『G』の異世界漂流日記   作:アゴン

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さぁ皆集まって、重力講座が始まるよー!




その168 終局特異点

 

 

 

約束された────勝利の剣(エクス────カリバー)!!」

 

 悪意に満ちる摩天楼、無数の魔神柱に埋もれた世界で、星の聖剣が輝きを示す。振り下ろされる究極の斬撃と云われるその一撃は、天に聳え立つ魔神柱を両断し、この特異点に確かな傷跡を刻んだ。

 

「よし、此れで正面は開かれた。後は両翼だが………」

 

「我が王、どうか一度落ち着いて下さい。今ので通算三度目、如何に竜の心臓を持つとされる貴方でも───」

 

騎士王ことアルトリア=ペンドラゴン、後世に男性として語られ、騎士の中の騎士王として知られる彼女は、先の第六特異点で介入できなかった事を酷く悔やみ、今日まで暗鬱とした気持ちで過ごしてきた。

 

第七での特異点でもマスターである藤丸立香の役に立てることはなく、ただ無為に時間が過ぎるのを待つばかり。特に第六特異点からは嘗ての円卓の騎士達のやらかしによって、彼女の食欲は普段の三割減となった。

 

 しかし、この終局特異点で汚名返上の機会が訪れた。相手は無数に存在する魔神柱、マスター達の為に漸く活躍できる場を得られたアルトリアは、他の英霊達と同様にヤル気に満ち溢れていた。

 

「────安心してください、サー・ベディヴィエール。私にはまだ十分な余力が残されている。そして、マスター達の為に我々一人一人が長く戦い続けなければいけないことも承知している」

 

「王……」

 

「皆も戦っているのです。此処で、私ばかり休んではいられない」

 

今、この特異点には多くの英霊達がマスターである藤丸立香の為に戦っている。異なる時代、異なる立場、目的や在り方すら違っていようと、今此処で戦っている彼等は皆、互いに背中を預けて戦っている。

 

故に、自分もまた異を唱えたりはしない。全ては未来を取り戻そうと奮起しているマスター達の道を切り開く為に……そう、今一度決意を顕にして手にした聖剣に魔力を回し始めた時だった。

 

「「「「ッ!?」」」」

 

 突然、言葉に出来ない嫌悪感が、英霊達の心身を揺さぶった。敵意と殺意、或いは怨念とも呼べるおぞましいナニか。戸惑いながらも魔神柱達を切り払うアルトリアが、自身の直感に従いある方向へ視線を向けると、其処から感じられる悪寒の源に目を大きく見開いた。

 

「一体、何が……?」

 

アルトリアが向ける視線の先は、立香達が戦っているとされる場所、彼処は確か征服王や太陽王、そして英雄王とサーヴァントの中でも頂点に位置する最高峰の英霊達が配置されているはず。

 

彼処で一体何が起きているのか、そう思う者はアルトリアだけではなく。

 

「………バカな」

 

「───信じられないが、受け入れざるを得ないか」

 

 右翼と左翼、それぞれの場所で戦っていたアルジュナとカルナは、突如として起きた異変に他の英霊達以上に動揺している。

 

特に、人格的に彼等のまとめ役でもあるラーマは、ワナワナと憤りを顕にして………。

 

「こんな、こんなものが……シヴァ神であるものか!!」

 

ヴィシュヌの転生体であるラーマは、力の限り否定の叫びをあげるのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 魔神柱フラウロス。レフ=ライノールが変異し、魔神柱の一柱に成った嘗ての人類の敵は、更なるおぞましき怪物、ヴォルクルスなる異物の供物としてその身を自ら消失させた。

 

ヴォルクルス。消失の間際にフラウロス(レフ)が喚び叫んだその怪物は、先の第七特異点に顕れた怪物が合体した姿のように見えた。話だけを聞けば単調な事この上ないが、それを揶揄するものはこの場にはいない。

 

生きているモノにあらゆる忌避感と畏怖、そして嫌悪を抱かせる。生理的、或いは概念的嫌悪。生命が死という絶対に畏れを抱くように、立香もマシュも眼前に聳え立つヴォルクルスなる異形に身震いを感じていた。

 

『霊基反応────不明!? 此方では何の反応も示していない!? いや、違う、規模が大き過ぎて計れないのか!?』

 

『測定不能な超弩級の怪物。しかも、それが三体ときた。考えられる限り最悪の事態だね。第七特異点に顕れた怪物、デザインは上下が合体した単調なモノなのに………酷い話だ』

 

