『G』の異世界漂流日記   作:アゴン

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決戦前夜的なお話。


その165

 

 

 

 ─────薄暗くなった通路を、一人の男が歩いていく。先の第七特異点にて致命傷を負いながらも激闘を制し、レイシフトからの帰還直後からこれ迄の間眠っていた男は、とある部屋の前へで立ち止まる。

 

「────漸く、ここまでこれたな」

 

男────白河修司は、目の前に聳え立つ部屋へ通じる扉の前で、感慨深く呟いた。最初は王の命令に従い、流されるまま戦い続けてきたが、カルデアでの日々は修司に様々な成長を遂げさせた。

 

多くの英霊と出会い、様々な強敵達と出会い、戦い、死にかけ、そして強くなった。ギリシャ最大の英雄ヘラクレス。ケルト神話の光の御子クー・フーリン。インドの施しの英雄カルナ。初代暗殺者であるハサン。他にも歴史に名を刻まれた英雄達との戦いは修司に心身共に成長させ、シンカを促してきた。

 

何の為に? 決まっている。この戦いは全て、未来を取り戻す戦いなのだ。

 

「────本当は、お前等と一緒に旅をしたんだよな」

 

 扉に触れるが、開かれる事はない。この部屋はレイシフトをサポートする管制室に次いで重要とされている施設であり、47名の魔術師達が眠る保管室だからだ。

 

この中には自分を敵視している魔術師達とは別に、修司が組んでいたAチームの面々も眠っている。未だ冷凍保存され、カルデアが爆破されたままの仲間達。もし彼等がライノールによる爆破から免れていたら、彼等とどんな冒険が出来たのだろうか。

 

共に戦場を駆けたのか、一緒になってバカ騒ぎをしたのか、共に窮地を乗り越え、共に勝利を掴めたか。誰一人欠けることなく、人類の未来を勝ち取れたか。

 

「────でも、それは夢だ」

 

 どれだけ夢想しても、届くことはない。それは、これ迄の皆との旅を否定する事に他ならないから。

 

だから、修司は一つだけ約束する。

 

「見ててくれ。俺達は……絶対に勝つからさ」

 

唯一残ったAチームの一人として、修司は必ず勝つと約束する。目を覚ました彼等に、胸を張って報告出来る様に。

 

「あれ? 修司さん、ここにいたんだ?」

 

「ん? あぁ、立香ちゃんか」

 

 少し離れた所から声が掛けられたので振り返ると、いつものカルデアの制服に着替えた藤丸立香がやって来た。思えば、彼女も気の毒な人間だ。

 

拉致同然にカルデアに連れてこられ、挙げ句の果てに人類最後のマスターとして戦いを強いられ、今日まで死ぬ程恐い目に遭ってきた。凶刃に晒され、悪意に晒され、敵意に晒され、殺意に晒されてきた。これ迄の彼女の人生経験からは考えられない体験だった筈、そんな彼女がよく此処まで戦ってこれたなと、修司は素直に尊敬の念を抱いていた。

 

「もしかして………Aチームの人に?」

 

「まぁ、そんな所だな。次の特異点で最後だからな。今の内に、やるべき事は済ませておこうと思ってね」

 

 邪魔をしたかな? 申し訳なくそんな事を口にする立香に、そんな事はないと修司は軽く首を横に振る。とは言え、いつまでも此処にいては彼女に余計な気遣いをさせてしまうと察し、後ろ髪を引かれる思いをしながら、修司は保管室前を後にする。

 

そんな彼の隣に並ぶように立香は歩み寄る。

 

「修司さん、身体の方はもう平気なの?」

 

「あぁ、ロマニから最優先で休むように言われていたからな。ぐっすり一眠りできたお蔭で体力気力共に全快よ」

 

心臓を貫かれ、一時は死にかけていたというのに、以前よりもタフネスさが増している修司に立香は流石と苦笑う。しかも其処から復活する度に強さも飛躍的に増していくのだから、より一層某戦闘民族染みている気がしてならない。

 

でも、そんな彼のデタラメ具合を目にするのも次で最後だと思うと………なんだか寂しく感じた。

 

「───此処まで、来たんだね」

 

「………そうだな」

 

「長いようで、短かったね」

 

「そう、だな」

 

 七つの特異点を巡り、その途中で様々なハプニング(イベント)にも遭遇し、大変だけれどそれ以上に楽しい旅だった。だからだろう、約一年という長い旅が思っていた以上に短く感じるのは………。

