『G』の異世界漂流日記   作:アゴン

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済まない、更新が遅れに遅れて済まない。

そして、話が進まなくて済まない。

休みが、休みが……欲しい。


その183 電脳楽土

 

 

 

「おぉぉぉぉ! 神よ、卑劣で愚昧なる我等が神よ! この深淵の底で、今度こそ私が貴様をその御座から引きずり下ろそう! ジャンヌ、我が聖処女よ! どうか我が偉業を御照覧────」

 

「邪魔」

 

「プゲッ!?」

 

 広大な電子の海を、紅い閃光が駆け抜ける。道中様々な障害が彼等の行く手を遮るが、人理の修復を成し遂げて尚、成長を続ける白河修司を止めるには至らず、その悉くが彼の肉体言語により粉砕されていった。

 

今も、待ち構えていたサーヴァント(ジル=ド=レェ)を文字通り一蹴し、海魔諸とも蹂躙していく。倒した事に対して一切の感傷を持たず、修司は目的の場所である安全地帯を目掛けて走り続ける。

 

宮本武蔵、メルトリリスという荷物を抱えて尚、勢いを落とさずに走り続けること数分、彼等は遂にその目的地に辿り着いた。

 

「メルトリリス、此処がそうか?」

 

「────はい、間違いありません。此処はSE.RA.PHが定めた人類にとっての最後の安寧の地、エネミーも寄り付かない安全地帯です」

 

 辿り着いたのは礼拝堂、その景観は何処と無く故郷の冬木にあるモノと酷似している気がした。

 

すぐにでも駆け込んで武蔵達を休ませてやりたいが、礼拝堂の中からサーヴァント特有の気を感じる。これが悪意ある輩であるなら、安全地帯と言われる場所で戦闘………なんて、最悪の事態も考慮しなければならない。。

 

「二人とも、周囲を警戒しつつ暫くの間ここで待機。安全地帯へは取り敢えず俺一人で行く」

 

「え? で、ですが………」

 

「………うん、分かった。気を付けてねお師匠様」

 

突然の待機命令に戸惑うメルトリリスだが、武蔵の方は何かを察したようで、二つ返事で修司の言葉に従った。どういう事なのか説明を求めるメルトリリスを説得する武蔵を内心で感謝しながら、修司は慎重な足取りで礼拝堂へ向かう。

 

 開いた扉の向こうから返ってきたのは、扉が開放される音、外からの光が差し込まれて露になるのは礼拝堂特有の厳かな空間。

 

やはり、冬木の教会に何処か似ている。嘗ての師を思い出しながら礼拝堂の内部へ足を踏み入れた瞬間……。

 

「漸くお出ましか。貴様が、カルデアのマスターとやらか?」

 

 背後から聞こえてくる声、後頭部に突き付けられているそれは、人類が生み出した拳銃と言う名の殺人兵器

 

「───随分な歓迎じゃないか。此処は戦闘のない安全地帯だと聞いていたが?」

 

「確かに、ここはSE.RA.PHの中でも数少ない安全地帯。だが、先約がいた場合その場かぎりではない」

 

「………らしくないじゃないか」

 

「なに?」

 

「お前の目の良さなら、俺達が此処に近付いた時点で行動(アクション)を起こしていた筈だろ? お前は優しい男ではあるが、決して甘さを残す奴じゃあない。違うか?」

 

「────貴様、何を言っている?」

 

 まるで自分の事を知っているかの様な口振りに、銃を持った男から微かな苛立ちを募らせる一方、修司は自分の背後に立つ男が自分の知る弓兵である事に安堵していた。

 

これは聖杯戦争。百人規模で行われる大戦争であり、呼び出されている英霊達も数知れない。カルデアからの増援が期待出来ない以上、殆どのサーヴァントとは敵対関係になるしかないのだろう。

 

けれど、それでも嬉しかった。このふざけたデスゲームに喚ばれたとしても、彼の性根は変わっていなかった。

 

「さて、もう茶番は良いだろ? そろそろその仏頂面を拝ませてくれても良いんじゃないか?」

 

「貴様、自分の状況が分かっていっているのか?」

 

「勿論」

 

 だって、先程から彼からは僅かな殺意すら感じられないのだ。あるのは呆れと苛立ちだけ、深い溜め息を吐きながら銃を下ろすのを察した修司は、漸くこの特異点での親友と顔合わせが出来ると、期待を胸に抱き……。

 

「誰だお前ッ!?」

 

明らかなアメリカンマフィアなボブ野郎に、修司はバビロニア以来の衝撃を受けた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「────へぇ、何だか面倒な事になっているのね。此処って」

 

「覚えておくと良い、剣客。いつの時代にも面倒ごとと言うのは起きているものだ」

 

 それから少しして、無事に安全地帯である礼拝堂へ避難する事に成功した武蔵とメルトリリスは、二丁拳銃の男────エミヤ・オルタから話を聞き入れ、現在は手に入れた情報を元に現在のSE.RA.PHの状況を精査していた。

