『G』の異世界漂流日記   作:アゴン

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今回は前半シリアス。後半がギャグとなっております。


流れが変わるかも。


その42

 

 

 

 

 

 一夏とタンポポがテロリスト達の襲撃を受ける数分前、京都駅周辺にある広場には集合時間に合わせてIS学園の生徒達が集まっていた。

 

本来ならもうじき駅のホームに移動しなければならない筈の時間帯、しかし彼女達は一行にその場から動こうとしなかった。いや、そもそも駅内部から人の気配すらしない。観光に訪れた人やコンビニ店舗の従業員、駅の係員すら見当たらない。

 

殆ど無人状態となっている駅内、それに比例して駅の周辺は物々しい雰囲気に包まれていた。複数のパトカー、救急車、消防車、更には自衛隊と日本の防衛機構の全てが駅周辺に集まっているのを前に、学園の生徒達は不安そうに見つめていた。

 

事の発端は数分前に遡る。そろそろ集合時間の頃だと思い生徒達の点呼を兼ねて一足早く集合場所へたどり着いた千冬は楯無と遭遇し、そこで爆弾が仕掛けられてある可能性の旨を聞かされた。

 

以前から修司にも似たような事を聞かされていた事、学校行事になると必ずといっていいほどに襲撃を受けていた事を教訓に千冬は山田真耶と数名の教師陣と共に駅長の所へ事情を説明し、駅内にいる全ての人間を外へ避難するよう呼び掛けた。

 

駅内の人間を避難させた後も、既に京都知事に連絡を通していた為に警察の協力も得られ、爆弾発見の際には救急車や消防車、更には自衛隊の爆弾処理係りの面々も迅速に駆けつける事が出来た。

 

 爆弾が発見されたという報告があってから早30分。そろそろ何らかの動きがあるだろうと千冬が目を細くした時、駅の出入り口から複数の男女が出てくる姿があった。

 

自衛隊の爆弾処理係とドイツの代表候補生であるラウラ、そしてロシアの代表である楯無が駅から出てきた。彼女達の報告を聞くべく千冬は二人に駆け寄った。

 

「二人ともご苦労だった。報告を聞かせて欲しいのだが……構わないか?」

 

「勿論です。織斑先生」

 

「現在駅内に逃げ遅れた者の姿は確認できませんでした。ISを展開し周囲を隈無く探してもその姿が無かった事から、どうやら我々以外人はいないようです」

 

「爆弾の方も爆弾処理の方々とラウラちゃんのISのお陰で早期に発見、対処、処理する事が出来ました。他に爆弾が仕掛けられた様子は無いことから、どうやら私達が乗る予定だった列車に取り付けられた爆弾が最初で最後だったようです」

 

「そうか、まだ気を抜けないがひとまず乗り越えられたか。自衛隊の皆さんや警察、消防の皆さんも協力ありがとうございました」

 

ラウラと楯無の報告にひとまず安堵した千冬は駆けつけてくれた応援の人達に向けてドイツ仕込みの敬礼で感謝を示し、爆弾処理係の面々もにこやかに微笑みながら敬礼を返す。

 

早期発見と早期処理、これにより被害を一切出さずに収束させた事に安心するが、まだ警戒を解くわけにはいかない。警察や消防の人達には解散してもらうにしても自衛隊の方々には引き続き待機して貰おうかと千冬が思案した時、大慌ての様子の山田真耶が箒と簪、本音を連れて駆け寄ってきた。

 

「お、織斑先生!」

 

「どうしました山田先生、何か問題が起こりましたか?」

 

「じ、実はここに来る途中サキさん達が突然単独行動をしてしまって」

 

「止めようとしたのですが、何でも皆モモとタンポポが危ないと言い出して」

 

「あっという間に跳んでちゃったんですよ~!」

 

真耶と箒達、彼女から聞かされる報告に千冬の目が大きく見開いた。こんな時になんて事をしでかしてくれるのか、早い所彼女達を探さなければと思い通信機器にスイッチを入れようとした時、京都の空に目映い光が照らし出された。

 

「な、何今の!」

 

「今の光、もしかしてISの戦闘が!?」

 

 突然の事態に箒達が動揺するが、千冬は手にしていた通信端末に記されたある事が原因で彼女達よりも動揺していた。

 

彼女の手にしている通信端末は白河修司手製のモノ、何かあった時に教師達の合間で連絡が取り合えるよう渡されたこの端末にはある細工が施されている。

 

