『G』の異世界漂流日記   作:アゴン

392 / 417
今回、トンチキ描写やツッコミ所がいつもよりも多めです。

暖かく見守っていただければ幸いです。




その163 第七特異点

「─────何が、起きているんだ?」

 

 焼却された人類史、人類に遺された最後の砦、人理保障機関カルデア。星見の天文台を冠する観測機関、レイシフトの観測を一手に担う管制室にて、ロマニの口からその場にいる誰もが抱いた言葉が溢れ落ちた。

 

今、自分達の目の前に起きている事象、藤丸立香に取り付けた通信機を通して流れてきている映像は、目の前にして尚、信じ難い光景だった。

 

人が、神を殴り倒した。有史以来、神と人の間には決定的な“差”が存在し、人が神を打ち倒すのは最大の偉業であり、最悪の禁忌でもあった。

 

そんな神を、中でも創世記の土台となる原初の女神を殴り倒したという事実は、これ迄多くのハチャメチャを目の当たりにしたロマニ達であっても、驚きを抱くには充分だった。

 

 原初の女神を殴り倒した。その衝撃はロマニ達カルデアのスタッフ達に留まらず、在籍している英霊達ですら未知の出来事であり、愕然とさせていた。

 

武芸に秀でた者達は挙動すら読ませない修司の在り様に愕然とし、魔術に秀でた者達はあの輝きはなんだと目を剥いている。誰も彼もが未知なる光景に唖然としている中、唯一英雄王だけは感慨深そうに笑みを浮かべている。

 

「………全く、相変わらず気を揉ませる男よ。一体何時から焦らし上手になったのやら」

 

「おい英雄王、貴様、あやつの身に何が起きているのか、知っているのか?」

 

 意味深に、そして知った風に語る英雄王に堪らず征服王が追求する。あの男の、白河修司が纏っている白銀の如き輝きはなんだと。先の彼の内から溢れた銀河の様な光といい、生前でも見なかったその光景は征服王に未知の興奮を与えていた。

 

「知らん」

 

征服王に限らず、周囲の多くの英霊が注目する中、呆気らかんと応える英雄王にその場の全員が肩透かしを受けた。

 

見るからにガッカリと項垂れる彼等に、少しばかり苛ついた英雄王は、そうさなと前置きを呟き、あるサーヴァントに話を振った。

 

「ギリシャの賢者、博識あるお前はあの男の姿で何か理解できたか?」

 

「─────いいえ、なにも」

 

「先生?」

 

「これ迄、私は多くの英雄を育ててきました。多くの歴史に名を刻む英霊を輩出してきました。しかし、それでも………彼の姿を意味するものが、なにも見付からない」

 

英雄王の問いかけに、賢者ケイローンは言った。自分には分からない。今の彼がどの様な状態で、あの輝きを纏う姿にどの様な意味を持っているのか、博識さで知られる彼の口から溢れる分からないの言葉、しかし、己の無知を晒しておきながら、ケイローンの顔に一切の陰りは見えず、その顔には征服王と同様に僅かな興奮に彩られていた。

 

そう、分からない。分からないのだ。古今東西の英霊が集結したこのカルデアに今の修司がどうなっているかは、誰も想像も、予想すら出来ないでいるのだ。

 

唯一確かなのは、あの輝きは魔術師達が目指す【根源】とは何の関わりもないという事。

 

 前人未踏にして前代未聞。永きに渡る人類史の中で、ヒトが初めて踏み込んだ未知の領域、修司が纏う輝きを前に、改めて多くの英霊達は思った。

 

羨ましい。自分では辿り着けなかった境地に多くのサーヴァントが羨望し、嫉妬し、そして…………誇りに思った。

 

人類の先はまだあるのだと、自分達はまだまだ発展途上なのだと。神秘もなく、加護もなく、恩恵も、呪いもない。何処までも純粋な人間である修司がそれを証明してくれた事に、多くの英霊は嬉しく思った。

 

これ以上の言葉は無粋。全ては、この戦いに答えが出る。これから始まる未知に、未来を映す己の眼すら置き去りにした臣下に、英雄王はただ一言─────。

 

「往け、ハチャメチャ小僧」

 

あの日、燃え盛る炎の街で出会った少年が、此処まで大きく成長し、これからもシンカを続けていく。ハチャメチャに満ちた見えない未来に笑みを浮かべて、英雄王はその言葉を贈った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「─────まだ、足りないな」

 

 自身に満ち溢れる力、頭の天辺から足の爪先まで浸透していく力の奔流に、修司は自身の両手を見下ろして一人、不満気味に口にする。

 

まだ自分はこの力を使いこなせていない。完全に自分のモノとするには、何もかもが足りなすぎた。具体的にいえば、圧倒的に経験値が足りていない。

 

