『G』の異世界漂流日記   作:アゴン

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今回、主人公の出番あまりありません。


その8

 

 ────私は、何も出来ない臆病者だ。姉の影に隠れ、いつも一人で俯いていて……弱く、脆い。そんな人間だった。

 

更識の家に生まれ、国の為に裏で人生の全てを捧げると誓った姉。何者にも勝り、何者よりも強い私の姉は、私にとって、何よりも重い影となった。

 

勉学に優れ、肉体的にも強く、精神的にもタフな私の姉、最初の頃はそんな姉が誇りであり、自慢だった。

 

 いつか、どこかの誰かが口にした言葉。『姉と比べ、妹はお粗末だな』その言葉は端から聞けばなんてことない戯れ言に聞こえるが、私にとっては……これ以上ない呪いとなった。

 

呪いは時が経つと共に重く、巨大に膨れ上がった。時が経過する事に私と姉の差は広がり、明確なものとなり、今では姉に勝てるモノは何一つとしてなかった。

 

IS学園の頂点に君臨し、そのISすらも一人で組み上げたその才能は最早異端の域に入っていた。才能の塊である姉、その姉に僅かでも追い付こうと日本の代表候補生となった私は、開発中断となった専用機を引き取り、一人整備室に籠もっていた。

 

姉に出来て私に出来ない道理はない。そんな根拠の無い強がりを吐きながら、私はISの組み上げ作業に没頭していった。

 

逃げていた。と言った方が適切かもしれない。ISの組み立て作業に集中している時は、姉の影に怯える事もなかったから……。

 

けれど、その現実逃避も間もなく終了した。ISの組み立ては難航し、何度もミスをしては打鉄弐式は強制停止した。

 

……結局、私は姉に何一つ勝てやしないんだ。更識簪は自分の姉である更識楯無にどの分野においても敗北する運命なんだと。

 

何もかもがいやになった。大きすぎる姉の影に隠れ、私の存在が消えてしまいそうな錯覚に陥った時───あの人が現れた。

 

白河修司。自らを通りすがりの用務員と名乗るその人は、何が面白いのか、私なんかを構う様になった。

 

最初は鬱陶しかった。何度も整備室の門を叩き、私に構ってくる修司さんを、私は何度も拒絶した。彼を私から遠ざける為に、何度も酷い言葉を吐いた事もあった。

 

偽善者と、何も知らない男が知った風なことを言うなと、更にはそれよりも酷い暴言を吐いた気がする。けれど、修司さんは私の言葉に嫌な顔などしないで、ニコニコと笑っていた。当時の私は、それすらも私をバカにする作り笑いだと思い込み、工具を投げつけた。

 

けれど、それでも離れていかない彼に遂に根負けしてしまった私はある日、彼を打鉄弐式に触れさせてしまった。しつこい彼にこれで納得するだろうと思い込んでいた私は、次の瞬間、驚きに我が目を疑う事になる。

 

あの打鉄弐式が、作業を進めれば途中必ず強制停止をしていた私の専用機が、修司さんにイジられた途端見違えるように稼働し始めたのだ。

 

稼働だけじゃない。各パーツの連動性も飛躍的に向上したし、駆動部分も何ら問題は無かった。

 

何をしたのだと彼に問い質すと、帰ってきたのは「何も」の一言。そんなバカなと問い詰める私に修司さんは丁寧に打鉄弐式について教えてくれた。

 

それは、普段の私ならば間違える事のない部分だった。各武装の信号パルスを平行して伝達させる部分の設定を間違えていたのだ。これによりISは起動するのは危険と判断し、自動的に強制停止が働いていたのだ。

 

こんな簡単な事にも気付かない自分に恥ずかしくなったが、同時に頭は冷えていった。落ち着いて物事を見れば視野が広がる事を修司さんは教えてくれたのだ。

 

それから私は修司さんの監修の下、打鉄弐式の組み立てに集中した。落ち着いて周りを見て、時には修司さんの指摘を受けながら、作業は順調に進んでいった。

 

それにしても、修司さんは一体何者だろうか。本人は唯の雇われ用務員だと言っていたけれど、虚先輩の話ではあの人は十蔵さんが直接雇ったと聞く。

 

IS学園の運営責任者、その人が直接連れてきたという事は何らかの訳ありだと思うけど……まぁ、今はどうでもいいか。

 

