『G』の異世界漂流日記   作:アゴン

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今回、時系列がちょっとおかしいかもしれません。


その9

 

 

▲月Ω日

 

 エンブリヲに関する情報を求めて世界諸国を巡りながら探して回って数日、それらしい情報は未だ掴めないまま自分は途方に暮れていた。

 

これだけ探しても見つからないという事はもしかしたらエンブリヲはこの世界に於いて重要な席に座る重鎮みたいなものではないかと最近は予想している。

 

だから自分は諸国を巡りながらその度にその国の首相官邸やら国家機密等を調べたりしたのだが、エンブリヲに繋がる情報は一切得られなかった。

 

まぁ、サラちゃん達の世界に単身で乗り込んでアウラを強奪する様な奴だ。世界から自分の痕跡を消して行方を眩ませるのは奴にとってさほど難しい事ではないのだろう。

 

 これ以上の情報は足で探し回っても得られる事はないだろう。となると、ここから自分が出来る範囲はかなり限りられてしまう。自分の憶測と推測に合わせて山勘レベルの当てずっぽうで探してみるか、それともグランゾンの力でこの地球全土の地殻を掘り返してエンブリヲを力付くで引きずり出すかだ。

 

後者は冗談だとしても実際それくらしか出来る事がない。けど、世界各国の官邸を調べて回っていた結果、この世界の仕組みについて分かった事があるので今日はそれをまとめていこうと思う。

 

まず、この世界を構成しているのに必要不可欠とされているマナだが、アレはこの世界の人間だけが使えるというより、この世界の人間に“しか”扱えないと言った方がいいだろう。

 

どうやらこのマナというのはこの世界の人類と脳波レベルで繋がっているらしく、マナの光で物を浮かせたり、障壁を張って防御に使えるだけじゃなく、思考通信やら統括ネットワークにアクセスする事でリアルタイムで情報を共有したりする事ができる様で人々はそれを使って電話も通信機も無しに遠くにいる人と連絡を取り合ったりしているのだという。

 

これは便利だと普通なら思う所だが、自分はそうは思わなかった。何せこの相互通信システムというのは自分の知るある者達と似たようなシステムを使っているからだ。

 

イノベイター……いや、イノベイドか。再世戦争の頃、アロウズを使って好き勝手に地球を荒らしまくってた連中、奴らも脳量子波というモノでお互いの存在を認識していたというからあながち間違いという訳でもないだろう。

 

そしてもう一つこのマナを使った通信システムを持つ存在がいる。それが“バジュラ”彼等の生態系を理解すれば寧ろこちらの方がこの世界の事情に当てはまると思う。

 

フォールド波と呼ばれる特殊な波でお互いを理解し合っているバジュラは基本的に群で行動し、互いの存在を認識し、外敵に襲われればフォールド波を伝って全てのバジュラへと伝達される。

 

また外敵が自分達より強い存在であるならばフォールド波を通して伝わってきた情報を基にバジュラは進化していく。そしてこれらバジュラのネットワークの頂点に君臨するのがバジュラの女王だ。

 

嘗てこのバジュラクイーンを利用して全てのバジュラを支配下に置き、銀河の支配を目論んだ女がいた。自ら神と名乗ったそいつは自分とグランゾンで大好きな銀河と共に消して上げたけど、実際奴のやり方は合理的で厄介なモノだった。

 

バジュラ達を統括する女王に寄生し、バジュラのネットワークに介入。バジュラ達を意のままに操ろうとした奴の言動は今でも苛立たせてくれる。

 

 ここの人間はそんな支配されたバジュラ達と似ているのだ。以前にも刷り込みやら洗脳だとか言っていたが、これでいよいよこの世界が胡散臭いモノだと確信した。

 

思考ネットワークにも繋がる事の出来るマナの光ならば、それを通してなら人々に常識や意識差別等といった認識情報を弄くる事も可能だろう。

 

これならば何故ノーマという存在に対し、人々があそこまで差別的になるのかも理解できるが、これだけではエンブリヲの所在を特定する事は叶わない。

 

よってもう一つ推測を立ち上げてみるのだが、ぶっちゃけ、これしかないと自分は考えている。

 

 “アウラ”サラちゃん達の世界にいたドラゴンの始祖。始まりのドラゴンでありサラちゃん達の象徴とも呼べる存在、アウラこそがマナという万能エネルギーの源だと自分は考えている。

 

というか、薄々そんな気はしてた。エネルギー資源としてエンブリヲが連れ去ったとサラちゃんは言っていたが、そもそも何故エンブリヲはアウラをエネルギーにしたのか。

 

