『G』の異世界漂流日記   作:アゴン

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修正しました。


その171 終局特異点

 

 

 

フハハハハハハ! あの戯けめ、とうとうそこまで手を伸ばしたか! 我が臣下ながら、何処までも欲深い男よ!」

 

 冠位時間神殿。魔術王ソロモン改め、魔神王ゲーティアが人理焼却の為に最初に造り出した特異点。時間と空間から断絶され、通常とは異なる世界の果てにて、英雄王は腹を抱えて笑う。

 

黄金の舟ヴィマーナ。空を飛翔する玉座の下には、特異点の大部分が消滅し、魔神柱相手に奮戦していた英霊達も、あと数人残すばかりとなった。

 

あと僅かの時間で決着は付けられる。その際に成し遂げた己の臣下のぶっとび具合に腹筋を破壊された英雄王は、空想すらも現実へ撃ち落とした修司に向けて心からの称賛を送る。

 

 しかし……。

 

「さて、我が臣下が相変わらずデタラメなのは良いとして─────貴様から見てどうだ? 奴は今の貴様から見て尖兵足り得るか?」

 

王の玉座から離れた空間に、その男はいた。その顔に蒼い仮面を張り付け、白の外套に身を包んだその佇まいはどこか異端的で、その男は言葉に出来ない程に“浮いていた”。

 

「さて、それはどうでしょう。見た所、彼はまだそこへ至ったばかり。その身に“◼️◼️”を宿したばかりでは局地的に奮うだけで精一杯でしょう。我等の席に並ぶには依然として足りないものが多い」

 

「ふむ、成る程な。では、貴様から見てあの姿はなんと見る? 間違った進化とは思わぬのか?」

 

その場の雰囲気、空気から浮いているのではなく、世界そのものから浮き出ているような錯覚。ある種の超越然とした仮面の男のその佇まいに、千里眼を持つ英雄王は見定める。

 

 未来を見通す英雄王の千里眼。しかし、その冠位足り得る眼を以てしても、仮面の男の姿を捉えることは敵わない。無自覚に垂れ流す彼の微弱な力が、ありとあらゆる力を断絶さてしまっている。

 

「シンカの行く末に間違いなどは存在しませんよ。あるのは、至った果てに自身が後悔しないか否かの感傷だけ。敢えて言うとするならば…………ちょっと、羨ましいですね」

 

 遠巻きからでも目に出来る黄金の炎、あそこでは一つの決着が付けられようとしている。人の空想を自らの理にして、自身の新たな可能性として発現させた修司に、その仮面の男の男は何処か羨ましそうに見つめていた。

 

「どのみち、今すぐ彼をどうこうしようなんてつもりはありません。我々の所に辿り着くにはまだまだ時間が掛かりそうですし、何より彼には自由意思がある。それを無視して取り込もうとする輩は、私達の中にはいませんよ」

 

「ふん、小賢しい。素直に言えば良かろう? あの程度では、貴様等の域には届かないと、至ったばかりの雛鳥に期待などする道理はないとな」

 

「───否定は、しません」

 

紅い眼を細くさせ、僅かに怒気を滲ませる英雄王に、仮面の男は臆することなく断言する。確かに今の修司は強い。並大抵の相手では歯が立たないし、これから待ち受ける数々の災厄に対しても、彼ならば充分に戦っていけるだろう。

 

ただ、それでも彼が自分達の所まで辿り着けるのかと言われれば………難しい。自分という理を生み出し、掌握して見せても、極め続けていなければ意味がない。そう言う意味では彼はまだまだ発展途上であり、同時に可能性が満ち溢れているとも言えるだろう。

 

「ともあれ、これからですよ。今後彼が其処まで至れるのか、それとも道半ばで諦めるのか。決めるのは彼自身です。………個人的には、後者の方をオススメしたい所ではありますが」

 

「無理であろうな。奴は白河修司、不条理と理不尽を排斥し、許さぬと断じる奴は同時に進み続ける進撃の人間でもある。それは他ならぬ貴様等こそが理解できよう」

 

「─────」

 

「あまり、我の臣下を侮るなよ?」

 

 不敵に笑みを浮かべる英雄王に、男もまた仮面の奥で笑みを浮かべる。何れにせよ、この先の道を決めるのは彼自身。部外者である仮面の男に出来るのは、せいぜいその成長・シンカを“外の領域”から観測するだけ。

