『G』の異世界漂流日記   作:アゴン

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ヒャッハー! 新鮮な水着鯖だぁーっ!




その179 電脳楽土

 

 

 

「エミヤ、俺達の後輩がVTuberになっちまった」

 

「どうした急に」

 

 いつもの如く、食堂にてカルデアスタッフや他の英霊達に料理を振る舞っていた頃、いきなり現れてトンチキな事を言い出した修司に、英霊エミヤは生前の素を全開にしながら訊ね返した。

 

「何を言っているのか分からねぇと思うが、俺も何を言っているのかさっぱりだった。ドッキリだとか、催眠術だとか、そんなチャチなもんじゃあ断じてねぇ」

 

「落ち着け、色々とブレブレだぞ」

 

使い古されたネットスラングを口ずさむ辺り、実は結構余裕なんじゃないのかと、エミヤは訝しんだ。

 

しかし、次に修司が口にした人物の名前を耳にし、カルデアのあらゆるモニターに写し出されるその張本人を目の当たりにすると、事態の重さを理解し。

 

「桜ちゃんが、カルデアにハッキングしている」

 

エミヤは脱兎の如く食堂から脱走した。

 

しかし 回り込まれて しまった!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「あ、修司君ッ! 何処に言行ってたのさ!」

 

「悪い、ちょっと当事者を連れてくるのに手間取った」

 

「当事者?」

 

 項垂れるエミヤの首根っこを掴み、管制室へ戻ってきた修司を出迎えたのは、涙目のロマニだった。

 

あれから差程時間が経過していないから、未だにカルデアのモニターは嘗ての後輩に瓜二つの少女が占拠し、人類を下等な存在だと見下している。人をおちょくり、煽るその姿は以前黒くなった彼女を思い出し、少し微笑ましく思えてしまう。

 

「それで? このいろんな意味でアレな女の子は一体何の目的でカルデアに接触してきたんだ?」

 

「………あ、うん。それなんだけど」

 

『ちょっとー、人類(豚さん)の癖に私を無視して話をしないでくれませんかー? 自分達の今の立場、分かっていますかー?』

 

 後輩に似た少女の目的は何なのか、自分が席を外していた間に起きていた出来事をロマニへ訊ねると、モニターに写る少女が割って入ってきた。

 

どうやら、人並み以上に承認欲求は強いらしい。

 

『て言うかアナタ、私を誰かと勘違いをしているみたいですから予め言っておきますけど、私は間桐桜何て言う可憐で儚いオリジナルとは違いますからね? 私の名前はBB、月の支配者にして違法上級AIなのです!』

 

「あ、うん。自己紹介どうもありがとう」

 

自らを月の支配者と名乗り、更には人工知能(AI)だと言うBBなる少女、まだ何も言っていないのに勝手に情報を教えてくれる親切な少女に、修司はどこぞのあかいあくま(うっかり)の血筋を感じた。

 

「それでその………BB、だったかな? 君の目的はなんだい?」

 

『あれ? 私の出自についてはお気になさらないんです?』

 

「月の支配者、その単語(ワード)は確かに興味は引かれるが、残念ながら今の僕達にはそんな事を訊ねる余裕はない。カルデアのコントロールは君に掌握されようとしている。なら、事を荒たてずに君の目的を訊ねるのが、今の僕の仕事さ」

 

 到達な出来事だが、事実としてカルデアの各システムはたった一人のAIによって掌握されつつある。それも、通常の通信ではあり得ない領域からの一方的な接触。その事実だけで、目の前の少女が並のハッカーでないことは充分理解できた。

 

持ち前の悲観さと推察、事実を加味した上でのロマニの対応は、BBに少なからずの関心を抱かせた。

 

『ふーん。人間の中にもまぁまぁ弁えている人もいるんですね。BBちゃん的にポイント高いです! では、単刀直入にお教えしましょう! 現在、そちらの人類は盛大にヤバい状態になっています。具体的にはA,D2030年のマリアナ海溝をチェーック!』

 

ロマニの対応に気分を良くしたBBは、高いテンションのまま情報を開示。マリアナ海溝という単語についてアレコレ話をし始める立香とマシュを余所に、カルデアのオペレータースタッフは、ダ・ヴィンチの指示通りの座標を調べ始めた。

 

結果はビンゴ。セラフィックスは特異点と化し、マリアナ海溝を沈み続けていおり、更には時空を歪ませるレベルで発生している。その事実にカルデア一同は改めて騒然となった。

 

『さぁ、遂に明らかになりました特異点! こうなったらもういつものアレをするしかないですね! レッツレイシフト!』

 

