『G』の異世界漂流日記   作:アゴン

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ボッチ絶叫シンフォギャー、開幕。


戦姫絶唱シンフォギア
その1


 

 

 

 

 

 

 

「くそっ、時限式はここまでかよ!」

 

人のいなくなったステージ、異形の怪物たちを屠りながら槍の歌姫は毒づいた。

 

───こんな筈ではなかった。本当なら今頃自分は相方であるもう一人の歌姫と共に最後までこのステージで歌いきり、気持ちよく終わる筈だった。

 

それが今はどうだ。あれほど燦々としたステージは見る影もなく荒れ果て、あれほど喝采の声を上げていた観客の人達は一人残らず死に絶えた。

 

“ノイズ” 出てきた理由も不明、目的もなくただ人間を殺す為だけに出現する災害、奴等のせいで自分達の歌を楽しみに来てくれた人達が炭となり消されてしまった。

 

私達の所為だ。そんな訳もなく自分を責め立てながら槍の歌姫は怒りと悲しみを乗せて戦場の中で唄い続ける。

 

そんな時だ。背後から瓦礫が崩れる音と共に女の子の悲鳴が聞こえてくる。振り返ればもういないと思われた生存者が踞ったまま動けずにいた。

 

生きている。自分達の歌を聴きに来てくれた人がまだ生きている。槍の歌姫は一直線に少女の元へ駆けだした。

 

「駄目よ奏! 離れては!」

 

背後から聞こえてくる相方の制止の声も振りほどき、少女の下へ走る。少女に近付くノイズを蹴散らしながら歌姫は高らかに叫ぶ。

 

「立て、立って走れ!」

 

「あ、あの……」

 

「駆け抜けろ!」

 

有無を言わさず、ただ逃げろと口にする歌姫に少女は怯えながらも必死にその場から立ち去ろうとする。しかし、瓦礫が崩れた際に足を挫いたのか、その足取りは重い。このままではいずれノイズに追い付かれ、殺されるだろう。

 

「させっかよ。アタシらの、ツヴァイウィングの歌を聴きに来てくれた皆を、これ以上殺させて堪るかよ!」

 

押し寄せてくる死の波に向かって少女は吼える。手にした槍をフルに使い、逃げ行く少女に近付けさせないと不退転の覚悟の下に歌姫は少女を背にしてノイズ達の前に立ち塞がる。

 

歌姫の力はまさしく無双、適性者でないにも関わらず、気持ちでノイズを蹴散らし、少女を守るその姿は正しく防人だった。

 

しかし、既に限界に差し掛かっていた歌姫には最早戦えるだけの力は残されていなかった。時間が経過する毎に力は半減していき、衰退していく。際限なく押し寄せてくるノイズ、圧倒的物量の前にとうとう押し負けた歌姫は大型のノイズが吐き出す体液を防ぐだけに留まってしまう。

 

「奏!」

 

遠くから相方の悲鳴にも似た叫びが聞こえてくる。向こうも向こうで忙しいらしく、蔓延るノイズの相手をするだけで精一杯のようだ。この分だと援護を期待出来そうにない。

 

(やってやる。喩え紛い物でもアタシはシンフォギア奏者なんだ! 女の子の一人救う位、アタシにだって!)

 

「ぐぅぅぅぅぅああああっ!!!」

 

また一体、更に一体増えてくる大型のノイズ。吐き出される体液は濁流となって歌姫に押し寄せてくる。徐々に圧され、纏う鎧に罅が入り、綻び、軈て砕けていく。破片となっていく歌姫の鎧は戦場の爆風に乗って飛んでいく。

 

流れ弾となった破片、それは運悪く少女の所にも飛び散り、一度だけ振り返った少女の胸に突き刺さってしまう。

 

鮮血が舞い、地面に倒れ伏す少女。それを目の当たりにした歌姫は悲痛な叫びを上げて少女に駆け寄った。

 

「駄目だ! おい、しっかりしろ! 目を開けてくれ!」

 

“───生きるのを諦めるなッ!!”

