『G』の異世界漂流日記   作:アゴン

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やっぱグランゾンは暴れてナンボ。

書いていて改めて思いました(笑)


その10

 

 

────二年前、立花響は一度死にかけた。夕日に照らされたステージの上で、必死に死ぬなと呼び掛けるあの人の泣きそうな顔は、朧気ながらも今でも覚えている。

 

生きることを諦めるな。まるで願うように、祈るようにそう口にする先輩(天羽奏)の姿を、立花響は生涯忘れる事はないだろう。

 

そんな美しくも残酷な記憶の中、響の記憶に一つの影が落ちる。天羽奏の背後、頭上に忽然と姿を現した蒼の巨人。禍々しく聳え立つその姿は、まるでこの世の絶望を具現化したような異質な雰囲気を纏っていた。

 

嗚呼、きっと神様というのはああ言うものを言うのだなと、曖昧な意識の中響は何となく思った。どんなものも、何者にも染まらない深淵の蒼。

 

それはまるでどこまでも続く(ソラ)の様で、全てを呑み込む孔の様だったから────。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『───貴様、だったのか』

 

私立リディアン音楽院───跡地。嘗ては女学生の活気に溢れていた学院は巨大な大穴の形に穿たれ、影も形も無くなっていた。

 

代わりにあるのは天まで届く巨大さを誇る赤いモノ、無数のノイズと融合し、カ・ディンギルを呑み込んで、更には完全聖遺物であるデュランダルを吸収した事により肥大化したソレは、古に語られる赤い竜、黙示録に記された神話の怪物だった。

 

その核となっている魔女(フィーネ)は納得した様に吐息を漏らす。二年前、ネフシュタンの鎧の稼動実験の折に突然現れた蒼い巨人。その圧倒的な力でノイズを一瞬にして殲滅して見せたその力は圧巻の一言に尽きた。

 

あの日以来相見える事のなかった蒼い巨人が目の前にいる。…………いや違う。正しくは呼び出されたのだ。先程まで自分を見上げていたあの蒼い仮面の男によって。

 

蒼い巨人が魔神というのなら、あの蒼い仮面の男は魔人と呼ぶに相応しいだろう。魔神を従えた魔人、フィーネは眼前の巨人を見て、頬に水滴が流れるのを自覚した。

 

『───フィーネ、終わりの名を冠する者よ。先ずはこれまでの暗躍、お見事と言っておきましょう』

 

『なに?』

 

『貴方の企みは正しく効率的で、貴方の話術は恐ろしく効果的、先史文明期の頃より存在し続けてきた貴方は人間と言うものを良く理解している。だからこそこの様な騒動も引き起こす事が出来た。その周到さは一周回って清々しくあります。しかし───』

 

『これ以上、貴方の思い通りになる事は何一つありません。何故ならば、私達が貴方の前に立ち塞がったからだ』

 

『っ、』

 

『終わりですよ、櫻井女史(フィーネ)。その名の通り貴方はここで終わりなさい』

 

『私の恋慕を、小火(ボヤ)騒ぎと同列に扱うか! 小僧!』

 

仮面の男、蒼のカリスマの挑発的な言葉がフィーネの逆鱗に触れる。激昂と共に現れる巨大な触手、最早街の全てを見下ろせる程に巨大化した赤い竜、それに比例して鞭のように繰り出される触手もまた巨大だった。

 

一振りで街を凪ぎ払う事が可能なその一撃、その数は無数、空を覆い街全体に影を落とすほど肥大化した竜の一撃をしかして魔神はその場から動こうとせず、正面から受けきってみせた。

 

いや、正確には受けてすらいない。魔神を包むようにそこにある歪んだ空間によって、竜の攻撃は魔神に届いてすらいなかった。

 

『空間歪曲だと? まさか、貴様の、その機体の力は───』

 

『ご明察、お見事です。察しの通り我が愛機グランゾンは重力を操る。その応用性と汎用性の高さは貴方もご存じかと思います』

 

“重力” それは森羅万象この世で発生する有りとあらゆる事象に干渉、更に破壊する事が可能な地球(ほし)に住む生命体にとって最も身近に在る存在(モノ)

 

