『G』の異世界漂流日記   作:アゴン

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今回も日常回。




その176

 

 

 

 ∂月α日

 

 人理修復達成から二週間。日々の業務の他に、今日は食堂にて外への外出の計画を立てている最中、色んなサーヴァント達と雑談を交えていた。

 

ケイローン先生やヘクトールさん、テスラさんやエジソンさんなど、時代的に幅広い年代の人達と当時の価値観や現代に対する意見をアレコレ交えて話し合っていた。

 

話し合いと言っても、内容は殆ど世間話、雑談みたいなものだ。当時の生活とか、神々への愚痴とか、発明に対する価値観、彼等に取ってみれば愚痴の様なものだろうが、現代に生きる自分にとっては彼等の話は著名人の本を読む以上に価値があった。

 

特にヘクトールさんが語るトロイア、神々の思惑が根深く絡み付いたこの戦いは、やはりと言うか何というか、結構な血と惨劇に彩られた戦いとなってしまったようで、興味本位で聞いたことを謝罪する位には結構ヘビーな話が多かった。

 

アキレウスやヘクトールさんを筆頭に、歴史に名を刻んだ名だたる英雄達の参戦。それに加えて神々の意図が絡んでいたりする事から、この戦争はかなりの泥沼化の一途を辿った様だ。

 

溜め息を溢しながらも、自分の視点で最後まで話てくれたヘクトールさんは、『あの戦争にお前さんがいてくれたら、オジサンも大分楽だったんだろうなぁ』の一言で締め括った。

 

 うん、無理。話を聞いておいて何だが、仮に自分が当時のギリシャ神話時代に産まれたとしても、絶対にそんな厄ネタの宝庫みたいな戦争には参加しなかっただろう。

 

と言うか絶対に逃げる。名誉だろうと栄光だろうと、死んでしまったら全てがご破算。臆病者と罵られようと、絶対に自分はその戦争に参戦することはしない。

 

仮に、仮にトロイア戦争に参加する事に逃げられないのだとしても、その時の自分はきっとこの戦争が起きる切欠となった原因を取り除くために動いた事だろう。ヘクトールさんには申し訳ないが、もし自分がトロイア戦争に参加する事になったら、当時のパリス君を殴り倒し、ヘレネーさんを元の旦那さんの所へ還したと思う。

 

トロイア側に与した神々の事はどうするって? 邪魔をするなら普通に処しますが? そもそも、あの戦争は増えすぎた人類を減らす為とかいうふざけた名目が側面として在ったみたいだし、神の癖に殺し合わせる事しか対応できないのかと、煽り散らかしてやっていたと思う。

 

特にアポロンとか。アイツ、オリオンとアルテミスの仲を引き裂いた張本人みたいだし。本当、神ってのは人間に対して余計な事しかしないよね。当時は神の威厳とか大事にされていたみたいだけど、自分から見れば糞食らえ。である。

 

 ………話が脱線した。要するに、自分は神々の目論みに巻き込まれるのは絶対にゴメンだと言うこと。神の操り人形になるくらいなら、自ら首を切り落として冥府に落ちてやるわ。

 

冥界にはギリシャ神話の中でも良識のあるハーデスさんもいるし、何なら神々の跋扈するギリシャ神話より、個人的には居心地が良さそう。

 

と、あまりにも自分が神々に対してボロクソ言うものだから、ヘクトールさんもケイローンさんもひきつった笑みを浮かべてしまっていた。流石に言い過ぎだと、エジソンさんもテスラさんの二人に窘められ、素直に謝罪。

 

その後も、エジソンさんとテスラさんとの今後何を造るかを語り合い、その後はお開きとなった。

 

 んで、その後は特にやることもなくカルデア内を散策していたら、食堂で王様達が立香ちゃんを交えて談笑をしていた。

 

興味本位で近付いてエルキドゥさんに訊ねると、何でもどの国の郷土料理が一番美味いかを議論している様だ。

 

このカルデアにはウルク、アイルランド、ギリシャ、ローマ、エジプト、インド。他にも中世のフランスやら日本、中国と、幅広い時代と国の異なる英霊達が在籍している。住んでいる環境が異なれば、築かれる文明もまた違う。

 

それでも自国の料理こそが至高と言うのは、やはりその時代を率いた王としての矜持が深く関わっているのだろう。立香ちゃんは興味深そうに聞いていて、その一方で王様を含めた英霊達は懐かしそうに当時の台所事情を語り合っていた。

 

 そして、そこに丁度自分がやってきたから、お前は何処の料理が一番美味かったのかと、聞かされる事になった。人理修復の旅の中、幾つもの時代と国々を渡り歩いてきた自分達だからこそ、答えられる筈だと地味にプレッシャーをかけながら……。