 

「俺の方は万全だとして、立香ちゃんの方はどうだい? 指、壊死しかけたんだろ?」

 

「うん! ダ・ヴィンチちゃんとロマニが治してくれたから平気! 指だってほら、元に戻っているでしょ?」

 

 そう言って笑いながら自身の両手の指を見せてくる立香、健康的なその指先に安堵する修司は改めて立香に礼を口にする。

 

「────立香ちゃん、ありがとうな」

 

「うん? どうしたの急に? 私、修司さんにお礼を言われるようなことをしたっけ?」

 

「本当はさ、こう言う人類の命運を懸けた戦いとか、普通の人間に背負わせて良いモノじゃあないんだよ。そう言うのは俺達大人が対処するべき案件であって、立香ちゃんやマシュちゃんが拘わるべき事じゃあないんだ」

 

 これ迄の旅路を経て、心身共に鍛えられてきた藤丸立香。普通の人生では決して体験することのない経験を重ねてきた彼女は、遂には人類の命運という余計な重荷を背負う所まで来てしまった。

 

そんな彼女にしてあげられる事など、素直に礼を言う事しか思い浮かばない。本来ならごく普通の一般家庭の中で過ごす筈だった彼女の人生を大きく狂わせてしまった罪悪感、結局は自己満足だが、それでも修司は言わずにはいられなかった。

 

「─────それは、ちょっと違うんじゃないかな」

 

「………?」

 

「私は確かに流されるがままにマスターになったり、人理を救うなんてお題目を掲げているけれど、私は別に、人類の命運とか背負っているつもりはないよ?」

 

「そう、なのかい?」

 

「うん。それに、英雄王も言ってたんだ。私達が負けちゃったら人類は終わる。なら、責め立てる相手もいないから失敗を気にする必要もないって。だから私は、その辺りは別に気にした事はないかなぁって」

 

「─────」

 

 …………どうやら、自分が思っていた以上に、目の前の少女はメンタルはタフだったようだ。人類の命運、なんて重荷は背負っているつもりはない。そう言い切る彼女に修司は一瞬だけ目を丸くさせ。

 

「それにさ、私以外にも戦える人はいるんだから、最悪はその人に丸投げして逃げるのもアリかなーって」

 

その強か振りに破顔した。

 

「────は、ははは! 全く、随分と強かになったモノだよ。キミも」

 

「え、えへへ、そうかな?」

 

「あぁ、けれど………うん。それなら、安心したかな。なら、いざとなったら俺に丸投げして逃げると良い。俺も、それくらいの度量はあるつもりだからな」

 

「うん、ありがとね。修司さん」

 

 藤丸立香にとって、最も幸運と言えるのは、類い稀な強運と数多の英霊達と縁を結んだだけではない。目の前のハチャメチャ量産機─────白河修司と出逢えた事なのかもしれない。

 

「先輩、修司さん、此方にいましたか」

 

「あ、マシュだ」

 

そうして、修司と雑談を楽しんでいると、向こうから立香の後輩であるマシュ=キリエライトが歩み寄ってきた。

 

「もしかして、時間かい?」

 

「いえ、作戦開始までもう少し時間が空いているとのことで、その…………決戦の前にお二人と話をしておこうかと思いまして」

 

「フォーウ」

 

「おっと、フォウも一緒か」

 

「なんだか、最初の頃を思い出しますね」

 

 三人の脳裏に浮かぶのは初めて三人が揃ったときの事。思えば彼処から全てが始まったのだと、感慨深く思いながら、彼等はロマニ達の待つ管制室へ向かった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「来たね」

 

 扉が開き、管制室へとやって来た修司達。そこにはいつも通りの人が待っていて、いつも通りの光景が広がっていた。違うのは、いつもより少しばかり時間が押しているという事。

 

「さて、早速だけどブリーフィングを始めようか。現在、僕達が拠点にしているカルデアは終局特異点である冠位時間神殿ソロモンを捕捉。同時に特異点との融合が始まっている」

 

七つの特異点の修復と、その元凶となった聖杯を全て回収し、カルデア職員達の尽力もあって、遂に人理焼却の首謀者であるソロモン王の居城を特定する事が出来た。

 

しかし、此方が捕捉したという事は向こうにも此方の居場所を報せる事に繋がり、現在このカルデアはソロモンのいる特異点に取り込まれようとしていると、ロマニは端的に語る。

 