 

殺し合いを強制された聖杯戦争、その中でも特殊な強さと性能を与えられたサーヴァントはセンチネルと呼ばれ、この領域の守護者(ボス)に似た役割を担っている。

 

未だに謎の多いセラフィックス改めSE.RA.PH。特異点と化したこの領域を修正するなら、原因と元凶の究明は急務と言っていいだろう。

 

「………まぁ、取り敢えずそのセンチネルとやらを倒すことを目的とすれば良いのかな? そいつらを倒せば、元凶の下へ辿り着ける的な?」

 

「やだお師匠、脳筋過ぎ」

 

「確かにそれも一つの選択肢ではあるだろうが、それでは無駄が多すぎるし、何よりこのセラフィックスにはまだ警戒すべき存在がいる」

 

「─────」

 

「どうした?」

 

「いや、その、お前が俺の知るエミヤとは別人だと言うのは理解してるんだけど、見た目のギャップの所為で物凄くその………違和感が」

 

今後の話に関して重要な話をしている筈なのに、横の黒人マフィアの様なナリをした嘗ての友人に、修司は終始吹き出すのを堪えるので精一杯だった。その姿と在り方はさしづめエミヤ・オルタ、正義の味方を目指し続けた男が辿り着いた成れの果て────その搾りカス。

 

その在り方は痛々しく、見ているだけで泣けてくる。………いや、それでもその髪型は卑怯だろう。

 

必死に何かを耐えている様子の修司に、武蔵とメルトは首を傾げているが、ボブなエミヤはその理由を察し、額に青筋を浮かべている。

 

「貴様は本当に────いや、今はいい。続けるぞ。このセラフィックスなる領域には厄介な奴が幾つか存在している。その中の1つが………アルターエゴ、BBから分かたれたとされる特別製のセンチネルだ」

 

「アルターエゴ、別側面って意味か?」

 

「あぁ、なんの意図があるのかは不明だが、そいつらは通常のサーヴァントよりも硬く、強い。正面から戦うのは推奨できない相手だ。本来ならな」

 

「そうなの?」

 

「そこの阿呆なら、相手が誰であれ正面から戦うことを止めはしない。そうだろ? 白河修司」

 

 呆れと諦観、そして半ば確信している様子で視線を向けてくるエミヤ(オルタ)に修司は当然と笑って答えた。相手がどんなに強大であろうと、挑むのであれば正面からいくのが白河修司という男の習性。

 

擦りきれ、磨耗し、自我も信念も微かしか残されていない正義の味方────だった者。喩え当時の記憶も塵程度しか残っていなくとも、それでも自分の事は覚えていてくれた。

 

その事実に修司は嬉しくなるが、当のエミヤは鼻で笑いながら視線を逸らす。

 

「いやー、安心したよ。最初はどんなアーマー進化したんだよって焦ったけど、根っこの部分はあんまり変わってないみたいだ。これなら、藤村先生に良い報告が出来そうだ」

 

「おい止めろ。その名前は心臓に悪い」

 

 鉄仮面の様な表情が崩れるのを見て、修司は再び笑みを浮かべる。そんな修司に苛立ちを募らせたエミヤは露骨に話題を逸らし始める。

 

「ふん、それよりも貴様は良いのか?」

 

「あ、何が」

 

「アルターエゴは数多く存在している英霊の中でも特別危険性の高いサーヴァントだ。そんな奴を自ら懐の内に入れて、何も思わないのかと聞いている」

 

「あ? アルターエゴ? 誰が?」

 

 アルターエゴはこのセラフィックスでは特別危険視されている存在らしい、その事自体は修司も話を聞く限り何となく理解はしている。

 

けれど、そんな危険な存在を懐に入れたつもりは毛頭ない。心当たりがないと首を傾げる修司に対して、エミヤはやれやれと肩を竦める。

 

「───やれやれ、よもや一言も話していないとはな。幾らコイツがお人好しだとはいえ、少々悪意が過ぎるんじゃないのか? なぁ、メルトリリス(・・・・・・)

 

「ッ!?」

 

「メルトが?」

 

「─────」

 

 メルトリリスがアルターエゴ。その話を聞かされた武蔵は彼女から距離を取り、両腰に差した刀に手を添える。対してメルトリリスはエミヤの言葉を即座に否定することなく俯いているだけ、今の彼女の顔はどんな表情をしているのか、それを確かめる術はこの場にいる誰もが持ち合わせていなかった。

 

「それは、本当なの?」

 

「ただの人間では感じられないかも知れないが、流石にサーヴァントの目は誤魔化せん。コイツは今でこそ幼体みたいなモノだが、完全に力を取り戻せばその強さは並みのサーヴァントでは足下にも及ばん。後の禍根になるのがいやなら、この場で決断することをおすすめする」

