『G』の異世界漂流日記   作:アゴン

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今回日記要素が皆無です。


その12

 

 

 

 突然起こったシンギュラーポイントの発生。予報もなく、唐突に開かれる門とそこから現れる大量のドラゴン達。アルゼナルのノーマ達はドラゴンの軍勢を迎撃すべく、総力を挙げてこれに抗おうとした。

 

突然開始される総力戦、このままドラゴン達と交戦を開始されるかと思われたその時、黒く開かれた穴……虚空を思わせるその空間から突然一機の魔神がドラゴンとノーマ達の間に降りたった。

 

自らを蒼のカリスマと名乗り仮面を被った男はドラゴンとノーマ、二つの陣営に割って入り、戦闘の停止を要求した。

 

有無を言わさずの力押し、当然両陣営からは非難の声が上がったが、直接彼にその事を伝える者はいなかった。

 

恐れたのだ。その場にいる誰もが、突然現れた巨大な蒼き魔神に、禍々しくも荒々しいその風貌にドラゴン達ですらおののき、ノーマ達は反抗する意志すら出せなかった。

 

 そんな圧倒的とも言われる魔神の迫力に呑まれてしまった両陣営はその事を悔しく思いながらこれを承諾、互いに代表格を選出したそれぞれの陣営はアルゼナルの会議室に集められる事になる。

 

ドラゴン側からはサラマンディーネと彼女の侍女であるナーガとカナメが、ノーマ側からは司令官であるジルとノーマ監察官のエマ=ブロンソンが会議室に出頭し、会談は開始されようとしていた。

 

「さて、これで代表者は全て出揃った様ですが、サラマンディーネ様、特異点とドラゴン達についてですが」

 

「……特異点を通して此方に侵攻してきたドラゴン達は全て帰還しました。今頃はアナタが向かうよう指示した彼の者の手引きによって大巫女様方にも事情が伝わっている事でしょう」

 

「成程。賢明な判断、ありがとうございます」

 

「私の方も質問、宜しいですか?」

 

「私に答えられる範囲でならば」

 

 サラマンディーネから突きつけられる鋭い眼光、刀剣にも似た鋭い視線に晒されながらも、仮面の男は特に気にした様子もなく、彼女の視線を真っ正面から受け入れた。

 

「そもそも、何故アナタは私達の戦いに割って入ってきたのですか? アナタには直接的な介入を控えて貰っていた筈です」

 

「では逆に聞きましょう。アナタはノーマとの戦いを意味のない偽りの戦いと呼んでいましたが、その偽りの戦いを長引かせるのがあなた方の本意なのですか?」

 

「それは……」

 

蒼のカリスマの言葉にサラマンディーネは口を閉ざす。彼女達が何よりも優先するのはアウラの奪還だ。エンブリヲを倒し、アウラを自分達の地球に取り戻させる為には立ち塞がる障害は排除、或いは回避していかなければならない。

 

そして今、その最大の障害になりつつあるアルゼナルの勢力との衝突が避けられようとしている。ならばこの場はこの男に委ねるしか選択はないのかもしれない。個人の感情はひとまず置いておく事にして、サラマンディーネは近衛中将という責任ある立場の人間として今は静観する事を決めた。

 

「そっちの話は終わりか? ならば今度は私の質問に答えて貰おう。蒼のカリスマ……いや、シュウジ=白河だったか?」

 

「おや? 耳が早いですね。いや、その様子だとアンジュさん達から既に聞き及んでいた様ですね」

 

「正確にはヒルダからだ。何でもあの蒼い巨人はお前の所有物みたいじゃないか。一体アレは何なんだ? そっちのドラゴン娘の反応を察するにアレはそちら側でもかなり特殊な機体の様だが?」

 

「その話は長くなるので出来れば後にして欲しいのですが……まぁいいでしょう。あの機体の名は“グランゾン”私の愛機であり、私の相棒です。動力やシステムについては、残念ながらお話する事はできませんのでご了承下さい」

 

蒼のカリスマから語られる巨人の名称に両陣営揃って反芻する。まるで物語に出てくる魔神の様だとサラマンディーネが畏怖した所で、再び蒼のカリスマが話を切り出した。

 

「さて、最初の質問はこんな所でしょうか。ではこれよりドラゴンとノーマの協力体制を敷くための会談を行いたいと───」

 

「いい加減にしなさい!」

 

「Ms.エマ、何か質問が?」

 

