そして日記要素も薄め。
◇月α日
アンジュちゃん達を逃がし、アルゼナルの様子を見ようと以前訪れた無人島にやってきて一週間、現在自分は開かれたとされる特異点に向けて急行中である。
何故急いでいるのかというと、今回開かれた特異点の座標はアルゼナルの真上、どうやらサラちゃん達はアルゼナルの人達をアウラ奪還の為の最大の障害として認識した様なのだ。
このままではアルゼナルの人達もサラちゃん達のドラゴンもただでは済まない。お互いの敵がエンブリヲである以上、この戦いは何としても回避させる必要がある。今の自分ではドラゴン達に言葉は届かないと思われるが、こちらには協力者がいる。
以前治療した小型のドラゴン。自分の手当とその後の養生のお陰で元気になった彼女はドラゴン側の仲介者として自分の言葉を伝える役目を担って貰っている。
もし自分の考えている案が上手く行くならば、ドラゴンとアルゼナルの共同戦線が張れる事も難しくない筈、楽観的な考えは危険だが、そうなる様に上手いかせるのが自分の役割だと思っている。
……そろそろアルゼナルに着く頃だ。万が一の状況に備える為、自分はコレよりグランゾンと共にワームホールに突入。グランゾンの掌に乗せたドラゴンを解放し、先行しようと思う。
どうか、この行動が武力介入という物騒な事態に繋がらない事を切に願う。
◇
────突然アルゼナル上空に開かれたシンギュラーポイント。ドラゴン側との世界が繋がれる扉が唐突に自分達の真上に開かれた事態にアルゼナルのノーマ達は慌ただしくも迎撃の用意を開始していた。
嘗て無いドラゴンの数を前に基地の対空装備、パラメイル、メイルライダー、アルゼナルの全てを集結、総動員させてノーマ達は総力戦を開始、互いに接敵するまで後僅かとなった時、アルゼナルの基地司令部のオペレーターはある異変を感知した。
「し、司令! アルゼナル上空に重力の異常数値を検出しました!」
「なんだと? まさか、シンギュラーポイントがもう一つ現れるとでも言うのか!」
「ぇぇ!?」
アルゼナル司令、ジルの驚愕の叫びに隣に控えていた監察官エマ=ブロンソンは信じられないと言う表情で絶句する。
通常、シンギュラーポイントは一カ所しか開かないのが鉄則。これまでの事例からシンギュラーポイントは二つも開くことは無いとされてきた。
だが、その常識が今破られようとしている。現時点でも手一杯の状況なのに更にドラゴンの波状攻撃を受ければアルゼナルは一溜まりもない。唐突に追い込まれた状況の中、司令官であるジルはある一つの決断を迫られていた。
(どうする。もし本当にシンギュラーポイントが開くのであればこのアルゼナルは確実に崩壊する。だが現在の状況でリベルタスを発動させても部下達を混乱させるだけだ)
しかし、このまま何も対策を立てなければ全滅は免れない。ジルは前線が混乱する事を承知の上でリベルタスの発令を出そうとした……その時だ。
「シンギュラーポイント、開きます! 数は……一つです!」
「っ!」
オペレーターの言葉に司令部に緊張が走る。ドラゴン達が出現する門の他に黒い穴の様なモノが広がっている。その光景を目にした途端、パラメイルを駆るノーマ達やドラゴン達も突然の事態に混乱し、動きを停止させていた。一体何が起こるのか、誰もが緊張に支配される中……ソイツは現れた。
ソレは、一言で言うならば───魔神。奈落の底、深淵より出るのは蒼を強調とした巨大な魔神。突然現れた存在にパラメイル隊は勿論、ドラゴン達ですら戦慄し、固まってしまっている。
動いたら狙われる。目を付けられたら殺される。そう思わせてしまうほどに禍々しい風貌をした魔神を前にその場にいる全員が何も出来なくなっていた。
そんな時だ。この海域にいる全ての者に聞こえる様に魔神から人の声が響き渡る。
『両陣営、そのまま動かないで下さい。突然で大変申し訳ありませんが、この場は私に仕切らせて貰います』