 

「………ま、それは良い。奴が今後どうするかは奴自身が決めることよ。それはそれとしてな」

 

「?」

 

「いい加減、遠すぎる! 幾ら何でも謙虚に過ぎるぞ!」

 

 先程までの緊迫した空気は霧散し、今度は場違いな程のグダグダな空気が蔓延し始めた。怒鳴り、身を乗り出すように玉座から視線を向ける英雄王の先には、豆粒のように小さく遠ざかった仮面の男が佇んでいる。

 

「いえ、私は此処で結構です。偉大なる黄金の英雄王の近くに寄るなど、いちファンとして許されませんから」

 

「我が気になると言っているであろうが! と言うか貴様、どうやってその距離で声を届かせているの!? 我的にそっちの方が気になるのだが!?」

 

明らかに声が届く距離ではないのに、現実として仮面の男の声は英雄王に届いている。が、端から見れば英雄王が独り言を溢しているような光景、如何に傲慢で知られる英雄王と言えど、痛い者を見る目で見られるのは我慢できなかった。

 

「いいからもそっと近くへ寄らぬか! これでは我が道化よ! 我に畏れ敬うのも結構だが、過ぎれば毒になると知れ!」

 

「いえ、貴方は全ての英霊の頂点に立つ英雄王。たかがいちボッチの身である私には、剰りにも過ぎた栄誉です。あ、でも出来れば後でサイン戴けません? 彼等に自慢したいので」

 

「面倒くさッ! そして図々しいな貴様!? 謙虚なのか豪胆なのか、どっちかにせんかッ!」

 

なんやかんやあって、結局は戦いが終わるその時まで一緒にいた仮面の男はその後、サインと英雄王とのツーショットをGETするまで、観戦を楽しむのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「─────ん?」

 

 遠くから感じた僅かな気配。大きいような、薄いような、不透明で嘗て感じた事の無い不可解な気配を感じ取った修司は、一瞬の一瞥を其処へ向ける。

 

意識を集中させて感じた気を分析しようとするが………既にその気配はない。逆探知を仕掛けた此方に気付いたのか、それともその気配の相手はこの領域からは撤退したのかは定かではないが、視線の先に黄金の英雄王が健在している事から、一先ず悪意を持った相手ではないことを察し、視線を前へと戻す。

 

「修司……さん?」

 

「その、お姿は……?」

 

「おう、二人とも怪我はないな?」

 

 声を掛けてくる立香とマシュに、修司は前を見据えたまま応える。本来ならばちゃんと向き直って話をしてあげたい所だが、生憎と其処まで悠長には出来なかった。

 

目の前にいるのは人類を歴史ごと焼却せしめた怪物、人類悪の一つとして数えられる獣、ビーストⅠこと魔神王ゲーティアが、此方を睨んでいる。今にも食って掛かってきそうな相手を前にして、あまり無駄な時間は掛けられない。

 

仮に隙を晒して余りある実力差があろうと、護るべきモノが背後にいるのなら、修司の内から油断というモノは消え失せている。────それになにより、今の修司は酷く高揚している。早く戦いたい、早く目の前の敵を倒したい。その様な闘争本能を抱いたまま二人に話し掛けてやれる程、今の修司の我慢は長くない。

 

 出来るのは、視線で無事かを確かめるだけ。闘争本能が増大され、普段より鋭くなった修司の目付きに、立香は見るからに狼狽えるが、翡翠色の奥にある彼の変わらない優しさを確認できた彼女は、マシュの体を抱き寄せて頷く。

 

それを目の当たりにした修司もまた、笑みを浮かべる。相変わらず凄い子達だと、世界を焼き尽くす程の光を前にして立ち向かった二人の少女に心から称賛の念を抱くと、未だに立ち尽くす魔神王に向けて一歩踏み出していく。

 

「倒す、倒すだと!? たかが猿が、この私を倒すと宣ったか!? 度し難いにも程がある!」

 

「どうした、声が奮えているぞ? 自慢の光帯が破られ、今更ながら怖じ気づいたか?」

 

 依然として、ゲーティアは顕在している。光帯の一撃で上着は焼け落ち、身体中至る所に火傷を負っている修司に対し、魔神王は未だに無傷のまま。

 

それなのに、魔神王の暗い双眸の奥には明らかな狼狽の気が滲み出ている。星すら貫く光帯、防ぐものなどこの世には存在しないと断言されてきた彼等の第三宝具が、嘘の様に掻き消された。

 

人類史3000年分に及ぶ極大のエネルギー、その熱量すら凌駕するエネルギーが、たった一人の人間から放出される。その事実と意味を前に、ゲーティアは震える事しか出来なかった。

 

(震えている、だと? この私が、目の前の、たった一人の人間に、臆していると言うのか!?)