それを操ると聴いたフィーネの表情は蒼くなる。もし本当にそれが事実であるならば、あの魔神はこの世界に存在するどの聖遺物よりも危険である事に他ならない。何よりもフィーネが脅威に感じているのは、そんな魔神をたかが人間が御している事にある。

 

認めよう。目の前の魔なる者共は自分にとってこの上ない脅威となる。ならばこそ、全力でこの存在を屠るしか自分に道はない。

 

更に触手を生やして魔神に襲いかかる。質量と物量の嵐、先程の廃墟の屋敷とではやり方は同じでも規模と破壊力は桁違いの威力を誇るその一撃は、周囲の大地を抉りながら魔神に向けて放たれる。

 

しかし、そんな破壊の嵐を魔神は虚空から取り出した一振りの剣で応戦。横凪ぎに払われたその一撃は襲い掛かる触手の群れ、その全てを切り払って見せた。

 

『っ!』

 

『貴方が取り込んだノイズの力、確かにその力は脅威的だ。位相差障壁、存在する力をコントロールする事により物理的干渉を減衰、或いは無効化する。近代兵器を扱う現代の人類にとってまさしく天敵。それほどまでに巨大化し、質量を得ていながらその機能も備わっているのは流石と言えるでしょう。───しかし』

 

『言った筈ですよ。我がグランゾンは重力を操る。如何に存在を操作しようとも────我々が操る重力からは逃れられん』

 

 

───悪寒が走った。先程までとは異なる雰囲気を纏う蒼のカリスマに、フィーネは全身が震え上がるのを感じた。

 

フィーネが感じた悪寒の正体、それは殺気。グランゾンを通して蒼のカリスマから滲み出てくる殺意の奔流が、フィーネを本能的に忌避を感じ取らせたのだ。

 

『アンタ、さっき恋慕とか言ってたよな? じゃあ何か? アンタは自分の恋が報われたいが為にこんな騒動を引き起こしたってのかよ。沢山の人を殺して、大勢の人間を巻き込んで、この街の人達を危険に晒して…………』

 

『それがどうした。遥か古から続く私の想い、たかが人間の小僧が知った風な口を叩くな! 貴様には分からんだろう。誰かを愛する気持ちの尊さを、その気持ちを切り捨てられた時の痛みと怒りを! 貴様ごときに、理解できるものかァァァッ!!』

 

切り裂かれた触手をネフシュタンの鎧の力によって再生され、炉心となったデュランダルのエネルギー供給によりその力を増幅させる。再生され、増幅された触手は束ねられて一本の槍に姿を変える。増幅されたエネルギー質量を圧縮され、放たれた槍はグランゾンの歪曲フィールドに激突し、尖端だけとはいえ突破する事に成功した。

 

赤い竜の槍、膨大なエネルギーを有した一撃、尖端だけとはいえ歪曲フィールドを突破したその力は脅威に値するだけの威力を秘めていた。

 

だが、それだけ。グランゾンの剣であるワームソードで受けた蒼のカリスマには衝撃は伝わってもそれ以上の干渉を許すことはなかった。

 

『成る程、確かにアンタの気持ちを理解するなんて俺には出来ない事だろう。彼女を作ったことはおろか恋愛すらしたことのない俺にはアンタの想いとやらを汲むことなんて土台無理な話だ。────尤も、知りたいとも思わないが』

 

グランワームソードに与した重力の密度を高め、触手を圧壊させていく。

 

『アンタはさ、フラレた腹いせをしたいだけなんだろ? バラルの呪詛を破壊して統一言語を取り戻すとか尤もらしい事を嘯いているけど、端から見てるとアンタ、ただ自分をフッた男に仕返したい女にしか見えないぜ』

 

『◼◼◼◼◼ッッッ!!』

 

手にした剣に力を込めて振り払う様に横に薙ぐ、渾身の一撃を破られた事と己の本心を抉られたフィーネは逆上し、声にならない叫びを上げる。

 

すると、そんなフィーネの心情に聖遺物が呼応したのか、赤い竜の姿が変貌する。巨大化した胴体に身合うような翼が生えるのを見ると、赤い竜は大地から飛び出し、空に向けて飛翔した。

 

