『G』の異世界漂流日記   作:アゴン

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済まない。総数400話に到達した為か、無駄にはっちゃけてしまった。済まない。

でも後悔してない!








その170後編 終局特異点

 

 

 

 広大に広がる宇宙(ソラ)の世界に一筋の光が走る。魔術王改め魔神王ゲーティア、彼奴の放った極光は玉座を灼き、大地を抉った。

 

「う………く………」

 

“かめはめ波” これ迄幾度となく自分達の逆境を撃ち破り、立香達に勝利と生存を導いてきた希望の標、それがゲーティアによって模倣されてしまった。

 

何とかジャンヌの結界宝具で押し寄せる光の波を防いだのはよかったモノの、その所為で彼女の保有魔力は底をついてしまった。現界するので精一杯なジャンヌ、旗を杖代わりにしても地に膝を付ける彼女に立香は駆け寄るが……彼女自身の手によって遮られてしまう。

 

自分に構うな。肩で息をして、息も絶え絶えになりながらも、戦う姿勢を崩さないジャンヌの視線の訴えを感じた立香は、意識をジャンヌではなくゲーティアへと向ける。

 

 両の手の付け根を合わせて此方に向けた姿勢のまま維持をし続けるゲーティア、残心のつもりなのか、それとも別の意図があるのか、人間の表情なんてない癖にその顔は何処かにやけている様にも見えた。

 

「────まさか、かめはめ波まで真似てくるなんて」

 

「何がかめはめ波だ。この程度の児戯、魔力放出を用いれば誰にでも模倣出来る。こんなカスの様な術とも呼べぬ戯れに、随分な入れ込み様………人類とは、つくづくどうしようもないな」

 

構えを解き、自身の両手を見つめて口にする言葉は、何処までも人類を下に見た物言いだった。こんな技で何が出来るのだと、模倣し改めて下らないと口にするゲーティアに、立香は自分の事でもないのに悔しく感じた。

 

「下らない。そう言う割には随分とご満悦そうではないか? なぁ魔神王」

 

「イスカンダル大王………」

 

「先程から聞いていればお主、人類を卑下する割には随分と人類に拘るではないか。えぇ? そんなに人類を毛嫌いするのなら、自分の力で叩きのめせばよいではないか。ワザワザ人の技を真似る必要などあるまい?」

 

そんな立香の感情を察したのか、舌戦で捲し立てる隻腕の征服王。自身も片腕を切り落とされてダメージも大きいだろうに、それでもマスターである立香の気持ちを汲んで代弁する大王に、立香は嬉しくなった。

 

そうだ。自分ばかり動揺している場合じゃない、自分はみんなと一緒に戦いに来たのだと、藤丸立香は立ち上がり、ゲーティアを睨み付ける。

 

「フンッ、その程度の挑発に乗ってやる必要もないが………慈悲だ。遊んでやる。そら、これはどう防ぐ?」

 

 立香の眼差しを受け、それを不愉快に感じたゲーティアは力の一部を解放し、握り締めた拳に集約させて力を宿らせる。

 

「マシュ!」

 

「了解です!」

 

あれが何なのか即理解した立香は、マシュに防御の指示を下す。

 

ジャンヌと同じ様に、盾を翳して庇うように立つと両足を曲げて完全なる防御体勢を整える。

 

「ペガサス────流星拳ッ!」

 

突き出された拳から放たれる流星群。盾に打たれる一つ一つの重さから、マシュの顔に余裕が失っていく。けれども負けない、圧されて堪るかという彼女の不倶戴天の想いが、彼女が手にしている雪花の盾に力が宿る。

 

「先輩!」

 

軈て防ぎきり、守り抜いたマシュは即座にマスターである立香に指示を求める。即ち待機か、反撃か。攻撃は他のサーヴァントに任せて立香の元で防御に専念するのか、征服王と太陽王と共に切り込むか、二つに一つという選択肢を前に………。

 

「お願い二人とも、マシュを援護して!」

 

マシュと同様、或いはそれ以上の速度で総攻撃の指示を下す。自分の守りは後回しにしてまで攻撃の選択を選ぶ立香、攻撃処か特攻染みた指示を出す立香に対して、魔神王は何処までも冷ややかだった。

 

 

「あぁそうだ。お前達は何時だってそれを選ぶ。率先して死を選ぶ愚行、負けると分かっていながら繰り返す悲劇。お前達はまるで進歩がない」

 

何故、人類は時に自滅とも取れる選択を選ぶのか。滅びを美しさと捉えるのか? 勝てない相手に挑んで死に、自らを贄とする自己犠牲の精神が尊いモノだと、邁進し、推進するべき宗教だというのか?