当然だ。如何に扉は拓かれたと言っても、まだまだ自分はスタートラインから一歩踏み込んだだけに過ぎない。本来であれば、今の一撃でティアマトは倒せた筈、それでもまだ目の前に佇んでいるという事は、まだこの力の事を理解仕切れていない事を意味している。

 

けれど、以前の冬木での聖杯戦争の時よりも深くこの力に触れられている気がする。慌てず、騒がず、心を落ち着かせながら深呼吸を繰り返し、改めて修司は眼前の創世神へ視線を向ける。

 

 獣。神というより、獣に近い風体のティアマト神。神話に基づいたその力は確かに恐ろしいのだろう。実際にその力の一端を受けた修司は死にかけたし、何度も駄目だと諦め掛けた。

 

けれど何故だろう。今の自分にはそう言った恐れや恐怖が微塵も感じない。あるのは何処までも静寂な凪の境地、唸って警戒を顕にしている女神に、修司は僅かの畏れも抱くことはなかった。

 

「どうしたティアマト、随分と大人しくしているみたいだが………まさか、俺が怖いのか?」

 

それは、挑発というより確認。目の前の障害を悉く破壊してきたティアマトが、何故か修司を前にして二の足を踏んでいる。創世記の神が何を躊躇っているのか、何となく思った言葉を口にすると………。

 

『Aaa、Aaaaaaaaaa─────!』

 

叫び、吼えるティアマトの背中から、無数の光の矢が降り注いでくる。分かりやすく激昂するティアマト、避ける余地など皆無な神からの弾幕。防ぐしかこの弾幕を潜り抜ける術はなく、同時にティアマトの足元から溢れ出る黒泥の海が、修司の逃げ道を塞いでいく。

 

飛べば赤黒い針に貫かれるか、泥にまみれてラフムと化すか。その最悪な選択肢を前に。

 

「フッ」

 

 修司はそれら全てを見切り、回避していく。空を飛んでの回避ではなく、空間を利用しての跳躍。振ってくる凶弾を足場に、不規則に流れる泥の海を避けて、捌いていく。

 

避ける余地の無い攻撃を無傷で避けるという矛盾、しかし、神の追撃がその程度で終わる訳がない。溢れ、流れ落ちる泥はティアマト神の権能の結晶。命を産み通すその泥は、新たなティアマト神の子供達。

 

『こ、この霊基反応は………!』

 

「ドクター、どうしたの!?」

 

『修司君を囲む十一のラフム、いずれも神霊級の………いや、魔神柱並の霊基を有している! 謂わばアレは新たなティアマト神の子供達だ!』

 

 翼を持ち、通常のラフムより強靭の肉体を持つその個体は、これ迄のモノとは一線を画していた。見た目こそは通常個体のラフムと区別が付かないが、それでも同じ神霊であるエレシュキガルには分かったのだろう。大粒の冷や汗を流し、生唾を呑み込んでいるのがよりロマニからの報告に説得力をもたらしていた。

 

このままでは修司が危ない。現状、ティアマト神に最も有効な戦力である彼は、この決戦に於いて必要不可欠。そんな彼の負担を軽くするべく、立香達も駆け付けようとして………。

 

「フンッ」

 

 盛大に、スッこけた。

 

『あ、あれ? ティアマト神が新たに生み出した十一のラフムの反応………消失? お、おかしいな? 計器の故障かな?』

 

修司へ押し寄せる十一の悪意。ティアマトから存分に力と権能を分け与えられた女神の子供達、魔神柱すら凌駕する力を持ったラフム達が、修司の間合いに入った瞬間、一瞬にして消滅してしまった。

 

なにが起きたのだと、混乱するロマニを余所に唯一平静を装って眺めていた翁は、震える感情を押し殺しながら口にする。

 

「────そうか、汝の領域はもう其処までに至るのか」

 

「キングハサン?」

 

「怯える必要はない、契約者よ。アレはただ、腕で薙いだに過ぎん。最早奴にとって神は神でなくなった」

 

「え? え?」

 

「正直に言うとしよう。────視えなかったのだ。この翁の眼を以てしても」

 

 ハサン=サッバーハが眼にしたのは、修司の腕がブレた僅かな一瞬だけ。音もなく、挙動も、有りとあらゆる動きが山の翁の眼に掠る程度にしか映らなかった。

 

これが、可能性を示した修司の新たな極致。たった一度の薫陶を示した間柄でしかないが、それでも此処まで至った修司に山の翁も感慨深く思えた。

 

しかも恐らく、彼はまだその境地に踏み込んだだけ、更にその先があるのだと思うと………気持ちが昂ってしまう。

 

これがワクワクというのなら、この感情も悪くはない。久しく抱くことの無い感情に、ハサン達の頭目は上を見上げる。

 

