多分第六、第七特異点ほど長くは続かない予定。
ロストストーリーズ、面白いですね!
魔術王ソロモンの居城にして、カルデアが最後の戦いに挑む冠位時間神殿。そこに待ち受けていたのはカルデアを爆破し、人類に敵対する運命を決められていた魔術師────レフ=ライノール。
自らを魔神柱フラウロスと名乗り、異形に成り果てた彼は、神殿に降り立った立香達を屠るべく、その力を解放させた。
彼女達を死なせてはならない。彼等を最後まで支援し、ソロモンを倒す為の手立ては既に確立されている。その最たる切り札として、カルデアは在籍している全ての英霊の一斉解放を承認した。
カルデアに在籍しているサーヴァント、彼等に供給される魔力は全てカルデアから送られているモノで賄われている。しかし、相手は英霊。通常なら彼等一騎を現界させるだけで多大な労力と魔力を必要としている。
その為、普段は宝具の使用等ご法度にしていたが、冠位時間神殿ソロモンを攻略するには多くの英霊達の力が必要になると予想し、カルデアは在籍している全てのサーヴァント達に協力を要請、制限時間を設ける代わりに、これ迄召喚に応じてくれた英霊が特異点攻略に尽力してくれる事に相成った。
制限時間の条件は各々の魔力が枯渇間際に差し掛かる頃。自前の魔力が無くなり、消滅仕掛けるのを確認したら、自動的にカルデアの霊基保管室へ召還される事で彼等はこの戦いに全力で挑むことを約束してくれた。
こんな、有利もクソもない条件を二つ返事で呑んでくれた英霊達には感謝してもしきれない。これで多少の予想外の事態にも対応できる筈、作戦が開始させる直前、改めてロマニは多くの英霊と縁を結んでくれた立香の幸運を喜び………。
そして、その喜びは氷点下を下回る勢いのキンッキンに冷えた氷水をぶっかけられた様に冷えきってしまっていた。
「うわぁ………本当に、なんと言うか………うわぁ」
モニター越しから確認できる映像、そこに映し出される光景を見て、ロマニは一人ドン引いた。
冠位時間神殿は、間違いなく最後の特異点。魔術王ソロモンが築いた大神殿だけあって、その防備はウンザリする程に強固だった。その空間全てを埋め尽くす程に顕現された魔神柱、これ迄の戦いの規模とは初手から異なってくるその大勢力にロマニは急いでサーヴァント達の転移を開始した。
このままでは立香達が危ない。彼女達の事を考えて強行したロマニの行いは………悲しい程に空回りする事になる。通信越しでジャンヌが何か熱い台詞を口にしていた気がするが、その士気を上げる口上も不発に終わってしまっている。
無理もない。あのおぞましい程ウジャウジャいた魔神柱が揃って消し炭にされたなんて、一体誰が予想出来る? あぁもう、オルレアンの乙女が顔真っ赤にしてプルプルしちゃってんじゃん! 一緒に転移してきた人達なんて気まずそうに見てないフリしてるもん。あの黒ひげですらノータッチとか相当だよ?
………いやさ、確かに言ったよ? 君の相棒を使って戦いに臨んでくれって、恥ずかしくも頼りにさせてもらったよ? でもさぁ、誰がこんな惨劇を予想できたよ!?
万を超える軍勢を相手に、どうして一方的に処理できるなんて予想できるよ!? 出来るわけがないよねぇ!?
────“グランゾン”。それは並行世界の出身である白河修司が、自身の相棒として絶大の信頼を寄せている一方で、修司本人も知らない部分のある………謎の多い巨大な人型機動兵器。
後に、第四特異点にて遂に相対した人理焼却の元凶、魔術王ソロモンとの戦いでこの機体を使用し、ソロモンを追い払ったと言う報告が挙げられた。そんな、色んな意味で規格外なこの蒼い魔神は打倒ソロモンに対し切り札的存在でもあった。
その強さは既にロマニの予想を大きく裏切り、カルデアの職員全員が唖然としている。話だけしか聞いていなかった蒼き鋼の巨人、今グランゾンの正体を探る余裕は自分達にはない。
願わくば、このまま上手く事が運んで欲しい。そんな、祈る様な気持ちを抱きながら………。
「───頼んだよ」
ロマニは、モニターに映るグランゾンを見つめていた。
◇
「────ねぇブーディカ、どうしてジャンヌは固まったまま動かないの?」
「あーうん、ちょっと今はそっとしておいてあげましょうか。うん、ほら、ジャックはあっちの魔神柱解体していいから」
決戦の舞台である時間神殿、其処では多くの英霊が無数の魔神柱に対して、人類の存亡を掛けた決戦が行われる筈だった。多くの英霊が戦意に満ち溢れ、悪性善性問わず、この戦いに全霊で挑むつもりだった。
その中の一人であるジャンヌ=ダルクも、自分の持てる全ての力を使い、立香達をソロモン王まで導くつもりでいた。故に彼女は自身の持つ旗を掲げ、全ての英霊に発破を掛けようとした。