 

狂っている。この世界も、お前達(人類)も、悉くが狂い、腐り果てている。一体どれだけ悲劇を積み重ねれば気が済むのか、憐憫の獣であるゲーティアはそれ故に立香達の意図に気付かない。

 

「良いだろう。そんなに死にたいのなら消してやる。他なならぬマスターの命令で、諸とも死に果てるがいい!」

 

 左手を翳し、ゲーティアは自身の背後に魔方陣を展開させ、無数の魔力の弾丸を放っていく。一つ一つが宝具に匹敵する爆撃の雨、一発でも当たれば致命傷は免れない死の爆心地を、マシュ=キリエライトは駆けていく。

 

その目に金色の瞳を輝かせ、眼前の空間を把握したマシュは盾を使って攻撃を受け流し、着弾地点や襲い来る砲撃の雨の中を正面から突破していく。

 

イノベイター(革新者)” 白河修司の治療を受けて新人類とも呼べる存在へと至ったマシュは、英霊であるギャラハットの受け皿となった事も重なり、サーヴァントとも異なる未知なる領域へ踏み入れ掛けていた。

 

それでも、今の自分の状態に疑問を抱ける程の余裕は彼女にはない。ゲーティアの攻撃の対象が立香に向けられる前に、マシュは勝負を付けようと足を進める。

 

 潜り抜け、走り抜き、そして辿り着いた。爆撃の雨の中を駆け抜けて、遂にゲーティアの前に足を踏み入れたマシュは、未だ見下ろし続けるゲーティアに向けて盾を武器として突きだし───。

 

やはり、当然の如く防がれる。その太い腕によって防がれてしまうが、それでもマシュは追い込む力を緩めない。

 

「やぁぁァァァァッ!!」

 

「図に、乗るなぁっ!」

 

 そんな彼女の執拗さに憤りを感じたゲーティアは、振り払うように腕を広げ、マシュを盾ごと吹き飛ばす。吹き飛ぶ彼女に追随するように跳躍し、握り締めたゲーティアの拳には、最早マシュに対する情はない。革新者という言葉に踊らされた憐れな人類の一人として、その拳を振り下ろす。

 

「何処を見ている」

 

そして、そうはさせないと太陽王が威光を示す。彼が有する宝具の一つ、熱砂の獅身獣(アブホル・スフィンクス)。純粋な竜種に並ぶ幻想種が、太陽王の降す命令の下に突撃、マシュの前へと割り込みゲーティアを吹き飛ばす。

 

無限の宇宙を連想させる貌から、太陽の光が降り注ぐ。地を灼き、空間すら歪める光を浴びて、それでも魔神王に揺らぐ様子はない。流石に硬いなと舌を打つ太陽王の横を、戦車(チャリオット)が駆けていく。

 

「Aaaaaarrrrrraai………!!」

 

熱がダメなら雷、雷光を纏い突撃を繰り出し、天を駆けていくその様は逸話伝承に語られる征服の進撃そのもの、猛牛の突進を受けて、それでも堪えた様子のないゲーティアに、征服王は天を舞い続けるのを止め、地に向けて戦車ごと叩き付けた。

 

特異点全体を揺さぶるような震動、これ迄の相手なら大きな痛手になる筈の一撃、決死の覚悟で挑んでくれたサーヴァント達を前に、立香は逃げることなく見据える事しか出来ない。

 

これで一定のダメージを受けていることを願う立香だが、その希望は無惨に砕かれる。舞い上がる砂塵から吹き飛ぶように現れる征服王、彼の体をマシュが受け止めた。

 

「征服王、ご無事ですか!」

 

「安心せい、ただ蹴飛ばされただけよ。しかし、流石に手強いな。今のは余に出せる最高の一撃、なのに……奴め、まるで意に介しておらん」

 