フィーネの爆発した感情に引き摺られる形で変質を遂げた赤い竜は、大地に根付いた体躯を引き抜き、ある一点目指して昇っていく。

 

蒼い魔神に目もくれず、彼女が向かう先にあるのは────月、バラルの呪詛そのものとされる月に向かって一直線に飛び立っていく。

 

その様子を見て蒼い魔人は好都合だと口許を三日月の形に歪めるのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

───大気圏を超え、月に向けて進み続ける赤い竜、その核となっているフィーネには既に思考と呼べる程の理性は残されていなかった。

 

無限の回復力と再生を持つネフシュタンの鎧と無尽蔵のエネルギーを抽出するデュランダル、二つの完全聖遺物を過剰に稼動させ続けてきたフィーネの肉体は既に限界を迎えつつあり、それに伴い理性も精神が削られると共に削ぎ落とされていった。

 

けれど、ここまで来た以上最早己の肉体に気を分ける必要はない。仮にここで朽ちた所で、自分にはまだやり直しが幾らでもできるのだから。

 

それに、目的の達成まであと僅か。バラルの呪詛、月到達までもう目の前に来ていた。

 

赤い竜の口を開けて最大限のエネルギーを収束させる。嘗てないエネルギーの奔流に宇宙が震えているような気がした。

 

この一撃で全てが決まる。これによって月は破壊され、世界は再び統一言語を取り戻す事ができる。───あの方に通じる道がもう一度開かれるのだ。

 

───それなのに。

 

『まだ、邪魔をスルノカァァアァァ!!』

 

眼前に佇む魔神(グランゾン)を前にフィーネは血を吐く想いで叫んだ。邪魔をするなと、私の願いを阻むなと、叫ぶ魔女に対して魔神を操る魔人はただ静かに。

 

『言った筈だぞ。ここから先アンタの思い通りになる事は何一つない』

 

蒼のカリスマと呼ばれる怪物は何処までも冷静に、フィーネの願いを斬って捨てた。

 

『さぁ、報いを受けろ』

 

魔神の胸部が開かれ、膨大なエネルギーが圧縮されていく。一点に集約された重力の力場は軈て、一つの事象を具現化させる。

 

『────収束されたマイクロブラックホールには特殊な解が存在する。剥き出しの特異点は時空そのものを蝕むのだ』

 

それは滅びの光、星の最後に現れる超弩級の重力崩壊。顕現される黒い太陽にフィーネはただ雄叫びを上げながらエネルギーを収束させ───。

 

『何人も、重力崩壊からは逃れられん』

 

『ガァァァァァッ!!』

 

『ブラックホールクラスター、発射!』

 

放出されるエネルギー、星を穿って余りあるエネルギーの奔流、その威力は紛れもなく呪詛を破壊するに足るモノだった。

 

しかしそれすらを呑み込み、喰らい尽くした黒い太陽は、赤い竜ごとフィーネを呑み込んだ。事象の彼方へ消えていく赤い竜、二つの完全聖遺物とソロモンの杖から切り離される事を自覚しながらフィーネは思う。

 

“この化け物め” 侮蔑と恐怖を込めた彼女の呟きは二つの魔に届くこと無く、闇の中へと消えていった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

何もなくなった宇宙、あれほど巨大さを誇った赤い竜は消滅し、宇宙は変わらず静寂に包まれた。これで漸く終わった。やりきった達成感に瞑目しながら噛み締めていた蒼のカリスマ───白河修司はふと気付く。

 

『やっべぇ、ソロモンの杖、クリスちゃんに渡す約束してたんだった!』

 

やり過ぎた。ついいつもの調子でやってしまった自分の行いに冷や汗を垂れ流し、悔やみながら魔人と魔神は約束したソロモンの杖を探すべく一晩中その宙域をさ迷うのだった。

 

また、この戦いの影響で軌道上にあった各国の複数の人工衛星がダメになった事に修司(おバカ)が気付くのはそれから数ヵ月後の話。

 

 

 

 




ボッチinグランゾン『やっちゃったぜ★』

久し振りにはっちゃけた主人公、コイツの所為で世界の人間は大迷惑を被ります(笑)

特に各国の首脳さん、某大国さんは人一倍苦労するかと思います。

それでは次回もまた見てボッチにノシ

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