『G』の異世界漂流日記   作:アゴン

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今回から話が飛びます。


その8

 

 

 

▲月※日

 

 現在、自分はエンブリヲなる輩の事を調べる為にこの世界の諸国を巡っている。あれからドラゴンと遭遇した自分は傷だらけとなったドラゴンを助けるべく治療を施し、彼女が快復するまで側にいる事にした。

 

この時にアンジュちゃん達から隠れる為にすぐ様あの場所から離れたのだが……いやー、ドラゴンってやっぱ重いね。体格から分かるとおり人間とは比べものにならない重量だからおぶって移動しようとしたけれど、ドラゴンの重さに潰されそうになった。

 

危うく戻ってきたアンジュちゃん達に見つかりそうになったので自分は慌ててグランゾンのいるワームホールへ飛び込み、アンジュちゃん達が無人島から去っていくのを待った。

ワームホールの内部は常に重力に包まれている空間だ。グランゾンに乗り込む自分は兎も角ドラゴンである彼女は重力に押し潰されてしまう事態になってしまう。一緒にコックピットに乗せようとしても流石に狭いので自分はアンジュちゃん達が去る時まで重力の底でドラゴンが押し潰されないようにグランゾンを制御する事に専念する事になっていた。

 

その後アンジュちゃんは迎えにきた仲間達と一緒にアルゼナルへ戻り、タスク君もパラメイルの様な機械と共に無人島から飛び立っていった。その様子を見送った自分は重力の嵐から守りきったドラゴンと共に再び無人島に降りたった。

 

で、その後はドラゴンの傷を治す為にアレコレ手を尽くすのだが、この時からドラゴンは意外な程に静まり返っていたのだ。

 

まだ自分と相対したばかりの時は敵意剥き出し、殺る気満々のハツラツした様子だったのにワームホールから出てきた時は驚くほど大人しくなってしまっていた。

 

やはり体に刻まれたダメージが深刻だったのだろう。仲間を人間達から取り戻した時に精魂も尽きた彼女は端から見ても弱り切っていたからなぁ。そこへワームホールに力ずくで押し込んでしまったのだ。彼女が弱るのも無理はない。

 

その後、傷薬になる薬草を島中にから集めて(傷薬になる薬草はタスク君から教えて貰った)彼女の傷に塗り込んだり、海蛇のシチューといった食べ物を与えたり、ドラゴンの看病を続けた。ドラゴンに人間の看病が役に立てるのか不安に思ったが、彼女達だって人間だ。今はドラゴンの姿となっているが、彼女達の世界にはドラゴンと人間の二つの姿に身を変えられる技術が存在しているのだ、決して無駄ではないと自分に言い聞かせた。

 

そしてその翌日、看病し続けた甲斐あってドラゴンは見事快復。どうにか空を飛べる体力まで取り戻すことに成功した。

 

やはりドラゴンだけあって生命力は凄まじい。殆ど完治している状態の彼女は今にも外へ飛び出しそうな勢いだったが、ここで俺は待ったを掛けた。

 

ここはドラゴン達にとって敵とも言える世界だ。ここからアルゼナルは近いみたいだし、もし見つかったりすれば今度こそ彼女は殺されてしまう。

 

折角拾った命だ。もう少し大事にして欲しいので自分はこの時彼女に次の特異点が開くまでここで大人しくしておくよう説得を試みた。

 

最初は渋っていたが、自分の必死な思いが届いたのか、段々ドラゴンは態度を変え、遂には自分の言葉を聞き入れてくれるまでになってくれた。

 

この無人島には幸いに水と食料が豊富だ。木の実やキノコも生えてるし、魚も充実している。勿論毒キノコや毒性のあるモノには気を付けるよう言い聞かせていたが……そもそもドラゴンに毒って利くのかな? 某狩りゲーでは結構有効な手段だけど……。

 

ま、まぁそれは兎も角として、なんとかドラゴンを助けられた自分はグランゾンと共に無人島を後にして現在は最初にも述べた諸国を練り歩いている。

 

早い所エンブリヲなる輩からアウラを取り戻さねば。この意気込みを絶やさない為、明日も一生懸命に頑張っていこうと思う。

 

 

 

▲月γ日

 

 今日、久し振りに胸糞悪くなる場面と遭遇した。エンブリヲの情報を少しでも集められるよう各国を旅して回っていた俺だけど、この日、俺はアンジュちゃんとの初邂逅以来感じることの無かった怒りを覚える事になった。

 

エンデラント連合。この世界の国の一つであり、ミスルギ皇国よりも面積の大きい国、そこで俺は信じられない場面を目撃したのだ。

 

農業が盛んだと思われるとある土地、広々とした大地と両脇にリンゴ林のある小道、何とものどかな土地でこれで空が晴れていたらなと思っていた時、目の前に人垣ができており、何だと恐る恐る覗いてみれば……一人の女の子が警官達にボコボコにされている場面だった。

 

しかもその時警察官が女の子の顔を踏みにじったモノだから俺の中にある怒りメーターは瞬時に振り切り、その場にいる警官達を全員叩きのめしてしまった。

 