 

それは歌姫の願いだった。死なないでくれ、生きてくれ、少女の胸元から流れる血を押さえ付け、必死に呼び掛ける歌姫。

 

そんな彼女の願いが通じたのか、少女はうっすらとその目を開ける。まだ生きている。弱々しくて今にも消えてしまいそうだけど、それでも必死に生きようとする少女に歌姫は心から嬉しく思った。

 

けれど、そんな命を狩り取ろうとノイズ達は着実に歌姫の所に迫ってきている。逃げようにもこれだけ疲弊してしまった自分では少女を連れて逃げることも出来ないし、相方も頑張っているけれど如何せん数が多すぎる。今の彼女一人ではどうやっても自分達の所まで来るには時間が足りないだろう。

 

(…………ゴメンな、翼。アタシの所為でお前にまで迷惑を掛けちまった)

 

自分の向こう見ずな行動の所為で相方にまで危険に晒した事に今更ながら申し訳なく思う歌姫。相方も自分の事で手一杯、通信も通らず、おまけに自分には最早戦えるだけの力はない。ないない尽くしの絶体絶命、追い詰められている現状に、しかして歌姫は笑っていた。

 

「そっか、ここがアタシの…………最期のステージなんだ」

 

それは自分の死に場所を見付けた者の眼だった。諦めた訳じゃない。抗う気力も無くした訳じゃない、ただこの状況で残された手段が自分の命を引き換えにするというだけの話。

 

いつか、おもいっきり歌を歌ってみたかった。もっと大きなステージで相方と一緒に、両翼揃ったツヴァイウィングで動けなくなるくらいに歌い続けてみたかった。

 

復讐する事しか頭になかった自分に、初めて生まれた願い。遂にそれは叶う事はなく、歌姫にとってそれだけが心残りだった。

 

後悔はないと言えば嘘になる。けれど、この状況を打破するために禁忌の詩を口にすることに迷いはなかった。幸いに今目の前には多くの観客(ノイズ)がいる。これだけの数を相手にすれば自分の気持ちも少しは晴れやかになるだろう。

 

───遠くで相方が叫んでいる。恐らくは自分がこれから何をしようとしているのか気付いたのだろう。

 

(ゴメンな翼、アタシはここまでみたいだ)

 

涙を流しながら止めてと叫ぶ相方に、相変わらず泣き虫だなと歌姫は笑う。

 

嗚呼、寂しいな。決意の下、一斉に攻撃してくるノイズに向かって遂に歌姫が最期の詩を口にしようとした時。

 

 

 

 

 

『ワームスマッシャー』

 

 

 

 

 

空から降り注がれる光の槍が全てのノイズに向けて射ち放たれた。槍の歌姫に向かって突撃したノイズ達は全て余さず貫かれ、炭素と化して崩れていく。相方の方も同様に無数の光の槍が撃ち込まれ、あれだけいたノイズは一瞬にして消えてなくなった。

 

何が起きたのか理解できず、呆然とする二人の歌姫、すると頭上から自分達を見てくる視線の様なものを感じた。未だ状況が理解できていない二人が揃って空を見上げると…………。

 

「なんだ…………アレは?」

 

日が落ち、夕焼けが空を照らす中で佇む一体の蒼。巨大で強大で、圧倒的な存在感を放つソレは何をする訳でもなく、静かに歌姫達を見下ろしていた。

 

まさか、アレがノイズをやったのか? 見ているだけで、こうして相対しているだけで腰が抜けてしまいそうになる。一体アレはなんなのかと混乱する歌姫達を前に蒼いソレはまるで興味を無くした様に上空に浮かび上がり、忽然と姿を消した。

 

まるで、夢を見ていた気分だ。しかし、今自分はこうして生きているし、相方も無事、更には後ろにいる少女も後で無事生還を果たし、今回起きた凄惨な事件は一先ず幕を下ろした。

 

一体あの巨人は何なのか。後に歌姫の報告により蒼の巨人について日本のある組織が秘密裏に捜索、捜査する事になるのだが、二年たった今でも何一つ分かることは無かった。

 

ただ一つ言えるのは、あの時、私は…………天羽奏(あもうかなで)はあの蒼い巨人のおかげで今も歌えているという事、大切な相方と一緒に大好きな歌を歌っていられること、それだけはハッキリしている。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

@月@日

 

時空振動に巻き込まれ、この世界に訪れてから早二年、漸く念願の自分の店を持つようになった事もあり、記念という事で再びこの日記にこれまでの出来事を簡潔にだが記していこうと思う。

 

二年前、なんの前触れもなくグランゾンと共にこの世界に降り立った自分は、取り敢えず最低限の生活を得る為に戸籍を偽造し、全国を渡り歩きバイトの日々を送った。

 

そんな毎日の中で出会ったお好み焼きの専門店“フラワー” 店長である女将さんの計らいのもと住み込みで働ける様になった自分はそこで二年近く世話になり、彼女の弟子としてお好み焼き作りに精を出していた。

 

女将さんの作るお好み焼きは地元の人達に好評で、値段も手頃であるからお年寄りから子供、特に食べ盛りの中高生が良くこの店に来ていた。

 

特に女子高校生の立花響ちゃんとそのお友達はフラワーの常連さんで、店に来ては見ていて気持ちよくなる位に食べていってくれている。

 

