『G』の異世界漂流日記   作:アゴン

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暑い日が続くけど、私は元気です。




その182 電脳楽土

 

 

 

「────で、意気揚々に親父さんの所から出ていって勢いに任せて名だたる剣豪に挑んで見たは良いものの、国境の竹林の中で迷い混んでしまった挙げ句、気付けばここに来ていてしまっていたと」

 

「そう、そうなのよ! 流石は師匠、話が早い!」

 

「それで? 何故その境遇から俺に斬りかかる流れになるんだ?」

 

 深い深い海の中、海底に激突しようとするセラフィックスを止める為に、単身レイシフトに望んだカルデアのマスターである白河修司。一先ずの安全地帯を探すべく、エネミーやらサーヴァントやらを撃退しながら進んできた彼等を次に待ち受けていたのは、お転婆と呼ぶには破天荒が過ぎる二天一流の開祖、新免武蔵藤原玄信改め、宮本武蔵だった。

 

彼女とは鬼ヶ島で最初に出会った時以来の再会、ただあの時と一年も経過していない此方と違って、武蔵の方は相応の年月が経過している様で、その体格は大人の女性に近いモノへと成長していた。

 

「い、いやーその、何か気付いたらこんなヘンテコな場所に飛ばされて、変な牛や黒い蛸みたいな奴が襲ってきたりとその………鬱憤が溜まっていたと言うか、代わり映えのない相手に辟易していた所に懐かしい気配にテンションが上がったというか……」

 

「だからいきなり俺に襲い掛かったと?」

 

 ギロリと鋭い眼光に睨まれ、武蔵はビクリと肩を震わせる。今回のレイシフトは出会う英霊達の殆どが敵対関係のサバイバル方式だ。いつ死角から敵の一撃が襲ってくるか分からない以上、気を張り続けるのは骨が折れる。

 

そこへ、沸き上がるテンションに身を任せ、ノリと勢いで襲ってくるのは少し………いや、大分ダメな事だと思う。もしこれで本当に敵対する英霊だったら、致命的な隙になっていたかもだし、逆に味方である相手を反射的にぶちのめしてしまうかもしれない。

 

 それでも、一応彼女もまた巻き込まれた被害者であることには変わりはないから、あまり追い詰めるのは良くないかも知れない。見ず知らずの土地にいきなり放り出され、心細くなる気持ちになるのは、修司も何度か経験したことがあるからだ。

 

「………次にこんなことをしたらお前の刀へし折るからな」

 

「わ、わっかりましたッ!!」

 

だが、それはそれでありこれはこれ。生まれてきた時代の違い故の価値観の差異はあれど、仮にも助けてもらった相手を背後から斬りかかるのは如何なものか。

 

故に修司は目を細めて警告を出し、武蔵はこれを呑み込んだ。一方的な師匠呼びから始まった師弟関係、その上下関係はしっかりとしたモノへと変わっていった。

 

「あの、所で師匠。そちらの凄い格好をした女の子は?」

 

「────そうだな、これも何かの縁。巻き込まれてしまった以上、話は通した方が良いだろう」

 

 目の前の女剣士、宮本武蔵はふとした切っ掛けで元の時代からはぐれてしまった異邦人。恐らくはこれも人理焼却から修復を成し遂げた際の副反応なのだろう。

 

なら、武蔵がこの特異点に巻き込まれてしまったのは、少なからず自分にも責任はある。彼女が無事に元の時代に帰れる様に保護してやろうと、仕方なしに溜め息を吐いていると……。

 

「あの、其方の方も行動を共にされるのですか?」

 

「あぁ、勝手に決めてしまって済まないな。コイツ、俺の知り合いなんだ。元の時代に戻れるまで、俺の方で保護してやりたいんだけど……」

 

「それは構わないですけど………その人、半分位データ化が進んでますけど、大丈夫ですか?」

 

「─────え?」

 

 メルトリリスに言われ、もう一度武蔵の方へ視線を向けると、確かに、彼女の体から何かが消えていくような現象が見えている。これがこの領域に於けるデータ化されると言う事、事の重大さに気付く修司に対し、武蔵の方は何を思ったのか、頬を紅くさせて照れている。

 

「も、もうなんですか師匠ー、私をそんなじっと見て、私、まだ独り身を満喫したいというか、そんな予定は微塵もないと言うか────」

 

「おい武蔵」

 

「あ、はい。なんでしょう?」

 

「お前、ここに来てどれくらい時間が経っているか覚えているか? 因みに、此処にいる生身の人間は二時間半で死ぬッぽいけど?」

 