それは、織斑一夏の生命状態についてだ。護衛を任されているタンポポを通して伝わってくる情報の為に細かい所までは伝わりはしないが、それでも、送られてくる一夏の状態を知り得るには重要な役割を果たしている。

 

そんな端末から送られ来た情報は……白式の生体反応の消失、一夏の死を告げていた。

 

その事実に千冬は足元が崩れ落ちる錯覚に襲われた。そんなバカなと、有り得ないと彼女は何度も端末を見直すが……それでも映し出された生体反応消失という文字は消えなかった。

 

何かの間違いであって欲しい。そう願う彼女の空で再び光が爆ぜるのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『───あれ? ここは何処だ? 俺、確かマドカって奴と戦ってた筈じゃあ……』

 

 どことも分からない場所、空と水で満たされた世界に織斑一夏は佇んでいた。つい先程まで京都でテロリスト達と戦っていただけに今いる自分の世界はあまりにも静かすぎると感じた。

 

『確か俺、タンポポちゃんと分断されて……それからアイツの槍に体を貫かれて……って、もしかしてここがあの世って所なのか?』

 

この世界に立つまで自分の身に起きた出来事を思い出した一夏はここが死後の世界なのかと思い込んだ。ここがあの世というならこんなにも静かと言うのも納得出来る。このまま閻魔の所へ向かうのかと思った時、自分の前にISを身に纏った一人の少女が降り立った。

 

白。自分と同じ真っ白なISを身に纏った少女、どこか姉に似ている風貌をした彼女に一夏は思い当たる一人の存在を思い出した。

 

───白騎士。十年前、日本に向けて発射された二千ものミサイル群をたった一機で打ち落とした規格外の存在、日没と共に姿を消し、以来行方不明となっていたISが何故今になってここにいるのか。

 

不思議に思った一夏が白騎士に歩み寄った───その時。

 

『なっ!? あ、が!?』

 

突然白騎士は一夏の首を締め上げた。ISの絶対的な力に抗う事の出来ない一夏は、為す術なく白騎士に締め上げられてしまう。

 

一体何故白騎士がこんな事をするのか、戸惑いながら一夏が彼女に視線を向けた時、彼女に起きている異変に一夏は更に目を見開く事になる。

 

目映い程に真っ白な鎧。見惚れる程に美しかった白が黒く塗りつぶされていく。白騎士だけでなく、空、水、全てが暗闇に包まれていく。

 

まるで人の悪意が押し寄せる様に、白と青で包まれていた世界が黒に支配された時、白騎士の少女は口を開いた。

 

『────死ね』

 

『っ!?』

 

『死ね、死ね、織斑一夏、死ね』

 

それは呪詛の様だった。悪意と憎悪の塊から発せられる死の言葉、締め上げられている首に更なる力が加わり、意識が朦朧とし始めた時───それは現れた。

 

“光” 一夏と白……いや、黒騎士の間に現れたその光は翡翠色に輝き、不可思議に形を変えていた。意識が朦朧としている為か、何処か虹色に輝いても見えるその光、今度は何だと一夏が思った時、頭に直接声が聞こえてきた。

 

『……どうしたい?』

 

酷く曖昧で、けれどハッキリ聞こえてきた声。どうとでも捉えられるその言葉に一夏は微かに言葉を紡ぎ始めた。

 

『……俺、は、今まで、色んな人達のお陰で生きてこられた。千冬、姉ぇや箒、束さんや鈴、鈴の両親や弾、五反田家の皆、他にも沢山の人達のお陰で俺は今まで生きてこられた』

 

一夏に声の主の言葉の意味を理解している様子はない。ただ自分の思った事を、自分がこれまで生きてきた軌跡を、目の前の光に吐き出しているに過ぎなかった。

 

だが、光がそれを否定することは無かった。静かに、ただ自身の想いを吐き出す一夏の様子を見守り続けた。

 

『俺、は! ここで死ぬ訳にはいかない。沢山の人達から受け取ったモノを、少しでも返していく為に、俺は……生き続けなくちゃいけないんだ! ────だから!』

 

『だから?』

 

『白式、俺に力を貸せ!』

 

力強く吐き出される想い。その言葉を受け取った時、光はより強い輝きを放った。

 

 右手にはいつの間にか白式のブレスレットが装着されていた。それを掲げた時、光はブレスレットと共鳴し、虹色の光が世界を再び塗り替えた。

 