 

 自らが震えていることを自覚出来ていなかったゲーティアは、修司の一言によって認識する。そう、他ならぬ魔神王は、恐怖していた。

 

いつから? それはきっと、初めて相対した第四の特異点から。己が眷属であり、自身の一部である魔神柱があの蒼い魔神の力で片手間で蹂躙されてから、彼の内に【恐怖】が刻まれていた。だが、今日までゲーティアはそれに気付くことはなかった。

 

何故なら、これ迄3000年もの間に彼は拠点である時間神殿に引きこもったまま、故に自らに恐怖という感情が生まれている事にも気付けず、今まで自覚する事が出来なかった。

 

 手足が震える。此方に向かって一歩ずつ近付いてくる黄金の炎を纏う修司に、魔神王ゲーティアは前進も後退もできないまま、ただその場で立ち尽くす事しか出来なかった。

 

怖い。人間とは、人類とは、激昂すれば此処まで恐ろしく成れるモノなのか。己の内に溢れでてくる感情に翻弄されながらも、それでも魔神王は拳を握り締めるのを止めなかった。

 

自分は、世界をやり直す。この世に蔓延るあらゆる悲劇を失くすために、今ある歴史を焼却し、新しい歴史を創造させる。その為に此処まで来た。その為だけに、自分達は存在した。

 

だから、喩えこの身が恐怖で震えようとも────!

 

「どうした? 間合いだぞ」

 

「ッ!?」

 

 気付けば、既に奴はゲーティアの手が届く所まで来ていた。その顔を不敵な笑みで歪ませ、明らかに侮った様子でその翡翠の双眸を向けている。露骨に見下されていると察したゲーティアは、恐怖の感情を怒りで振り切り、握り締めた拳を彼の顔面に叩き付ける。

 

「この、痴れ者がァァッ!!」

 

打つ。人を、英霊すらも殺し得る一撃を、ゲーティアは一切の加減なく打ち込んで見せる。この様な辱しめは認めない、こんな屈辱は認めない。黒き叡智に触れ、“外”や“裏”とも違う別世界の理を知ったゲーティアは、星のやり直しという大偉業と自身のプライドに懸けて、目の前の修司を殴り殺さんと拳を奮う。

 

周囲の大気を揺さぶる程の豪撃。恐怖や怒りという人間らしい感情を自覚しても、尚魔神王の力は凄まじい。星の歴史を焼却し、新たな極点に挑む者。魔神王ゲーティアの意地の込められた殴打の押収は、無防備な修司の体を何度も打ちのめし……。

 

「─────こんなもんかよ」

 

「ッ!」

 

「フンッ」

 

「ッ!!??」

 

 返し刀で返される修司のパンチの一発で、両膝を着いて崩れ落ちる。彼の放った拳はゲーティアの腹部に深々とめり込み、その衝撃は背中へと突き抜けていく。

 

人間を進歩のない猿と侮り、見下していたゲーティアは、その一撃の衝撃で一切の思考を断絶させられ、地を這う様に踞ってしまった。

 

「が……あ、がは……」

 

「軽ぃんだよ。テメェの拳は、見掛けばっかりで中身が全く伴ってねぇ。ヘラクレスの拳に比べたら、拍子抜けも良いとこだ」

 

 拳一つを受けただけで地に這いつくばって呻くゲーティアに対し、何十発も受けておきながら平然としている修司。両者の間には隔絶した力の差が存在していて、奇しくもそれはこれ迄魔神王が人類を見下していた構図と逆転していた。

 

ヘラクレスと比べたら、お前なんて大したことはない。罵倒ではなく、事実としてそう断言する修司に、ゲーティアは再び言葉に出来ない憤りを覚えた。

 

「貴様、貴様ァッ! そんなにも私を貶して楽しいか! 其処までして私を辱しめたいか!? そこまで、其処までして、お前は私をゴブァッ!?

