンティアへと潜入した立花響は力のない場違いな自分に一抹の不安を抱いていた。

 

今の自分には以前の様なシンフォギアの力を有してはいない。先の戦闘で操られた未来を救うために祓いの力を持つ神獣鏡の光に親友と共に飛び込み、未来を洗脳状態から救いだし、その時に己の身を蝕んでいたガングニールの欠片も綺麗に消滅していった。

 

ガングニールの消滅。自分の相棒であり、これまで共に苦難を乗り越えてきた響にとってその事実は些か寂しいモノがあった。しかし、自分の命を蝕んでいた諸刃の剣でもあった欠片が綺麗に無くなった事で消費される筈だった自分の命は救われた。それ自体は決して悪いことでは無かったし、同じガングニールのシンフォギア装者である天羽奏に至っては号泣する勢いだった程だ。

 

シンフォギアと融合した事で絶大な力を手にしてしまい、更にはその為に死にかけた響。ガングニールの欠片から解放された事で同時に戦いの宿命からも解き放たれた彼女はもう戦場に立つ必要も意味も無くなっていた。

 

ならば立花響は止まるのか? 否、そうじゃない。そもそも立花響にとってシンフォギアを纏うことは戦う事への決意ではない。“人助け”それこそが立花響という人間の行動理由であり、自分の内側から湧き出る本物の衝動。故に、師であり二課の司令官である弦十郎の制止を振り切って戦場に降り立つ立花響は正しくお人好しの塊であった。

 

自分の出来ること、やりたいことの為に行動する。しかし、今の状況は少々困難を極めている。それ故に先程までイケイケだった響は途端に表情を曇らせ、目の前に立ちはだかる少女に目を向ける。

 

「…………調ちゃん」

 

「ほぅ? まさか立花響も一緒とはな。折角ガングニールの呪縛から解放されたというのにワザワザ戦場に立つとはな。これもお前の大好きな人助けとやらの衝動の所為か? 随分とまぁ、難儀な悪癖だな」

 

あの大人しそうな少女からは想像出来ない邪悪な笑みが浮かび上がり、響の身を震え上がらせる。その口調と彼女の纏う雰囲気は嘗て信頼し、そして敵対したあの女性そのもの。

 

間違えるはずがない。目の前にいる少女は調という少女に取り憑いた先史文明の怨霊。

 

「了子さん……!」

 

櫻井了子…………いや、先史文明の巫女であるフィーネは怯えた表情を浮かべる響に更に歪んだ笑みを浮かべた。しかし、そんな彼女を前に暁切歌が鎌を突き付け立ち塞がる。

 

「き、切歌ちゃん?」

 

「早く行くデス」

 

「え?」

 

「今、あなたがやるべき事はここでみっともなく震える事デスか? 違うでしょう。あなたは一緒に来る前に言いました。人助けがしたいと、だったらここで立ち止まってる暇はない筈デス」

 

だから早く行け。今助けを求めているのは自分ではない。そう語る切歌の瞳に後押しされた響は力強く頷くと同時に駆け出し、フィーネ(調)の後ろにある遺跡に向かって全速力で走る。

 

そんな響に目もくれず、調に取り憑くフィーネはほくそ笑む。お前に親友が斬れるのかと、暗にそう語るフィーネに切歌は凶暴な笑みを浮かべる。

 

「私の大好きな調に取り憑いて、挙げ句の果てに好き勝手振る舞って…………覚悟するデスよオバサン!」

 

「生意気な小娘だ。良いだろう。ならば友である我が宿主の刃に葬られて散るがいい。小娘」

 

「やれるものならやってみるデス! 人に寄生する事しか能がないオバサンはとっとと退場するデス!」

 

二度もオバサン呼ばわりされた事によりフィーネの額に青筋が浮かび上がる。事実だけに言い返せないフィーネは振る舞いこそは落ち着いているものの、心の内は般若の如く激怒していた。

 

これで最初の揺さぶりは完了した。後は“彼”が教えてくれた方法でフィーネから調を解放するだけ。ここからが大事だと、切歌は頬から伝わる汗を拭いながら手にした鎌に力を込めて親友の刃を受け止めた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

大地が砕かれ、大気が弾ける。先史文明の人類が造り上げたフロンティアという巨大浮遊島、その端にあたる外縁部。そこでは二人の人間の激闘による余波で永年形を保ち続けてきた外縁部は崩壊の危機に瀕していた。

 

焔の様な髪を揺らしながら拳を奮うのは元シンフォギア装者である立花響の師匠にして特異災害対策機動部二課の長である風鳴弦十郎。対して彼の拳を捌きながら返しの蹴りを放つのは正体、目的、共に不明とされている仮面の男、蒼のカリスマ。