 

 まぁ、やはり現代の日本人は良くも悪くも舌が肥えているだけあって、食事事情には厳しい面がある。でも、それを抜きにしてもウルクで食べたバターケーキは美味かった。ローマの料理も中々凝っていたし、味付けも悪くはなかった。

 

アメリカ横断の際の豪快な料理も、急ぎの旅路にも関わらず、満足のいく逸品だったし、山の民の皆から貰った食べ物も、質素ながら栄養のある食事が出来た。

 

ロンドン? コーヒーだけは美味かったと言っておこう。当時の地元民の人達には悪いが、それ以外は特に言うことはない。だから自分が進んで料理をした訳だし。

 

聖都は知らん。そもそも彼処に満足に料理とか出されてるの?

 

 うーん。やはり、一番食べ慣れているのは日本食かなぁ。他ならぬ出身国だし、他の国々から見た日本の食に対する執念は異常だって、どっかの雑誌で見たことあるし。

 

イギリスとかあっち方面の人達って、未だに蛸とか食べないんでしょ? アルトリアさんとかスゲー苦手そうにしていたし。蛸、美味いんだけどなぁ。

 

 ただ、世界中を旅してきた自分だけど、何処の国もその国に沿った料理があり、食への拘りがあり、文化がある。美味しく食べようと工夫したり、過酷な環境下で充分な栄養を摂れる様に考えたり、当時から続く人間の知恵が垣間見れる。

 

だから、みんな違くてみんな良い。食の文明とはそう言うモノだと、我ながらいい話風に話を終わらせようとした所で、誤魔化すなとブーイングされた。

 

 なんだよう。別に何処の料理が一番美味くても良いじゃんか。人間、お腹一杯に食べられればそれだけで幸せよ? なんて、それっぽい事を言っても納得してくれる事はなかった。

 

王と言うのは、時にはひたすら面倒くさい生き物に成り下がる。英雄王という王の中の王に仕えている自分としては、割りと至言なのではないかと思う。

 

とは言え、このままでは自国の料理のNo.1の座を巡って歴史の偉人達による国家間の戦争に発展しかねない。そうなる前に何とかしなくてはと、立香ちゃんがあたふたし始めた辺りで、ケルトの影の女番長スカサハが珍しく良案を出してきた。

 

自分が、心の底から美味いと言えるものを作れ。世界中を旅してきた自分だからこそ、出される料理に説得力が生まれる。そう言ってきたスカサハに、自分は珍しく感心した。確かに、それならば王様達も無闇に言い争う事はしないだろうし、ある程度の納得もしてくれる筈。

 

そう言うことなら善は急げと、丁度時間がお昼頃だったこともあり、自分は厨房へと向かった。途中王様から止めろとの声が聞こえた気がするが………まぁ、気のせいだろ。そもそもあの人、俺の知る王様じゃないし、今回の話は自分の最高傑作を体験して貰える良いキッカケにもなることだろう。

 

今日は気分も良いし、希望者を募って食べて貰うとしよう。そう言って挙手を求めると、結構な数の希望者が出てきた。征服王や太陽王、ヘラクレスを始めとしたギリシャ勢、騎士王や獅子王と円卓の騎士の人達からカルナ達インド勢まで、幅広い年代の英霊達がこぞっと参加してくれた。

 

ただ、王さまこと英雄王とクー・フーリン、エミヤの三名だけは遠慮すると言って参加しようとしなかったが………折角の機会だと、スカサハとエルキドゥさん、イシュタルの三名が逃げようとした彼等を捕まえ、食卓に座らせた。

 

 大勢の英霊に期待を寄せられては応えない訳にもいかない。のし掛かるプレッシャーを背負い、俺は厨房の奥へと引っ込み、調理を開始した。

 

幸い、料理の腕は衰えておらず、人数分を用意するのに差程時間は掛からなかった。カルデアの各設備は一流を自負している。それは台所も例外には及ばず、用意された食材を一切無駄にせず、遂に自分は人数分の麻婆豆腐を用意することが出来た。

 

久方振りの麻婆、以前の調理以降作る機会が中々無かったから、今日はいつもより多めに香辛料を足しておいた。お腹を空かせていたからお先に一口、ご飯と一緒に味わえる久し振りの麻婆に、自分は大変満足した。

 

 やっぱり麻婆には白米だよな。泰山ではいつも麻婆丼を頼んでたし。………懐かしいなぁ、こう言う食べ方をする度に、言峰師父から子供らしい食い方だといつも揶揄されたっけ。

 

そんな思い出の品である自分渾身の麻婆を前に、何故か他の英霊の皆さんは固まっていた。何故? 遠慮しなくても良いんだよというと、皆視線を剃らすばかり。

 

スカサハは………何か麻婆に顔を埋めていた。意地汚いなぁ、そんなに食い意地張らなくても言えば用意してやるのに。と、呆れながら食べ続けていると、今度はアストルフォがやってきた。

 

『なに食べてるのー? 僕にも頂戴!』

 

そう言いながらニトクリスさんの返事を待たずに彼女の麻婆を一口頬張ると、バタリとスカサハの様に倒れ伏してしまった。何故?

