『G』の異世界漂流日記   作:アゴン

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最近、げんしん始めました。

雷電将軍、復刻マダー?


その187 電脳楽土

 

 

 

「へぇ、それでお師匠ってば外で女の子を引っ掛けて来たんだ」

 

「いや言い方ァッ!」

 

 パッションリップなるアルターエゴに施された自我の拘束、それをメルトリリスの姉妹というだけでソレを解除した修司達は、ブレストバレーへの探索を一旦打ち切り、一先ず安全地帯(セーフポイント)へと戻っていた。

 

戻ってきた修司達の存在を持ち前の目の良さから分かっていたエミヤ、その事を武蔵へ伝えると彼女は主人の帰りを待ちわびていた番犬の様に喜び、彼等の迎えに行った。

 

其処で待っていたのはパッションリップという色んな意味で規格外の少女を背負った修司、気絶している女の子を背負っているその格好はあらゆる意味で武蔵に疑念を抱かせた。

 

その後、情報を共有する為に事の顛末を説明したのだが、どういう訳か武蔵の反応は辛辣。安全地帯から出ていく時は目を輝かせていたのに、今では見る影もなく冷たい。

 

「どーだか、お師匠ってば無自覚にタラシな所があるからねぇ……」

 

「いやおかしくね? ガウェインだって女性職員を背負ってたのに、なんで俺だけ塩対応なの?」

 

「ははは、流石の貴方でも女性の扱いには二の足を踏みますか」

 

「幾ら少女と言えど心は乙女、修司殿の今後の課題はそこら辺を留意するべきでしょうな」

 

「ウルセーぞ軟派の騎士ども」

 

 目に見えて不機嫌になる武蔵に戸惑う修司を、太陽と湖の騎士は微笑ましそうに茶化す。

 

「茶番は其処までにしておけ、そろそろ客人が起きる頃合いだ。話を進めたいならさっさとしろ」

 

緩み始めたその場の空気を礼拝堂の奥から現れたエミヤ・オルタが引き締める。こう言う時真面目な奴がいると助かるよな、なんて考える修司だった。

 

「留守番お疲れ様エミヤ。例の女性職員はどうだった?」

 

「さてな、俺は医者ではないから何とも言えんが………少なくとも、外傷は確認されていない。データ化についてだが、外見から察するに精々外に出て一時間足らずといった所か」

 

「おう、それだけ聞ければ充分だ。ありがとう」

 

「…………礼など不要だ。それよりも、ソイツの事はどうするつもりだ?」

 

 今まで外の警戒を怠らず、後からやってきたランスロットとトリスタンに対しても修司の考えをある程度察した上で受け入れてくれたエミヤ・オルタに修司は礼を言うが、本人はにべもなく拒否をする。

 

それよりも今エミヤ・オルタが気にしているのは、気絶しているパッションリップについてだ。今でこそ拘束から解放された衝撃で無力化されているが、本来は並みのサーヴァントなど歯牙にも掛けず、やり方次第では複数のサーヴァントすら瞬殺できるポテンシャルを持つ怪物だ。

 

謂わば手負いの獣、或いはそれ以上に危険な代物。リスクを拒む傾向にあるエミヤ・オルタは咎めるような視線を以て修司を問い詰める。

 

「どうするも何も、彼女はメルトの姉だ。一緒に居させてやりたいと思うのは、そんな不思議な事か?」

 

「ソイツらを人間と同じ枠組みに当て嵌めるつもりか? アルターエゴはBBによって産み落とされた複数神性保有体、何が切っ掛けで暴れだすのか分からんのだぞ」

 

「大丈夫、彼女達はそんな事にはならないさ」

 

「────それは、なんの根拠を以て口にしている?」

 

「勘」

 

 即答で第六感だと豪語する修司に、エミヤ・オルタは付き合ってられないと嘆息し、再び礼拝堂の奥へと消えていく。余程苛立っていたのだろう、蟀谷(こめかみ)に幾つもの青筋を浮かべているのを、円卓の騎士達は見逃さなかった。

 

「全く、相変わらず頭が固い奴だなぁ。いや、カルデアにいる奴よりも一回り以上固くなってないか?」

 