「よし、じゃあいくとしよっか! ドクター、ダ・ヴィンチちゃん、行ってきますね!」

 

「いや、今回は俺が先にいこう」

 

 新たな特異点が判明し、セラフィックスに捕らわれた人名を救出するには、カルデアのレイシフトが必要。原因の究明と解決をする為に走り出す立香を、修司が止めた。

 

「先の特異点の時のように、不具合に巻き込まれて立香ちゃんに怪我を負わせるのは流石に勘弁したいからね。今回は、俺が先を行かせてもらうよ」

 

帝都にレイシフトした際、不具合により単身現場に到着した立香は、其処で見知った筈の相手に射たれ、傷を負った。

 

幸い修司の気力による手当てと、後に戻ってきた際に受けた治療のお陰で傷一つなく無事に完治したが、カルデア側はこれを重く受け止め、以後は戦闘能力として申し分のない修司が先行してレイシフトするように話を進めた。

 

「そうだよな? ロマニ所長代理」

 

「あぁ、今回は修司君を先行させて調査を行う。立香ちゃんがレイシフトするのは修司君の15分後、向こうでの安全圏を確保した後に開始するよ」

 

「あ、あれれ?」

 

「それでは先輩、此方へ………」

 

「あーれー?」

 

 そして、そんな案を率先して押し出したのが、他ならぬロマニと修司である。二人の過保護により今回のレイシフトは少しだけ見送る事になった立香は、途端に手持ち無沙汰となり、マシュの言われるがままに空いた席に座らせられる。

 

「とは言え、レイシフト先の状況は未知数。特に今回は未来へのレイシフトという不可能への挑戦だ。何が起こるか分かったものじゃない」

 

「ま、そこら辺は大丈夫だろ。元より向こうから寄越してきた案件だし、そのくらいのサポートはしてくれる。だろ? BBちゃんとやら」

 

『むう、なんだかそこはかとなく軽く扱われている気がしますが……まぁいいでしょう。どうやら小生意気にも、アナタには相応の戦闘能力が備わっているみたいですし? ────因みに、お名前の方は?』

 

「白河修司だ」

 

『なら修司センパイですね。それではレイシフトの準備が完了次第、声をお掛けくださいねー!』

 

 センパイ。その呼び方にますます嘗ての後輩を思い出す。とは言え、相手は後輩の姿を模しただけの別人、同一視しないように気を付けようと自らを戒めながら、修司は改めてロマニへ向き直る。

 

「さて、そう言う訳だがロマニ、後の事は………」

 

「皆まで言わなくてもいいさ。………そっちこそ、気を付けて」

 

「あぁ、立香ちゃんも、後で向こうで会おうな。おら、行くぞエミヤ」

 

「くっ、やはり私は巻き込まれるのか!」

 

「気を付けてねー!」

 

 セラフィックスが何故特異点と化してしまったのか、マリアナ海溝に沈み、特異点と化した年代が2030年なのか。それらの謎を究明し、原因を解決する為に修司はエミヤを引き連れ、ロマニ達の見送りを受けながらコフィンへと乗り込んでいく。

 

何気に初めてとなる修司単独のレイシフト、期待と不安に胸を踊らせながら、いよいよレイシフト開始となった時。

 

『フフフ、本当に人類ってばおバカさん。何処までも騙されやすく、楽観主義。そんな能天気なセンパイを、BBちゃんがジャックしちゃいます!』

 

その悪意は聞こえてきた。

 

止まらないレイシフト、止められない時間旅行。それは人理修復を成し遂げる際に起こる────最も無防備な瞬間。

 

このままでは、BBによってレイシフト介入を許してしまう。不味いと、意識が薄れるなか………。

 

『あ、あれ? ジャック出来ない? か、介入改竄不可能!? 何なんですかこの超絶チート!? これ最早バグ、バグですよぉ!?』

 

『うわーん! こんなのBBちゃん聞いてませんよぉ!』

 

 先程までの悪意に満ちた声音とは打って変わって、涙混じりの声に……。

 

(もしかしてこの娘、ちょっとアホな子?)