 

しかもそれを見たニトクリスさんが悲鳴を挙げている。大袈裟だなぁ、確かにいつもより辛めにしたけど、そんな反応をする程じゃないだろ。

 

とは言え、確かに辛さは大人用に調整してあるから、ジャックやナーサリーライム、念の為にアンデルセンさんにはオムライスを用意させて貰った。此方は総じて好評だったと追記しておく。

 

 で、問題は一向に食べようとしない他の英霊達だけど……勿論、自分はお残しを許さなかった。世界中を旅し、その中で個人的に一番キツかったのが食事だ。

 

空腹のあまり、知識に無い茸を食べれば毒に当たり、三日三晩腹痛に苛まされ、喉の乾きに我慢できずに適当な水源で喉を潤せば腹を下す。出して暫くすれば治ったが、どちらも二度と体験したくない出来事だ。

 

何処の料理が一番美味いか、それを議論するのは自分は否定しない。けれど、敢えて自分は言わせて貰おう。ご飯は、食べられるだけで幸せなのだと。

 

その事を騎士王に同意を求めれば、アルトリアさんは涙を流しながら頷いてくれた。流石は天下の騎士王、彼女の時代も食事事情は暗かったらしいし、自分の力説にも共感して貰えた様だ。

 

その後の彼女は黙々と麻婆を食べ、完食。両手を合わせて御馳走様と言い切った彼女は、席から立ち上がり、自分に礼を口にして部屋へ戻っていく。

 

 その後も、騎士王を筆頭に円卓の騎士やインド勢、ギリシャ勢と、希望した英霊達が一人、また一人と完食し、自室へ帰っていき、本日のイベントは終了となった。

 

追記。

 

ロマニから呼び出しをくらい、自分以外に麻婆を振る舞うことを禁止にされた。解せぬ。

 

 

 

 

 

 

 

『お前はいつもその食い方をするな。たまには麻婆だけで味わってみるのも良いだろうに……』

 

『いやさ、麻婆を食べてるとどうしてもご飯を食べたくなるんだって。麻婆の辛さと白米の甘さが抜群に相性が良くってさぁ』

 

『ふっ、図体はデカくなっても、その辺りはまだ子供だな』

 

『食べ方の趣向に大人子供もないだろー!』

 

「ふふ、懐かしいなぁ」

 

「────どうしてあの人、あんな劇物を生み出す癖に麻婆以外の料理は普通に美味いんですか」

 

「私の作る料理より美味いとか、マジで理不尽の化身ではありません?」

 

 

 

δ月α日

 

 今日、花の魔術師ことマーリンと、キングハサンこと初代山の翁────通称、山のじっちゃんが召喚された。

 

相変わらずの立香ちゃんの引きの強さは規格外(EX)だが、これまで召喚されてきたサーヴァント達と比べれば、割りと性格は大人しめな彼等の登場に、自分はホッと安堵した。けれど、魔術的にはそうでもないのか、ロマニは酷く狼狽していた。特にマーリンからは何かと弄られてるっぽいし、あまり苛めてやるなと一応の釘を差しておいた。

 

で、自分としてはマーリンよりも山のじっちゃんが来てくれた事が個人的には驚きだった。彼は歴代山の翁の中でも初代という事もあり、他のハサン(山の翁)とは色んな意味で一線を画している。

 

そんな初代様が来るものだから、他のハサンの人達の動揺ぶりはヤバかった。呪腕さんを筆頭に、百貌さんや静謐さんは凄まじく緊張していた。まぁ、それも仕方がないのだろう。彼等にとって初代様はローマ勢にとっての始祖さんみたいなモノ、畏まるのは当然と言えた。

 

 そんなガチガチに緊張している彼等の前で、初代様を山のじっちゃんなんて呼ぶのは、流石に気安さが過ぎたらしい。普段は温厚な呪腕さんが割と本気で怒ってたし、百貌さんは激昂し、静謐さんは半泣きしていた。

 

そんな彼等をじっちゃんは構わないと言い、自分のじっちゃん呼びを受け入れてくれた。流石はキングハサン、懐の深さもキングクラスである。

 