 

それだけ言うと、エミヤは壁を寄り掛かるだけで何も答えようとはしなかった。アルターエゴという危険因子、今後このセラフィックスに取り込まれた職員達を救出するには、大きなネックになるのは間違いないだろう。

 

加えて、アルターエゴは通常のサーヴァントの枠組みには当てはまらない存在。そんな危険性の高いサーヴァントを果たして近くに置いておく必要性はあるのか? 武蔵が見守るなか、数秒の時間を置いて………。

 

「よし、決めた。メルトリリス、お前俺のサーヴァントになれ」

 

「─────え?」

 

「ちょ、お師匠本気なの?」

 

修司は、なんて事もないように即決した。

 

「おう、決めた。コイツをこの特異点での俺の相棒にする。誰にも文句は言わせない」

 

「いや、でもその子ってかなり危ないサーヴァントって奴なんでしょ? もし裏切ってきたり、後ろから刺して来るかもしれないんじゃ……?」

 

「その時は、そんな事をされた俺が悪いってことだ」

 

「そんな悠長な……」

 

 ハハハと笑う修司に、武蔵はマジかと頭を抑える。付き合いの浅い彼女ではあるが、目の前の男がこう言う決めごとに撤回はしないことは薄々理解している。故に、何を言っても無駄だと悟り、剣豪(予定)武蔵はそれ以上の追求を断念する。

 

「───どうして?」

 

「あん?」

 

「私は、快楽のアルターエゴ。BBという存在から分けられた嗜虐性を持つ別側面、己の快楽の為なら、どんな悪行も躊躇いはしない。裏切りも、騙し討ちも、不意打ちだって、本来の私ならなんでもやるでしょう」

 

「そうか」

 

「アルターエゴとは言いますが、私はAIであるBBから分けられた分身。人間ではなく、怪物に分類(カテゴライズ)されている人ならざるもの、多くの人間は私を化物と蔑み、恐れるでしょう」

 

 

「そうか」

 

「でも、今の私は彼の言うように幼体。サーヴァント処か、そこらのエネミーにだって負ける不良品。始末するなら、今の内ですよ」

 

そう言って、強気に笑うメルトの顔は何処か痛々しかった。脳裏に浮かぶのは死に物狂いで逃げ惑っていた時の顔、必死に生にしがみついて抗う人の顔。

 

死にたくない癖に強がるその性根が、何処と無く初恋のあの娘に似ている気がした。

 

でも、メルトは彼女とは違う。嘗ての初恋と重ねた事を失礼だと思いながら、首を横に振る修司はメルトリリスに向き直る。

 

「────メルト、御託はいい。お前の本当の気持ちを教えてくれ」

 

「な、にを……」

 

「俺は、お前をサーヴァントにしたいと思った。アルターエゴとか、センチネルだとか、そんな理屈は知らん。俺は、お前とならこの特異点を一緒に攻略できると、そう思った。だから……」

 

「メルト、俺と一緒に……戦ってくれないか?」

 

差し出された手、それは先の時にみた時とは少し違って見えた。ゴツゴツしてて、武骨で、でも人の暖かみを感じられる優しい手。

 

そんな彼の手を、果たして自分が触れて良いのだろうか? 人とは違い、人に恐れて恐れられる怪物である自分が、この優しい手を握っても良いのだろうか。

 

迷い、恐れ、そして………嬉しさ。こんな自分の事を知っても、それでも尚必要だと言う彼の言葉。喩え嘘でも、その優しさに浸りたいと思うのは、果たして人は醜いと言うのだろうか。

 

 自分は、どうしようもない程に怪物だ。でも、それでもこの人なら………。

 

「───どうなっても、知りませんからね」

 

 差し出された手を、両手で掴む。手の感覚が薄い彼女に出来る精一杯の表現を………。

 

「あぁ、これからよろしく」

 

白河修司は、同じく両手で少女の両手を包み込んだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

(あれ? もしかしてお師匠ってば、タラシさん?)

 

 一方で天元の蕾、一人確信する。

 

 





Q,このエミヤ・オルタさん、ボッチの事覚えているの?
A,人はね、忘れたい記憶ほど覚えているものさ(笑)

それでは次回もまた見てボッチノシ







オマケ。

或いはこんな特異点の旅。

「くそ、最初の特異点だってのにとんだトラブルだ! 早速ワイバーンの群れと遭遇するなんて!」

「俺に任せろ! 行くぜ、気円斬ッ!」

「私もリリカルマジカルがんばるゾッ!」

『す、凄い! 二人の活躍でワイバーンがドンドン減っていく!』

『流石はカルデアきっての実力者、私達も安心して見ていられるよ』

「……なぁ、これ僕って必要か?」

『『要る』』(力強い返答)

「なんだってんだよチクショウ!」

(あぁ、私のマスターが理不尽に喘いでいる。可愛いわ)


続かない。


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