 砂塵の中から現れる無傷不変の魔神王、自身に降り掛かる埃や塵を鬱陶しく払い落としながらも、その肉体には僅かな掠り傷も付いてはいない。

 

これがビーストⅠ、最初の人類悪にして人間に牙を剥く獣の力。姿大きさはティアマト神とはまるで違うというのに、発せられる圧は引けを取らない。

 

それでも、自分達は負ける訳にはいかないと、藤丸立香は強く見据える。自分達がやらなければならない、そう気持ちと決意を固めながら、今一度皆に魔力を回そうとして……。

 

「ここまでだ。貴様等の遊びに付き合ってやるのは」

 

それは起きた。

 

「っ、これは!?」

 

 サーヴァントであるジャンヌを始めとした英霊達が、魔力の素となって消え始める。それは特異点を修復した際に何度も目の当たりにした退去によるサーヴァントの送還現象、人理焼却の元凶は未だに打ち倒せていないのに、どうしてこの様な現象が起きるのか。

 

ジャンヌは疑問に思い、同時に確信に至る。自分達が今相手にしている人類悪の一つであるゲーティアは、元は魔術の王であるソロモンの内から顕現した存在、魔術王ソロモンは召喚術式に長けた王だという、その逸話が事実であれば、自分達が消えかけている理由は一つしかない。

 

「既に、カルデアからの召喚術式は把握している。私は魔術王ソロモンの内より顕れし人類悪、人類程度の召喚術式など、とうに解析し解明し終えている」

 

「…………」

 

「あくまで“座”にではなく、カルデアへの送還だが、それでも貴様達が再び召喚される事はない。何故ならその頃には全てに片が着いているからだ」

 

 嗤いながら見下し、蔑んでくる魔神王に征服王は珍しく悔しさを噛み締めながら特異点から退去していく。最後に仕掛けるつもりだった太陽王も、反撃虚しくカルデアへ強制送還され、ジャンヌもまた消えようとしている。

 

せめて、せめて彼等に何かを残さなければならない。言葉でも、何でも、自分達を抜きにして戦わなければならない立香達に、ジャンヌは何かを言い残そうとして………。

 

止めた。何かを言い残して思考を巡らせていた聖女は、未だ諦めた様子のない藤丸立香とマシュ=キリエライトを見て、彼女達が既に一人前の戦士だと思い知る。

 

それは、まるで彼の様な………嘗ての聖杯戦争で見せた修司と何処と無く似ていた顔付きに、聖女ジャンヌはアレコレ言うのを止め───。

 

「どうか、ご武運を────」

 

そんな、ありきたりの言葉だけを残して消えていく。そんな彼女の言葉を受け取りながら、改めて立香はゲーティアへと向き直った。

 

「────なんだ? その顔は、まさかこの期に及んでまだ諦めていないのか?」

 

「当然、私とマシュはまだこれっぽっちも諦めていないよ」

 

 既に、魔力は底をつき掛けている。膝は笑っているし、マトモに戦える力なんて立香には残されていない。今の自分が支えているのは根拠のない強がりだけ。

 

マシュも自分もそろそろ限界に差し掛かっている。それでも、負けられないと思う気持ちだけは、未だに折れずにいた。

 

「────奴か。此だけの力の差を見せ付けられても、まだお前達は抗うのを止めないのか。いいだろう、並ば望み通りにしてやる。お前達が無意味に抱く希望とやらを、根刮ぎ燃やし尽くしてやろう」

 

 両手を天高く掲げ、ゲーティアはそれを起動させる。自分達を見下ろす巨大な円環である光帯、そこから発せられる熱量は地球上のあらゆる表面を焼き尽くしてあまりある。

 

………本当は、彼女だけでも認めて欲しかった。人間の都合によって生み出され、人間の勝手で死に絶える。存在そのものを弄ばれた彼女だからこそ、人類を否定出来る権利があった。

 

この惑星は間違っている。神の在り方、人の在り方、命の在り方。この世界は何処までも残酷で、それでいて歪んでいる。

 

こんな、生まれながらにして死に絶える事が確定された生命体に、一体何の価値が、意味があるというのだ。悲しみしか生まない世界、惨劇しか誕生出来ない世界。そんなモノしか生み出せない世界など、消えてしまえばいい。

 

