『G』の異世界漂流日記   作:アゴン

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すみません、切り良くするために前編後編に別れました。


その170前編 終局特異点

 

 

 

「ロマニ、おいロマニ!」

 

「うーん。もう、食べられないよぉ~」

 

「この、ベッタベタな寝言吐いてないで……起きないか!」

 

「ブフゥッ!?」

 

 腹部に走る衝撃と共に、カルデアの室長代理の意識が強制的に覚醒させる。乱暴な起こし方をしてくれる相方(ダ・ヴィンチ)に恨めしそうに見やるのも束の間、意識を手放す直前の出来事を思い出したロマニは、恐る恐る視線をモニターに移した。

 

しかし、其処にはロマニ=アーキマンが予想していた地獄絵図な光景はなく、ただ無限に広がる宇宙が広がっていた。其処にはあのおぞましい邪神や無数に蠢く魔神柱の姿はなく─────時間神殿そのものが、観測していた領域の半分以上が消失していた。

 

その事実にあ然となるが、姿を消したのは奴等だけではない。あの日輪を背負う蒼い魔神(ネオ・グランゾン)の姿も消えているのだ。三体確認されていた内の二体が邪神達と同様に消失し、残った一機は元のグランゾンへと戻り、敢えて残された地に片膝を着いて稼働を停止させている。

 

 状況は相変わらず不明だが、それでも大体は推察出来た。彼が無茶苦茶な方法で転移し、此方に被害が出ない別の所であの怪物達を処理したのだと。間抜けに気を失ってしまった自分を内心で卑下しながら、気持ちを切り替えたロマニは隣で自分の代わりに観測していたダ・ヴィンチへ問い掛ける。

 

「────修司君は?」

 

「君を起こす直前にワームホールから出てきたよ。で、今はあのグランゾンから降りて藤丸君とマシュを追ってあの光の門へ潜った所さ」

 

「そうか、やってくれたか」

 

一先ず、此処でのやるべき事は終えたと、別時空から戻ってきた修司は、カルデア側に碌な説明をしないまま、立香達の後を追って光の門へと入っていった。

 

 残されたグランゾンは、既にその双眸から光を失って物言わぬ置物となっているが、既にその機体の周辺にはインド勢のサーヴァントを中心に防衛の陣が敷かれている。

 

「今、白河修司は藤丸君達の所へ駆け付けている最中だろう。と言うことは、当然今頃彼女達は人理焼却の黒幕と対面している筈だ」

 

「っ! モニターを立香ちゃん達に!」

 

 ダ・ヴィンチの言葉を受けて、ロマニの指示が管制室に響き渡る。彼の言葉を待っていたスタッフ達はその指を滑らせてコンソールを叩き、モニターに映る景色を変える。

 

切り替わった映像、その中に映るのは────

 

「………………」

 

 膝を地に付けて、額から血を流す立香と彼女を庇う盾の少女。

 

彼女と共に決戦の舞台に共に参じてくれた英霊達は地に伏し、彼等を見下ろすその玉座にて…………異形の王が、嗤っていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ────多くの悲しみを見た。

 

 ────多くの悲しみを見た。

 

 ────多くの悲しみを見た。

 

ソロモンは何も感じなかったとしても。私、いや、我々(・・)は、この仕打ちに耐えられなかった。

 

“貴方は何も感じないのですか。この悲劇を正そうとは思わないのですか”

 

『特に何も。神は人を戒めるもので、王は人を整理するだけのものだからね』

 

『他人が悲しもうが(わたし)に実害はない。人間とは皆、そのように判断する生き物だ』

 

 そんな道理(はなし)があってたまるものか。そんな条理(きまり)が許されてたまるものか。

 

そんなモノは不条理でしかない。そんな道理は理不尽でしかない。故に、私たち(われわれ)は協議し、決意した。

 

────あらゆるモノに訣別を。この知生体は、神の定義すら間違えた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「目標、依然健在。先輩、大丈夫ですか!」

 

「うん、なん……とかね」

 

 終局特異点、冠位時間神殿。白河修司の計らいと、多くのサーヴァント達の力を借りて、光の門を潜り、藤丸立香とマシュ=キリエライトは、遂に其処へ辿り着いた。

 

魔術王の玉座。人理焼却を目論み、達成し、自らの野望を次の段階へ進めようとしている人類にとっての絶対的敵対者。七つの特異点を攻略し、魔術王ソロモンの前へと立った立香達は、玉座に座る魔術王に対し、自分達に出来る最大限の攻撃を与えて見せた。

 