「しかし、確かに彼の言う通り、些か油断が過ぎるのではないですか? 如何に無力化が出来たとしても、相手はアルターエゴ。彼女達がいれば余計な混乱が起きるのでは?」

 

「まして、これもBBの策略である可能性も否めない以上、懐に入れるのは剰りにも危険かと」

 

「いやー、それは無いんじゃないか?」

 

「と、言いますと?」

 

「あのBBって奴、どうにもポンコツ臭がするんだよ。妨害を目論んだとしても、手抜き感が何処と無くあるし、もし本気でアイツが此方を邪魔をするつもりでいるなら、もう少し後詰めを確りしていた筈だ」

 

三騎士からのそれぞれの追求に、修司はなんて事ないように答えて見せた。何れにせよ、メルトリリスの姉であるパッションリップを捨てるつもりはない。一度助けた以上は最後まで責任を取るつもりまでいる修司に、円卓の騎士達はそれ以上の言葉を紡ぐことは出来なかった。

 

「それに、仮に万が一があったとしても、その時はお前らに頼るつもりだ。アテにさせて貰うぞ、円卓の騎士」

 

 更に、そんなトドメの一言を投げ掛けられては彼等に断りの意思を示せる筈もなかった。自身が一番の強さを持っているのにも関わらず、それに慢心せずに他者を頼る強かさ。ある種のカリスマ性を持つ修司にノーと言える者はこの場にはいなかった。

 

「────致し方ありませんね。では、我等円卓の騎士、改めて貴公にこの剣を預けましょう」

 

「おう、素直に助かるわ」

 

 如何に過去に因縁のある相手だとしても、それはそれとして手を組める強かさを持てるのは、上司兼後見人である黄金の王の薫陶によるものか。何れにせよ、三人の円卓の騎士は一時の主として申し分のない相手

を見付ける事が出来た。

 

そんな彼等をメルトリリスはパッションリップの側で静かに見守っていた。………と、そんな時。

 

「う………うぅ……ん」

 

「リップ、起きましたか?」

 

「あれ、此処は……メルト? あれ? 私、どうして?」

 

「お、起きたか」

 

「どうやら目覚めたばかりで少し混乱されている様子、先ずは落ち着かせて体調の有無について訊ねましょう」

 

「だな」

 

 自我の拘束から解放され、気絶した状態から漸く目を覚ましたパッションリップ。メルトに心配されながら起き上がる彼女の焦点は、目覚めたばかりの影響か、少し泳いでいた。

 

「はじめましてパッションリップ。俺は白河修司、訳あってカルデアから派遣されたマスターだ」

 

「貴方が………?」

 

「あぁ、訳あって自我の拘束された君と少々やり合う事になったが一応加減はしてある。体の何処か痛みや不調を感じたりする部分はないかい?」

 

修司の自己紹介により彼女の視線は修司に寄られ、リップの混乱を招かないように言葉を選びながら自己紹介をする。すると、徐々にパッションリップなる少女は記憶と自我を取り戻すと、アワアワと動揺しながら土下座をする勢いで頭を下げてきた。

 

「ご、ごめんなさい! 私、皆さんにご迷惑をお掛けしてしまったみたいで……!」

 

「あぁ、その事に関しては俺達から何かを言うつもりはないよ。あの場にいた全員、誰も戦ったのは君自身の意思だとは思っちゃいないよ」

 

「で、でも……!」

 

「レディ、貴女の事はメルトリリスから聞き及んでいます。自我を縛られ、己の意志すら奪われた貴女を責めるのは我々の騎士道に悖る。どうか、顔を上げてください。その顔は太陽のごとく微笑みを浮かべるこそ相応しい」

 

「───あ」

 

 ガウェインの言葉で前向きになり始めるパッションリップを見て、修司は安堵した。彼女達アルターエゴはBBという一人のAIから生み出された彼女の別側面の存在、故に全うな英霊とは根底から異なっているが、それでも彼女達は一つの命として此処にいる以上、無下には出来ない。

 

自分の行いを一番身体を張ったガウェインが赦した事で、パッションリップはそれ以上自分を追い詰める言動はせず、半ば消沈する勢いで落ち着きを取り戻した。

 

「その………ありがとうございます。私を止めてくれて、私を助けてくれて、ありがとうございます」

 

「どういたしまして」

 