あの人はISに関して豊富な知識を持っている。私なんか比較にならないほどの……それこそ、一人でISを作り上げられる程の技量を持っていながら、それでも、私の為に力を貸してくれる。

 

きっと、修司さんは私に教えてくれようとしたのだろう。才能よりも大事なものがあることを。

 

「かんちゃん、平気? 緊張していない?」

 

 隣にいる見慣れた女の子が私を心配そうに顔をのぞき込んでくる。いけないいけない。どうやら考え事をしていたのを勘違いさせてしまったようだ。

 

「大丈夫だよ本音、私は平気」

 

「ホントにホント? 無理しちゃダメだよ」

 

いつからこんな心配性になったのか、何度も大丈夫かと訊ねてくる幼なじみに私は平気と応え、その頭に手を乗せた。

 

サラサラとしてて柔らかい。彼女の性格を現した髪の感触に私は笑みが零れた。

 

彼女がここまで心配しているのは偏に私の所為だ。変に意固地になり、自分の殻の中に閉じこもり、何も見ようとしなかった私の責任だ。

 

だから、という訳ではないけれど。

 

「本音」

 

「ん? なに? かんちゃん」

 

「私、強くなるよ。他の代表候補生にも……お姉ちゃんにも、誰にも負けない位に」

 

私は目の前の幼なじみに宣誓する。強くなると、小さくも、はっきりとした言葉で……それを聞いた幼なじみは一瞬だけ目を丸くさせ───。

 

「うん! かんちゃんならきっとなれるよ!」

 

そう、満面の笑顔で受け入れた。

 

『これより、IS学園学年別タッグトーナメント戦を開催します』

 

アリーナにナレーションが流れると、アリーナ中に割れんばかりの大歓声が巻き起こる。その熱気に当てられ、私の手が微かに震える。

 

……大丈夫。怖くない。私はもう、ヒーローに憧れるだけの子供じゃない。

 

私には打鉄弐式がある。修司さんと私、二人で造り上げたこの機体があるし、何より隣には私をいつも支えてくれる最高の幼なじみがいてくれる。

 

だから負けない。絶対に、勝つ。

 

『簪ちゃん、君はヒーローに憧れるだけかい? それとも……ヒーローになりたいのかな?』

 

昨日言われた修司さんの質問、正直この問いにまだ答えられない自分がいるけれど、この戦いが終わればきっと胸を張って言えると思う。

 

私の、私だけの答えを。私は、多くの人のお陰でここにいる。沢山の人に支えて貰えたから、ここにいられる。本音、虚先輩、修司さん、そして……お姉ちゃん。

 

まずは、私の今を見て貰おう。どこかで覗いているだろうお姉ちゃんに、自分の今の全力を。

 

だから───。

 

「本音、援護は任せたよ」

 

「まっかせてよ!」

 

『それでは、第一回戦第一試合……開始します』

 

鳴り響く試合開始の合図。私は打鉄弐式を、本音は訓練機のラファールに身を包んでピットから飛び出し、共に空へと飛翔した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

β月O日

 

 ンンンンヤッフォォォォイ!! トロピカルヤッフォォォォイ!!

 

ヒャッハー祝杯だー! 酒持ってこーい!

 

……突然のハイテンションすみません。現在時刻が夜中を差している為、日記の中でだけテンション高くしていこうと思いましてハイ。

 

いやー、それにしても良かった。今回のタッグトーナメント戦は簪ちゃんの初陣となる戦いなので見ている此方は終始ハラハラしていたのだが、結果的には完勝だったので固唾を呑んで見守っていた自分はひとまず肩の荷を降ろす事が出来た。

 

何だかお偉いさん方が来ていて思ってた以上に大きな大会だったから雰囲気に呑まれないか心配していたのだけれど、そんな素振りは微塵も見せていなかった。相方ののほほんちゃんとの連携もスムーズに行われていたし、相手側の動きもよく見ていた。打鉄弐式の機体性能を充分に引き出した訳じゃないけれど、そんな事を差し引いても見事な戦いだった。

 

本当嬉しかった。遠巻きから見ても簪ちゃんの戦い方に迷いはなく、寧ろ自信に満ち溢れていた。一皮剥けた簪ちゃんに自分はただおめでとうの一言である。

 

