『G』の異世界漂流日記   作:アゴン

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今回は短め。


その16

 

 

 

 砕かれた海、割れた空、抉られた地表。蒼き魔神が放ったその光はノーマ達の虐殺を命じたジュリオ諸共艦隊を呑み込み、全て……文字通り消し飛ばした。

 

やがて海水は抉られた地表を呑み込んで元の海へと戻っていく。人も機械も全てが消され、まるで最初から何もなかったかのように風景だけが戻っていく。

 

その光景を目の当たりにして最初に我に返ったのはアルゼナルの危機を察知して駆けつけた少年、タスクだった。

 

「なんだ、あの機体は……」

 

彼が呟くように口にするその言葉は誰もが思っている事だった。ノーマ達を殲滅せんと放たれた人間達の兵器は一瞬にして破壊され、大規模に展開された艦隊も蒼き魔神が放つ光によって消滅した。

 

艦隊を指揮していたジュリオも光に呑み込まれ戦死、自分達の大将が艦隊と共に消滅した事で戦線は瓦解。アルゼナルに潜入していた兵士達も悉く返り討ちを喰らい、人間と称していた者達は事実上この戦域から抹消された。

 

 圧倒的過ぎる戦力を誇る魔神───グランゾン。彼の者の存在に誰もが度肝を抜かれる中、グランゾンの前に一機のパラメイルが降りたった。

 

『成る程、それが君の機体の力か。いやはや恐ろしいね。単騎……しかも一瞬で一国の艦隊を消滅させるとは、もはや戦術兵器の域を超えているな』

 

『そういうお前の機体こそ、随分大仰な仕掛けを施しているみたいじゃないか』

 

「っ! エンブリヲ!」

 

機体の肩に佇み、余裕の笑みを浮かべて見下ろすエンブリヲにタスクの胸中に怒りの感情が込み上げる。嘗て自分達の一族を不要と断じて追いやり、父と母を殺した憎き仇を前にタスクの顔は怒りと憎悪の混じった鬼の形相となった。

 

だが、此方の声が向こうに届く訳がない。彼の存在に彼等は気付く事なく、魔神と創造主は互いに敵意と殺意をぶつけ合う。

 

『……今一度問おう。蒼のカリスマ、シュウジ=白河。魔神と共に私の所へ来い。君さえ良ければその世界を君に与えよう。それほどまでに人間を憂う君だ。きっと今よりも良い世界に出来るのだろう』

 

『俺に神の真似事をしろと? 冗談じゃない。俺は調律者でもなければ創造主でもない。ただこの機体を操るだけの極々平凡な人間だ。つーか、俺言ったよな。世界は誰かの手に委ねるモノじゃない。その世界で生きる一人一人が決める事だ。……それにな』

 

『……?』

 

『お前のやってる事は所詮“ゴッコ”遊びなんだよ。そんな駄々っ子に付き合ってやる程、こちらは暇じゃない 』

 

『そうか……残念だよ』

 

怒りを交えたシュウジの挑発、それがエンブリヲの逆鱗に再び触れたのか、それ以降彼の口から言葉が出てくる事はなかった。

 

このまま二人の戦闘が始まるのか、そうなった場合果たしてアルゼナルは彼等の戦いによる余波に耐える事が出来るのか。アルゼナル司令官がノーマ達全員に予め用意してあった潜水艦に乗り込むよう指示を飛ばしているが、それが間に合うかどうか分からない。

 

魔神が勝つのか、それともエンブリヲが勝つのか、いずれにしてもこの一帯が余波に耐えられる保障はない。誰もがここから一刻も早く離れようと行動に移した時、それは聞こえてきた。

 

『………歌、だと?』

 

突然歌い出すエンブリヲにシュウジは眉を寄せて訝しむ。荘厳で壮大で、終わりと始まりを思わせる終末の詩、奴が詩を口にすると共にエンブリヲのパラメイル……いや、ラグナメイルはその形状を変化させる。

 

『重力係数に異常? まさか、奴の機体は……!』

 