恐らくはアウラの体は膨大なドラグニウムというエネルギーを有しているのだろう。まだ汚染に満ちていたサラちゃん達の世界は巨大化した雄のドラゴン達が汚染された部分を食べ続けていた事により世界を浄化する事が出来たと聞いている。アウラはそんな昔から存在し続けるドラゴンだ。その体内からこの世界の人々が使用する分のマナを取り出し供給し続けているのだろう。

 

だが、それだけでは世界中の人々を賄う事など不可能、自らドラグニウムを生み出す訳ではないアウラに対しエンブリヲは更なる仕組みを築き上げた。

 

それがノーマであるアンジュちゃん達とドラゴン達が戦っている理由に他ならない。世界から不要と断じられてしまった彼女達は世界の果てにあるアルゼナルでドラゴン達と戦う事を強いられ続けた。

 

対するドラゴン達もノーマ達に殺されてしまい、大型のドラゴンに至っては氷漬けにされてしまっている。……あの無人島で見た氷漬けにされたドラゴンを見た時、何故殺さずにどこかへ運ぶのか気になったが、最近漸くその理由に気付けた。

 

ドラゴン達は汚染された草木や大地を喰らって体内にエネルギー結晶として貯蔵している。つまり、エンブリヲは狩ったドラゴンの腸を引き裂いてアウラの放つマナの光の供給源としているのだ。

 

全く、よくもまぁこんなふざけた世界にしてくれたものだ。そのエンブリヲとかいう奴は自分の事を神かなにかかと思っているのだろうか? 悪趣味にも程があるだろう。

 

まぁ、これは自分の推測に過ぎないから断言はできないが、それでも自分は殆どこの流れで間違いないと思う。

 

 後はそのアウラの居場所を突き止めるだけ、自ら乗り込んで強奪する位だ。アウラの所へ行けば自ずとエンブリヲもその姿を現す事だろう。

 

さて、残った問題はそのアウラの所在なのだが、実は自分に心当たりがある。何でも各国の首都には“アケノミハシラ”と呼ばれる巨大な塔が建設され、そこに代々塔を起動させる事を義務づけられた皇族達が自国の人々が使う分のマナの光を放っているとされている。

 

恐らくアウラはいずれかの塔の地下に幽閉されているのだろう。そしてそれは今の所ミスルギ皇国である可能性が一番高い。

 

根拠はミスルギ皇国の皇室にリザーディアさんが潜入しているからだ。恐らくは彼女も自分と同じ結論に至り、各国のアケノミハシラへと潜入し、アウラの所在を探していたのだろう。

 

そしてその候補の一つとして選ばれたのがミスルギ皇国だった。彼女が自分に世界を巡ってエンブリヲの情報を集めて欲しいと言ったのも、自分だけでは手の回らない他のアケノミハシラを調べて欲しいという意味だったに違いない。

 

それならそうと言って欲しいというがアウラはこの世界にとっても重要な存在、恐らく皇室には常にエンブリヲの目が向けられている事だろう。いうなればリザーディアさんは常に敵の懐に単独でいるようなモノ、そこからくるプレッシャーは相当だろう。そう考えれば彼女が当時自分の事を疎ましく思っていたのも頷ける。

 

そりゃ皇室や元凶であるエンブリヲの目を誤魔化し続けなければならないのだ。寧ろ自分の為にあれこれ助言をくれた事に感謝すべきだろう。

 

 これでひとまずこれまでのまとめと今後の方針は決まった。明日はミスルギ皇国に向かい、早速あそこの国のアケノミハシラを調べてみようと思う。

 

因みに、既に他の国のアケノミハシラは調べてある。連中、マナの光に頼ってばかりで見つかってしまっても簡単に振り切る事が出来る。ヘリや装甲車が動く前に此方は国境へ逃げ込む事ができるのだから楽なものである。

 

多元世界に来たばかりの頃、世界を相手に逃げ回っていた自分を舐めないで欲しいものである。

 

………うん、威張れる事じゃないね。

 

 それと追記。ヒルダちゃんは無事アルゼナルに届けました。恐らくは反省房の中にいる事だと思うが……彼女の事だ。きっと今頃は向こうの友達とも仲直り出来ている頃だろう。

 

勿論その時はグランゾンで送らせて頂きました。グランゾンならばこの世界に存在するどの機動兵器よりも速くアルゼナルに到着できるからな。

 

ただ、グランゾンをワームホールから出す際、ヒルダちゃんメッチャ驚いていたな。最初の頃の自分を見ているようで何だか懐かしくなってしまった。

 