 通信越しで伝わってくるロマニとダ・ヴィンチの憔悴しきった声が、事態の深刻さを裏付けする。魔神柱フラウロスを始めとした無数の魔神柱を生け贄にしての召喚、顕れた三体のヴォルクルスなる怪物はそれぞれ人類悪に匹敵する程のエネルギーを有しており、何れも強大な敵性体が顕れた事を意味している。

 

サーヴァント達だけの力だけではどうしようもない力の差、魔術王ソロモンを前にとんでもなく高く大きな壁が出来上がってしまったと、嘆く立香の耳に………彼の言葉が叩く。

 

『よし、コイツらの相手は俺に任せろ。マシュちゃんと立香ちゃんは、先に行ってソロモンの相手をしてくれ』

 

「修司……さん?」

 

 見上げれば、自分達を守っていた蒼き魔神からそんな言葉が投げ掛けられていた。アレの相手は自分がするから、その間にソロモンを何とかしてくれと頼んでくる修司に、再び立香を支える脚に力が戻った。

 

「────任せて、いいんだね?」

 

『おう。流石に少し遅くなるかもだが……まぁ、何とかなるだろ』

 

「そう。なら………うん。分かった! 征服王! 私とマシュを貴方の戦車(チャリオット)に乗せて!」

 

「応よ! 此度のマスターまっこと豪気で愉快痛快! そら太陽王、貴様も乗れい! 既に此処で我等に出来ることはない!」

 

「────よかろう。一足先に魔術王めを叩き潰しにゆくとするか!」

 

「行こう、マシュ!」

 

「───はい!」

 

「そっちの聖女には余のブケファラスを貸してやる! 騎乗の経験はあるのだろ?」

 

「え、えぇ! 了解です!」

 

「英雄王めは何処かへ消えたか。まぁ、奴の神出鬼没さは今に始まった事ではないが……」

 

これ迄に何度もこう言う方法で自分達は戦ってきた。此処は自分に任せて先にいけと、一番危険な事を背負って戦う修司に、藤丸立香は何度も救われてきた。

 

甘えかもしれない。情けない話かも知れない。けれど、其処には確かに修司からの信頼もあり、その信頼に立香は逃げたくなかった。全てはこの戦いに勝つため、自分に出来る事の全てをやり遂げる気概で征服王の戦車に乗り込んだ立香はマシュの手を取り、太陽王と共に怪物の後ろにある光る扉を目掛けて一直線に駆けていく。

 

途中、ジャンヌだけがブケファラスの脚を止めて修司と彼が乗るグランゾンを一瞥し、立香達の後を追う。彼女達が修司達のいる空間から離れた事で、漸く修司は全力で戦える機会を得た。

 

立香達が光の扉を潜っていく。その様子を確認した修司は、改めて眼前に立つ怪物達へ向き直る。

 

ヴォルクルス。魔神柱フラウロスが口にしていた破壊神なる存在、その外見の禍々しさから神は神でも邪神の様だと、修司は内心で嘲笑う。

 

人類悪(ビースト)に匹敵するとされる霊基、ロマニの言う通り、恐るべき相手なのだろう。

 

けれど何故だろう。そんな怪物を三体も前にして全く負ける気がしないのは、グランゾンという相棒に乗ったが故に気が強くなっているのか。

 

それとも、あのヴォルクルスなる怪物を目にしてから、矢鱈と闘争本能が掻き立てられているからか。どちらにせよ、この場で自分のやることは変わらない。

 

グランゾンも余程ヤル気になっているのか、いつもより出力の振り幅が大きい気がする。握り締めた操縦桿からでも伝わってくる。“早く闘わせろ”そう訴え掛けてくる相棒に、修司は笑みを浮かべて三体の怪物を見据える。

 

 怪物─────ヴォルクルスは一体どう仕掛けてくるのか、触手を蠢かせる邪悪なる破壊神を注意深く観察していると………遂に、奴は動いた。

 

ヴォルクルスの一体がその巨大な鎌を地に突き刺すと、その刃先がより肥大化してグランゾンへと迫ってくる。

 

動きがイチイチ気色が悪いと悪態を吐きながら、修司は操縦桿を引き上げ、グランゾンのスラスターに火を灯し、背後へと退避していく。当然、当たらなかったヴォルクルスの刃は空を切るだけに終わったが、奴等の猛追はそれだけに留まらなかった。

 

 残る二体の怪物、奴等の眼と思われる箇所が怪しく光る。すると、地中と思われる所から無数の髑髏が顕れる。まるで亡者(ゾンビ)の様なそれらは修司を見掛けると、獲物を見付けた捕食者の如く笑みを浮かべ、一心不乱に襲ってくる。