試合が終わった直後、カメラに向かってブイサインを出していたのもまた可愛らしくて良かった。今録画しておいた記録映像を六回ほど見直しているが、やはり……うん、見ていて感動すら覚える。

 

 欲を言えば二回戦、三回戦と代表候補生相手との試合も見てみたかったけど、途中でアクシデントが起こった為、タッグトーナメント戦は一時中断となってしまったのが残念だった。

 

というか、ラウラちゃんの専用機に仕掛けたあのシステム、絶対ドイツの思惑が絡んだシステムだよな。何だよVTシステムって、あんなんチートやチート! 世界最強のIS乗りのデータをトレースさせて使うとか、よくも無粋極まりない代物を思いつくものだ。

 

まぁ、そのシステムも一夏君の一太刀で真っ二つに両断された訳なんだけどね。簪ちゃんの戦闘ばかり目が行ってたけど、一夏君も前よりずっと腕を上げていたものな。

 

やっぱり一夏君にも何かプレゼントを上げた方がいいかもしれない。あんなに頑張っているんだもの、多少贔屓しても構わないだろう。

 

ドイツの方は……まぁ、いいか。一応ドイツの主要基地や施設にハッキングしてある程度の黒い情報は押さえているから。

 

現在はグランゾンのデータベースに大切に保管させて頂いております。もしこの情報を開示する際は蒼のカリスマとして動いた方がいいのかもしれない。

 

 まぁ、そんな事より今は簪ちゃんだ。今後の彼女の成長も一夏君と同様に注目していきたいと思う。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 IS学園生徒会室。普段は人が出払っているこの教室に、現在二人の人間が明かりを付け、備え付けのテレビを眺めていた。

 

テレビに映し出されているのは……今日行われたタッグトーナメント戦、第一試合の内容だ。

 

日本の代表候補生である簪が手にした薙刀で相手の武器を両断し、そのまま舞うように連撃を叩き込んでいき、遂には相手のシールドエネルギーをゼロにする。

 

鳴り響く試合終了のアナウンス、湧き起こる歓声とカメラに向けて笑顔でブイサインを向ける簪に……。

 

「ヤダ、ウチの妹……カッコ良すぎ」

 

目をキラキラ輝かせて、口元を両手で押さえる学園最強がいた。

 

「お嬢様、その台詞はこれでもう50回目です」

 

「何言ってるの、まだ50回よ。我が妹の勇姿をこの目に焼き付けないでどうするというの!」

 

「しかし、時間はもう二時を回っています。明日も生徒会長としての仕事もありますからそろそろ休まれても……」

 

「大丈夫、その時は休むから」

 

「おいコラ」

 

堂々と仕事を休むと宣言する楯無に戒める虚だが、当の本人は聞き入らず再び試合内容を最初から見直している。自分の立場を考えるのなら本当ならもっと厳しく注意をしなければならないのだが、目の前の彼女たちの姿を見てその気にはなれなくなった。

 

画面に映し出される妹と目の前で喜ぶ姉、どちらも同じように笑う姉妹に虚もまた頬笑ましく思えた。一皮剥けた妹とそれを喜びと思える姉、二人の確執もいつかは取れるだろうと思い、虚はそれが嬉しく思えた。

 

(白河修司さん、でしたか。彼には一度お礼を言った方がいいのかもしれないわね)

 

二人の仲が改善出来る切っ掛けを与えてくれた男、その人物に感謝しつつ、虚は目の前のお嬢様を見守るのだった。

 

「あぁん、今すぐ簪ちゃんの所へ行って抱きしめてペロペロしたいわ! いや、それよりもファンクラブの結成ね。まずは外堀から埋めるのが優先よ。あ、虚、この映像保存用と観賞用、布教用って保存しておいて、高画質で」

 

 ……訂正、どうやらこの駄姉、余計なモノを拗らせたようだ。

 

 

 

 

 




黒兎「VTシステム、発動!」

主人公「コラー! インチキシステムもいい加減にしろー!」


と、言うわけで今回のメインは簪ちゃんでしたの巻。

一夏君に続いてイケメン担当となった彼女は今後も活躍していく予定です。

主人公? 彼はほら、黒幕担当だから(白目

それでは次回もまた見てボッチノシ

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