黒騎士が光に呑まれて消えてゆく。自身の意識も薄れゆく中、一夏は最後に言葉を耳にした。

 

『なら、信じて。アナタの内に在る可能性を、頑張って……一夏君』

 

光の奥から聞こえてきたその言葉を最後に一夏は完全に意識を手放した。その刹那、光の中で小さな女の子が嬉しそうに……笑った気がした。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『一夏さん! 応答して下さい! 一夏さん!』

 

 京都の空でタンポポの悲痛な叫びが響きわたる。テロリストの槍に貫かれ、微動だにしない一夏に何度も呼び掛けるタンポポにマドカの非情なる言葉が突き刺さる。

 

『無駄だ。私の攻撃はバリア無効化攻撃が備わっている。ISに携わるお前なら、この意味分かるだろ』

 

『っ!』

 

バリア無効化攻撃。それは文字通りISに備えられているバリアを無効化し、そのまま攻撃を加える事。シールドバリアという障壁を貫通して通すその攻撃はまさしくIS殺しの一撃だ。

 

一夏の白式に搭載された雪片弐型という武装にも同じ無効化攻撃が実装されているが、黒騎士の手にしている槍はその上位変換の代物。より殺傷力のある攻撃によって貫かれた一夏の体は既に死んでいるのも同然だとマドカは吐き捨てる。

 

『それでもこの男が欲しいと言うのなら……そら、くれてやるよ』

 

『っ!?』

 

無造作に振り抜かれた槍は一夏の体を遠心力で引き離されていく。重力に従って落ちていく一夏をタンポポは無我夢中で追いかけた。

 

落下する一夏に追い縋るタンポポ、マドカはそんな二人が合わさる瞬間を狙って、槍の先端で狙い定めていた。

 

『壊しちゃダメよ。あの蒼鴉は私達の方で回収するのだから』

 

『……ふん、分かっている』

 

背後から注意してくるスコールの言葉に了解しながら、マドカは狙いを絞っていく。───既に目的の半分は達成した。後は何処かにいる織斑千冬を殺し、完全なる達成を果たすのみ。

 

前の時は白河修司というイレギュラーの所為で断念しまったが、今回は違う。天災に天災をぶつけた事により邪魔者はいなくなった。これで自分の目的は果たされるのだと、マドカは確信しながら重なる二人に向けて紫色の光を放つ。

 

槍の先端から放たれる閃光は光の槍となり真っ直ぐ一夏にトドメを刺すために向かっていく。これで終わりだと、マドカはフルフェイスのマスクの奥で満面の笑みを浮かべた時───それは起きた。

 

『なん……だと?』

 

当たる筈だった。間違いなく直撃コースだった。ほんの数瞬前まで自身の勝利を疑っていなかった織斑マドカは、目の前で起きている現象に我が目を疑った。

 

自分が放った光の槍が一夏に当たる直前、突然白式から放たれる輝きに阻まれて光の槍は消滅、これだけでも驚愕すべき事実だというのに……。

 

『奴のISが……変わっていくだと!?』

 

一夏のIS白式が全身装甲へ変形……いや、変身していく様を見て、マドカとスコールはその表情を驚愕の色に染め上げる。第二次移行(セカンドシフト)? いや、あの変わりようはこれまで事例のあるISの第二次移行とは異なりすぎている。

 

まるで全身が展開装甲の様な造形、紅椿にも全身が展開装甲に施されているという情報はあったが、白式のは全く別物だと見て取れる。

 

展開された装甲から放たれる翠色の光、その光からは従来のISとは全く別の力が観測されているからだ。

 

一体アレはなんなのか、そして奴の身に何が起きているのか。ただ、分かっている事が一つあるとすれば……。

 

『そうだよな。俺もお前も、こんな所で終わる訳には……いかないよな』

 

自身の目的を達成させる為にはまだ手が届かないという事だ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『ハッハァ! どうしたどうしたぁ!? さっきまでの威勢はどこへ行ったクソガキ共ォ!』

 

『く、クソォ……』

 

『やっぱりこの状況じゃあ被害を抑えるだけで精一杯か』

 

 一夏が死の淵から復活を果たし、再び黒騎士と戦闘を開始していた頃、街から離れた山の奥地で巨大な蜘蛛と化したオータムと無数のゴーレム達によってシャルロットと鈴音は窮地に立たされていた。

 

京都という街を守る為、周囲の人間を巻き込まない為、火力のある武装は極力控えていたが、ゴーレム達の猛攻により二人は終始不利な状況に追い込まれていた。

 