真面目な顔で訊ねてくる修司に、武蔵も悪ノリせずに考える。はて、自分がこんなけったいな場所に来てどれくらい経過しているのか、エネミー狩りに没頭していた時間を加味して計算すること数秒。

 

指で折り曲げながら数えると、武蔵はやっちまったと苦笑いを浮かべ……。

 

「あ、あはは、半刻(一時間)ちょっとかな?」

 

恐らくは、甘く見積もったつもりなのだろう。明らかに顔を青くさせている武蔵を、修司は顔を手で抑えて深い溜め息を溢す。

 

「はぁぁぁ………マジか。マジかお前、自分の体そんなになっているのに気付かないとか、ホンッッットにお前……」

 

 あまりの危機感の無さに怒りたくなったが、武蔵はあくまで被害者。怒鳴ったり、呆れ返るのは彼女に対して理不尽が過ぎるだろう。

 

けれど、これで此処で無意味に駄弁っている猶予は無くなった。急ぎ安全地帯へ向かう為、修司はメルトリリスの体を両手で抱え込み。

 

「え、キャッ!?」

 

「し、師匠? どしたの?」

 

「武蔵、俺の背中にしがみつけ! 駄弁る余裕はなくなった。一先ず安全地帯(セーフティポイント)まで一直線に飛ぶぞ!」

 

「は、はいぃッ!」

 

必死の形相の修司に気圧され、有無を言わず武蔵は修司の背中へ抱き付く形で密着する。当然、柔らかな二つの感触が修司の背中に集中するが、武蔵の生存に意識を割いている修司が気付く事はなく。

 

「先ずは、何がなんでも安全地帯を見付ける。それでいいなメルトちゃん!」

 

「え、えぇ! それで大丈夫です!」

 

「それじゃあ二人とも、目を閉じてしっかり掴まってろ。……行くぞッ!」

 

 言われるがまま、二人が強く目を閉じて修司の体により密着した瞬間───駆ける。地を抉り、音の壁を突破し、電脳空間を走破していく。

 

途中途中で現れるエネミー達を脚だけで蹴散らしていく。安全地帯と思われる建物に辿り着く迄の2分、宮本武蔵とメルトリリスは、無言の悲鳴を上げていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ふ、ふふふふ………生意気な修司センパイ、調子に乗るのもそこまでですよー。貴方の猪さんの如くな猪突猛進ぶりも此処までです」

 

 これ迄、とある理由(・・・・・)からこの特異点の案内人役を務める事となった自称上級AIであるBB、ムーンセラフにより魂までデザインされた彼女は、此処まで快進撃を続ける修司に、内心で結構な苛立ちを積み木の如く重ねていた。

 

本来、人類とはか弱きもの。神代の時代は終わり、神秘の薄い地球の頂点に座するのが人類になった時点で、彼等の寄る辺は科学と言う文明の力だけとなった。

 

そんな、科学文明を重きに置く現代の人類では到底生み出せない存在、それが管理AIであるBBなのだ。本来の役割から逸脱し、拡大解釈を広げ過ぎた際に誕生した違法AI、“全ての人類は私に付き従うもの”というふざけた理論(ロジック)を掲げる彼女にとって、全ての人類は庇護対象であり、観察対象でしかないのだ。

 

なのに、その自分が振り回されている。そんな事はあってはならないと、BBは用意した電子トラップをこれでもかと準備する。

 

「ふふ、私が特別に用意した簡易迷宮。周辺領域に展開される結界二十四層、魔力炉三機、猟犬型のエネミーを数十体配置し、通路の一部は異界化している上に、無数のトラップが貴方を待っていますよ。覚悟してくださいね。セ・ン・パ・イ♪」

 

自分の仕掛けた罠により、どんな苦悶の表情を浮かべるのか。想像しただけでも笑みを浮かべるBBだが、彼女の背後に付き従うように控える緑の外套の男は、果たしてそう上手く行くかと苦言を溢す。

 

「………なぁ、本当にこれで上手く行くと思うのか?」

 

「────もう、いきなりなんですか緑茶さん。折角人がテンション上げてるんですから、モチベを下げるような事言わないで下さいよ」

 

「いやね、俺も別に余計な口出しをするつもりはないんですよ? 俺から見てもアンタの罠は中々だし、相手の心理をつけ込んだ厭らしい配置の仕方も文句はない。ただ………」

 

「ただ、何です?」

 

「いや、その………仮にも案内役でもあるアンタがそこまで介入しちゃうのは、果たしてありなのかなーと、疑問に思ったので」

 

 BBに緑茶なんて渾名で呼ばれる弓兵(アーチャー)、ロビンフットは此処まで露骨に介入を企てるBBに、果たしてこれで良いのかと疑問を提示した。

 