征服王は戦車を駆り、太陽王はその威光を力に変え、ジャンヌの守護の守りを受けながら、魔術の王に総攻撃を繰り出した。立ち塞がる見えない壁、宝具の一撃すら防いでしまう魔術王の障壁。ジリ貧となった戦局を変えるべく、立香は自身の礼装に施された杭の一つを解放し、令呪と共にオジマンディアスへ力を託した。

 

そんな彼女の献身を得た太陽王は、自身の宝具を解放して魔術王の障壁を粉砕。見事、奴を玉座から引摺り落とすことに成功した。

 

しかし……。

 

「────お前達は一つ、勘違いをしている。これ迄お前達は我が光帯を、エネルギーを、地球上の何処にも存在しないと宣った。当然だ。光帯は地球を焼却する為に私が用意したものではない。地球の表面(・・・・・)を焼却した(・・・・・)事で得られた(・・・・・・)エネルギー(・・・・・)なのだからな」

 

砂塵の中から現れるのは、人の姿をした魔術王ではない。それは人類に対して底無しの悪意と憐憫を抱く角ある悪魔─────即ち、人類悪(ビーストⅠ)である。

 

「────成る程、つまり貴様はよりにもよって人類そのものを燃料にしたと、そう言う事なのだな」

 

「ッ!?」

 

「ほう、流石は征服王イスカンダル。腐ってもその慧眼は健在か」

 

 立香達の頭上を照らす光帯、それは魔術王が人理焼却の為に使用したエネルギーではなく、人理焼却をした事で全人類から無尽蔵に絞り出し、抽出した代物だった。

 

人間の魂は魔力として潤沢なエネルギーの源になる。それを利用し、現在から過去に至るまでの3000年もの時間の中で、魔術王は地球上に存在するありとあらゆる人類をエネルギーへと変換し、あの光帯を造り上げたのだ。

 

「なら、貴方は一体それだけの魔力を得て何をしようと言うのです! ─────いえ、まさか!」

 

「神託を得たか聖女、然り。全ては私が至高の座に辿り着く為にである。我々はお前達になど期待していない。誰も成し得ないのなら私が行う。誰も死を克服できないのなら、私が克服する」

 

「その傍らで、貴様らは無様に死に絶えるがいい! 我が大偉業の完遂まで、瞬きの余命を惜しみながらな!」

 

「──来ます!」

 

「魔力を回せマスター! 踏ん張り時だぞ!」

 

「うん! 皆、もう一度お願い!」

 

 巨躯が地を蹴る。まるで砲弾の如く放たれたソレは瞬く間に立香達との距離を零にする。振り抜かれる豪腕、触れただけでも分かる濃密な死の気配を前に、立香が咄嗟に避けようとして………。

 

間に合わない立香の体を押し退けた太陽王が、ビーストⅠの震う豪腕を直撃してしまう。

 

「た─────イスカンダル!」

 

「応ッ!」

 

一瞬、吹き飛んだ太陽王に気を向けてしまうが、目の前のビーストⅠを退けなければ自分達に未来はない。襲い来る悪意を前に己の恐怖心に打ち克ちながら、立香はイスカンダルへ魔力を回す。

 

 そんなマスターの叫びに応え、征服王イスカンダルは戦車に乗り込み、ビーストⅠを轢き潰そうと雷を纏いながら吶喊する。並みの英霊であれば触れただけでも致命傷は避けられない一撃、しかしビーストⅠはそんな征服王に避ける素振りも見せず………。

 

その手を手刀に変えて、天に向けて突き出した。

 

その構えに覚えがあった。ビーストⅠから吹き出る力の奔流、それは紛れもなくあの時何度も見た彼の放つモノと同じ───。

 

「征服王ダメ! 避けて!」

 

「ッ!?」

 

「エクス────カリバー」

 

振り下ろされた斬撃は、あの時の修司と全く同じ威力を秘めていた。

 

 ─────間一髪、征服王は戦車から飛び降りた事で直撃を受けずに済んだ。だが、彼の戦車はビーストⅠの放った光の斬撃に呑まれてしまい、征服王の左腕も肘から下が失くなってしまっていた。

 

欠損してしまった自身の左腕、それを目の当たりにしても征服王は動揺を見せず、即座に自身のマントを破り止血に宛がう。そんな彼をクックッと笑いを堪えながら、人類悪は言葉を紡ぐ。

 

「あぁ、そう言えばこの姿で名乗るのは初めてだったな。非礼を詫びよう、カルデアの諸君」

 

「私は嘗て、ソロモンと共に在ったモノ。ソロモンの死を以て置いていかれた原初の呪い。ソロモンの遺体を巣とし、その内部で受肉を果たした“召喚式” 我が名は─────」

