『G』の異世界漂流日記   作:アゴン

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今回はウサギさんとボッチがメインとなります。


その40

 

 ────修学旅行最終日、生徒達の安全を守る為に各教師達と同じく周囲の見回りを担当していた白河修司はこの時、奇妙な人物と出会していた。

 

ヒラヒラなエプロンドレスに頭部から見える機械仕掛けの兎耳、明らかに普通とは異なる風貌をしたその女性は以前臨海学校の時に会った不審人物だった。

 

一体何故彼女がここに? そう疑問に思う修司だが、彼女の口から聞かされる言葉に更に思考を乱す事になる。

 

「束……だと? まさか、アナタが篠ノ之束だと、そう言うつもりですか?」

 

「そだよー。って、アレアレ? もしかして君、私の事分かってなかったの? なーんだ。天才とか色々騒がれているけれど、実際は大した事はないんだね。君」

 

見下す様な下卑た笑みを浮かべる天災に対し、修司は思考する。混濁する思考回路を丁寧に修復し、これまでの状況推理を照らし合わせる事で自分なりの結論を紡ぎ合わせた彼は次の瞬間には落ち着きを取り戻す。

 

一度深呼吸してから目を開き、怒りを秘めた眼で目の前の天災を見据えた修司は落ち着きのある丁寧な言葉遣いで天災に言葉を紡いだ。

 

「……それで、その篠ノ之束博士が私に何のご用です? ただのいち用務員でしかない私ですが、今はIS学園から引率の役目を担っている身、これから生徒達の所へ行かなければならないので急ぎの用でなければ手短にお願いしたいのですが」

 

「えー? 別にあんな有象無象の連中がどうなろうと別にいいじゃん。しーちゃんは私に対してもっと有効的に時間を使うべきなのだと束さんは思うのです」

 

人を小馬鹿にする様なふざけた口調。二パーと笑う彼女の笑顔に苛立ちを募らせも、修司は毅然とした態度を崩さず、もう一度束と名乗る女性に声を掛けた。

 

「……理解できていないようなのでもう一度言います。私は今、非常に急を要する立場にいます。用件がないのであればお引き取り願いたいのですが」

 

嫌な予感がする。多元世界の頃に培った勘がここにいてはダメだと告げている。早々に一夏の所へ向かいたい修司だが、目の前の存在はそれを許さない。

 

「ぶー、しーちゃんってばせっかちさんだなぁ。そんなに私とお話するのは嫌い?」

 

「時と場合によりますね。そして今はその時がない事態です。残念ですが……」

 

「そっかー、なら……しょうがないよね」

 

「っ!」

 

女性から笑みが消え去り、突き刺さる殺意が押し寄せてくる。人が変わった様に殺気を剥き出しにしてくる彼女に踵を返し掛けた修司は向き直る。

 

ここで仕掛けてくるのかと周囲が身を構えた───その時、周囲四方は先日学園を襲ってきたゴーレム達が姿を現した。

 

一体どこに奴らが潜んでいたのか、ゴーレム達が出てきた所を注視してみると、窪んだ地面から奇妙な設置跡が残されるのを見かけた。

 

(予め無人機を待機状態にしておいて地面に仕込んでおいたのか)

 

無人機と一般的に知られるISの構造は基本的に似ている部分が多い。量子変換機能や拡張領域からの武装の取り出しといった行動は無人機のAIの知数が低いからと思われているが、いざ使おうとするなら可能といえる。

 

当然、待機状態にも変えられるこの機能を使えば、待ち伏せなどの搦め手も可能だ。今更気付くゴーレムの応用性の高さに修司は舌打ちを打った。

 

周囲四方のゴーレム、彼らの手に握りしめられたライフルに狙いを定められた次の瞬間、ゴーレム達は一斉に引き金を引いて修司に向けて撃ち放った。

 

巻き起こる轟音、舞い上がる砂塵と爆炎を前に天災アリスは高らかに謳い上げる。

 

「アッハハハハ! 言った筈だよ。今度会うとき迄にお前のその化けの皮を引き裂いてやるって! 叩き潰してやるって! ……見なよ、粉々だ。ハッハハハ、散々私の邪魔ばかりして、目障りったらないんだよ」

 

女尊男卑? 女性主義? どうでもいい。全ては世界というおもちゃ箱で自分の思うとおりに動く玩具でしかない。愛しい妹、親友、そしてその親友の弟はそんな自分を退屈させない為の舞台装置だ。

 

役のないエクストラは早々に退場を願う。ISの本来の目的? 人類の宇宙進出? そんな目的などとうの昔に忘れ去った今の自分にとっては、どうでもいい理想だ。

 

「分かったかな。これが私だ。篠ノ之束だ。どこの誰だかは知らないけど、いい加減邪魔だったからさ、消えて貰うことにしたよ」

 