誰もが出来ないというのなら、我々が成そう。人類という旧き種を終わらせ、我々は極点へ至り、新たな惑星を創世させる。

 

故に、一先ずこの場を終わらせよう。人類最後にして最悪のマスターと、何処までも憐れなマシュを一瞥して………ゲーティアは告げる。

 

「第三宝具、展開。惑星を統べる火を以て、人類消滅を告げよう。さらばだ、藤丸立香。さらばだ、マシュ=キリエライト」

 

「お前達の探索は、此処に結末を迎える!」

 

 光帯が光を放つ。人類三千年分のエネルギー、惑星を終わらせ、新たに始める再誕の光。どの歴史に於いても、アレに勝るエネルギーは存在しない。それはつまり……防ぎ様のない、絶対破滅の光という事。

 

つまり、これで自分達はおしまい。どれだけ踠き、足掻いた所でこの決定は覆らないと………。

 

「お任せください! マシュ=キリエライト、行きます!」

 

 当然の如く、彼女は駆け出した。その瞳に微塵も恐怖を抱かず、いつものようにマシュは走り出した。

 

何故なら、自分達の旅は此処で終わりではない。こんなところで立ち止まるモノではない。

 

既に、彼女の内には願いがあった。それがどんなモノなのかはまだ言葉に出来ず、未だに模索してばかりいるが、それでも、こんな自分にも願いがあるのだと、自覚することが出来た。

 

故に、彼女は盾を振りかぶる。叶えたい願いと、通じたい想いがあるから、彼女は何時だって全力で挑み続けるのだ。

 

「マシュ────!」

 

「さぁ、芥のごとく燃え尽きよ。誕生の時きたれり、其は全てを修めるもの(アルス・アルマデル・サロモニス)

 

 光帯から光が溢れる。何もかもを呑み込み、破壊し、終わらせる。正しく終末を前に………。

 

「其は全ての疵、全ての怨恨を癒す我等が故郷。顕現せよ! 今は遥か理想の城(ロード・キャメロット)!!

 

少女(マシュ)は、挑む。これ迄自分が受けてきた全てに感謝を込めて返す為に、変革し、革新の子となった少女は、普通の女の子として……立ち向かう。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「────あぁ、そうか。それが、君の選んだモノか」

 

 白に染まる世界で、遠くのモニター越しで見つめていたロマニは、終わりに抗う雪花の盾を掲げる少女を見て、答えを得たような気がした。

 

人の都合によって生み出され、人間の勝手にその結末を約束された人造人間。人工的に生み出された命であるがゆえに、何もかもに対して希薄で、あらゆる事柄に対して無頓着だった。

 

自分の終わりすらも、事務的に受け入れていた空っぽの少女。そんな彼女が、己の全てを賭して抗っている。命に価値はなく、無意味なモノだとしても、人は生きていける生命体なのだと、これ迄の旅路を経て、嘗て幼かった少女は自分なりの答えと意思を以て、遂に自分の足で立てるようになるまでに至った。

 

 なら、自分も答えを出さないといけない。例え怖くて、恐ろしくても、成すべき事は果たさなければならない。マシュ=キリエライトという少女が、そうしているように………。

 

席を立つ。もうじき燃え尽きる命を前に、ロマニは少しでも彼女達の想いに報いる為に、笑みを浮かべて立ち上がり……止められた。

 

 レオナルド=ダ・ヴィンチ。万能の天才が、ロマニの腕を掴んで離さなかった。何故? 今更そんな人の決意や覚悟に水を差す様な真似をするダ・ヴィンチに、ロマニは純粋に驚くが………モニターに映るそれを見て────。

 

「………あ………」

 

ふと、酷く間の抜けた声が漏れた。なんで? どうして? そんな疑問が浮かぶのと同時に、ロマニはそうだよなと納得した。

 

白に染まる世界の中、何もかもを破壊して溶かす光の中。ロマニも、ダ・ヴィンチも、カルデアのスタッフ一同全員がそれを目の当たりにし、そして─────。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「────良かった。これなら、何とか耐えられそうです」

 

 時間が停止した。そう錯覚してしまう光景の中で少女は笑う。

 

光帯の熱量を防ぐ物質は今の地球上には存在しない。だが、それでも少女は確信していた。

 