 

当然、これにあたる修司ではない。ワームホールから巨大な大剣、グランワームソードを取り出すと、近付く亡者共に一閃。放たれた一撃は亡者達を悉く両断させるが………それだけだった。

 

またもや、亡者達が迫ってくる。広がる宇宙を覆う勢いで増え続ける無数の亡者達、当然修司はこれに臆する事はなく、正面から打ち破ろうとグランゾンに力を巡らせる。

 

しかし、そんなグランゾンの動きを封じるつもりなのか、地中から顕れた亡者の腕が、グランゾンの脚に張り付いてくる。しまったと、修司が舌を打つのも束の間、押し寄せてくる亡者達にグランゾンはあらゆる動きが封じられてしまう。剣を振り下ろす腕も、光の槍を放つ胸部も、亡者達からの集りによって阻まれてしまう。

 

いい加減鬱陶しいなと、眉を寄せる修司が次に感じたのは………悪寒。その圧倒的とも言える悪寒に頬から冷や汗が流れるのを実感しながら前を見据えると、下半身の顎を大きく開かせたヴォルクルスが、グランゾンと自分に向けて照準を合わせていた。

 

周囲の空気を凍らせる程の冷気、足場となっているソロモンの神殿全てを凍らせるその三つの顎に溜まったエネルギーは、残さずグランゾンに目掛けて放たれて……。

 

グランゾンを封じていた亡者達ごと、外側の宙域まで吹き飛ばして見せた。空気を割り、大気を凍らせ、何もかもを破壊する。怨念と亡者を従える異形の破壊神は、直撃を受けたと思い込みゲラゲラと笑い声を上げる。

 

『────随分と、楽しそうだな』

 

『『『ッ!?』』』

 

 しかし、そんなモノにグランゾンがあたる訳がなかった。如何に亡者を操り、怨念に満ち溢れた破壊神と言えど、重力の底であるワームホールに消えたグランゾンを捉えられる術はない。

 

そもそも、彼の破壊神は気付いてすらいなかった。亡者達の影でどこに消えたか把握すら出来ず、上空へ避けられたと悟らせもしなかった修司、しかしヴォルクルスの仮面のような顔には未だに余裕の色が滲んでいる。

 

『────滑稽』

 

『あ?』

 

『───愉快、白河ノ系譜、ドレダケ貴様ノ強サガ増シタ所デ、我等カラ逃レル事ハ能ワズ』

 

 第七特異点で見せた沸点の低さなら、こうして上から見下ろしただけで奴等は憤慨し、暴れまわった筈。合体した事で奴の精神面に余裕が出来たのか?訝しむ修司を余所に、ヴォルクルスは続ける。

 

『サァ、今コソソノ器ヲ我二差シ出セ』

 

『あぁ? 何を言って────ッ!?』

 

意味深な言葉を吐き続けるヴォルクルス、一体なんの話だと修司が訝しむのも束の間、突如としてグランゾンを包むように黒い煙が顕れた。

 

『なんだ、これ?』

 

『サァ、我ガ眷属ヨ。ソノ羈絏、我二預ケヨ』

 

黒い靄に包まれて、修司の意識が遠退いていく。まるで奈落のような深い谷底に落ちていくような感覚に囚われる中、修司が耳にしたのは……。

 

 

 

 

 

“なりませんよ。その様な醜態、断じて許しはしません”

 

(誰だ?)

 

“抗いなさい。白河修司、我が半身に連なる新たな可能性よ。この程度の些事に、躓く貴方ではない筈です”

 

 それは、初めて聞いた気がする声だった。黄金の王とも、シドゥリとも、ジャンヌとも違う。何処までも苛烈で厳しく、それでいて英雄王と何処か似ている優しい声。

 

不思議と励まされた気がする。そんな声だけのモノに、修司は誰だと問い掛けると………。

 

“既に、私は消えた存在。貴方が気に掛ける必要のないモノ。故に、これだけ貴方に送りましょう”

 

“貴方に命令出来るのは、何時だって貴方自身だけなのですから────”

 

 己を縛り、定めるのは他ならぬ自分自身。戦え、己の自由の為に、そう一方的に告げていく誰かの声は、そのまま何処かへ消えていき、二度と聞こえる事はなかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「修司くん! どうしたんだ。返事をしてくれ!」

 

 カルデアの管制室にて、藤丸立香達と同様に修司の事も観測していたロマニ達は、眼前に広がる光景に動揺し、あわてふためいていた。

 