 

特殊な歩法で身体の動きを加速させ、目にも映らぬ速度で戦う二人。拳がぶつかり合い、蹴りが打ち合う度にフロンティアの大地は抉られていく。

 

「チィッ!」

 

「ヅアッ!」

 

一進一退の攻防、互いに全力を出しているのにも関わらず、戦局は拮抗し動かない。純粋な肉弾戦に於いて二人の実力は全くの互角だった。

 

その広がらない差を広げるべく、蒼のカリスマは攻撃の手を弛めない。同様に弦十郎も引いてなるものかと進撃を止めない。

 

互角だから、拮抗しているからこそ弛める事を許さない状況。今ここで下手に小手先を弄すればそれは相手の付け入る隙となり、これまで無かった差が一気に広がる事となる。それが分かっているからこそ、二人の攻撃の手は止むことは無かった。

 

「いい加減、落ちなさい!」

 

「それは、こっちの台詞だ!」

 

流星の如く奮われる蒼のカリスマの拳。鋭く、速く、そして重いその一撃は受けるだけでも弦十郎の表情を曇らせる威力を秘めていた。骨身に染みる蒼のカリスマの一撃、しかしそれを完全に受けきった弦十郎は背負い投げの要領で地面に叩き付ける。

 

「ガハッ」

 

自ら放った拳、そこに乗せた勢いごとそのまま地面に叩き付けられた蒼のカリスマから苦悶の声が漏れる。その隙を逃がさんと追撃を目論む弦十郎だが、その瞬間彼の腹部から全身に鈍い衝撃が伝わってきた。

 

「ヌグッ」

 

見れば、蒼のカリスマが放った蹴りが深々と弦十郎の腹部に突き刺さっていた。なんて足癖の悪い奴、悪態を付きながら反撃能力の高い蒼のカリスマを讚美しながら、弦十郎は受けた衝撃を殺すためにワザと後ろに吹き飛んで見せた。

 

ダメージは最小限に抑えた。しかし全くの無傷ではない。口元から流れる血を乱暴に拭いながら弦十郎は眼前にいる仮面の男を睨む─────が。

 

(なに?)

 

いない。そこにいる筈の仮面の男、蒼のカリスマが姿を消している。嫌な予感がすると直感に従い、頭上を見上げる彼の視界に映したのは、空高く跳躍する仮面の男の姿があった。

 

「沈みなさい。胴回し───踵落とし」

 

ギュルンと、冗談みたいに凄まじい回転音と共に繰り出される踵落とし。その速さに回避不能と判断した弦十郎は両腕を交叉させ、防御の姿勢に入る。

 

瞬間、隕石が激突したと思えるほどの衝撃がフロンティアを襲った。フロンティア全体に及んだその衝撃は戦いの最中であろうシンフォギア装者達の足場を激しく揺らし、フロンティア中枢に潜んでいるウェル博士は起こる筈のない衝撃に断末魔に似た悲鳴を上げていた。

 

陥没し、隆起したフロンティアの大地。着弾地点の中心地点であるそこは正に隕石が落ちた疵の如く、巨大なクレーターを造り出していた。唯の人間が生身で引き出したとは到底思えない破壊力、しかしそんな威力を有した恐るべき一撃であっても、二課の司令官であり立花響の師でもある大人の膝を折るには至らなかった。

 

(…………マジでか、頑丈過ぎないかこの人)

 

自信あっただけに大して効いていない様子の弦十郎に仮面の奥で引き吊った笑みが溢れる。まさかここまでとは、予想を大きく上回る弦十郎の実力に蒼のカリスマ─────白河修司────は戦慄を覚えた。

 

「ヌゥ…………ラァァァァッ!!」

 

驚愕し、僅かに動揺した蒼のカリスマの隙を弦十郎は見逃さなかった。足を掴み、空高く投げ放つと同時に弦十郎も後を追うように跳躍する。

 

空中ならば逃げ場はない。これで終いだとお返しとばかりに拳を放つ……が、弦十郎の拳が蒼のカリスマを捉える事はなかった。

 

“空中三角飛び” 自身の筋力のみで無理矢理空中での三次元機動を可能にした物理法則を度外視した動き、虚を突かれた弦十郎を次に襲い掛かったのは、右頬から貫かれる重く鋭い衝撃だった。

 

「がっ!?」

 

「ぐっ!?」

 