彼女の護りは精神の護り。その心に一切の穢れなく、また迷いがなければ、溶ける事も、ひび割れる事もない無敵の城壁となる。

 

故に、こうなるのは必然だった。

 

彼女が護れば、立香は護られる。そして、それの意味するのは────マシュの焼失に、他ならない。

 

地獄の時間が続き、星を貫く熱量を防ぎながら、彼女は想っている。これ迄の旅と、これからの旅を。自分がいた今までと、もう、自分のいない未来の夢を。

 

これ迄自分を形作ってくれた全てに感謝し、その切っ掛けをくれた先輩────藤丸立香に、マシュはずっとずっと恩返しがしたかった。

 

弱気を圧し殺して、少しでも彼女がくれたものを返したくて、踏ん張って、耐えてきて………それでも、足りなかった。

 

 そう。あれだけの旅を経て、あれだけの戦いを経験して、マシュ=キリエライトという少女には何一つ満足していなかった。

 

あの日、あの燃える世界の中で自分の手を取ってくれた先輩、そんな彼女に何一つ返せないのが………堪らなく悔しくて。

 

 そして………やっぱり後悔した。もう一人の恩人である修司にもマトモに返礼出来ず、結局こうなるしかなかった自分の力不足に呆れながら、マシュはごめんなさいと小さく口から漏らす。

 

それでも、この選択に悔いはない。自分の在り方を知り、願いを抱き、夢を追いかけ始めた彼女に怖いものなどある筈がなかった。

 

故に、マシュ=キリエライトは受け入れる。焼却され、焼失していく自分の肉体を感じながら、それでも立ち続けることを誓って………。

 

「まだだよ。マシュ、言ったでしょ。私達は、全然諦めていないって」

 

「───先、輩」

 

 嗚呼、やっぱりそうだ。この人は、臆病で、平凡で、魔術師ですらない普通の女の子の筈なのに、それでもやっぱりそれを選んでしまう。

 

自分だって魔力の使いすぎで倒れ掛けているのに、それでもマシュの背中に手を当てて、支えている。

 

初めての特異点、冬木の地で黒き騎士王と相対した時と同じ。彼女は、藤丸立香は、何時だって感情のままに動き、行動している。魔術師としての効率や狡猾さなんて微塵も持ち合わせていない、ただの無鉄砲の善人。

 

けれど、そんな彼女の在り方にマシュは何度も勇気を貰った。立って立ち向かう力を貰った。

 

 嗚呼、やっぱり自分は弱い人間だ。あれだけの決意を固めていたのに、このまま消えていく覚悟だってしていたのに………今はもう、死にたくないという気持ちで一杯だ。

 

「……誰か、お願いです。誰でもいいから、先輩を、皆を………どうか」

 

 

 

“助けて”

 

 

 

 掠れるような声。音も、時間も、この光の前では全てが消し飛んでいく。誰も彼女の叫びは届かない。誰も、彼女の想いは聞こえない。そんな事を叫んでも無駄だと、理不尽が押し寄せる世界の中で………。

 

「当然だ」

 

聞き慣れた、あの人の声が聞こえてきた。

 

「────あ、あぁ………」

 

────来てくれた。

 

「悪い、遅くなった。いやぁ、光の門を潜った所まではいいんだけど、途中で道が途絶えてさ。此処まで文字通り飛んでくる羽目になっちまったよ」

 

 遅くなったけど、何もかもが手遅れに差し掛かったけど、それでも、彼は来てくれた。

 

「修司、さん……」

 

「二人とも、ナイスガッツ。かっこ良かったぜ」

 

立香とマシュ、二人の少女を心から敬意を込めて格好いいと呼び、その頭を撫で回す。

 

「さて、そんじゃ………いっちょやるか」

 

共に戦い、諦めない精神のまま、立ち続けた二人。そんな二人の気持ちを受け取り、修司は一歩前に出る。

 

 マシュの盾より一歩でも外に出れば、そこは消滅の光が待っている。人類の歴史の全てを焼き尽くし、燃料として汲み上げて作り上げた光帯の光、人類史の3000年分の熱量を前に、修司は雪花の前に立つ。

 

