『G』の異世界漂流日記   作:アゴン

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ONE PIECE、映画観てきました。

控えめに言って最高、お陰でワンピの二次小説の意欲がムクムしてきた我輩。




その180 電脳楽土

 

 

 

 BBなる自称上級AIの言葉に乗り、消失したセラフィックスへのレイシフトを敢行した人理保障機関カルデア。その中で残された最後のマスター、その片割れである修司を先行したのはいいものの、そこで待ち受けていた光景は修司に小さくない衝撃を受けた。

 

「辺り一面海……いや、海の底か。なのに呼吸は出来るし、水圧も感じない。予想通り、唯の特異点じゃあないって事か」

 

まるでこの領域だけが別物に作り替えられた様な異物感、ここへ落ちてくる際に目の当たりにした女性の姿といい、この特異点は初っ端から分からない事が多すぎる。

 

しかも更に悪い事は重なり、何時もなら現地へ到着後に直ぐに届く筈のカルデアからの信号が未だに届いてこない。明らかな異常事態だが、状況に反して修司の胸中は其処まで荒波立ててはいなかった。

 

「取り敢えず、そこの狐のお嬢さんからお話を窺いたいのだけれど………少し、質問しても宜しいでしょうか?」

 

 目の前に刃を突き付けてくる狐耳の少女、敵意と殺意を滲ませて睨んでくる彼女は、修司にとって大切な情報源。故に、刺激しないように極力丁寧な言葉遣いで対話を試みるが………。

 

「………アンタさ、いきなり現れて何ほざいている訳? ナンパがしたいなら余所でしてくれない?」

 

「確かに活発でお転婆な女の子はそれだけで魅力的ではあるが、生憎と此方は緊急事態に立たされている立場でしてね、そんな余裕もなければ暇もないのです。話をしたくないのなら、この場から一旦退いてくれませんか?」

 

相手は女子、その外見は高校生の様に若く、力に満ちている。明らかに通常の女子高生ではなく、何らかの力を持つサーヴァントであるのだろうが、あくまで相手が外見上は年下の女の子である以上、それなりの対応の仕方はある。

 

カルデアにいるナーサリーライムやジャックもそうだ。彼女達もその外見故に精神が他の英霊とやや幼かったりもするし、そういった手合いには高圧的な態度は望ましくない。

 

一部では、アンデルセンの様な例外もいるが………兎も角、修司は目の前の狐のJKに対し、自分なりの紳士的な対応で対話を試み────。

 

その結果。

 

「あっそ、なら………死んどけば?」

 

 返ってきたのは、容赦も問答もない一方的な一撃。その華奢な身体とは反して、振り抜かれた鋭い白刃は間違いなく修司の首筋を狙い………。

 

「全く、いきなり斬り掛かるとは。最近の女子高生は怖いですね」

 

「ッ!?」

 

摘まんでいた(・・・・・・)。目で追うことも敵わない閃光のごとき一閃が、人差し指と親指という二本の指を以て、摘まむように掴まれてしまっている。

 

信じがたい現実、到底受け入れがたい事実。目の前の男は明らかにサーヴァントではなく人間である筈なのに、何故自分の太刀筋を初見で見切っているのか。

 

初めて目の当たりにした異物、目の前の正体不明の男に迂闊に攻め込んだ自分を呪いながら、刀剣使いの狐耳の女子高生は、掴まれていた指を振り払いながら距離を取る。

 

………明らかに、手を抜いている。摘んでいた自身の刃を、振り払う前に手放していたことを察した女子高生は、侮られている事に怒りを覚えながらも身構える。

 

「─────アンタ、何者?」

 

「ん? あぁ、そう言えば自己紹介がまだでしたね。私は白河修司、カルデアより特異点を修復した人類最後のマスター、その一人です。………自分で言うと流石に恥ずかしいな」

 

 まるで自らを人類最後の希望だと語っている事に羞恥を感じた修司は、苦笑いを浮かべて頬を掻く。

 

「さて、自己紹介を済ませた所で改めてお訊ねしたいのですが……質問に、答えて貰えますかね?」

 

「逆に聞くけど、答えると思う?」

 

おかしい。敬語を使って下手に出ているのに、相手の女子高生の敵意は以前として薄まる様子はない。それどころか、より警戒心を抱かせてしまっている。

 

これでは対話にはならない。一触即発の空気、いつ斬りかかってきてもおかしくない狐の女子高生に、どうしたもんかと頭を悩ませていた時、周囲から黒い靄の様なものが現れる。

 

煙のように現れて蠢き始めると、靄だったソレはそれぞれ形を成していく。ワニだったり、バッファローだったり、様々な動物の姿を形成していく中、その中で幾つかのソレは修司の目に留まる事になる。

 

「───アレは、冬木に現れた影か?」

 

 それは、嘗て冬木の聖杯戦争にて現れた災厄の影。人と英霊の区別なく犯し、貪り喰い尽くす悪食の化身。それに良く似た何かがエネミーの群れとなって囲い、押し寄せてくる。

 

「────どうやら、余計な横槍が入ったじゃん。決着は次に回して上げる。それまで死ぬのは許さないから!」

 

さて、この状況をどうするか。其処まで考えた所で剣を納めたJKが、一足飛びに何処かへ走り去っていく。その快活な行動力に舌を巻きながら、修司は改めて周囲を見渡す。

 

 何れも、此方に敵対心を剥き出しにしているエネミー達、その数も相当で100や200では利かないだろう大軍勢。とは言え、所詮は地を這う獣達の群れ、空を飛ぶ修司ならば逃げ切るのは造作もない………。

 

「流石に、この状況で一人だけ逃げるのもアレだしな」

 

