Σ月β日
一連のノイズ騒動、その裏で暗躍しているだろう黒幕を炙り出す事を考えて仕事をしながら考察して早二日、正直に言おう。手詰まりである。
いや、手詰まりというには語弊がある。正確には分かっていながら手が出せないといった方が正しいのだが、内容が殆んど自分の推察と推測でしかないことから確証はない。
まずは確信したモノから先に述べておこう。人類の天敵とされている特異災害ノイズ、その性質を自分なりに調べ、考えた結果遥か太古の頃、先史文明の人間が他の人類種を抹殺する為に造られた兵器だと言う事。
まぁ、災害と呼ばれる存在が人間にだけ狙いを絞って仕掛けてくるってのが個人的に引っ掛かってきたのでこの辺は割りと考えもついていたから調べた後も然程驚かなかった。大体、ノイズが人間だけ狙うなんて事自体おかしな話だ。何せ人間だけを狙うという事は人間だけを狙う“理由”があるという事に他ならないからだ。
その理由についても先史文明の頃、ある神話を参考に考察すると割りと察する事が出来た。
嘗て、世界がまだ一つになっていた頃、当時の人々は自分達を生み出した創造主である神に近付く為、天に迫る塔を築こうとした。しかし自分達に近付こうとする人間に神は怒り、塔を破壊し思い上がった人間達に罰を与えた。
“バラルの呪詛” 統一言語、即ち共通の意思疏通の言語を奪った事で元々一つだった人類種は分断され、人々は神に近付く処か互いの共通認識さえ保つことが出来なくなり、別々の文明をそれぞれ築いて行くことになる。
しかし、統一言語を失った事で理解出来ない相手に不安を抱いた人間が自分達以外の人間を抹殺すべく自然にクリーンな兵器を開発し、自分達以外の人類を滅ぼす事にした。それこそがノイズでありノイズが生まれた経緯である。
…………うん、諸々省いて簡潔に纏めて書いても思ったけど、これバベルの塔の神話だよね? 特に塔が壊されて共通言語を無くした下りなんてそのまんまじゃねぇか。 つーか、相手がなに考えているか分からなくなっただけで人類抹殺の兵器を開発するとか、短慮しすぎませんかねぇ先史文明の人。まぁ、そんなことを言ったら戦争に勝つ為だけに核を使う現代人も同じか。
そして次に分かっている事なのだが、これは上記のノイズ云々の話より確証は薄い。というか、俺自身あまり自信が持ててない。何せ犯人は先史文明に深い関わりのある人物とされているのだ。
遥か太古の人間が現代に関与している。相手がバジュラや人間じゃない種族なら可能性はあるかもしれないが、生憎この世界に来てそんな話は全く耳に入ってこない。
普通なら馬鹿げた話だと一蹴する所だけど、見方を変えればそうとも言い切れない。何故なら現代にノイズに対抗できるあるモノが実際に存在しているからだ。
“シンフォギア” 櫻井了子さんが提唱する櫻井理論を基に開発された対ノイズの切り札。人間を殺す兵器に対抗する武器、勿論これだけで結論付けたりはしないが、どうにも自分には対ノイズとは別の意図があるように思えるのだ。
シンフォギアは聖遺失物である古の武具の欠片を基に生み出されている。翼ちゃんの天之羽斬、奏ちゃん響ちゃんのガングニール、これらも聖遺失物を基に生み出されている。端からみればノイズに対抗するために古の武具を用いて対ノイズの刃を造り出した! と捉えるだろう。
しかし、シンフォギアの製作目的がノイズの対抗ではなく遺失物の起動にあるのなら、そこに込められた意味や意図は大きく異なってくる。もし先史文明の人間が関わって、遺失物を動かそうとしているのならその目的は大体絞り込めてくる。
バラルの呪詛からの人類の解放、おそらく黒幕の狙いはここら辺にあるのではないだろうか? ノイズを操り自作自演の演出をしているのもシンフォギアを通して遺失物の稼働実験を試しているとするならば…………少なくとも一笑に付せる話ではない。
櫻井了子。ここまでの自分の推測が正しいのなら恐らく彼女が今回の黒幕、或いはその関係者なのだろう。少なくとも今回の騒動の根幹部分に触れているのは間違いない。