 冷めた目で燃えさかるその場所を見据える天災。呆気ない、これが自分の跡を継ぐと噂される天才なのかと天災がその目に落胆の色を落とした時。

 

「……アナタの事情は知った事ではありませんが、私も臨海学校の時に言った筈ですよ」

 

「っ!?」

 

聞こえてきた声に天災は耳を疑い、辺りを見渡す。周辺には隠れる様な遮蔽物もなければ障害物も存在しない。一体何処へ消えたのかと天災は自身が作った索敵機を取り出し、周辺を調べ尽くす。

 

そして見つけた。索敵能力機に捕まったその反応は自身の真後ろを示している。天災が驚愕しながら振り返ると……。

 

「私の邪魔をするのであれば、どこの誰だろうと全力で排除する。───アナタも、その例外ではないですよ」

 

蒼い仮面を被った魔人がコートを靡かせて佇んでいた。嘗て多元世界で恐怖の代名詞となっていたテロリスト、不気味さと禍々しさを兼ね備えた怪物に天災は冷や汗を掻くのを確かに感じた。

 

「……成る程、それがお前の本性って訳」

 

「本性……という言葉が適切かどうかは分かりませんが、この姿の私も私である事に変わりはありません」

 

「……そう、ならやっぱり私のやることは変わらないや。お前をここで殺し、私だけの物語を進める為に!」

 

 突然吹き荒れる磁気嵐。彼女の足下から包み込むように吹き荒れる磁気の嵐は放電現象をまき散らしながら周囲の木々を薙ぎ倒していく。

 

折角綺麗な所を良くもこんな無粋なモノで汚してくれるものだ。風情ある京都の景観を己の欲望だけで壊していく目の前の天災に魔人は仮面の奥で冷ややかな眼となって見つめていた。

 

やがて磁気嵐は収まり、その中から現れる存在に魔人は眼を鋭くさせる。吹き荒ぶ嵐の中から現れるのは───紅。鮮烈さと苛烈さを併せ持った強烈な色彩を放つソレは声高に広がる笑みと共に魔人を見下ろしていた。

 

『さぁ、始めようよ異世界からの旅人さん。私の“紅錦”で────篠ノ之束の最高傑作で葬ってあげるよ』

 

紅錦と呼ばれるISが唸る。両手に握られた刀からは紅い稲妻が迸り、周囲の空気を灼いていく。対峙するだけで常人ならば尻込みするであろうその光景に、しかし魔人は動じた様子はなく、淡々とした口調で言葉を紡いだ。

 

「────成る程、素晴らしい性能だ。確かにこれほどの機体を造り上げる貴女は篠ノ之束を名を騙るに相応しいのでしょう」

 

『………あ?』

 

「しかし、残念ながら今の私は頗る機嫌が悪い。幾度となく生徒達の思い出を邪魔する“アナタ方”は最早私達にとって害悪でしかない。────故に」

 

 

 

 

 

“ここで、終わらせて頂きましょう”

 

 

 

 

 瞬間、蒼き魔人の背後より空間に穴が開き、そこから蒼き魔神が姿を覗かせる。

 

篠ノ之束という天災が白河修司という存在を自分の障害だと確信した様に、白河修司もまた目の前の天災を見て確信した。

 

やはり篠ノ之束はその昔亡国機業によって拘束され、その技術を盗まれているのだと。目の前の存在は篠ノ之束という名を借りた魔女なのだと。

 

あぁ、確かにこの魔女は天才なのだろう。ゴーレムという無人機を多数作り出し、専用機を持った代表候補生達を幾度となく追い詰めたその手腕は悔しいが認めざるを得ない。

 

しかし、だからこそ彼女達は早々に諦めるべきだった。テロリストという肩書きを捨て、これから始まる時代に備え社会に出来る限りの貢献をするべきだったのだ。

 

惜しい。魔人は内心でそう悔やむが、彼女達が戦う意志を見せた今、魔人は自身の平穏(大切なモノ)を守る為に全身全霊を掛けて挑まなければならない。

 

 亡国機業という世界のテロリストに対して宣戦布告をする様に、今この京都にいる全ての視線を集める為に……。

 

「さぁ、目覚め(おき)なさい。────グランゾン」

 

蒼き魔人は重力の井戸の底から蒼き魔神を顕現させた。

 

 

 

 

 




ウサギとボッチの話はここで一旦止まります。
次回からはワンサマーや他の代表候補生とオートマたん達の話となります。

時系列として纏めると大体こんな感じ。

ワンサマー&タンポポ対M+雨さん
      ↓
代表候補生&オートマたんs対蜘蛛さん+α
      ↓
ウサギさん対ボッチ。

次回はワンサマーの活躍回にする予定

題して“虹色の彼方へ”(嘘)

……君は、年増の涙を見る。



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