 

そんな事を思いながらレイシフトに身を委ねること数秒、次に修司が目の当たりにしたのは………深海に浮かぶ、巨大な女性の姿だった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「はぁ、はぁ、はぁ…………」

 

 電脳の海を一つの影が駆けていく。細身の体に幾つもの傷を受け、満身創痍の死に体で走るその姿は、優雅と呼ぶには剰りにも傷だらけになっていた。

 

死にたくない。ただその思いだけで走るその姿は、親を求めて彷徨い歩くカルガモの子のソレ。痛々しく、惨めな程に懸命な少女は………しかし、終わりの時を迎えようとしていた。

 

「はい、ご苦労様」

 

 眼前に突き立てられる一振の刃、追い付かれ、追い詰められたと察した少女は、もう逃げられないと覚悟して背後の声に向き直る。

 

見えるのは烏帽子、覗かせるのは狐の耳と尾、若い女性というには不釣り合いな殺意と殺気を滲ませながら、少女を見据えている。

 

「あーし、鬼ごっこはそれなりに得意な方だけど、あんまり悠長にしてられないのよ。だからさ………死んでくれる?」

 

「………うあぁっ!」

 

文字通りの死刑宣告、どうしようもなく抗えない現実を前に、少女は恐怖を誤魔化しながら力を震う事しか出来なかった。

 

烏帽子の女の首を目掛けて振り抜かれた脚、その鋭利な先端(ポワント)は紛れもなく女の急所を狙っていたが………。

 

「うっざい」

 

「ッ!?」

 

 悲しいことに、細く脆い彼女の(ブレード)では、女の腕力を突破することは敵わなかった。乱暴に振り払われ、地面に叩き付けられた少女は、呻き声を上げながら立ち上がろうとする。

 

「………その根性だけは認めてやるじゃん」

 

だが、それまで。例え立ち上がり、立ち向かった所で、眼前に立つのは自身では敵わない敵が待っている。此処までかと、勝てない理不尽を諦めて膝を屈するだけなのかと。

 

………いや、それだけは容認できない。

 

「まだ、まだ……私は!」

 

まだ、何もしていない。出来ていない。このままで終わるのは、それだけは認められない。それは生まれた出自のプログラム(・・・・・)による指示か、それとも別の何かか。

 

立てる力も残されていない癖に、それでも尚跑こうとする。醜くも美しいその姿に烏帽子の女は白鳥の話を思い出した。

 

けれど………。

 

「残念だけど、アンタはここで終わり」

 

 振り上げられた刃、その白刃は誰にも止められることなく、少女に向けて振り下ろされ─────。

 

「ッ!!??」

 

───る、事はなかった。

 

突然、頭上から落ちてくる光の柱、咄嗟に後ろに下がる烏帽子の女は、落ちてきた何かの衝撃によって吹き飛んでいく。

 

周囲を吹き飛ばす程の威力と衝撃。地面には大きなクレーターが出来あがるほどのソレは、しかして満身創痍の少女に一切の影響を与えてはいない。

 

目を丸くさせ、驚きを露にする少女。は舞い上がる砂塵の奥にいるナニかがいると見据え………。

 

「………成る程、どうやら今回の特異点も、一筋縄では行かないようだ」

 

山吹色の男、“王”の一文字を背負う一人の男性に釘付けとなっていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ふんふふーん、ふんふふーん、ふん、ふん、ふーん♪」

 

 所変わって某所。電脳の海にて彷徨い歩く一人の女剣士、腰に二振りの日本刀を携えて、鼻唄歌う彼女の背後には無数のエネミーの死骸が転がっていた。

 

「クソ親父殿の元を発って早数ヶ月。適当に強者求めて歩き続け、気が付けば辺り一面海の世界! いやー、色んな意味で持ってるなぁ私!」

 

天下に自分の名と強さを取り戻す為、目指した背中に追い付く為(・・・・・・・・・・・・)、女剣士は目覚めた場所を問わずに歩いていく。

 

 ふと、その時光る何かが近くに落ちた所を目撃した女剣士は、その顔を喜悦に歪ませ。

 

「……なんだか、面白そうな予感!」

 

ワクワクを求めた足取りは、天女の如く軽やかだった。

 

 

 

 





次回から、電脳楽土seraphが本格始動します。

それでは次回もまた見てボッチノシ!


オマケ。

NGシーン。


『さて、それではいざレイシフト、スタートです!』

「さて、今回の特異点も中々骨が折れそうだ。まぁ、頑張るとするかね」

『────れか』

「………ん?」

『誰か、私の声が聞こえているか! 届いているのなら、頼む! 力を貸して欲しい!』

「────誰だ?」

『どうか、君の力を貸して欲しい!』

『私の名前は────グリッドマン!!』




電脳楽土SE.RA.PH/SSSS.

「やるぞ、グリッドマン!」

『あぁ、やろう、修司!』

「アクセース───フラッシュ!!」

電脳の世界にて、電光の超人が爆誕する。




「いやそうはならんやろ」





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