……一時の感情に流されてまたもや暴力を振るってしまった自分が情けないが、アンジュちゃんの時と同様、その時も今も後悔はしていない。

 

動けなくしてやった警官達を尻目に、自分は女の子を助け起こす。この時女の子は一瞬目をパチクリとさせるが、次の瞬間には敵意剥き出しの表情となり、自分に殴りかかってきたのだ。

 

……余程人に恨みを持っているのだろう。憎しみまみれの彼女の拳は大した威力はないものの、酷く冷え切っていた。自分を殴った後力を使い果たした女の子はそのまま気絶してしまった。

 

このままでは風邪を引かせてしまうと思い、俺は彼女と一緒にグランゾンに乗り込み、人気のない場所へと移った。

 

 その後人気のない森の中にまでやってきた俺はそこそこ古い空き家を見つけ、少しばかり借りる事にした。暖炉もあるし、近くに水辺もある。寝具も埃まみれだがまだ使える状態になっているし、一休みするには十分な環境だった為、自分は彼女を横に寝かしてドラゴンの時と同様に看病を始めた。

 

今は自分の後ろで健やかに寝息を立てている。脱がした服も暖炉で乾かしていることだし、朝には目を覚ますだろう。

 

……一応言っておくが、彼女の服を脱がしたのは風邪をひかせない為の必要な処方であってやましい理由や気持ちなど断じてない。

 

そもそも意識の無い女の子に手を出すなど外道の所業。精神的にも弱っているみたいだしこのまま一晩様子を見ることにしようと思う。

 

 

 

▲月Σ日

 

 翌日、元気を取り戻した様子の赤髪ツインテールの女の子、ヒルダちゃんから寝起きのシャイニングウィザードを受けそうになった所から今日の出来事を綴ろうと思う。

 

ヒルダちゃんは元々ノーマの生まれらしく、ついこの間までアルゼナルに収容されていたのだとか。過酷な環境の中で当時六歳だったヒルダちゃんはキツい訓練を受け、第一中隊というアルゼナル屈指の戦闘部隊に配属されたのだという。

 

ドラゴン達を駆逐し、仲間や上司に取り入る事で今日まで生きてきたというヒルダちゃん。全ては母親に再び出会うという目的を果たす為、これまでなんでもしてきたというヒルダちゃんはその後、自虐的な笑みを浮かべて話を続けてくれた。

 

……その内容は酷いものだった。ある時フェスタと呼ばれるイベントの日に今日まで備えてきたヒルダちゃんは隙を狙って脱走、遂に母親の所へ辿り着くのだが。

 

待っていたのは自分の娘を化け物と蔑む母親の姿だった。

 

自らお腹を痛めて産んだ我が子に対して化け物と罵倒する母親、しかもヒルダちゃんの母親は既に別の子を産み落としており、そちらの方にヒルダちゃんの本当の名前を付けて育てていたのだという。

 

まるで自分という存在など元から無かったかのように……。そう言って疲れたように笑うヒルダちゃんに俺は何も言えなくなった。

 

……ノーマというだけでどうして人々は恐れ、嫌うのだろう。お腹を痛めて産んだ我が子さえも化け物として蔑むこの世界に対して、正直俺は異常性を感じていた。

 

もはや歪んでいるとかのレベルではない。ノーマというだけで差別するこの世界の人間は自分から見てまるで操り人形の様だった。……洗脳、と言っても良いだろう。

 

ノーマというだけでまともに話も聞かず、一方的に弾圧するその姿勢。まるで誰かから命令されているような彼らの姿に俺は改めて怖気を感じた。

 

 ───そう考えると、この世界がどういう仕組みで成り立っているのか、何となく分かる気がする。マナという万能エネルギー、ノーマ、エンブリヲ、そしてアウラ、これらは恐らく繋がりがあるのだろう。ていうか、そうとしか思えない。

 

となると、やはりエンブリヲの正体とその目的を明らかにするのが一番の近道なのかもしれない。こちらの世界に来てそろそろ一月が経つ。いい加減手掛かりの一つくらいは手にしたい所だ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「さぁ、スープが出来ましたよ。熱い内に食べなさい」

 

「あ、ありがとう……」

 

 時刻は夜の七時を回った所、辺りは暗闇に閉ざされ、小屋から溢れる光だけが闇の森に光を灯していた。

 

渡された木製の皿とスプーンを手に取り、注がれたスープを一口啜る。口に広がる芳醇な香りと味付けにヒルダは夢中になって食べ始めた。

 

そんな彼女を見て白いコートを着た男性、シュウジは微笑む。元気を取り戻した様子の彼女に嬉しく思うシュウジは妹を見守る兄の心境で彼女を見つめていた。

 

そんなシュウジの視線に気付いたのか、ヒルダはシュウジの方へ視線を向けると同時に表情を強張らせる。明らかに不機嫌ですよと物語る彼女の表情にシュウジはバツが悪そうに苦笑いを浮かべる。

 

やがてスープを全て胃の中に入れたヒルダは満足とばかりに腹をさすった。

 

「はー、食った食った。こんなに食べたのは久し振りだ」

 