グランゾンから検出される異常な数値にシュウジは目を見開かせる。肩部分に展開され、収束されていく力場を見て、その力が嘗てサラマンディーネの世界を滅ぼした機体の一つだと察した。

 

このままではアルゼナルが危ない。しかし、現状奴の攻撃を防げるのはグランゾンの最後の武装しか存在しない。一瞬だけ己の選択に思考を割くシュウジだが、次の瞬間にはアルゼナルが巻き込まれる事を考慮した上でアレの使用を決意した。

 

『このままじゃあどっちにしてもアルゼナルは巻き込まれる。だったら、こっちもやるしかないよな!』

 

 グランゾンの胸部が展開され、魔神の周囲に異常な重力力場が形成せれる。圧縮されるのは剥き出しの特異点、時空すら蝕む禁忌の一撃。

 

『収束されたマイクロブラックホールには、特殊な解が存在する。剥き出しの特異点は、時空そのものを蝕むのだ……』

 

圧縮し、凝縮され、一点に収束されていく重力の嵐。溢れ出した重力の力場は時空すら蝕む牙となり、アルゼナル周辺の海と空を引き裂いていく。

 

やがて掲げられた特異点は魔神の力により更に圧縮され、それはさながら黒い太陽の様だった。

 

『何人も、重力崩壊からは逃れられん!』

 

『ブラックホールクラスター……発射!』

 

そして遂に放たれる黒き太陽はエンブリヲの機体が放つ白い光の暴風と衝突し、周囲は光に包まれる。

 

二つの機体によって放たれた膨大なエネルギーの奔流は世界に悲鳴を挙げさせ、やがて世界に亀裂を作り。

 

世界の壁に大きな風穴をこじ開けるのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

※月(゜Д゜;)日

 

 エンブリヲの奴と一度目の戦いからどうにか生き延びられた今日、現在自分はヒルダちゃん達と一緒にこれからの事について話し合っている。

 

あの時エンブリヲの乗ったパラメイル───恐らくラグナメイルと思われる機体と撃ち合ってその衝撃によって恐らく世界の壁を壊してしまったのだろう。現在自分は再びサラちゃん達の世界へと戻ってきてしまっていた。

 

ヒルダちゃん達は最初、見知らぬ世界にいた事に酷く慌てていたが、自分と再会し、自分の話を聞いていく内に納得してくれて今はどうにか落ち着きを取り戻している。

 

 自分も何故ここにヒルダちゃん達がいるのかと疑問に思ったが、アルゼナルに進入してきたミスルギ皇国の連中を一通り片付けた後、自分に合流し、援護しようとしていたらしいのだ。

 

本当ならすぐにでも逃げて欲しかったのだが、まぁ気の強い彼女の事だ。そうなるだろうと何となく予想はしていた。

 

で、グランゾンの放つBHCと奴の放つ光の暴風が衝突した際に起こった時空の崩壊に巻き込まれ、いつの間にかこの地で気絶していたのだという。

 

あの衝突の規模的に恐らくはアルゼナルも巻き込まれている可能性は高い。多分、皆もこっちに来ている筈だ。その事をヒルダちゃん達に話すと三人とも少しは安堵したのか、ホッと胸をなで下ろしていた。

 

明日からは早速皆の探索に乗り出そうと思う。エンブリヲに好き勝手やられて悔しい思いが自分の胸中に渦巻いているが、今は自分達に出来ることを優先させようと思う。

 

大巫女様やサラちゃん達に話したい事もあるし、ジル司令官にも今回の出来事を機にサラちゃん達との協力関係を本格的に考えて貰おうと思う。別にジル司令官を疑っているつもりはないが、なんかどーも引っかかる部分があるんだよね。やたらとヴィルキスでエンブリヲを殺す事に執着しているっぽいし。

 

聞けばジル司令官はノーマ反抗作戦の中心的人物だったみたいだし、もしかしてその事が関係してるんかな?

 

 

 

 




次回も比較的ほのぼの回になると思います。


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