そんな女将さんの下でコツコツと働き続け、貯まった資金で漸く建てた念願の店、フラワーさんと同じ商店街で店を構えた事により地元の人達にも馴染めるようになったし、最近はここで腰を下ろすのも悪くないと思っている。

 

商店街の皆さんも自分がフラワーで働いている事を知っているからなにかと良くしてもらったし、自治会の人達なんか店を開きたいという自分の言葉に対しわざわざテナントを紹介してくれた。

 

いや、本当に有り難い。やはり人との繋がりってのは大事だよね。女将さんや商店街の皆さんの心優しい支援に感謝する一方、最近物騒な話を耳にする事が多くなってきている。

 

“ノイズ” 特異災害の代名詞として知られる災厄、それがここ最近になって良く出現するという事例が相次いでいる。

 

ノイズというのは二年前、とあるコンサート会場で自分が出会した化け物なのだけれど…………コイツら、惚けた姿形をしている割りに厄介な性質を持ち合わせていやがるのだ。

 

“位相差障壁” 自分の存在を自在にコントロールし、物理的な干渉を減衰、或いは無効化させる厄介にして面倒な特殊能力。銃弾や斬撃は勿論、爆薬による広範囲攻撃もすり抜けてしまうこの厄介な能力、これによりこちら側の攻撃をすり抜けてしまうノイズは太古の昔から現代に掛けて人類種の脅威となっている。

 

一応打開策はある。連中は攻撃してくる際には存在の比率を上げて此方に干渉、接触し、諸とも自壊してくるので此方に干渉してくる時、それに合わせて攻撃すればいい。用はカウンターの要領である。

 

二年前のコンサート会場でもその事を分析し、理解できた事でグランゾンに乗っているという事もあり、楽に対処できた。が、触れれば即アウトなノイズを相手に生身で挑むのは自殺行為に等しい。ガモンさんから教えてもらった空手もノイズ相手には意味を為さないという。

 

まぁ、別に直接殴らなくてもやりようは幾らでもあるからそんなに落ち込んではいないけどね。極端に言えば連中が襲ってきた時、其処らのゴミとか投げ付ければ一緒に灰となって消えていく訳だし…………。

 

そんなノイズがここ最近頻繁に現れている。何だかまた近い内に騒ぎが起きそうな気もするが…………まぁ、自分の出る幕は無いだろう。この世界には特異災害に対抗する手段を持つ組織があるそうだし、自分は今回大人しく引っ込んでいる事にしよう。

 

何せこの世界には歌って踊れて、その上戦える頼もしいアイドル達がいるのだから…………。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「さて、そろそろ開店時間だ。お客さん、来てくれるといいんだけどなぁ」

 

店の鍵を開き、店内に明かりを付ける。新装開店を控えたこの店は小さくはあっても清潔感に溢れている。

 

奥へと進み、ロッカーに仕舞った専用の制服に身を包み、備え付けの鏡を見て身嗜みをチェックする。顔も髪型も店内同様に清潔感を保っている事に満足した自分は顔を軽く叩き気合いを入れる。

 

今日から自分も一人の社会人、頑張るぞーと意気込んでいると、店の外から声が聞こえてくる。

 

もうお客さんが来てくれたのか。来店してくれたお客さんを待たせないよう慌てながらカウンターの前に出ていく。

 

いらっしゃいませ。そう口にしてお客さんを見ると、そこには今はもう見慣れた歌姫達が店の前に佇んでいた。

 

「チッス、白河の兄ちゃん。今日開店だって聞いて冷やかしに来たぜ」

 

「もぅ、そういう事は思っても言わないの。ごめんなさい白河さん」

 

「ハハハ、別に気にしてないよ。それよりも二人とも、今日はお仕事はもう終わったの?」

 

自分の言葉に対して笑顔で頷くツヴァイウィングの二人。彼女達の歌声はとても心地よく、自分も良く耳にしている。そんな二人が実はノイズを相手に大立ち回りをしている戦士というのは自分だけの内緒の話である。

 

「兄ちゃん、この店にもあるんだろ? 兄ちゃん特製の激辛なアレが!」

 

「ちょっと奏、まさかそれを頼む気? 以前同じもの頼んで卒倒したのもう忘れたの?」

 

好戦的な笑みでアレを出せとせがんでくる奏ちゃん、隣の翼ちゃんは止めておけと促しているけれど、本人はヤル気満々で引こうとしない。

 

そんな彼女にクスリと笑みが溢れる。コホン、咳払いを一つしてカウンターに座る彼女たちに向き直り。

 

「ようこそ、喫茶シラカワへ」

 

 

 

 

 




取り敢えず二期までは書いてみたい

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