「質問? 質問じゃないわよ! 一体何なのアナタ達は!? ドラゴンとの協力体制!? 冗談じゃないわよ! これは明らかに私達人類に対する反抗だわ!」

 

まるで火山の噴火の如くはやし立てるエマ、隣に座るジルはそう言えばコイツもいたなと言うような様子で特に気にした様子もなく、煙草を咥えて火を付けた。

 

このアルゼナルで唯一の人間として居座るエマ、彼女の役目は不審な態度や企みを目論むノーマ達がいないか監視し、報告する事である。目の前で堂々と人類への反抗を企てる彼等に遂に彼女の我慢に限界が訪れた。

 

肩で息をし、ゼハゼハと呼吸を乱すエマ、そんな彼女の様子を見ていた蒼のカリスマは一瞬だけ思案し、彼女に向けて言葉を発した。

 

「……Ms.エマ、幾つかアナタに質問しても宜しいですか?」

 

「な、なんですか?」

 

「アナタはノーマを悪と断定しているようですが、何故ノーマは悪と見なすのですか? 何故、彼女達をこの世界の果てにまで追いやり、ドラゴン達と戦わせるのです?」

 

「はぁ!? そんなの決まっているでしょう! ノーマはマナが使えない反社会的で暴力的な化け物! 隔離されるのは当然じゃない! ドラゴンと戦わせるのもノーマにはそれしか取り柄がないからよ!」

 

まくし立てる様に言葉を吐くエマにジルは眉を寄せて不快感を顕わにする。また自分達と戦ってきた彼女達(ノーマ)の壮絶な事情、リザーディアからある程度の話を聞いていたが、自分達の予想を遙かに上回るノーマ達の境遇にサラマンディーネ達は同情と憐れみの籠もった眼でジルを見た。

 

「成る程、では何故このアルゼナルの存在を世間に隠しているのです? そこまで断言できるのであればドラゴン達の存在やこの施設の事も公表しても構わないのではないのですか?」

 

「そ、それは……アルゼナルの存在は国家機密事項に関連するから」

 

「何故、国家機密にする必要があるのです? 公表すればいいではありませんか。ノーマを絶対の悪とするならば隠す必要もないと思いますがね」

 

蒼のカリスマの指摘の通りこのアルゼナルの存在は公には公表されておらず、ノーマ達の収容施設があるとしか発表されていない。本当にノーマ達に非があるとするならばそう言った情報も開示できる筈。

 

言葉を詰まらせるエマ=ブロンソン、しかし彼の質問は終わらない。

 

「そもそも、あなた方はノーマを暴力的で反社会的な化け物と言いますが、どの辺りが化け物と言えるのです? 姿ですか? 在り方ですか? 私が調べた所によるとこのアルゼナルには乳幼児の頃に連れてこられる子が殆どだと聞いています。マトモに人格が形成されていない赤子を反社会的な化け物と称するにはあまりにもおかしな話だとは思いませんか?」

 

「そ、それはノーマが成長し、暴れられるのを防ぐ為で……」

 

「何故暴れると決まっているのです? 仮にそうなる事が決まっていたとしても、そうならない様に更正させるのがより完璧な社会と言えるのではないですか? マナの光に満ちた人間の社会は完全に調和されているのでしょう? ならばノーマというマナの使えない娘達に対して隔離以外の対処も出来た筈ではないのですか? そもそもあなた方は───」

 

 そこから先は延々と続く蒼のカリスマの質問責めだった。次から次へと押し寄せてくる疑問の波に精神的に追いつめられたエマ=ブロンソンの思考は追いつかなくなり、やがて混乱し、遂には泣き出してしまう。

 

「だってぇ、だってぇ、ぐす、パパが言っていたんだもん。ノーマは皆悪い奴だから気を付けなさいって」

 

そして最終的には幼児退行までしてしまう始末。度重なる質問と有無を言わせない蒼のカリスマの迫力に呑まれ、三歳児並みの思考まで落とされたエマ監察官はジルによって呼び出された医務官のマギーによって医務室へ連れて行かれていく。

 

「私とした事が少々大人気なかったかな? しかしこれで少しは話が捗るでしょう。私達も話を続ける事にしましょうか」

 

会議室から出て行くエマを見送り、邪魔者はいなくなったと暗に語る蒼のカリスマに両陣営のトップはドン引いた。その事に気付かず、青のカリスマは淡々と話を進め……。

 

