『G』の異世界漂流日記   作:アゴン

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サンブレイク、絶賛狩り中!

さぁ、一狩り行こうぜ!


その173 終局特異点

 

 

 

 これ迄七つの特異点を巡り、何れの空に在った光帯。人類の歴史そのものをエネルギーとして回収し、形成された人類史3000年分の輝き。

 

星の表面を焼き尽くし、魔神王の新たな創世への足掛かりとして生み出された文字通りの人類の結晶、今日まで立香達を見下ろし続けてきた光帯は、たった一人の人間の手によって両断された。

 

白河修司。人類3000年分のエネルギーすらも凌駕し、星すら両断せしめる刃を以て光帯を叩き斬った男は、自身の手から消えていく戦斧を見送りながら、改めてソレへ視線を向ける。

 

「さて、これで一先ずは決着となった訳だが………一応、末期の台詞位は聞いてやるぞ」

 

「──────」

 

 それは、人類悪の一つと称されし者。人類の歴史から生み出される悪意にして、獣を冠する生きた厄災。ビーストⅠ、魔神王ゲーティア。永い時間と労力を掛けて作り上げた光帯が自分ごと両断された事実を前に、左半身を失った魔神王はただただ眼前の光景に唖然としていた。

 

「────分からない」

 

「あ?」

 

「何故、そうまでしてお前達は抗う? いつか終わり逝く命、死という避けられない終わりが生まれた時点で背負わされているというのに、何故お前達は許容する? 納得できる?」

 

結局、ゲーティアにはそれだけが分からなかった。この惑星に生まれた命は例外なく死という終わりを迎え、無惨に死に絶える。誰もが忌避とし、拒絶したいであろう終わりを払拭したい筈なのに、どうして目の前の人間はこれを許容しているのか。

 

白河修司という人間は理不尽を許さぬと断じている。ならば、彼こそがこの事実を許さないと吼えるべきではないだろうか? 死という終わりを、理不尽を許してはならないと、吼えて覆すべきではないのだろうか。

 

 分からない。死という恐怖を知ったからこそ、ゲーティアには分からなかった。そんな獣に修司は呆れながら頭を掻き、溜め息を溢す。

 

「お前さ、さっきも言ったけどさ、本当になんなん? 死という終わり? まさかお前、俺達人間がこの世の全てに意味を以て産まれ、生きているとでも思ってんのか?」

 

「……………………………………………え?」

 

長い、長い沈黙の後から捻り出すように出てきたのは、心の底からの戸惑いの声だった。すべての命には価値があり、意味がある。そんな理論が何処かにはあるのだと、否定しておきながら信じていたゲーティアにとって、その一言は死刑宣告よりも衝撃的だった。

 

「マジか。なんかズレてんな~って思ってたけど、マジでそっからなのか。まぁ、こんな殺風景な所に引きこもっていたんじゃあ、それも無理もない話か?」

 

「そんな、そんなバカな。お前達はそうなんじゃなかったのか!? 無意味に死ぬのが嫌だから、だからこそ己の生に意味を見出だそうとしてきたのではないのか!?」

 

「意味ってのは、そいつが死に際に勝手に見出だすモノだ。それを別の人が受け取り、また次へと繋いでいく。お前は本当、人類の一側面しか見てこなかったんだな」

 

「そんな、そんな………ばかな事が!」

 

「何より、人間ってのは生きていくだけで精一杯な生き物なんだ。自分の産まれてきた意味とか、そんな事を真剣に考えている奴とか、それこそ暇な時しかねぇだろうよ」

 

 人類は、自ら生きてきた意味や価値を求めたりはしない。その事実はゲーティアにとってこれ迄の自分の計画を根底から否定されるモノであり、受け入れがたい話でもあった。

 

信じられない。そう否定したくても、それを拒絶出来るだけの力も説得力も彼は持ち合わせてはいない。当然だ。3000年の間、この玉座に引きこもっていた彼が、修司という正論者を論破できるほどの言葉を持ち合わせている訳がなかった。

 

これでは自分のやってきた全てが、そもそもの意味がないと立証されてしまう。それだけはイヤだと、最期にゲーティアは修司にではなく、立香へ話を向ける。

 

「貴様も、貴様もそうなのか!? 藤丸立香! お前も、人類の存在に意味はなかったと、そう断言するつもりか!?」

 

「え? 私?」

 

 突然話を振られた事に戸惑う立香だが、マシュも修司も止めようとする素振りを見せなかった。何故なら、二人とも彼女の気持ちを知っているから。これ迄の旅を経験し、色んな時代と当時の歴史に振れてきた彼女だからこそ、その言葉は誰よりも重く、浸透するモノだから。

 

「お前は、証明したかったのだろう!? 人類に価値はあると! 無意味に壊される謂れはないのだと! だから今まで戦ってきた! そうだろぉっ!?」

 

「え、えっと………」

 