「お気になさらず、レディ」

 

「メルトも、ありがとうね」

 

「別に、私は何もしていませんから」

 

「─────あれ?」

 

「ん? どうかしたのか?」

 

 改めて感謝の言葉を口にするリップに満足する修司とガウェインだが、彼女がメルトの様子を見て首を傾げている。一体どうしたのかと訊ねる修司にリップは意味深な事を口にした。

 

「メルト、もしかして………“欠けている”?」

 

「なに?」

 

「─────」

 

欠けている。そう口にするリップに、メルトは気まずそうに目を反らした。初めて耳にしたメルトの状態、気で感知しても分からなかった修司は再度リップに訊ねようとすると………。

 

「ど、どうして此処に、アルターエゴがいるんですかァッ!?

 

眼鏡の職員が突然割って入ってきた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「あ、あああのあのあの、この度は白河修司様の前で無礼な態度をしてしまって、誠に申し訳ありませんでしたー!」

 

 礼拝堂、安全地帯として利用していた修司の前で、今まで気絶をしていた眼鏡の職員はとても畏まった様子で頭を激しく上げ下げしていた。

 

幾ら修司がカルデアからの増援だとしても、この畏まりっプリは不自然だ。しかし、対する修司本人もこんな畏まられる心当たりがないようで、目を丸くさせている。

 

「えっと………レディ? どうしてそう畏まる必要があるのです? 確かに彼はこの特異点を修復させる為に駆け付けた救援ですが、其処まで下手に出る必要はないのでは?」

 

「な、何を言っているんですか!? このお方は現代の地球の科学技術のシェアを半数以上独占している“U.L.C.”の宇宙開発科学技術部門の統括! 総責任者であると同時に超絶一流の技術力を持つ白河修司様なのですよ!? わ、私程度の人間が気安く顔を合わせるのも烏滸がましい……!」

 

「えぇ………」

 

「当の本人が一番困惑しているみたいですが?」

 

 そう言えばそうだった。目の前の女性職員────マーブルの口から出てきた宇宙開発云々の役職名に修司はこの世界での自分が結構な大物であることを思い出した。

 

とは言えそれはあくまで役職に過ぎず、この世界の自分も他人に此処まで畏れられる事を由としない筈。

 

「し、修司様は数多くの有能な部下を抱えているだけでなく、修司様ご自身も前に出られる現場主義! 彼の手掛けた発明の数々は、世の中の表に出ることは少ないですがその影響力は凄まじく、カルデアでもその恩恵に肖っていると聞いています!」

 

「───なんだって?」

 

 マーブルから初めて聞かされる情報に、流石の修司も少なからず驚きを覚えた。ダ・ヴィンチやロマニからそんな話を聞いた事は一度としてないし、他のカルデアスタッフ達からも耳にした事はない。

 

………いや、そう言えばまだカルデアがレフの細工によって爆破され、多くの機能が停止されていた頃、システム復旧の為に施設の機器を弄っていた時に妙な既視感を覚えた。

 

アレは、自分が勤めていた会社から流用されていたモノだったのか。特異点修復の旅やらで忙殺されてしまっていた違和感が、今更になって甦り、修司は難しい表情で思考を巡らせる。

 

 

(………じゃあ、なにか? この世界の俺はカルデアと───いや、下手をしたらその責任者と通じていた可能性すらあったって事か? オルガマリーちゃんの父親である、マリスビリー=アニムスフィアと)

 

いや、流石にそれは思考を飛躍させ過ぎか。仮にこの仮説が事実だとして、それならば上司であるギルガメッシュ王にも話が通っている筈。白河修司という人間は物事の筋道は極力通す男だ。上役の意見も訊かず、勝手な行動をする事は滅多にしない筈。仮にしたとしても、24時間以内には詳細を纏めたデータを王に送っている筈だ。

 

 益々、この世界の自分という存在が無視できなくなりつつある。自分の事なのに面倒だなと嘆息しながら、それでも今はやるべき事がある筈だと気持ちを切り替え、セラフィックスの職員であるマーブルに目を向ける。

 

「まぁ、その話はおいおい訊くとして。先ずはマーブルさん、貴女が生きていた事を嬉しく思うよ」

 

「ひ、ひゃい!」

 