「いずれにせよ、我等ができる事は限られている。契約者よ、上を見ろ」

 

「っ、あれは!」

 

 翁に言われて上を見上げれば、無数のラフム達がティアマト神に向かっている。恐らくは修司の妨害に向かうつもりなのだろう、今更彼にラフム程度に不覚を取られる要素はないが、それでも自分達はチームだ。この特異点最後の戦いに自分のすべき事を見出だした立香は、改めて皆に乞い願う。

 

「お願い皆、力を貸して!」

 

「此処へ来て総力戦か。骨が折れるけど、やるしかないよね!」

 

「よっしゃー! 残された数少ない活躍の場、やったるニャーッ!」

 

「あぁもう! こうなったらやぶれかぶれだわ!」

 

「先輩!」

 

 此処まで、自分達は多くの人達のバトンを受けてきた。お前達に任せると、そう言ってくれた黄金の王に報いる為に……。

 

「やろうマシュ、皆! 全員、迎撃準備!」

 

藤丸立香は叫ぶ。決戦に臨む修司を確実に勝たせるべく、立香は仲間達と共に、ラフムの群れに吶喊していくのだった。

 

 そんな彼等を尻目に、修司は笑みを浮かべる。これで、自分はティアマトに専念できると、自分を見据えるビーストⅡ(人類悪)に向けて、修司は全身に力を入れる。

 

「行くぞティアマト、今度は………こっちの番だ」

 

揺れる。目の前にいる筈の修司が一瞬だけブレると、その姿を掻き消した。何処へ行ったと辺りを見渡すティアマトだが………ふと、自身の体から光が瞬いた気がした。

 

瞬間、無数の衝撃がティアマトを貫き、その巨体を宙へ浮かばせた。見れば衝撃のあった箇所には人間サイズの拳の痕がクッキリと浮かび上がっている。

 

再び、()の思考にノイズが走る。“何故?” 何故小さな人の拳に、真体である我が肉体が痛みを負っている? ダメージを受けている?

 

 

 

分からない。神の思考回路を持ち、原初の神であるティアマトでも、今起きている事象の分析は出来ずにいた。何度試みても結果は測定不能(error)、そんなバカなと何度も計算と分析を続けても、結果は不明のまま。

 

一体、このヒトの子は何だというのだ。どれだけ思考を割いても分からない事象、この惑星に刻まれているどの歴史にも刻まれていない未知の力。

 

 ただ一つ言える事は、ティアマトは畏れている。人の裁定者である英雄王ではなく、天の鎖ではなく、正真正銘ただの人間でしかない……白河修司(小さなヒト)に!

 

『AAAAAAAAAAAAAAA!!』

 

 ──────ティアマトは吼えた。認めない、認める訳にはいかない。ただの人間である修司に怯えている事ではなく、人のおぞましい可能性に臆している事ではなく、全てを諦めて、敗北を受け入れる事を、創世の神ティアマトは受け入れる訳にはいかなかった。

 

何のために此処まで来た。既に終わった出来事を蒸し返し、みっともなく世界を蹂躙して、何のために人類史(子供達)の歩みを潰そうとしてまで此処まできたか。

 

全ては、あの日幸せだった日々に回帰する為、それが自分が世界から排斥された理由なのだと理解していても、それでも願い、縋り付いてしまった。“また、子供達と一緒に” その願いの意味をティアマトである己は解っていた筈だ。自分の願いを叶える為には、他の全てを捩じ伏せる必要があるのだと、他の全てを踏みにじる必要があるのだと。

 

なら、最後までその姿勢は崩してはならない。他ならぬティアマトが、その願いを諦めてはいけない。

 

Aaa、AAAAAAAAAAAAAAAAッ!!(邪魔を、するなぁぁぁぁぁぁぁッ!!!)

 

 全ては、己の願いを叶える為、回帰を願う獣は、決して譲れない願いの為に、悲痛の雄叫びを上げて──────立ち上がった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『嘘ォッ!? ティアマト神が立ったァッ!?』

 

「まさか、ネガ・ジェネシス!? ティアマト神め、冥界の束縛から脱する為に、自らの理で自身を書き換え(自己改造)させたか!」

 

「そんなんじゃないわよ」

 

 冥界に落ちて竜体となり、そこから更に人に近しい形となって立ち上がるティアマトに、ラフム達を迎撃していたマーリン達は度肝を抜かれた。

 

此処へ来てまさかのティアマト神の自己進化。勘弁してくれと表情を強ばらせるマーリンに、漸く合流できたイシュタルが否定する。

 

「あのバカ、母さんを本気にさせる為に、わざと手を抜いたわね(・・・・・・・・・・)

 

「─────え?」

 