ふと、背後にいる少女を一瞥する。至る所が傷だらけで、その様子から逃げるのもやっとだったという事が察せられる。ここで自分一人で逃げ出したら、残されたこの少女はどうなるのか。それこそ想像に難しくない。

 

この少女が何者で、どのような経緯で逃げ回っているのか定かではないし、知る由もない。尤も、この特異点に降り立ったばかりの修司がそんな細かい事情に気を配る義理もない。

 

故に、彼が選ぶ選択はいつだって一つだ。

 

「お嬢さん。少しばかりこの場を荒らすが………動かないでくれよ?」

 

「────え? な、なに、を?」

 

 突然声を掛けられた事に困惑する少女だが、彼女の返事を聞く前に、修司は行動を開始していた。気という力を解放して白い炎を纏った瞬間、修司の姿は少女の視界から掻き消え………。

 

瞬間、エネミーの群れは吹き飛んだ。ゴムボールが弾むように蹴散らされ、幾つもの折り重なった黒い波が拳の一振で塵芥に返され、白い炎が軌跡を描く毎にエネミー達は消滅していく。

 

中には抵抗を試みる個体も在った。触手を伸ばし、修司に一太刀でも浴びせようとした黒い影達は、その悉くが回避され、その抵抗は瞬く間に消失していく。

 

ジャスト1分。それが少女が目の当たりにした超常現象の時間だった。

 

「っし、まぁ準備運動ならこんなもんでいいだろ」

 

 この特異点に降り立って初めての戦闘、物足りなさを感じつつも、取り敢えずこんなものかと自らを納得させた修司は、改めて傷だらけの少女に向き直る。

 

「取り敢えず、改めて自己紹介をしておこうか。俺の名前は白河修司、カルデアのマスターだ」

 

伸ばされた手、それをマジマジと見つめて………。

 

「………メルト、メルトリリス」

 

想い人に良く似た少女は、拙い手付きで修司の手に触れ、これを了承と認識した修司はその手を掴み取り、少女を優しく立ち上がらせた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

《ようこそ、外来の皆さん。ここは霊子虚構世界・SERIAL PHANTASM。》

 

《略称、SE.RA.PH(セラフ)と呼ばれる電脳空間を模した新生快楽浄土です。》

 

《皆さんは世界崩壊を食い止める為、このSE.RA.PHに集まった128人の魔術師(マスター)勇者(サーヴァント)。》

 

《その崇高な目的を、我々は称賛します。ですが────》

 

《人間の欲は尽きぬもの。崇高なだけでは観客は満足しません。ですので、このSE.RA.PHではもう一つ、新たな勝利条件が追加されました。》

 

《最後の一人になること。他の127人のマスターを全て殺すこと。その時、万能の力であるムーンセルは貴方の手に渡るでしょう。》

 

《とは言え、どうかご注意の程を。当SE.RA.PHに出口はありません。“なにもしない”という選択肢だけは存在しません。戦うにしろ、殺し合うにしろ───貴方達は、自らの生を優先するしかないのです。》

 

 

 

 

 

 

「いや、アナウンスの内容物騒すぎない?」

 

 刀剣狐っ娘なサーヴァントを退け、エネミーの群れを撃破した所で、頭上から聞こえてきた女性のアナウンス。恐らくはこの領域全てに聞こえるようなある種の配慮のあるモノなのだろうが、如何せん内容が物騒過ぎる。

 

128名のマスターとサーヴァント達による殺し合い、何で世界崩壊を食い止める為に集められた者達が殺し合わなければいけないのか、矢鱈と上から目線な事も相まって、修司は早々に黒幕の悪辣さを理解し始め、同時に自らの置かれた状況を整理し始めた。

 

(あれから時間は15分を優に超えている、なのにカルデアとの通信は未だに繋がる気配はない。恐らくはこの特異点の特性か、或いは第三者による妨害工作と見るべきか………)

 

 エネミーの大群を撃破して少し、体感にして時間は十数分を超えているのに、カルデアからの応答は一切送られてくる様子はなく、同時に此方からも通信は繋がらない。

 

更に言えば、一緒にレイシフトしていたエミヤの姿も未だ確認できていない。

 

孤立無援。明らかに手詰まりな状況だが、幸いにしてあのアナウンスが幾つかの情報をもたらしてくれた。

 

 この電脳世界なる特異点は、例えるなら黒幕の目的の為に造られた舞台。自分達はその舞台を盛り上げる駒にして役者、ならばこの場合観客とされる者が黒幕と考えるのが妥当だろう。

 

なら、その黒幕は一体何者なのか。情報が限りなく少ない現時点では、それを特定出来る要素は皆無だ。

 

ただ、一つだけ言えることがあるとするならば……。

 

『ぜー、ぜー、やっ、やっと追い付きましたよー! 早速始めますよー! BーBー、チャンネルー!』

 

 視界いっぱいに映る、汗だくの自称上級AI。コイツだけはないなと、修司は一人確信した。

 

 





済まない、短くて済まない。


次回からは色々と動き出すから、もう少しまってて下さい。


それでは次回も、また見てボッチノシ






オマケ。


「これで決めるぞ、グリッドマン!」

『あぁ、任せたぞ!』

「かぁ……めぇ……」

『はぁ……めぇ……』

「『波ァァァァッ!!』」〈ゴンブトビーム

「────────」〈断末魔も上げられず消滅した怪獣A


「……………」

「……………」

「………ねぇ、アレクシス」

「なんだい。アカネ君」

「私、あれと戦える怪獣、作れるかなぁ」

「………頑張ろ」

 夕暮れに佇む二人の影は、とても哀愁に満ちていたという。



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