遂に見せた修司の切り札、グランゾン。その力は第四特異点の時に修司本人から聞かされ、その報告に偽りのない力をロマニ達に見せ付けてくれた。彼等の力を借りられれば、きっとこの特異点の攻略だって可能だと、瞬く間に光の槍に貫かれる魔神柱を見て、誰もがそう確信し、疑わなかった。

 

ヴォルクルスなる邪神が顕れても、ロマニ達の信頼は揺らぐ事はなく、喩え三体が相手でも決して負けはしないと、誰もが信じていた。

 

だが、グランゾンが黒い靄に包まれた瞬間、事態は一変した。グランゾンに乗っている筈の修司からの通信や反応は一切返ってこず、嫌な沈黙だけが其処にはあった。

 

どれだけ呼び掛けても無反応。らしくない修司の反応に管制室に徐々に動揺が見栄始めるなか、それは聞こえてきた。

 

『無駄だよロマニ=アーキマン。お前の声は最早奴には届かないよ』

 

「こ、声!? 一体何処から!?」

 

 管制室を揺さぶるような超然とした何者からの通信、一体誰がこんなことをしているのかと、思考を巡らせるロマニだが、その答えは既に一つしかなかった。

 

「まさか………魔術王ソロモン、なのか?」

 

立香達が向かったとされる光る門の先にいるとされる全ての魔術師達の祖、魔術王ソロモン。黒幕からの突然の介入し、今度こそ管制室には動揺の波紋が広がっていく。

 

『落ち着きたまえよ。どのみち諸君らには此処で消えていただく定めだが、愚か者には自分が何をしたのか分からせてやる時間が必要となる。お前達が芥の如く消えるのは奴がヴォルクルス神の眷属になってからでも遅くはあるまい』

 

「眷属? 眷属だって!? 修司君が、あの化物の(シモベ)だっていうのか!?」

 

 ソロモンから聞かされる言葉は、ロマニ達にとって最悪を通りすぎた残酷な内容だった。白河修司とグランゾンはヴォルクルスの眷属、その突拍子のない話に当然ロマニは反発するつもりだったが、それを否定出来る材料は彼にはなかった。

 

『ある時、私は黒の叡智の一端に触れ、ある事実を知った。此処ではない何処か、“極めて近く限りなく遠い世界”の一つに、それはあった』

 

『白河修司。奴が操る魔神グランゾンには、どうしようもないある欠陥が内服されていたのだ。それが、ヴォルクルスの羈絏。奴は地球上最も強力な力を有しているのと同時に、飛んでもない厄介な奴に狙われていたのだ』

 

それが、邪神ヴォルクルス。嘗てのグランゾンとその乗り手を自身の復活による生け贄として用意された供物だったのだ。供物なら、生け贄に供えられて喰われるのが定め、そう語るソロモンに、ロマニはそんなバカなと目を見開いた。

 

『どういう理屈かは知らんが、奴は贄である白河の血を色濃く受け継いだ最適の器だ。故に、破壊神ヴォルクルスは見初められたのだろう。光栄な事ではないか、神秘も解さぬ猿が、神に認められたのだ』

 

「嘘だ! 僕は信じないぞ。修司が、僕らのハチャメチャ量産機が、あんな怪物の言いなりになったりするものか!」

 

『貴様の感傷に価値はない。さぁ、既に幕は降ろされた。私も、次の仕事に取り掛かる準備をしよう』

 

 一方的に介入されたソロモンからの通信は、やはり奴から一方的に途切れてしまった。一言言い返してやりたいところだが、それももう届かない。気持ちを切り替えて再度ロマニはオペレーターの全員に、修司との接触を試みるよう指示を出したが、やはり彼からの連絡は来なかった。

 

早くなんとかしなくては、焦燥するロマニは余所に………遂に、その時はきた。

 

『く、クククク………愚かな』

 

ゾッと腹の底から底冷えする低い声、それがあの蒼い魔神の所からだと察したロマニは、固まった状態で様子を見守る。

 

果たして、彼処にいるのは本当に自分達の知る修司なのか、固唾を飲んで見守るロマニとは対照的に、靄は弾ける様に霧散し………。

 

『────唵────』

 

綴られるその言霊は、嘗てない程に………魔に満ちていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 黒い靄の奥から顕れるのは、闇より深い深淵の蒼。禍々しい造形はより洗練された形で再臨を果たしていた。

 

アレはなんだ。遠巻きから様子を見ていたサーヴァントの一騎がそんな言葉を溢し、新たに顕れた魔神に注目が集まる。

 