で、その後は山のじっちゃんの監修の下で、瞑想の修行に付き合って貰う事にした。極化に至る“兆し”へ自分を押し上げてくれたのは、他ならぬじっちゃんによる稽古のお陰だ。

 

極化をより精錬なモノにする為には、より自分の内へ意識を集中させるのが鍵となる。山のじっちゃんが監修してくれれば、その集中力も増すのではないかと考え、自分は隙あれば斬られる事も厭わないと言い切り、じっちゃんに修行の手伝いを申し込んだ。

 

返ってきたのは快諾の一言。召喚されて間もないのに、それでも自分の我が儘に付き合ってくれるじっちゃんに感謝しながら、自分達は格納庫にある以前にも使用したトレーニングの為に造った重力室に向かった。

 

 今回は瞑想が主なメインなので重力制御はカットし、明かりも消して環境をあの山の翁の霊廟に近付ける。視覚が封じられ、前後左右が分からなくなるまで目を閉じて座禅を組むと、自分でも不思議な位に成る程集中出来た気がした。

 

座禅の最中は何も考えないようにしていた為、特に書き記せるモノはないが、山のじっちゃんが監修してくれているお陰か、死と言うものをかなり身近に感じる事が出来た。

 

これに恐怖を抱かず、ありのままに向き合いながら意識を自身の内へ集中させる。今回は例の鋼の戦士達を垣間見る事は無く、瞑想は無事に終わった。

 

 その後、ロマニからの通信を合図に本日の鍛練を無事に終わらせた自分は、じっちゃんに礼を言い、重力室を後にする。喚び出されたばかりにも関わらず、鍛練に付き合ってくれた初代様にはやはり頭が上がらない。

 

そして、晩飯時という事で食堂に戻ってみたら、何故かじっちゃんに鍛練を付けて貰っていた事がバレてしまい、シドゥリさんに叱られてしまった。

 

今度は危険な修業をする時は予め第三者に言うようにと、そう固く約束された自分は、今後シドゥリさんに厳しく目を付けられる事になった。

 

 ………なんでさ。

 

 

 

 

 

 

 

「Ms.シドゥリ。Mr.修司への説得、お見事でした」

 

「ナイチンゲール様。賛美は不要です。私はただ、彼の無茶が目に余ったので、釘を指しただけですから」

 

「えぇ、その通り。彼は時折、私の予期せぬ無茶をする。それを本人がまるで自覚していないのが質が悪い。私や頼光氏、Mrs.茶々も気に掛けていましたから、貴女の様に事前に釘を指してくれる人材が必要不可欠だったのです」

 

「私は、他の英霊の皆様と違い、戦う術がありません。そんな私が無茶をして欲しくないと願うのは烏滸がましい事なのでしょう」

 

「いいえ、それは違います。戦える力がないと言う図式は、必ずしも無能という答えに行き当たるとは限らない。シドゥリ、私は貴女がカルデアに来てくれたこと、とても嬉しく思います」

 

「あ、ありがとうございます」

 

「では、今後のMr.修司の健康面について、色々と話し合っていきましょう。既に先の二人がお待ちです。さぁ、此方へ」

 

「は、はい。宜しくお願いします!」

 

 

 

 

「………成る程、ああやって外堀が埋まっていく訳か」

 

「どうだ贋作者(フェイカー)、あの光景、心当たりがあるのではないか?」

 

「────ノーコメントだ」

 

「いっきし、なんだ? 急に悪寒が……」

 

 

 

 

 

 

δ月γ日

 

 不味いことになった。立香ちゃんがレイシフト中にトラブルに巻き込まれた。

 

現在、自分も現地に向かうために調整中。準備が完了次第、現場へ急行する。事態が事態なのであまり詳しく書く余裕はないが、せめて現地の場所と年代だけは記しておこうと思う。

 

場所は帝都。大日本帝国時代の日本で、時代は昭和20年。1945年、第二次世界大戦後期の─────東京だ。

 

 

 

 





Q,どうしてシドゥリさんボッチを叱ったん?

A,歴代の山の翁の皆様がボッチのやらかしと初代様のヤバさを伝えた結果、彼女の保護者枠の使命が爆発した。

Q,シドゥリさん、結局どんな性能なの?

A,恐らくバフ要因のサポート特化。星は☆☆☆☆。
個人的には王に対して特大の追加バフとかして欲しい。
バスター性能アップとか、もりもり付けて欲しい。

Q,今更だけど、ボッチの身体とか調べてないの?

A,とっくに調べてるんだよなぁ。調べてたなーんも分からないの。どうなってんのコイツ?

それでは次回もまた見てボッチノシ




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