死角からの蒼のカリスマの一撃は正しく弦十郎を捉えた。一度きりの奇襲の成功、しかし蒼のカリスマの一撃に僅かに反応した弦十郎のひじ打ちが、蒼のカリスマの左頬を捉えていた。

 

相打ちの形となった二人、クロスカウンターの要領で互いを打ち抜いた一撃は一瞬だけ意識を失う。しかし、それも地表に向かう自由落下の内に回復し、意識を喪失していた事などお構い無しに再び激しく打ち合う。

 

地表に激突する直前に弾かれた二人、互いにボロボロの状態で向かい合う彼等が心中で抱くのは自分とここまで渡り合う相手への心からの称賛だった。

 

「驚きましたよ。まさかいち組織の長がこれ程の実力を持っていたとは、流石に驚きです。私も護身術程度とは言え多少武術に携わっていましたが…………やれやれ、これでは自信なくしますね」

 

「どの口がいう。それ程の力を持っていながら護身術程度だと? 相手を騙すならもう少しまともな嘘を吐くんだな」

 

「騙し討ちで貴方を討ち取れるなら、私は最初から貴方の前に立っていません。こう見えて人を見る目はあるつもりですから」

 

「そうか? だったら何故、お前は彼等の…………いや、ウェル博士の味方をする。お前の眼が本当に見る目があるのなら、そもそもこんな事にはならなかったんじゃないのか?」

 

弦十郎からの手厳しい指摘に蒼のカリスマは参ったなと頭を掻く。彼のいう“こんな事”は恐らく今自分達が立つ現在の状況そのものの事を差しているのだろう。

 

やはり、彼の直感は馬鹿に出来ない。でもだからこそ仕込みは完了したと蒼のカリスマは仮面の奥でほくそ笑む。

 

「さて、貴方との問答は中々有意義でしたが…………そろそろ幕引きとしましょう。この後にも私には色々やるべき事が多くありましてね」

 

天地上下の構え。ここへ来て初めて見せる蒼のカリスマの構えに弦十郎もそれに対するように身構える。

 

「風鳴弦十郎、貴方は強い。故にここで終わらせましょう。私の持つ全力の一撃で以て」

 

「ならば此方も真打ちをくれてやる」

 

空気が死ぬ。風も掻き消え、不気味な静けさだけが二人の空間を支配する。極限に高まる集中力、音も、色も無くなった世界で二人の呼吸が一瞬重なった時。

 

「────両手(もろて)・猛羅総拳突き」

 

繰り出されたのは、拳の嵐。その一つ一つに必殺の威力を乗せた死の嵐を前に弦十郎は全身に力を込めて一直線に突き進んだ。

 

肉が削がれ、骨が砕かれる。肉体がバラバラになる痛みに耐えながらも弦十郎は足に力を込めて進み続ける。これで決める両腕にありったけの力を込めながら突き進み、遂に弦十郎は拳を潜り抜けた。

 

しかし、其処に待っていたのは絶望だった。拳の嵐という死から逃れられた弦十郎が待っていたのは全方位に及んだ貫手の檻。

 

「人越拳奥義────千手、観音貫手」

 

無数の貫手が弦十郎目掛けて放たれる。先程の拳の嵐はブラフ、この貫手の檻こそが蒼のカリスマが仕掛けた最後の一撃。

 

迫り来る絶望を乗り切った先に待つ更なる絶望、希望なんて見えやしない、そんな危機的状況で弦十郎は笑みを浮かべていた。何を企んでいると、蒼のカリスマが疑問に思った瞬間。

 

「オラァァァァッ!!」

 

渾身の力を込めて降り下ろされた弦十郎の左腕が足元の地面を穿ち、その衝撃でフロンティアの大地が爆発する。爆発で無数の貫手は消え去り、残されたのは蒼のカリスマ本人ただ一人。

 

「そこだァッ!!」

 

「シャオォッ!!」

 

振り向き様に放たれる弦十郎の右拳、互いに必殺となった一撃は止まることなく相手の急所へと向けられ───。

 

互いの首下へと放たれるのだった。

 

 

 

 

 




人越拳奥義・千手観音貫手

シュウジがガモンより教わった護身術(空手)の奥義の一つ。
気当たりにより生み出された無数の貫手、真贋を見極める事が出来なければたちまち蜂の巣にされるであろうえげつない技。
相手が強敵であればあるほど術中に嵌まるこの奥義、本作ではOTONAである風鳴弦十郎が力業でこれを打ち破る。

普通の人間には唯の貫手でしかないが、次の瞬間には全身打ち抜かれているので結果的に末路は変わらない。

尚、ガモンから教わった奥義の中ではある意味マシな部類に入る。



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