本来なら今すぐにでも殴り込みにいって問い質す所なのだが…………彼女が拠点にしているのは響ちゃん達の通う学院の真下、下手に手を出してしまえば学院の娘達にまで被害が出てくる危険性がある。
彼女が二課にいる間は此方から手を出すことは出来ない。今は外出する時を待つしかないのが非常にもどかしい。
───しかし、気になる事がある。仮に自分の推測が正しいのなら、彼女は一体どうやってここまで大掛かりな自作自演を成し遂げているのだろう? もし協力者がいるならそれは多分一人二人ではない。もっと大きな規模の組織の力が必要になってくる。
櫻井了子に手を貸せるだけの大きな力を持つ組織力、それでいて彼女と交換条件を呑める程の相手は────。
お前か、アメリカ。
◇
「深淵の淵を覗く度胸もない小僧が、強請るのだけは一人前だな」
街から離れた郊外、深い森の奥先にある廃墟となった屋敷内でその女性は呟いた。眼下に広がる炭、人だったものの成れの果てを冷たく見下ろし、その体には黄金に輝く鎧を身に纏っている。
これまで行ってきた己の策略、確かに一人で成し遂げるのは少々面倒だったし、手を貸してくれたアメリカ政府には多少なり感謝している。
が、だからといって女性に最初から彼等に対して働いてくれただけの報酬を渡す気は更々なかった。いや、既にある程度の情報と活用のあるブツを横流ししているのだからこの顛末は寧ろ好都合と言い換えるべきかもしれない。
強請るだけの愚図にくれてやる施しなどない。それにこれから自分の計画は既に最終段階に移行している。今更何か渡してやった所でそれを活かしきれるだけの時間など今の人類には残ってはいない。
さぁ、最後の締め括りに入ろう。残された問題も後僅か、このまま一気に押し進めてやろうと女性が屋敷を後にしようとした時…………。
「成る程、やはりアメリカと協力関係にありましたか。では、先程日本の防衛大臣である広木威椎氏を襲われたのも貴女の策略でしたか」
「…………なに?」
唐突に聞こえてきた男の声。二課の忍者以外で自分にここまで気配を感じ取らせなかった事に女性は驚きながら振り返った。
彼女の視線の先に佇むのは白いコートと蒼い仮面を被った見知らぬ人間ただ一人、その佇まいと身に纏う覇気から何処と無くあの人外司令官に似ていると女性は感じ取った。
「成る程、確かに貴女のやり方は姑息で狡猾だ。それ故に隙は少なく、効果的に立ち回る。その手際の良さは流石と言えるでしょう。しかし、大臣の安否を確認しなかったのはミスですね」
「なんだと?」
「彼は既にその身柄を然るべき場所に預けています。偶々通り掛かった際にその場に居合わせたのでね。泳がすつもりを兼ねて適当に相手をしてあげた次第です。ある意味貴女には感謝してますよ、これで一つ日本政府に貸しが出来ました」
淡々と語る仮面の男に何を言っていると混乱していると、女性はふとある事に気付く。そういえばここに来る際、やって来た連中はやたら数が少なかった。何やら酷く慌てていた様子だったし、最初は何かトラブルに巻き込まれていた程度に思っていた。
(まさか、コイツが? 一人であの連中を?)
奴等は政府の犬だ。しかし犬故に政府の意向には忠実で、それに見合う実力も備わっている。特殊部隊と言われるだけの実力を持つ精鋭を相手にたった一人で相手に取れる事は可能なのか?
目の前の人間は異端技術の力を持っているようには見えない。ならば奴の言っていることは狂言か? そう断じるには目の前の男は剰りにも異質で───。
「まぁ、彼を助けるまで多くの人間に怪我をさせてしまいましたが…………そこら辺は上手く目を瞑ってくれるよう此方から取り計らうしかありませんね。まぁ、そんな事はさておいて───」
「なんだ。何者なんだ…………貴様は?」
「蒼のカリスマ、今からお前をブチのめす者だ」
瞬間、女性の纏う鎧から一本の鞭が伸び、男ごと地面を打ち砕いた。
フィーネ「なんだ、お前は!?」
ボッチ「俺は貴様を倒すものだ」
ボッチ(やべぇ、考古学者かと思ったら痴女な黄金聖闘士だったでござる。勝てるかなぁ)
次回もまた見てボッチノシ