異なる時代、異なる立場であっても、今は互いに背中を預け、我等がマスターである藤丸立香を導けと、そう声高に叫ぶつもりだった。────なのに、修司の相棒であるグランゾンが、それらを掻き消してしまった。
『いい加減、学習しろよ。魔神柱がどれだけいようと、俺とグランゾンを止める事は出来やしないってな! …………所でジャンヌさん、何か言い掛けてなかった?』
「何でもないですゥッ!!」
真っ赤になる顔を両手で抑え、その場で踞るジャンヌ。何故彼女が落ち込んでいるのか本気で分からない修司はグランゾンと共に首を傾げた。
「やれやれ、こうも間が悪いとはなぁ。まぁ、なんだ。お前さんの言いたいことは分かったから、今我等がいるのは仮にも戦場だ。取り敢えず立っておけ、な?」
「うぅ、今はその優しさが痛いです。征服王」
頭を掻き、不憫なジャンヌに心底同情しながら、せめて英霊としての矜持は護ってやろうと、征服王はそれとなくフォローする。昨今ではその懐と器の大きさ、そしてフォローの早さから“フォロ大王”なんて呼ばれ始めている征服王イスカンダル。そんな彼も、良い感じに現代のカルデアの事情に染まりつつあった。
「ともあれ、このまま此処で棒立ちのままでいるのも面白くない。彼方では既に開戦しておるようだし、我等も動くとするか。のう太陽王」
この特異点の別の所では、既に魔神柱と英霊達による戦いが始まっている。無数の魔神柱に対して有数の英霊達、戦いの規模としてなら未だに向こう優勢。暇をもて余している場合ではないと、征服王は別の戦場に向けて出発しようと同じ所に召喚された太陽王に声を掛ける。
「うん? 余はもう暫くあの蒼い魔神を視ておきたいが………しかし、本当に凄まじいモノよ。あれだけの力を持つ魔神が、どうして存在していたのか。征服王は気にならんのか?」
「そりゃあ、気にならないと言えば嘘になる。魔神柱を一瞬にして串刺しにして見せた芸当もそうだが、アレは異質が過ぎる。なぁ発明王、お前は何か知っているのか?」
白河修司が操る巨大な蒼き魔神。その力は太陽王オジマンディアスから見ても異質であり、征服王イスカンダルも異常だと認識した。あれだけの兵器を生み出すのは現代の如何なる技術を以てしても不可能と思われた。
以前から修司がグランゾンという人型兵器を有しているのは知っている。だが、アレは果たして兵器という枠組みに納めてしまっても良いのだろうか。幾度も戦場という修羅場を潜り抜けてきた征服王の直感は、アレだけがグランゾンなる魔神の全てとは到底思えなかった。
故に、同じ場所に召喚された発明王に意見を求める。生前から数ある発明品を世に送り出してきた発明の王、彼にはあの兵器がどう見えるのか。期待と僅かな不安を滲ませて問い掛けてくる征服王に、発明王トーマス=エジソンは応えた。
「─────これは私の所感だか。アレは“示す”為の兵器なのではないだろうか」
「示す?」
何を? 何処へ? 要領の得ないエジソンの応えに征服王は怪訝に腕を組むが、幾ら考えてもしっくり来る答えがでない。とは言え、彼の言葉を無視するのも違う気がする。
一体、あの機体は何なのか。グランゾンという未知の前で自ら口にした戦場の事も忘れたイスカンダルが悩んでいると………上から聞き慣れた笑い声が聞こえてきた。
「フハハハ、随分と頭を悩ませているではないか征服王。そんなにあの魔神の正体が気になるか?」
黄金の空飛ぶ舟、ヴィマーナに乗りながら優雅にビールを煽っている黄金の王。普段身に纏っている黄金の鎧とは異なり、現代の私服で寛ぐその姿は完全に休日を満喫する現代人のソレである。
仮にも戦場なのに、何とも呑気な王である。………いや、或いはあの魔神の正体を知るからこその余裕なのだろうか。
「おう英雄王、この際貴様でもいい。あのグランゾンなる魔神の正体、知っているなら教えてくれ。あんな風に暴れられては余も安心して戦えぬからな」
「ハッ、何を言う。答えなら其処のライオン王が既に言ったではないか」
グビグビと安酒を煽りながら、そう吐き捨てる英雄王に征服王は眉に皺を寄せる。
「では、あの魔神は一体何を示すと言うのだ? 力か? 技術か? そうだとするなら、一体何に示すと言うのだ」
トーマス=エジソンは言った。あの魔神は示す為の機体であると、恐らくはニコラ=テスラや他の碩学者達も似たような感想を口にするだろう。しかし、答えと言うにはその意味は余りにも大き過ぎた。
だが、それでも黄金の王は鼻で笑う。分かりきったことだと、魔神柱を蹂躙し続けるグランゾンを見上げて……。