熱量が、押し寄せる。皮膚を焼き、血液を蒸発させ、痛みと苦しみが無限に重なって押し寄せてくる。しかし、それでも修司は不敵な笑みを崩さない。何故? 決まっている。

 

────負ける気がしないからだ。

 

「──────かぁ」

 

 両手を突きだし、腰へと落とす。これ迄幾度となく目にし、最近では彼がそれを放つことになんの違和感も抱かなくなった。

 

「──────めぇ」

 

 光を溜める。白に染まる世界の中で、蒼く煌めく小さな星の光。多くの英霊達がカルデアに還されていく中、唯一残った英雄王は、その光景にニヤリと笑みを浮かべた。

 

「─────はぁ」

 

 誰かが言った。一体、何のためにこんな事をするのか。ワザワザ相方である魔神から降りてまで、どうしてそこまでして、こんな決着の付け方に固執するのか。

 

「─────めぇ」

 

 そんなの、決まっている。その方が、正面から理不尽をぶっ飛ばす方が────スカッとするからだ。

 

「波ァァァァァッ!!」

 

 斯くして、それは放たれる。押し寄せる光の中で放たれた蒼い極光は、白に染まる世界で、一筋の流星へとなった。

 

しかし、やはり足りない。人類史3000年分の熱量とやらは、修司の本気の一撃を以てしても、覆る事は敵わなかった。

 

「はは、ハハハハハハハハ! バカが、今更ノコノコ現れて何をしに来た!」

 

 その光景を見て、魔神王は嗤う。滑稽で、みっともなくて、無様。人間の愚かさと醜悪さを来れでもかと詰め込んだ様だと、ゲーティアは嗤う。

 

「そら、お前が遅かったから皆死ぬぞ。マシュも、マスター(藤丸立香)も、カルデアも、何もかもが死に絶える! 何もかもが手遅れになった今、貴様一人に一体何が出来るゥッ!」

 

何処までも人間を見下し、病的な迄に修司を扱き下ろす。幸か不幸か、そんな言葉は修司の耳には届かない。

 

 押し込んでくる人類最大の熱量、これを超えるには今の自分には何もかもが足りなすぎる。ただ限界を超えるだけでは駄目だ。シンカへ至り、“極”となった状態で競り合った所で、それは技の極致で搔き消すだけにすぎない。

 

それでは、奴の鼻っ柱はへし折れない。それでは駄目だ。それだけでは足りない。故に修司が選ぶ道は、何時だって一つだ。

 

限界の、限界を超えて、その………更なる向こうへ。

 

「界王拳」

 

 

 

“────────50倍だ”

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「無駄なことを。とっとと諦めてしまえば楽になると言うのに……。何処までもバカで、救い難い生命体よ」

 

 燃え盛る炎、自らの命を削り、文字通り全てを燃やし尽くす勢いの修司に、魔神王は何処までも冷淡だった。

 

どれだけ不条理に抗おうと、人は運命という絶対からは逃れられない。理不尽に嘆き、努力を積み重ねても、結局人は更なる理不尽に潰される。それがこの世の理であり、絶対の掟。

 

人も、英雄も、神すらも。運命という理には逆らえない。運命に翻弄され、運命によって悲劇は確定したモノとされてきた。覆られないのがこの世界が出来た時に根付いてしまっているのなら、最早その根底から破壊するしかない。

 

故に、魔神王は今日まで準備を進めた来た。あらゆる悲劇を終わらせる為に、全ての惨劇を消す為に、自分は今日まで生き続けた。

 

 さぁ、全てを終わらせよう。未だに踠く醜い人間を、せめて見送る位はしてやろう。そう思いゲーティアは自身の視線を下に下げて………ふと、気付いた。

 

押しきれて………いない? とうに蒸発していると思われた拮抗状態は今も続いている。いや、それどころか押し返されて………!?