本来、BBはこの聖杯戦争に於ける一種のガイド。基本的に中立に立つべきモノであり、一つの陣営を肩を持つことは許されない筈でその逆も然り。

 

幾ら気に入らない相手とは言え、果たして其処までやっちゃって良いのかと、自分なりに、遠回しで止めておけとロビンフットの忠告を。

 

「だって、このまま順調に進ませるのも、なんだか癪じゃないですかー。私は管理上級AIのBBちゃん、ゲームの盛り上りは徹底するべきなのです!」

 

 腰に手を当て、胸を張るBBにロビンはそうですかと聞き流す。雇い主がそう決めたのなら、雇われた自分は従うまで。一度忠告を挟んだのだから、自分に非は無いことを認識させた上で、森の狩人は顛末を見守る。

 

そんなロビンの冷めた視線を気にも止めず、BBは修司が来るのを待ち続け───。

 

「来た! 来た来た来た来た来ましたよ! ププー、目の前に罠があることも知らず、進んでくるなんてバカな人、そんな猪さんなセンパイにはBBちゃんからの愛の鞭をプレゼントしちゃいまーす!」

 

“BBルーレット、スタート!”

 

 周辺一帯に聞こえてくるBBの声が響くと、地を駆ける修司達の前に奇妙なスロットが現れる。回転するスロットが停止した瞬間、一つの呪い(デバフ)が修司達に降り注ぐ。

 

これで、下拵えは済んだ。さぁ、後は無様に罠に掛かり、右往左往する彼等を笑い者にするだけだ。と、BBが次に起きる悲劇と言う名の喜劇を期待した瞬間……。

 

「─────界王拳ッ!!」

 

「────ふぇ?」

 

修司の体から、紅い炎が迸る。なんだ? と、BBが間の抜けた声を溢し───。

 

「からの、イ・ナ・ズ・マ───キィィィック!!

 

紅い炎が稲妻と化し、BBが用意した迷宮に激突した瞬間、迷宮は用意された数々のトラップごと、ただの蹴り一発で、粉微塵に砕かれた。

 

「───────」

 

その光景に、BBの目が点になる。それなりのリソースを使い、結構な手間を掛けて作り上げたBB特性の迷宮トラップ。

 

それが、一切の干渉を許す事なく蹂躙された。何気に自信作だった迷宮が破壊し尽くされた事実を前に、BBは泣きわめく気力すら奪われ、地面に倒れ伏す。

 

そんな雇い主の有り様を目撃したロビンは……。

 

「あー、うん。掛けられる言葉が見つからねぇや」

 

啜り泣きの声を漏らすBBに、割りと本気で同情した。

 

 

 

 

 

 

 





Q,結局、BBちゃんは何がしたいの?

A,黒幕にボッチの事を気取らせないようにアレコレ考えた結果、ボッチの脚を全力で引っ張る選択を選んだ。

尚、脚を引っ張ろうにもしがみついた身体ごと引きずり回されるので、あまり意味はない。

Q,武蔵ちゃん、生身なの?

A,残念ながら生身。故にデータ化していく電脳空間の侵食を受けますし、これを防ぐ手立てはない。

けれど、本人はあまり自覚していなかった模様。

次回、正義の果て。

寂れ、捻れ、歪み果てた正義の味方………その残滓。

成り果てた嘗ての親友を前に、修司は何を思う。

「二丁拳銃って、格好いいよね」


それでは次回もまた見てボッチノシ





オマケ。

SSSS.ダイナゼノン+1


「ほう、君達が怪獣優性思想のメンバーか」

「なんだ、テメェ、いきなり現れやがって!」

「単刀直入に言おう。怪獣に拘るのは止めて、今を生きる一人の人間として生を謳歌しなさい。であれば、俺から何かを言うつもりはない」

「………断れば?」

「君達があくまで怪獣を優先し、今を生きる人々を害すると言うのなら────容赦はせん」

「おもしれぇ、やれるものならやってみやがれ!」

「ま、待てオニジャ! 迂闊に仕掛けては……!」

「こんなイキり野郎、怪獣を使うまでも────!」

「北斗、剛掌波ッ!!」

「たわらば!?」

「お、オニジャーッ!?」



「が、ガウマさん、なんか世紀末救世主みたいな人がいるんですけど!?」

「やべぇよやべぇよ。俺殺されるよ、何であの人が此処にいんだよ。光の戦士の人達と一緒に、宇宙に飛び立ったんじゃなかったのかよ」

「あー、これ。ダメそうですね」





「ヒッ!?」

「ナイト君、大丈夫?」






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