「決まっている。───《総て》だ」
あらゆる時代、時空、世界に、グランゾンという力を示す。その意味と答えを知る英雄王は笑いながら酒を飲み干した。
「この戦いの行く末は決まっている。これは、過程を楽しむ戦いよ。奴がどの様に戦い、如何程にして蹂躙するのか。注目するのはそれだけよ」
結果は決まっている。そう断言する王は、だからこそと続け……。
「故に、我は楽しみで仕方がない。この後、奴は如何なるシンカの軌跡を見せるのか。我の眼をも振り切って、何処まで至ろうとするのか」
愉悦とは違う喜び。それを噛み締めるように黄金の王は再び倉から酒を取り出し、飲みこんだ。
「────それよりも、貴様等も死にたくなければそろそろ動いた方がいいぞ。そろそろ、事態は動き始めるからな」
「なに?」
「来るぞ。無粋を極めた醜き破壊神が」
◇
『─────さて、一先ずこの辺一体の魔神柱はあらかた片付いたか』
レフ=ライノール─────いや、魔神フラウロスの激昂と共に周囲に顕現された無数の魔神柱は、修司が操るグランゾンが放つ光の槍によって貫かれ、その悉くが瞬く間に殲滅、消失された。
魔神柱の総数はどんなに低く見積もっても100万前後。殲滅され、蹂躙される度に性懲りもなく顕れる魔神柱に、修司は作業の如く破壊し尽くしていった。
おぞましき肉の集合体である魔神柱、その悉くを屠り続けた修司は、グランゾンのコックピット内にて一人思いに耽る。果たしてこれが、魔術王ソロモンの出せる戦力の全てなのかと。
そして、同時に理解する。奴にはまだ隠されている戦力があるのだと、第七特異点にて現れた巨大な怪物を思い出し、修司は操縦桿を握る手に力を込める。
『く、ククク…………いやはや、清々しい程の暴れっぷりじゃないか。グランゾン、だったかな? 成る程、我が王も警戒するのも頷ける』
『─────』
『だが、よもやこれで終わるとは思うまい? 貴様がグランゾンという切り札を持っているように、此方にも
『どうせ、あの気持ち悪い怪物辺りを呼び寄せるつもりだろ? とっとと喚べよ。諸ともぶっ潰してやる』
同胞でもある魔神柱が大勢塵とされたのに、未だに魔神フラウロスは余裕を崩さない。異形と成り果てても崩さないその悪態には素直に称賛に値するが、修司にはそんなものに付き合っている義務はない。
早く喚べ。諸とも駆逐してやると豪語する彼にフラウロスは嗤う。
『あぁ、滑稽だなぁ。自分の頼るモノが偽物だと知った時、お前はどんな顔をするのかな?』
『───何を言っている?』
『知っているともさ! 我が王は禁忌に触れた。此処ではない何処か、並行世界でも、打ち止めされた世界でもない。異なる時代! 異なる歴史! 異なる文明! 極めて近く、限りなく遠い世界にて、繰り返される破界と再世にて遺された遺物、いつしか誰かが言ったそれは────黒の叡知と呼んだ!』
ドクンッ。発狂したかの様に喜びの声を張り上げるフラウロス、奴の口から零れ落ちた黒の叡知なる単語を耳にして、修司の心臓の音が跳ね上がる。
『故に、我等が王が黒の叡知に触れた時、我等もまた知り得ることが出来た。………知っているか? 貴様の頼りにしているその蒼き魔神は元々ある一柱の神が依り代にする為の代物であると!』
『まさか────』
『今頃気付いても遅い! さぁ、出でよ異界の神、我が身を喰らい顕現し、新たな人類の導となれ。来たれよ破壊神──────ヴォルクルスゥゥゥゥッ!!』
嗤いながら天を仰ぐフラウロス、その狂信的振る舞いに修司は一瞬だけあ然となるが、次の瞬間に顕れる黒い靄が奴を覆っていく様を前に、彼の奥深くに眠る本能が叫び出す。
聞こえてくる咀嚼の音、肉を喰らい、骨を噛み砕くその不快音に修司の眼は鋭くなる。これから起きるのは、世にもおぞましい神の顕現であると。
しかし、変化はそれだけでは終わらない。これ迄修司が撃ち抜き、消滅するだけとなった魔神柱達も、フラウロス同様に黒い靄に覆われ、食い尽くされていく。
その光景に、立香とマシュも絶句し、カルデアの観測班も言葉を失う。今、自分達が目の当たりにしているモノはなんだ。此方の計器を振り切る程の魔力の渦、魂を貪り、魔神柱達の血肉を己のモノにしていく────あの怪物は何なのだ。
いや、知っている。修司の奥底に眠るナニかが、アレを滅ぼせと叫んでいる。
『────ヨカロウ。ソノ願イ、我ガ聞き届ケタ』
顕れる三つの邪神。いずれも
『───────』
修司の笑みはより深く、より悪辣に変化していた。
「…………よし、もう少し離れておくか」
黄金の王、まさかの遁走である。
次回、降臨。
真なる蒼を、刮目せよ。
それでは次回もまた見てボッチノシ