要は、自分の庭に呼び寄せているのだ。自分達という異物を消し、完全なる人理焼却を成し遂げ、“次の仕事”とやらに移行する為なのだろう。

 

「君達はレイシフト後、特異点を攻略────ソロモン王を名乗る輩の撃破と、このカルデアへの帰還。これ等のスケジュールを完璧にこなす事。これが、今回の君達の任務の全容だ」

 

「おや? ロマニ、いいのかい? 魔術師(君達)としては人理焼却の首謀者を撃破することこそが目的であって、立香ちゃん達の生存は度外視なんだろ?」

 

 ソロモンを名乗る輩を撃破し、カルデアに無事に帰還する。それが今回の任務の全てだと語るロマニに対し、ダ・ヴィンチから意地の悪い質問が投げ掛けられる。

 

魔術師にとって優先すべきは人理焼却の首謀者の撃破であって、立香達の生存は考慮されていない。だからこそ、立香に渡された礼装はこれ迄の生き残るための力ではなく、敵を倒すための武器となっているのだ。

 

「………まぁ、確かにダ・ヴィンチの言うように魔術師であればソロモンの撃破を重要視して、それだけに心血を注ぐべきなのだろうね。でも、僕はカルデアの司令官代理であると同時に医療部門のトップだ。人命を優先させるのは当然だろ? それに………」

 

「ん?」

 

「君なら、そんな事は絶対にさせないだろ?」

 

 自分は魔術師達の組織の代理トップであると同時に、医療部門のトップでもある。だから敵を倒す事と、生きて帰ってくる事を目指すのは当然だと、ダ・ヴィンチの真意を汲み取った上でそう話す。

 

それに、修司が共に特異点に向かう以上、想定外が起きるのは必然。誰よりも理不尽と不条理を嫌う彼がいるならば、想定された悲劇は決して起きることはない。そんな、ある種の絶対的信頼を向けてくるロマニに………。

 

「おう。立香ちゃんもマシュちゃんも、皆一緒に………絶対生きて帰ってくるよ」

 

修司もまた、笑顔で応えた。生きて帰る。即答でそう応えてくれる彼にロマニもまた満足そうに頷き………。

 

「では、作戦会議を始めよう。とは言え、今回はそう難しい話ではない。相手は魔術王を名乗るソロモン、彼が繰り出してくる術式はいずれも規格外の魔術だ」

 

 人理焼却を企て、成し遂げ、今も特異点の最奥にて待ち受ける最大の強敵。恐らくは彼に従っている七十二柱の魔神柱も立ちはだかるのだろう。そんな魔術の王にカルデアが取れる戦力は唯一つ。

 

「総力戦。これまでカルデアの………いや、立香ちゃんの喚びかけに応えてくれた全てのサーヴァント達と、修司君、君の相棒を駆使して──────奴を倒すんだ」

 

それは、カルデアに遺された全ての英霊達と共に戦場へ取り込んで戦う総力戦。文字通り全てを出し尽くす戦いだ。此処から先はどんな奴が出てくるかなんて予想もできない。故にロマニは修司の持つ相方の出撃命令を正式に下す。

 

白河修司の持つ最大の戦力─────グランゾンを出せ。そう、遠回しに命令してくるロマニに………。

 

「─────OK。その司令(オーダー)、承った」

 

修司は凶悪な笑みを浮かべる。知的で、なのに何処か悪魔的凄みのある笑みに………。

 

(────どうしよう、早速後悔してきたぞぉ)

 

ロマニは早速、自分の発言に後悔してきた。

 

 

 

 





これから先、何が起こるか分からないから、此方の手札は温存しておく必要はないよね。的な話。

尚、この後ロマニの胃は第六のキャメロット並に破壊し尽くされる模様。

AUO(あーあ、言っちゃった)

次回からはいよいよ終局特異点。

藤丸立香達の、最後の戦いが始まる。


それでは次回も、また見てボッチノシ





可能性を紡ぐ開闢の拳(エヌマ・エリシュ)


ランク◼️◼️


太◼️に踏み込んだ修司の放つ渾身の一撃。その性質は彼が尊敬している某達人の放つモノと酷似しているが、本質は異なっており、理という概念且つ普遍的なモノにまで影響を与える破界の拳である。

築き、繋がれた可能性を次へ紡ぐ為に、旧きしがらみや呪いを破界する。祈りと願い、それらを踏まえて繰り出される一撃は、正しく開闢の拳。これには英雄王もニッコリである。

尚、本人的にはただのぶん殴りの模様。


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