「満足していただけた様で良かったです。朝の寝起きからのシャイニングウィザードといい、どうやら本当に体調は良さそうですね」

 

「うるさいよ。誰だって見知らぬ男が自分の寝顔を覗き込んでいたら驚くだろうが」

 

「それもそうですね」

 

品性の欠片もない態度、着ている服はお洒落なままなのに野生児の様に振る舞うヒルダだが、シュウジはそんな事を気にも留めていなかった。

 

「さて、お腹も膨れた様なのでこれからの事を話したいのですが、……ヒルダちゃん、貴女はこれからどうします?」

 

「……別に、私はノーマだ。この世界にノーマの居場所がない以上、どこにも行く宛なんてないさ」

 

「……アルゼナル、でしたか? そこへ戻れば友達だっているのではないのですか?」

 

「友達ぃ? ハッ、そんなものいるわけないだろう? 私が今日まで生きてきたのはママに会うため、ロザリーもクリスも私の目的を達成する為に合わせてやってただけだよ」

 

 だから自分に居場所などない。そう口にするヒルダは笑みを浮かべている。しかし、その笑顔はどことなく疲れているようにも見え、シュウジはそんな彼女の表情に落ちる影を見落とさなかった。

 

自嘲気味に笑うヒルダ、友達を騙してでも母に会いたかった彼女の想いはその母親によって砕かれ、今の彼女の心境は暗い奈落の底、即ち絶望へと叩き落とされていた。

 

そんな彼女の気持ちは自分程度ではどうする事も出来ない。しかし、生きる事を諦めつつある彼女も放っておく事が出来ないシュウジはある人物の話をするのだった。

 

「……嘗て、私の知り合いにも貴女と似たような人がいましたよ。目的の為なら手段を問わず、人を騙し、欺き続けた一人の男がね」

 

「………」

 

「彼がそこまで他人に嘘をついていた理由、それはたった一人の肉親を、妹を守る為だったのです」

 

 それは嘗て多元世界にいた頃、再世戦争と呼ばれる争乱の時期にシュウジが出会った一人の男。幼き妹を守る為、居場所を作る為に世界を相手に嘘を吐き続けた男は、やがて世界から見放され、遂には妹さえ敵に回してしまった。

 

妹の居場所を作るつもりが、逆に自分の居場所を失ってしまった。人を騙し、裏切り続けてきた代償。男は遂に自棄を起こしかけた。

 

「けど、彼は最終的にはその道を選ばなかった。……何故だと思います?」

 

「さぁな、私に分かる訳ないだろ?」

 

「……彼には、友達がいたのですよ。親友だった一人の男――時には敵対し、騙し騙され、憎しみ合っていた彼が友人を助ける為にもう一度手を差し伸べたのです」

 

 シュウジが思い返すのは再世戦争末期の頃、バジュラ本星付近で始まった戦いでの事。そこで二人は互いの心に触れた事で和解し、嘗ての関係を取り戻す切っ掛けを手にした。そこまでくるのに少しばかり手間取ったが、当時のシュウジには仲直りを果たした二人が眩しく見えた。

 

ついでに言えば嘘吐き少年(ルルーシュ)の自棄を止めたのは自分だが、問題となる所はそこではないので適当に流す事にした。

 

やがて男の話を終えたシュウジは再びヒルダへと向き直る。すると彼女はもの凄く納得がいかないといった様子でシュウジを睨みつけていた。

 

「……で、そんな話を私に聞かせて、一体何が言いたかったんだよ」

 

「ククク、ここまで言えば聡明な貴女なら理解していると思うのですが、まぁいいでしょう。これまでの話をまとめて要点だけを話すのならば……もう少し、素直になればいい。という事ですよ」

 

自分が悪いというのなら自分から謝ればいい。例え受け入れられなくてもそこから自身の態度次第だとシュウジは続けた。

 

何とも身も蓋もない話である。だが、その身も蓋もない話こそが大事な事であるとヒルダ自身も理解していた。

 

つくづく気に入らない奴。まるでこちらの気持ちなどお見通しと言わんばかりのシュウジにヒルダはお返しという風に皮肉を口にした。

 

「ったく、ノーマである私を匿ったり余計な事言ったり、アンタ本当に何者? まさか神父様とでも言いたい訳?」

 

「まさか、聖職者などと私には程遠い役職ですよ。……それに」

 

 

 

 

“私はそもそも、神という存在(モノ)を信用してはいません”

 

 

 

 

ほんの皮肉のつもりで漏らしたヒルダの一言、しかしそれが目の前の人物のナニカに触れたのか。彼の浮かべる笑みはヒルダをゾクリとさせるのだった。

 

 

 

 

 

 

 




樹理男「今週の私の運勢最悪でした~」
円鰤男「私も大凶だったよ~」
樹理男「ハッ! まさかこれって……!」
円鰤男「大丈夫、この予告が本当だった試しなんて一度もなかったんだから」
樹理男「そ、そうですよね。良かった~、死亡フラグかと思いましたよ」
円鰤男「そんな事あるわけないのにね、ははは♪」

???「……ほう?」


次回もまた見てボッチノシ

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