そんな彼女達に出来たのはテロリスト達を京都から引き離す事だけ、幸いにも挑発に乗りやすい相手だった為に誘導事態は容易かったが、戦局は不利のまま、地形や障害物を利用してゴーレムを何機か撃墜したが、それでも状況が変わる事はなかった。

 

何とかしなければ、鈴音とシャルロットは状況を変えるために思考を巡らすが、それを許さないとばかりにオータムが仕掛けてきた。

 

蜘蛛を模した足の部分を切り離し、BT兵器の様に宙を舞う。二人を囲むように展開されたそれは高圧電流を流し込み、二人に永続的な痛みを与え始めた。

 

『あ、あぁぁぁっ!』

 

『うぅぅぅぅ……っ!!』

 

『アヒャヒャヒャ! どうだい、私の全方位高圧電流のお味は? 痺れるだろう? イきそうだろう? なぁに、他の連中もすぐにイかせてやるよ。アタシの優しさに咽び泣きなぁ!』

 

苦しむ二人を楽しみながらなぶるオータム。脱出しようにも既にシールドエネルギーか尽き掛けている以上、彼女達の抵抗は出来ないに等しかった。

 

(くそ、クソォ! こんな、こんな奴に一方的にやられるなんて……)

 

悔しさと惨めさに鈴音の目に涙が浮かぶ。それがオータムの嗜虐心を更に擽り、電圧を更に上げようとした……が。

 

「どうして……」

 

『…………あぁ?』

 

「どうして二人をそんなに虐めるのぉ? シャルちゃんも鈴ちゃんも~悪いことしてないのに~、どぉ~して虐めるのかなぁ~?」

 

突然聞こえてきた第三者の声にオータムの手が止まる。同時に高圧電流から解放された二人は力なく地面に倒れ込み、声のした方へ顔を向け、そして絶句する。

 

 そこにはいない筈のモモが佇んでおり、オータムに睨んでいたからだ。何故彼女がここにいるのか、丸腰で佇んでいるモモに鈴音とシャルロットは必死に逃げろと呼び掛ける。

 

『バカ、アンタ何でここにいるのよ!』

 

『モモ、早く逃げて! コイツは危険だ!』

 

何故モモがこんな所にいてどうやってここまで来たかは分からないが、兎も角彼女をここにいては危険だ。テロリストに捕まらないよう早く逃げろと二人は呼び掛けるが、本人は聞こえていないのか不機嫌な様子でISを身に纏っているオータムに問い続けた。何故二人を虐めるのかと、真剣な表情で訊ねるモモに対し……。

 

『決まってんだろぉ? 憂さ晴らしだ。コイツ等は身の程も知らずにアタシに突っかかって来やがった。邪魔な虫けらは叩き潰すに限るだろぉ? つまり、そういう事なんだよぉ!』

 

オータムは下卑た笑みでモモの質問を一蹴する。自分の憂さ晴らしの為、街を焼くことも厭わないテロリストに対し……。

 

「ふ~ん、そういう事言うんだぁ~。だったらぁ~」

 

モモは目の前の害悪に仕置きをする事を決めた。京都に来る途中、必要な時以外決して使用する事を修司から禁じられていたあの力を行使する事にした。

 

 彼女を包むように光が集まる。一体何が起きるのだと鈴音とシャルロットが目を手で覆う。一瞬で消える光、二人がオズオズと視界を開けると……。

 

「私がアナタに何をしても、なんら問題はないって事よねぇ?」

 

ボンテージ姿の女王様が鉄鞭らしき凶器を片手に佇んでいる光景に───。

 

「「だ、誰だぁぁぁぁっ!!??」」

 

シャルロットと鈴音はそう叫ばずにはいられなかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




基本的に一夏sideの話はシリアス路線で行きます。
尤も、それも次回までとなりますので御了承下さい。

え? なんでかって?


一夏「行くぞマドカ! うぉおぉぉっ!!」
マドカ「殺してやるぞ、織斑一夏ぁぁぁっ!!」
蒲公英「アナタ達の好きにはやらせない!」
スコール「ふん、やってみなさい!」

グランゾン(満面の笑みなシュウジ)「らっしゃーせー(ディストリオンブレイク)


…………ね?



追記

夜のヤッターマン面白す! レパード様に忠義を尽くす蒼のロリコンカリスマ的な話を時々妄想する自分はそろそろ末期なのかもしれない。
ちょっと中華連邦に逝ってくる。







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