 

世界が、震える。頂天にある光帯を軸に時間神殿は顕れる魔神柱によって埋め尽くされていき、立香達の逃げ場を封じていく。

 

「魔術王の名は捨てよう。もう騙る必要はない。私に名は無かったが、称えるならこう称えよう。黒き叡智に触れ、真の叡智に至るもの。その為に望まれたもの」

 

「貴様らを糧に極点に旅立ち、新たな星を作るもの。七十二の呪いを束ね、一切の歴史を燃やすもの」

 

「即ち、人理焼却式─────魔神王、ゲーティアである」

 

 魔神王ゲーティア。それが、人類を歴史ごと焼却し、人類悪の一つとなった獣の名だった。ソロモンの遺体に棲んでいた術式、それが自我を獲得し、数千年の時を越えて人類に牙を剥いた。

 

確かに、その事実は恐るべき事なのだろう。魔術の知識を持っている者ならば、誰もが驚愕するに違いない。だが、立香にとってそれ以上に気掛かりがあった。

 

それは……。

 

「どうして、どうしてお前が───!」

 

征服王の戦車を消し、彼の片腕を奪った手刀の一撃。その一振は確かに彼が繰り出すものの同じで、その鋭さは近くで見ていた立香だからこそ同じものであると確信できた。

 

故に、何故ゲーティアが彼の技を扱えるのか。そんな立香の疑問にゲーティア(ビーストⅠ)は呆れと侮蔑の視線を向けて……。

 

「奴の技を使える、か? 下らん質問だ。たかが人間に扱える技が何故私には使えないと断言できる? 相変わらず浅慮だな。人類最悪のマスター藤丸立香」

 

たかが人類()の技の模倣など、自分には造作もない。立香を人類最悪と扱き下ろし、掃き捨てるゲーティアに彼女の盾であるマシュが黙っている筈がなかった。

 

「やぁぁっ!」

 

「!」

 

 振り抜かれる盾の一撃、牽制の意味も込めたその一振は、魔神王に掠りもせずに空を切る。後ろに飛んで距離を開けた人類悪を前にマシュは立香を庇うように盾を構える。

 

「悲しいな。マシュ、私は君に同情し、憐れんでいた。故に私は当初、君だけは見逃そうとしていた。人間の都合で生み出され、存在そのものを弄ばれた悲しき生命体。そんな君だからこそ、私は私なりの慈悲を示そうとした」

 

身構えるマシュに対し、魔術王の態度は軟化する。人類の都合で生み出され、弄ばれてきた生命体であったマシュ=キリエライト。その彼女の境遇はレフを通してみていたゲーティアにも思うところは合ったのか、語り掛けるその言葉は何処か優しくにすら感じられた。

 

「だが、奴の所為で君は変わった。変革などと言葉に惑わされ、君は純然たる存在では失くなった。残念だよマシュ、嘗ての君であれば私の言葉にも共感出来たと言うのに………」

 

 設定された命。生まれから死ぬ時まで、何もかもが定められた人工の命。そんな彼女だからこそゲーティアは同情し、同時に期待していた。この様な惨劇を繰り返す人類に価値はないのだと、自分に同調してくれると期待していた。

 

しかし、その可能性は奴によって失われた。人工で生み出された彼女の命を、手前勝手な理屈でねじ曲げた男、白河修司。奴の行った人体実験は魔術師達と同じ非人道的な下衆の行いであると、ゲーティアは吐き捨てた。

 

「────それは、違います。違うのです。魔神王ゲーティア、私は自分の命を誰かに預けても、自分の意思を誰かに委ねた事は一度もありません。この体に変えて貰ったのも、偏に私自らが望んだ結果です」

 

それを、マシュは正面から否定する。この体になったのも自分の意思で望んだモノであり、其処に他人の意志が介入する余地はない。

 

それ以前に、彼女は知っていたのだ。GNドライヴによる人体の治療とそれによる後遺症、人体実験に等しい行いであることは修司自身が一番理解していて、また苦悩していた。一人の少女の命を救うために行うその行為を、彼は誰よりも真剣に苦悩し、決断した。

 

そんな彼だからこそ、マシュは自身を託したのだ。Dr.ロマニやダ・ヴィンチ、他にも多数の英霊と相談し、彼女もまた決断したのだ。

 

「私はあの日、自分の意思で決断したのです。それを、赤の他人とも呼べる貴方に、上から否定される謂れは………ありません!」

 

 小さく、それでいてハッキリと断言するマシュに立香は笑みを浮かべ、太陽王は声を上げて笑った。

 