「では、まずは私が集めた情報から開示する事にしましょうか」

 

仮面の男を主軸にした会談は恙なく進行していくのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ふぅ、これでひとまず情報は一通り集まったな。後はこれらをまとめて今後の行動を皆で話し合うだけだ」

 

 あれから数時間、一通りの話をし終えた自分達は現在これまでの情報をまとめる為に現在少しばかりの休息を取っている。

 

ジル司令官もドラゴン側の話をアンジュちゃん達に伝える為に会議室から出てるし、サラちゃん達も自分達のパラメイルの所へ戻り、機体の整備点検をしている。今この会議室にいるのは自分ただ一人だ。

 

本当なら自分もサラちゃんの機体の整備を手伝ってやりたかったけど、彼女から強く断られてしまった。

 

「まぁ、仕方ないよなぁ、サラちゃん達から見れば俺ってばかなり勝手な事をしている厄介者だと思われてるだろうし……」

 

実際、自分がやった事は前線を混乱に貶めていた。もし出てくるタイミングが遅かったら、ドラゴン側もノーマ側ももっと被害を出していた事だろう。

 

けど、ああでもしなければ今頃両陣営は互いに殺し合いをしてお互いに大変な損害を被っていた事もまた事実だ。やり方は凄く強引だったかもしれないが、あの時の自分の行動は間違っていないと信じたい。

 

「……まぁ、こんな事を考えている時点で自己中だって認めてる様なモノだよなぁ」

 

と、そんな風に一人反省会を開いていると、会議室のドア過が開かれる。サラちゃん達が戻って来たのかなと扉の方へ視線を向けると、そこから色とりどりの髪色をした女性達……というか、ヒルダちゃん達が会議室に押し入ってきた。

 

「よぉシュウジ、久し振りじゃん!」

 

「ヒルダさん、一週間ぶりですね。それと、今の私は蒼のカリスマとしてここにいます。名前を呼ぶのであれば其方の方で呼んで頂けると嬉しいのですが」

 

「はぁ? ……面倒くせぇなぁ、何だよそのキモい設定は」

 

「名というのは存在を顕すモノ、一種の自己暗示の様なモノです。名前を変え、姿を変える事により人は自分以外のナニカになれるモノなのですよ」

 

「……で? 結局何が言いたい訳?」

 

「要は形から入るだけで気持ちも変わるという事ですよ」

 

「ふぅん、まぁどうでもいいや」

 

 自分なりの変身というものを解説したらどうでもいいと切り捨てられました。まぁ、確かにどうでもいいけどね。

 

「それで、先ほどから其方にいるのは……もしかして、例の第一中隊の面々ですか?」

 

「ん、まぁそうなるかな。こっちの黄色いのがロザリー、銀髪のがクリス、あっちの四次元バストがエルシャでそこにいる青いのがアタシ達第一中隊の隊長、サリアだ」

 

ヒルダちゃんの紹介に合わせて第一中隊の娘達は軽く会釈してくる。と言ってもエルシャさんやサリアちゃん位なんだけどね。マトモに目を合わせてくれるのは。

 

ロザリーちゃんとクリスちゃんは……なんか怯えられてる? 脅すような事はしなかった筈だけど……何でだ? サリアちゃんに至っては心なしか目をキラキラさせてこっち見てるんだけど、俺の気のせい?

 

「後はヴィヴィアンと痛姫……アンジュの奴がいるんたけど、今どっちも席を外しててさ、取り敢えずコイツ等だけ紹介しておく事にした」

 

「初めまして、エルシャです。なんでもヒルダちゃんの事を助けてくれたみたいで、素直じゃないヒルダちゃんに代わってお礼させて頂きますね」

 

「な、なぁヒルダ、ホントにコイツ大丈夫なのかよ」

 

「なんかこの人、すっごいヤバい感じがするんだけど……」

 

「大丈夫だって、コイツ、弱ってる私を襲わない位ヘタレな奴だから、こっちから仕掛けない限り無害さ」

 

ピンク髪が特徴的な女性、エルシャさん。何だか母性的な人だ。話をしてみるとアルゼナルの子供達の面倒を見ているらしい。一言で現すと保母さんみたいな人だ。

 

ロザリーちゃんとクリスちゃんは……相変わらずヒルダちゃんの後ろでヒソヒソ話しているし、つか内容聞こえてるし、何気に酷いこと言われてるし。ヒルダちゃんが説得(?)みたいなこと言ってるけど、効果薄そうだ……。