必死に、すがり付く様に捲し立ててくるゲーティアに、立香はちょっぴり引き気味だった。そりゃあ、勝手に自分の生きてきた世界を燃やし、帰りを待つ家族や家を失くしてくれたのは腹が立って仕方がないし、なんなら今も一発殴ってやりたい位には、腸が煮え繰り返る思いだ。

 

けれど、それは人類の歴史の価値とか、意味の為という訳では決してなく……。

 

「─────私は、ただ生きたいと思った。ただ、それだけだよ」

 

「────────」

 

だから、彼女の口からそんな当たり前の言葉が出てくるのは、当然の事だった。

 

「生きたいと思った? そんな、そんな事のために?」

 

「いや、私この世に生を受けてまだ20年も経っていない小娘だよ? 今を生きるだけで精一杯なのに、人間の意味とか価値とか、そんな事考える余地なんてあるわけないでしょ?」

 

 ゲーティアは、今度こそ何もかもを失った。自分に人類の歴史の価値や証明の為に戦っていたのだと思われてきた少女は、最初からそんな事など微塵も考慮してはいなかった。

 

彼女の根底にあるのは、生への渇望。それは生きる人間であれば誰だって抱く思いであり、それを覆してまで叶えたい願いなんて、この場にいる誰もが持ち合わせてはいない。

 

「人理を………守ってすらいなかった、か。なんと言う頑なさ、なんと言う救いようがない………救う必要のない命。これが、人間か。ハハ、ハハハハハハ!」

 

呆れ、諦観、憐憫の獣はそもそも人類に救済は必要なかったと今更ながらの結論に至り、笑いながらこれを受け入れた。

 

結局、自分のやってきたことは何もかもが無駄だった。けれど、何処か満ち足りた様子のゲーティアは、消滅の間際に一度だけマシュへ視線を向け。

 

「凄いな。人類」

 

 最期に、人類(マシュ)に向けてその言葉だけを残し、光となって消えていった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「魔神王ゲーティア、消滅を確認。我々の、勝利です」

 

 静寂に満ちた空間に、マシュによるカルデアの………ひいては人類の勝利が宣言された。通信を介して、カルデアのオペレータースタッフ達の怒号にも似た歓声が聞こえてくる。正直鼓膜が破れるかと思われる程の声量だが、今ばかりはそれを咎めるのは憚れた。

 

勝った。始まった当初から敗北を余儀なくされていた自分達が、たった一人の犠牲も出さずに此処まで来れた。その事実に立香は達成感と疲労感で倒れそうになるが、それをグッと堪える。

 

自分よりも、誰よりも、疲弊している人が今も立っている。なら、そんな彼よりも早く倒れるのは彼女の意地が許さなかった。

 

「修司さん、お疲れ様」

 

「おう、立香ちゃんもお疲れ、此処まで良く頑張ったね」

 

 彼の髪が元に戻る。逆立った金髪は元の紫色へと戻り、その瞳も黒色に変化している。それが彼自身の戦いが終わった事を意味している様で、立香も自然と肩の荷が降りたような気がした。

 

「私は別に何もしてないよ。私はただ、マシュの後ろにいただけだよ」

 

「ですが、そんな先輩の手に支えられたから、私は最後まで諦めずに立ち続けられました」

 

自分は最後まで何も出来なかったと語る立香に、そんな貴方だから立ち続けられたのだと、マシュは付け加える。戦いとは、何も修司の様に前に出るだけを言うのではない。戦っている者、守る者、彼等を支えるのも一つの戦いだと言えよう。

 

犠牲のない結果を掴み取れたのは、一人の力で成し遂げられたモノではない。最後の最後、終わりを迎える迄のその一瞬まで、諦めたくはないと抗った彼女がいたからこそ、全員生存と言う最上を越えた極上の未来を手に入れることが出来たのだ。

 

だから、それ以上立香は自らを卑下する様な事は言わない。自分がいたからマシュも自分も死なずに済んだ。その事を噛み締めながら笑い、これを受け入れた。

 

「さて、俺達もそろそろ帰ろうか。此処から少し離れた所にグランゾンを停めてある。あれに乗ればカルデアまでひとっ飛びだ」

 

「おぉ、あのスーパーロボットに乗れるんだ! なんだか楽しみ!」

 

「に、人数的に大丈夫なのでしょうか?」

 

 戦いも終わり、いよいよカルデアへの帰還が始まる。ただ、いつまでも帰りのレイシフトが始まらない事から、もしかしたら今回は直接帰らないといけないのか。

 

それならば、相棒であるグランゾンに乗っていけばいい。少々手狭かもしれないが、これが最後という事で我慢してほしい。盾を消したマシュが、改めてカルデアへ報告の為の通信を入れた────その時。

 

空間が震撼し、特異点全体が揺れ動いた。

 

「もしかして、これって…………」

 