「フハハハハ! 良い啖呵だマシュ=キリエライト。そして藤丸立香、貴様の相棒が此処まで吼えて見せたのだ。応えて見せろよ」

 

「うん、うん! やろう! マシュ、オジマンディアス王! イスカンダル大王、ジャンヌも!」

 

「全く、今の余は片腕を斬り落とされているだろう? もう少し労ってくれんかなぁ」

 

「ごめん! でもお願い!」

 

「ったく、仕方のないマスターよな。だが、そうでなくてはな! 我々人間とは、常に挑む者。であれば、これもまた征服である!」

 

「了解です。この戦い、必ず勝ちましょう!」

 

魔力を回す。解放された杭は既に三つ、疑似魔力回路となった立香の神経系は悲鳴を上げ、今尚負荷を掛け続けている。

 

それでも、彼女は曲げない。それは修司が必ず来てくれるという信頼だけではなく、皆と共に戦い抜くという決意の表れ。

 

痛みと苦しみに苛まれながらも、それでも彼女は前を向く。そんな彼女等に対し───。

 

「そうか、では望み通り────死にたまえ」

 

魔神王は、有らん限りの侮蔑を向ける。おぞましい、醜い。どうして其処までお前達は醜くなれるのだ。それもこれも、全部………奴の所為だ。

 

奴が可能性何てものを示すから、それに群がる虫ケラが集まる。自分達にも出来るのだと、要らぬ希望を抱かせて破滅へと向かわせる。

 

こんな残酷な話があるか。こんな不条理な奇跡があるか。

 

「良いだろう。そんな諸君に私からプレゼントだ。可能性に満ちた奇跡、とくと味わいたまえ」

 

 彼女達が奇跡に群がり、奇跡を起こそうと言うのなら、存分に奇跡を体験させてやろう。そう言い捨てるゲーティアは、その両手を立香達に突き付けると、自身の腰回りへ持っていく。

 

「────かぁ」

 

その構えに、立香達は目を剥いた。それは、この旅路の中で幾度となく彼が見せた奥義の一つ。

 

「───めぇ」

 

あり得ない。そう否定したくても、ゲーティアの両手に集まる光は紛れもない本物で………。

 

「───はぁ」

 

エネルギーの奔流が、ゲーティアの両手に収束していく。その事実に誰よりも速く順応したジャンヌは、立香達の前に出て……。

 

「───めぇ」

 

「我が旗よ、我が同胞を守りたまえ!」

 

「波ァァァァッ!!」

 

我が神は此処にありて(リュミノジテ・エテルネッル)!!」

 

放たれたエネルギーはジャンヌの守護ごと呑み込み、特異点を破壊していった。

 

 

 

 

 

 

 





Q,どうしてゲーティア君はボッチの技(正確には違う)が使えるの?

A,彼の扱っていた技こそが最も人類を滅ぼしやすい技だと曲解した為。
人間を滅ぼすのは人間が生み出した兵器こそが最適解、見たいな感じ。

最早矜持もへったくれもないですね(笑)
しかもそれに自覚がないのが実に本作のゲーティア君らしい。一周回って人類側では?

解釈違いの皆さん、申し訳ありません。

それでは次回も、また見てボッチノシ







オマケ。

未来でのとあるカルデアにて。

「マスター、突然であるけれどお願いがあるの。ある英霊、並びに人間とは極力関り合いにならないようにして欲しいの」

「ほ、ホントに突然だね。具体的には誰か聞いても?」

「えぇ、先ずは童話作家アンデルセン。次に太陽王オジマンディアス、あとは自称悪魔のメフィスト。そして……白河修司よ」

「な、何か偏ってない? その………理由を聞いても?」

「あの人達、私を露骨に煽ってくるのよ! 私はそんなつもりはないのにやれ好きだとか、やれチューはしたのかとか、下世話な話ばかり振ってくるの!」

「済まない。此方に我が妻が居ると修司達から聞いたのだが………」

「ホラもー!」

後日。

「で、何でクリームヒルトをおちょくってるの?」

「いや、悪気はないんだよ? ただ、何かあの二人を見ているとつい口が滑ってしまって」

「右に同じ」

「以下同文」

「全くもってその通り!」

「………君達、絶対楽しんでるでしょ」

「「「「うんっ!」」」」

その後、各聖人or保護者がそれぞれ彼等をきつくお灸を据えたのだとか。

また、これにより某竜殺しの夫婦は恋愛頭脳戦(笑)に発展していくのを、カルデア側は知る由もなかった。

「いやなってたまるか」


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