で、そのあとはヒルダちゃんと共に急行。人気のない基地の砂浜に送り届けた後、自分はミスルギ皇国へ向かってグランゾンを走らせている。

 

 明日からは忙しくなりそうだ。漸くこの世界に来て働ける気がしてきたので頑張っていこうと思う。

 

 

 

 

◇月*日

 

 アウラを求めてやってきたミスルギ皇国。現在自分はアンジュちゃんの処刑台前へきております。

 

え? 何を言っているのか分からないって? 安心して欲しい。自分も何を言っているのかさっぱり分からないから。

 

……まぁ、大体予想は出来る。何でもミスルギ皇国は現在第一皇子ジュリオ君が王位に即位しており、長いことアンジュちゃんをノーマだと隠していた皇室の威厳を取り戻す為に実の父親を処刑したらしいのだ。

 

母親の方はアンジュちゃんがノーマだと知られた時の騒動で亡くなったと聞く。幾らノーマである事を隠していたとはいえ、実の父親を殺すとは……どうやらこのジュリオ君は自分が思っていた以上に碌でもない野心を抱えていたようだ。

 

それが皇室を皆殺しにするという触れ込みがアンジュちゃんの耳にも入ってきたのだろう。どうやって伝わったかは定かではないが、時期的に考えて恐らくはヒルダちゃんと一緒にアルゼナルから脱走したものだと考える。

 

で、大事な家族が殺されると危惧したアンジュちゃんはホイホイと兄ジュリオ君の罠に嵌まり現在に至る……と。いやぁ、それにしても自分の威厳を立たせる為に実の妹すら利用するとは、皇室っておっかないなぁ。シュナイゼルの所の皇室もあんな風にドロドロしていたのだろうか?

 

しかもアンジュちゃんの妹らしい車椅子の少女から何度も鞭を振るわれているし……一瞬鞭を振るうナナリーちゃんを幻視してしまったじゃないか。

 

ともあれ、そろそろアンジュちゃんを助け出す準備に入ろうかな。タスク君も向こうで準備をしているだろうし、手助けくらいはしてもいいだろう。

 

本当ならこの騒動に乗じてアケノミハシラへ乗り込みたい所だが……まぁ事態が事態だし、仕方ないだろう。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

(……これが、平和を愛するミスルギ皇国の民なの? まるで家畜、豚じゃない)

 

 処刑台の前に立たせられていたアンジュは目の前に広がる嘗ての級友達、吊せ、吊せと呪詛の様に繰り返す彼等を見てアンジュは憤りを感じずにはいられなかった。

 

最愛だった妹にも裏切られ、兄の策略に嵌まったアンジュは後数分もしない内に処刑されるだろう。己の権力の為に父を殺した兄、そしてマナが使えないノーマというだけで話も聞かずに差別する人間共。

 

もう、そこには嘗て理想だったアンジュの世界はない。まるで肥溜めでも見ている様な感覚となったアンジュはそれでも絶望せずに怒りを糧としていた。

 

(殺せるモノなら殺してみなさい。ただし、私は絶対に諦めないわよ!)

 

諦めない意志。それは自分がノーマだと知り渡った時、死に際の母が遺した遺言だった。

 

 アンジュは───歌を歌った。永遠(トワ)語りと呼ばれる母から受け継いだたった一つの繋がりを口にしながら、アンジュは自ら処刑台へと足を進める。

 

既に彼女の覚悟は完了した。後はその時を待つばかりだと悟った────その時。

 

『中々、良い歌でしたよ』

 

 

 ───そいつは現れた。

 

爆発する処刑台、首に掛けられた縄は引きちぎられ、アンジュは重力に引っ張られ、地面へと落下していく。

 

しかし、衝撃はなかった。何故なら彼女の体を仮面を被った男が抱き抱えていたのだから。

 

「き、貴様、何者だ!」

 

突然現れた仮面の男に処刑台の前は騒然となる。予兆もなく、前振りなく現れた謎の存在を前にジュリオは動揺しながらも問いただした。

 

「……名、ですか? 生憎、今の私にはあなた方に名乗る名前は持ち合わせていないのですが」

 

「な、何だと!?」

 

「それでも敢えて名乗るのならば────蒼のカリスマ、とでも名乗っておきましょう」

 

 多元世界で猛威を揮った孤高(ボッチ)の魔人───蒼のカリスマが今、ここに再び姿を見せるのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




次回は日記要素少なめです。

主人公の得意なもの(自称)

その1逃げ足
その2かくれんぼ
その3料理
その4絵(本人は人物の絵を書き写す程度と語る)

以上。


次回もまた見てボッチノシ


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