「あぁ、所謂お約束ってヤツっぽいな」

 

 周囲の大地が崩壊していく。ゲーティアという核を失い、存在の楔を保てなくなった冠位時間神殿は、時間と共に崩落を開始する。

 

『マシュ、立香ちゃん! そして修司君! たった今此方で計測した! 其方の特異点が完全に消滅するまでおよそ後20分、急いでカルデアの回収域まで後退……いや、脱出するんだ!』

 

通信越しから聞こえてくるロマニの声、予想通りこの特異点が崩壊する旨を伝えられた一行は、短い時間制限の中にも関わらず、大して余裕を崩さずにいる。

 

「20分もあれば余裕だ。此処からは無茶な事はせず、安全第一で戻るとするよ」

 

そう、白河修司は空を飛べる。数多くの英霊神霊と戦い、経験を積み重ねてきた彼が、今更少女二人を抱えて飛翔するなんて訳はない。20分もあれば余裕だと豪語するのは、誇張でも何でもない唯の事実。

 

さぁ、とっととこの特異点から脱出し、カルデアへ帰ろう。そう、二人の下へ歩み寄ろうとして───。

 

「…………へ?」

 

 ペタンと、尻餅を着いた。

 

「あ、あの?」

 

「修司さん?」

 

 突然、落ちるように地に座る修司に立香もマシュも唖然となるが、誰よりも驚いていたのは修司自身だった。これ迄の戦いで今の彼に負っているのは光帯と撃ち合った際に出来た火傷位で、それ以外に目立った裂傷の類いは見当たらない。

 

なら、何故彼は力なく座り込んでいるのか。まさか、あのデタラメな力による代償が、今このタイミングで支払わされてしまうのか。魔術世界の中で代償というものは大きく支払われるモノ、一体彼はどんな代償が支払われるのかと、マシュは一瞬顔を青ざめ────。

 

“グゥゥゥゥゥ………”

 

スンッと、真顔になった。

 

「は、腹………減った」

 

 口から絞り出すように溢れるのは、空腹を訴えた一言だった。立香はなんだそりゃとコケそうになるが、修司本人は割りと洒落にならない。何故あの戦闘民族の主人公達が彼処まで健啖家なのか、その理由を何となく修司は理解した。

 

「ご、ゴメン二人とも、ちょっと動けそうにない」

 

「え、ちょ、大丈夫なんですか?」

 

自力で立ち上がろうとするが、空腹の所為か膝に力が入らない。あれ? もしかしてこれはヤバい状況なのでは? 直ぐ其所まで崩れる特異点の大地を前に、三人は表情を青ざめ………。

 

「と、兎に角急いで脱出を!」

 

「あーん! 最後の最後にこんな展開ィーッ!」

 

 疲れ果てた自分の体に鞭を打ち、マシュと立香は肩に修司を担いで脱出劇を敢行する。人類悪の一つを屠り、一先ずの決着を着けた彼等に最後に訪れた試練は、崩壊していく時間神殿から逃げ出す事だった。

 

 

 

 

 





次回、第一部最終回

『青空』

それでは次回も、また見てボッチノシ







オマケ“いつか、果たされた未来で。”

「あーあ、またこの日が来ちゃったよ。あのムチャ振り王様の忘年会。毎年芸と評してその年の成果を見せに来いとか、これ立派なパワハラ案件じゃね?」

「そう言うなよ慎二、お前の所は毎日凄い結果を出しているじゃないか。お前なんだろ? 去年サイコフレームって物質で出来たモビルスーツを完成させたのって」

「僕がやったのは組み立てに趣向を凝らせただけ、基本的な構築概念は全部修司の受け売りさ。しかもたった一機のみ、僕が一機組み立てている間、アイツは四機もロールアウトさせてるんだぞ? 化け物だよ、ったく」

「それでも大したもんだろ。水陸両用、変形すれば空も行けるし、何なら単機で宇宙にも行ける。それだけのモノを一人で組み上げたんだ。あの王様も誉めてただろ?」

「だからこそ、余計に今年が憂鬱なんだよ。アレを越える成果とか、そんなポンポン出せる訳ねーだろって話、因みに衛宮、お前は何か出来た?」

「出来たと言うか………面倒見ていた孤児院の子が、最近逆上がりが出来るようになった、奴とかかな」

「いーなー、あの王様って意外と子煩悩だから、そう言うので許しちゃうんだよなー。あーあ、俺もそっちが良かったなー」

「こら、冗談でもそう言うモノじゃないぞ。……って、あれは修司か。アイツももう此方に来てたんだ」

「お前、ここ二年くらい姿を見せてなかったよな? なんだぁ? もしかして何も発表できる成果がなくて泣きを見てるのかぁ?」

「おい慎二! ……でも、本当に久し振りだな。一体今まで何処で何をしていたんだ?」

「超サイヤ人になれるようになりました」

「「────なんだって????」」






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