 

なんか凹むなぁ、女の子に陰口言われるとこんな気持ちになるものなのか、そんなどうでも良いことを考えていると真剣な表情をしたヒルダちゃんが自分に声を掛けてきた。

 

「でさ、アタシ等一応司令から話を聞いたんだけど、あの話ってマジなの?」

 

ヒルダちゃんの言うあの話とは恐らくここで出し合った情報の事だろう。ドラゴンは実は人間で自分達はエンブリヲなる一人の男の策略に乗せられていた事、それらの事実を確かめる為に自分の所に来たのだろう。

 

「……えぇ、全て事実です」

 

「そっか、……ねぇ、アンタはこれからどうするのさ、あのサラマンディーネって奴と一緒にエンブリヲとかいう奴と戦うのか?」

 

「そうですね。私はそのつもりでいますよ。エンブリヲという輩の考えはまだ計りかねていますが、いずれは彼の思惑を全て吐かせるつもりです」

 

「ふぅん。大人しそうな顔して意外と過激な事言うじゃん。アタシ、そういうの嫌いじゃないよ。アタシとしてもこの世界はぶっ壊してやろうって考えてたんだ」

 

そう言ってヒルダちゃんは野生地味た獰猛な笑みを浮かべている。……それにしてもこの世界を壊す、かぁ。

 

ただ単に壊すだけならグランゾンと自分だけで事足りそうだよな。縮退砲をブッパすればそれだけで色々終わりそうだけど、それじゃ多分解決したとは言えないだろう。

 

というか、個人的にそんな事はしたくない。この世界は確かに色々おかしいけれど、この世界だって地球である事には変わりないんだ。世界こそは違うけど自分も地球で産まれた以上、そういう手段は執りたくない。

 

つーか、この世界にはあの親子だっているんだ。今どこで何をしているのかは分からないけど、あの親子が一緒にいる可能性がある限り、その手は最後の最後の最後の手段として扱いたいと思う。

 

ヒルダちゃんはもう少し視野を広く持って貰いたい。言葉を選び、どうにか考えを変えて貰おうと説得を試みた時、アルゼナル基地全体に警報が鳴り響いた。

 

警報と共に聞こえてくる音声、どうやら逃げ遅れたドラゴンが一頭ほど基地内に紛れ込んだらしく、サラちゃん達を筆頭に至急確保するよう通達が届いてきた。

 

「ドラゴンが紛れ込んでいた!?」

 

「全員向こう側へ戻ったんじゃねぇのかよ!」

 

「ここで話をしても仕方ないわ。総員、ドラゴンの確保に向かうわよ」

 

「殺すんじゃないよ。銃の弾は麻酔弾に変更しときな! それじゃシュウジ、また後でね」

 

そうヒルダちゃんは言い残し、第一中隊の娘達は会議室を後にする。

 

……タイミングを逃してしまった。ここで待っていても仕方ないし、自分もドラゴンの確保に向かうとするかな。

 

 ヒルダちゃんの後を追おうと会議室のドアの前に立つ……その時だった。

 

「君かな? 私の事を嗅ぎ回っていた狼は」

 

「っ!」

 

「いや、狼というよりも魔人か。こんな怪物が存在するなんて、君のいたという世界は私の想像を絶する所のようだね」

 

背後から聞こえてくる聞き覚えのない男の声、自分以外いる筈のない存在に自分の心臓は一瞬高鳴った。

 

何故、どうやってこの部屋にいる。……いや、大事な事はそんな所じゃない。サラちゃんやジル司令官が敵対する“大将自らがここへ乗り込んできたという事実”それこそが自分にとって危惧すべき重要な事だった。

 

……向こうからしかけてくる様子はない。相手の呼吸や動作を注意しつつ振り返ると。

 

「初めまして、シュウジ=白河。いや、今は蒼のカリスマだったかな?」

 

美しく長い金髪の髪、翡翠色の双眸から覗かせる憂いの色、まるで友人に会いに来た態度で声をかけてくる男。

 

間違いない。姿を見るのは今回で初めてだが、目の前のこの男こそ全ての元凶であると自分の勘がそう告げている。

 

 

一見紳士的に見えるコイツこそが。

 

「初めまして、Mr.エンブリヲ。アナタと会える時を楽しみにしていました」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




遂にラスボスと邂逅。
……え? どっちがラスボスかって? そんなの決まってるじゃん!

次回もまた見てボッチノシ

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