魔神から発せられたと思われる人の声、それも若い男性らしき声色にアルゼナル内にざわめきが起こる。突然現れて戦闘を止める魔神にドラゴン側とノーマ側は動揺していた。
さて、ここからどうしたものか。魔神───グランゾンのコックピットでどう話を切りだしたら良いものかと仮面の男、蒼のカリスマは頭を悩ませる。
今ドラゴン達やノーマ達が止まっているのは突然グランゾンが現れている事に驚いているだけ、此方に戦う意志はないと知られれば再び彼女達は戦いを始めるだろう。そうなれば此方も武力介入をしなければならない。
早い所話を切り出さねば。そう思った時、グランゾンの通信回線に女性の声が入ってきた。
『此方アルゼナル司令、ジル。そこの蒼い機体に乗った貴様、貴様は何者だ』
疑惑と疑問に満ちた声、明らかに此方を敵視した声色だが、ジルという女性を知っている蒼のカリスマは待ってましたと言わんばかりに彼女の通信に答えた。
失礼のないよう注意を払いつつ、此方に敵意が無い事を伝えなければならない。一言一句間違えないよう気を付けて、正直に話すべきだと思い、まずは久し振りに会った気安さで話しかけようと蒼のカリスマ───シュウジ=白河は口を開いた。
『ククク……、お久しぶりですね。ジル司令官』
『その声は、まさか……蒼のカリスマか!? 一体なんの為にここに来た! それに、その機体はなんだ! 何が目的だ!』
『私の目的、ですか? それは以前にも言った筈ですよ。ドラゴン達との戦闘を停止させ、アウラ奪還の為に私達に協力して頂きたいと』
蒼のカリスマの放つ言葉に両陣営に波紋が広がる。通信越しからでも聞こえてくる監察官の叫び声を音響に向こう側からの返事を待っていると、今度は別方向……シンギュラーポイントから通信が割って入ってきた。
それもモニター通信。一体誰からだと訝しげに思いながら通信を開くと、鬼の形相をしたサラマンディーネが映り込み、同時に三機のパラメイルがシンギュラーポイントから姿を現した。
『……どういう事か、説明していただけますか?』
低く、くぐもったサラマンディーネの声、殺気を押し殺し、敵意剥き出しで睨んでくる。彼女の当然の反応にシュウジは仮面の奥で眉を顰める。
だが、これはこれでチャンスだ。何故パラメイルを彼女達が有しているのかは分からないが、ここを乗り切れば自分の目的が達成出来る。ピンチはチャンスだと自身にエールを送りながら、シュウジは彼女に説明した。
『勿論、その為にこの場を用意させて頂きましたからね。私の対談に是非アナタにも参加して欲しいのですよ。近衛中将、サラマンディーネ様』
『まるで、何もかもお見通しな言い方ですのね』
『まさか、私はそこまで万能ではありませんよ。知るべき事を知り、語るべき事を語る。私はただ全力を尽くすだけですよ。全てはアウラ奪還の為に……ね』
『……良いでしょう』
渋々とした様子でも自身の話しに乗ってくれたサラマンディーネにシュウジはコックピットで小さくガッツポーズ。
『さて、話は聞いて貰えたでしょうか。ジル司令官、そろそろアナタ方にも答えを聞かせて欲しいのですが……』
『……良いだろう。席は此方で用意してやる』
『ご協力、感謝致します』
フンッと、明らかに不機嫌な様子で通信を切るジルだが、シュウジはよっしゃと声を漏らした。これでドラゴンとノーマ、二つの種族が同じ席に座り、話し合いの場を設ける事が出来た。
あとは自分の采配しだい。二つの陣営の仲を取り持つ為に、シュウジは気合いを入れ直し、サラマンディーネのパラメイルと共にアルゼナルへ降りたった。
ボッチ「皆が仲良くなれるよう、しっかりしなくちゃ!」
サラ子「何を企んでいるのですか、シュウジ=白川!」
ジル「何を企んでいる、蒼のカリスマ!」
アンジュ「アイツ、何がしたいのかしら?」
ヒルダ「前々から思ってたけど、アイツの敬語胡散臭いよな」
サリア「カッコいい……」
次回も日記要素は薄くなる模様。
次回もまた見てボッチノシ