 

「黄金の、炎────だと?」

 

 白い世界の中で燃え続ける紅蓮の炎、血の様に濃いその炎は、修司が力を出し続ける度に、輝く黄金へと変貌を遂げている。

 

一体、奴の身に何が起きているのか、それを理解する前にゲーティアの第三宝具、星すら貫く人類の火は………。

 

「だぁぁァァァァァッ!!」

 

限界を無限に超え続ける、立った一人の人間によって────押し返された。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「─────修司、さん?」

 

 何度目だろう。彼の破天荒を間近で目撃し、巻き込まれてきた藤丸立香は、目の前に佇む人物に何度目か分からない驚きの感情を溢す。

 

だって、それはあり得ないからだ。どれだけ人が願い、挑んだとしても、決して叶えられる事はない現実が立ちはだかっているからだ。

 

でも、今の彼はどうしようもなくあの物語の主人公と同じで、何処までも似通っている。偽物や、贋作とは違う。この世界での姿。

 

それはマシュも同じで、きっとAチームを含めた全ての魔術師、全ての人類が知っている空想の形態。

 

そう、空想だ。決して現実には存在せず、ましてや神秘にも残らない。人が生み出した虚像、その………筈だった。

 

 逆立った金髪、身に纏う黄金の炎。その瞳には、進化と革新を現す翡翠色の輝きが灯り、静かに魔神王を見据えている。

 

それは、修司が知る中で最も憧れた姿。当時、理由も根拠も無しに、ただ格好いいとだけで脳裏に焼き付いた情景。それを、修司は負けたくない、勝ちたいという思いだけで、己の内で創り上げてしまった。

 

 空想を掌握し、夢想を踏破し、妄想を凌駕し、理想を超越する。シンカという力を用いて、新たな理を己に刻み付けた。

 

「─────あり、得ない」

 

 魔神王ゲーティア。人類を見下し、憐れみ、蔑んできた魔神の王。そんな彼が初めて、見るからに狼狽え、たじろいだ。絞り出す様な声であり得ないと溢し、濁流のごとく感情を顕にする。

 

「我が第三宝具を、凌駕した? 何の冗談だ。何故そんな事が出来る!! ふざけるなァッ!」

 

人類の歴史、3000年分の熱量、これを超えるエネルギーは存在しない。そんなモノ、()の時代には存在しない。

 

しかし、そんなゲーティアだからこそ気付かない。彼の口にする今が、“既に過去のモノ”となっている事実に。

 

「全が、個に凌駕されるのはあり得ない。なんだ………? 一体、なんなのだ!? 貴様はァァァァァッ!?」

 

 意味が分からない。訳が分からない。魔術的でもなく、神秘でもない。全く知らない未知の力、黒い叡智に触れ、この世界の別の理に触れた筈なのに、それでもゲーティアには奴という存在が理解できなかった。

 

「………俺が何だって? そんなの、とっくにご存知なんだろ?」

 

そんなゲーティアの心情を察したのか、修司は口にする。

 

「俺は人間だ。お前が蔑み、見下し、一方的に憐れんでいた────どうしようもない地球人。偉大な王に認められ、今日まで限界を超え続けて来た。ただの、人間で………」

 

 超絶で壮絶。この場にいる全ての人間の想像を超えて………敢えて言おう。

 

「俺は貴様を、倒すものだ!!」

 

今の修司は紛れもなく、【超】(スーパー)である!

 

 

 






禁忌資料。その◼️◼️◼️

【超】

それは不条理を由とせず、理不尽を許さないと断ずる白河修司が成った姿。

紫色だった髪は金色に逆立ち、その瞳はシンカを体現したエメラルドグリーン。

スキルとして表示するなら、[偽・超化]と表すだろうが、この力の発現は修司個人の◼️極で成し遂げた為、人類の歴史に刻まれる事はない。

尻尾もなければ種族も違う。何もかもが異なるこの世界線の修司が辿り着いた【極】とは別の、可能性の極致。

後に、英雄王は言う。「テラワロスww」

そして、終局特異点のこの映像を目の当たりにしたとある魔術師は訴えた。「修司ばかりズルいぞ!!」


 数多の可能性を抱き、白河修司の飛躍は止まらない。

止められない。


補足事項

【太◼️】

何でも、意思の力で森羅万象全てを操る次◼️力を極めた境地の総称という事らしいが、多くの魔術師達はそんなモノは存在しないと一蹴している。

だって、そんなモノがあるとしたら魔術師(我々)の存在意義が失くなるではないか。







Q,結局、ボッチは超サ◼️ヤ人になったんか?

A,意思と次元力。並びに400話到達という数々の偶然が重なった結果、なっちゃいました。

次元力ってスゲー!


それでは次回もまた見てボッチノシ

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