「ついては、この電脳化しつつあるこのセラフィックスについて、知っている事があったら何か教えてくれないか?」

 

「……………」

 

「何でもいい。今日まで異変の起きた出来事、自分で感じ、見たモノをどんな些細なことでもいいから教えて欲しいんだ」

 

「そ、それは…………ごめんなさい。私、ずっと他の人達と管制室にいましたから」

 

 俯き、自分は何も知らないと口にするマーブルに今度は修司達が口を閉ざした。あれだけ大変な思いをしたにも関わらず、何の情報も提供できないと来た。

 

だが、彼等は別にそれで彼女を責めようとは思わなかった。彼女自身、この異変の中を生き抜いた数少ない生き残りであり、修司がこの特異点へ赴いた目的の一つ。

 

何より、情報云々の話はあくまで彼女が知っていたらいいなー。という程度の認識であり、其処まで重要視はしていないからだ。知らないのなら、自分の足で調べればいい。今の自分にはそれが出来るのだから。

 

「───分かった。なら、貴女は此処で暫く休んでいるといい。ガウェインとエミヤを着けておく、この二人がいれば大抵の事なら何とかなるだろう」

 

「おや? 私は今回お留守番で?」

 

「お前、まだダメージ引き摺ってるんだろ? 平気な顔をしているが、失った気の量は誤魔化せないからな。引き続きエミヤも置いていくから、今回は休んでおけ」

 

 その後、マーブルの話を聞き入れた修司は改めて部隊を二つに分けて行動を再開する事にした。探索は主に自分とランスロット、メルトリリス、そして………。

 

「はいはーい! 今回は私、私も行きまーす!」

 

「はぁ、やっぱりこうなったか」

 

宮本武蔵。駄々を捏ねて連れていけと喚く彼女と───。

 

「んじゃ、取り敢えずはこんな所だな。リップちゃん、辛くなったらちゃんと言うんだぞ」

 

「は、はい! ありがとうございます!」

 

新たに加えたアルターエゴ。パッションリップを引き連れて修司は再び電脳空間へ踏み入れる。

 

ただ、安全地帯から出る際……。

 

「────エミヤ、分かっているとは思うけど」

 

「分かっている。マーブルという女の監視、だろ」

 

「あぁ、頼んだ」

 

 エミヤ・オルタにある頼み事を任せたのは、果たして疑念か確信か。ただ一つ言えることは………。

 

白河修司は、生き残った生存者達をある意味で危険視していた。

 

 

 





今回、何気に出てきた新しい伏線。果たして作者はこの広げた風呂敷を回収できるのか!?

それでは次回もまた見てボッチノシ



オマケ、ある日のカルデア。



「た、大変だー! 突然発生した特異点の影響の所為か一部のサーヴァントの霊基不具合が発生してしまったぞー!」

「わぁい、初っ端から色々アレだぁ」

「それで、その不具合のあるサーヴァントってのは誰の事だ?」

「お、おい。何で俺は刀を打ってるんだ? 俺、確かセイバー達の晩飯を作ってた筈なんだけど……」

「ちょっ、なんなのよこの格好!? まるで痴女じゃない!?」

「あ、あれ? この民族衣装的な服は? それにこれは………槍?」

「あら? 何でしょう、この沸き上がってくるパゥワァは? って、シェロッ! 何でそんな上半身をはだけさせてますの!? 目の保養ですわ!」

「「「…………………」」」

「あぁ! 諸々察したエルメロイⅡ世が逃げたぞ、追えッ!」

「修司さんは………駄目だ。気絶してる」

「もう面倒だから纏めてレイシフトしちゃおっか」

「「「りょっ」」」







オマケ②

「いやー、カルデアって所に喚ばれて一体どうなることかと思ってたけど……」

「何とかなって良かったですね」

「まさか、私達が英霊神霊の依り代になるなんてねぇ」

「まぁ、魔術師としては稀有な体験なんでしょうけど……」

「「「「…………………」」」」(チラッ

「界王拳、3倍だーっ!」

「10倍だーっ!」

「20倍の、かめはめ波だぁーッ!」

「見せてやる。これが、(スーパー)って奴だ!」

「さぁ、これが極めた極意の力だ。その目でとくと確めろッ!」



「「「「………うん、なんか安心した」」」」





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