『────来い、バリオン創出ヘイロウ』

 

 魔神が右手を天に向けて翳した瞬間、空間が裂け、金色に輝く日輪が顕現され、魔神の背中へと吸い込まれる様に装着される。

 

神々しさと禍々しさを兼ね備え、新生された真なる魔神。その銘は─────ネオ・グランゾン。

 

『………バカナ』

 

 顕れた日輪の魔神を前に、邪神は慄く。有り得ないと愕然となる奴等とは対照的に、コックピット内の修司は笑みを浮かべる。

 

『───ヴォルクルス、だったか? 俺を洗脳して自分の手駒にするつもりだったみたいだが………残念だったな』

 

グランゾンから聞こえてくる修司の声、どうやらヴォルクルスなる邪神の洗脳に掛かる事はなかった彼の様子に安堵するが、次の瞬間彼等の精神は別の意味で追い詰められる事になる。

 

『生憎と、俺は自分の自由意思を誰かに委ねるつもりはない。そして、それを脅かし、踏みにじろうとする奴は………誰だろうと許しはしない』

 

 大人しい口振りに反し、その言葉は何処までも冷淡で、冷血そのものだった。王や姉貴分の道理ある言葉には従う修司だが、根幹を為している自分自身の核とも呼べる部分を触れられ、修司は嘗てない程に怒っていた。

 

向こうが如何なる手段を用いてくるのなら………最早問答無用。自身の内から涌き出る欲求に従い、修司は操縦桿を強く握り締める。

 

『そして、お前らはそれに触れた。最早後悔も懺悔の言葉も、無念の叫びも口に出来ないまま………ここで消えろ』

 

『オォ、オオオォォォォッ!』

 

 邪神が吼える。吼えたて、自身に従う亡者を喚び出し、今一度グランゾンを我が物にする為に迫り来る。

 

天も地も、全てが亡者によって埋め尽くされていく。正しく地獄絵図と呼べるその光景に………無数の光の槍が、その悉くを貫いていく。

 

またもやグランゾンのワームスマッシャーがやったのか? ………いや、違う。目の前のネオ・グランゾンは全く攻撃を仕掛ける素振りはなかった。

 

では、一体誰だと言うのだ。ヴォルクルス達が辺りを見渡し………そして………固まった。

 

『────う、うそぉ……』

 

 その光景を見て、固まっていた全ての者の気持ちをロマニが代弁する。敵味方、サーヴァントも魔神柱も思考停止するその視線の先には……天に浮かぶ二体の蒼き魔神、それも何れも日輪を背負った真なる魔神が合計で三体、最後の特異点にて顕れる。

 

その光景にニコラ=テスラは目を剥き、トーマス=エジソンは噴き出した。嫌な予感を感じ取ったノッブは逃げ出し、インド組は喝采をあげている。

 

そして……。

 

「誰がそこまでやれと言った」

 

 黄金の英雄王は、笑みを浮かべながら酒を煽った。

 

邪神? 異界の破壊神? ビースト並みの力?

 

それがどうした。お前達がどんな理不尽で不条理な力で襲って来るのなら、此方はそれすらも捩じ伏せる力で圧倒しよう。

 

『───さて、ヴォルクルスだったか? 遠路はるばるの異界から、出てきて貰っておいて誠に恐縮だが………』

 

それは、次元を操る万能の力、その一部を使って遍在なる自分達を具現化させ……。

 

『お前達は此処で………終わりだ』

 

白河修司は、何処までも冷たい笑みを浮かべたまま、蹂躙を始めていく。

 

 

 

 

 

 

 

 

 





終局特異点くん「此処からでも入れる保険があるんだって!?」

次回、色彩。

それでは次回もまた見てボッチノシ





オマケ

その頃、カルデアの英霊とは異なり、藤丸立香との縁を辿ってやってきた第七特異点の英霊達は……。

「ちょ、なんなのアレ!? なんか如何にもヤバそうなのが三体もいるんだけど!?」

「ワーオ、アレが修司の隠し玉デスカ。確かにあれでは並みの特異点ではおいそれと出せませんね」

「もう、彼一人いればいいんじゃないかニャー」

「そう言うわけにもいかないでしょ。………あれ? ギルは何処行った? さっきまで一緒にいたんだけど……」

「魔術の方のギルガメッシュなら、凄く綺麗な走りで逃げてったわよ」

「えぇ?」

「うぉぉぉ! 逃げ切れ我が脚、ギルダーッシュ!!」


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