 

 未だ痛みと衝撃の収まらないゲーティアの腹に、修司の蹴りがめり込んでいく。拳で打ち込められた以上の衝撃を受け、衝撃に負けて吹き飛ぶゲーティアは、己の座っていた玉座を砕きながらも尚吹き飛び、地面に何度も体を打ち付けながら転がっていく。

 

圧倒的。人類悪という一つの巨悪を、彼はたった一人で凌駕している。立香達の後ろに隠れていた(フォウ)は鳴く。自分、いつかはあんなのとガチンコバトルしなくちゃいけないの?

 

「間違えんなよ。これは、お前から仕掛けてきた戦いだ。散々人様を馬鹿にしておきながら、此方が少し煽っただけで激昂するとか、少しみっとも無さすぎるんじゃあないのか?」

 

 踞り、ゲーティアの口元と思える箇所から赤黒い血のような液体が溢れる。痛みと恐怖で打ち震えるゲーティアに対し、修司の態度は何処までも冷淡だった。

 

「そら、まだお前の全力は出してないんだろ? 出せよ。得意の召喚術式とやらで、テメェの傘下の魔神柱どもを残らずこの場に喚び出せよ」

 

魔神王と魔神柱達の関係性は、グランゾンのスキャニングを通して既に把握している。コイツらは群にして個、たった一柱だけでも生き残っていれば無限に増え続けるタケノコの様な生態系。先の空間では土台となっている空間ごと破壊した為、魔神柱が新たに生えてくる事は無い。が、依然としてゲーティアは存在している。

 

奴がその気になれば、此処に大量の魔神柱が喚ばれる事になる。煽りに煽る修司に怒髪天を衝く勢いで怒りを充満させていくゲーティアは、望み通りにそれを下した。

 

「死ね、死に絶えろ人類史! 未だに生に根付くその醜き在り方ごと、粉々に打ち砕いてくれるわぁっ!」

 

 雄叫びと共に顕れる魔神柱。その数は総数千に至る。削られ、破壊され、分身達が駆逐されても尚、ゲーティアには只では折られない気概があった。

 

自分は負けない。負けられない。負けるわけにはいかない。自分の行うべき使命に駆られたゲーティアは、顕れた魔神柱全てにたった一人の人間を殺せと命じる。

 

 おぞましい魔神の目が、修司ただ一人に向けられる。おぞましき人類悪、千にも昇る魔神の軍勢を前に、修司は以前と変わらない堂々とした振る舞いで佇み………その手に、力を宿らせる。

 

黄金の炎と光を手刀となった右手に収束させ───。

 

「エクス─────カリバー!」

 

左から右へ、横に線を引くように振り抜かれた手刀は、千に迫る魔神柱を一柱も残さず一閃に両断し、その悉くを塵へと還していく。

 

「ば………かな」

 

 翡翠の双眸に射抜かれて、今度こそゲーティアは後退った。恐怖を自覚し、怒りを捩じ伏せられ、分身達を鎧袖一触された魔神達の王。自分に出来る全てが悉く蹂躙される様を目の当たりにしたゲーティアはこの時、初めて許しというモノを乞い、そして願った。どうか、この質の悪い悪夢を終わらせてくれ。

 

しかし、残念ながらその悪夢を始めたのは他ならぬゲーティア自身。今更、そんな道理は通らない。

 

「もう、遅いぞ」

 

「ッ!?」

 

「お前は、既にその線を越えた。幾らでもやり直しは出来たのに、何時だって結末を変えられたのに、それを頑なに拒んだのはお前自身だ」

 

「テメェが俺に怒りを抱いている様に、此方はとっくに振り切ってるんだ。今更、後悔してるんじゃねぇぞ、ゲーティアーッ!

 

 炎が噴き出していく。天に迫り、周囲を照らす黄金の炎。

 

今更、ゲーティアは気付いた。自分は、自分達は敵に回してはいけない奴を、敵にしてしまったと。

 

 






次回、光帯◼️◼️

それでは次回もまた見てボッチノシ



以下蛇足。

ふと思い付いたタイトル。

Lostbelt No.1
永久凍土帝国アナスタシア~とびっきりの最巨像VS最強~

Lostbelt No.2
無間氷焔世紀ゲッテルデメルング~龍拳爆発! 俺がやらなきゃ誰がやる!~

Lostbelt No.3

人智統合真国シン~激突!100億パワーの戦士たち!~

取り敢えずこんなん思い付いた(笑)

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