『は、はぁぁァッ!? 手を、手を抜いたぁぁァッ!? この場面で!? この土壇場で!? なにやってんのアイツゥゥゥッ!?』

 

ティアマトに対して、手を抜いた。神話の叙事詩にも乗っていないようなその一文に、流石のロマニもぶちギレた。彼の言うことに一切合切文句を挟むつもりはないが、それでも何か理由があるのではないのかと、立香はイシュタルに尋ねた。

 

「まぁ、本人はそのつもりはないんでしょうね。ただ、汲み取ろうとしてるのよ。母さんの願いを、魔術王の手先にさせられて、ビーストなんかになってまで叶えたかった願いと向き合わせる為に………」

 

 本当、この身体になってからと言うものの、余計な記憶ばかりが頭に浮かんで参ってしまう。興味もない人間の、知りたくもない一面を思い浮かべてしまうのだから。

 

白河修司は、正面から挑むのだろう。自己進化を繰り返し、力と強さを募らせていく創世の神を、真っ正面から打ち砕く為に。

 

「─────そんだけ心の贅肉を抱え込むんだから、負けたら承知しないわよ」

 

 それは天の女主人の言葉か、はたまた別の誰かの感想か。呆れの混じった溜め息を溢すイシュタルだが、何故かその表情は────何処か、晴れやかに見えた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「それが、アンタの本気か」

 

 カルルと唸り、人である修司を見下ろすティアマト。竜と人の混じったその形態は何処までも歪で、苛烈だった。十字に開いた瞳孔からは此方を侮っている様子は微塵もなく、倒すべき敵として修司を見ている。

 

思えば、自分は割りとこう言う所が多い気がする。本来なら楽に勝てる相手を変に怒らせ、覚醒させ、要らぬ苦戦を強いられる。恐らく、カルデアで観測しているロマニ辺りなんて、今頃酷く憤慨している事だろう。

 

この大事な決戦に、なんてバカな事をしたものか。我ながら呆れてしまう己の所業─────だが。

 

「今のアンタを倒したら、俺はもっと先に行けるのかな?」

 

 この先の事を考えると、何処か楽しみにしている自分がいて。

 

「─────なんだか俺、ワクワクしてきたぞ」

 

自然と、修司の頬はつり上がっていた。

 

『UrrrrAaaaaaaa─────!!』

 

 雄叫びと共に振り下ろされる拳、たった一人の人間を倒すために奮われたその一撃は、冥界を激しく揺さぶった。しかし、手応えはない。舞い上がる砂塵の中にも例の輝きは見えず、ティアマトが周囲を見渡して修司の姿を追おうとして─────彼女の顎が、跳ね上がった。

 

「どうやら、そのデカイ図体では俺を捉えるのは無理そうだな」

 

見れば、自身の腕を振り上げていた修司が其処にいて、僅かな呆れの言葉を口ずさんでいる。本人からすればただの事実確認、しかしそれを理解できないティアマトは吼えながらその拳を奮う事しか出来ない。

 

より強靭に、より頑強に、より俊敏に、より最強に。この惑星で最も強い個体に至るべく、ティアマト神は自身の改造を続けた。

 

奮う拳が加速する。絶え間なく凶弾は降り注ぎ、泥の海が冥界を覆っていく。

 

─────なのに。

 

『Aaaaaaaaaa─────!?』

 

 当たらない。自身の攻撃が、あの輝きを捉えることが出来ない。追い付くことが、出来ない。

 

加速する。目の前の白銀の光がより強く、より熱く、輝きが増していく。その眩しい光を消そうとティアマトは踠くが、彼女の手では届かず、掠る事すら敵わない。

 

追い付けない。彼の強さに、彼のシンカに。どれだけ自己を改造しても届かない光を前に………ティアマトは、全てを終わらせる事を決めた。

 

己の核としている炉心を全力解放し、全てのエネルギーを使って薙ぎ払う。水爆級のエネルギーを誇るティアマト神が放つ最後の一撃。

 

冥界だけでなく、シュメルの大地そのものを無へと帰す。それだけのエネルギーが、ティアマト神に集まっていく。

 

 創世の神が、全ての権能を活用して、たった一人の人間を屠る為に活動している。大気が震え、大地が揺れる。世界の終焉を前に………。

 

「────いいぜ、最後の一勝負といこうか!」

 

白河修司は、やはり正面から受けてたつ。

 

「かぁ─────」

 

 構えるは必勝、それは限界を超えた修司が選ぶ最も慣れ親しんだ奥義。

 

「めぇ─────」

 

白銀の光の中に、蒼く輝く星が生まれる。

 

「はぁ─────」

 

集い、混じり、収束していく。対するは、全てを燃やす燼滅の光。

 

「めぇ─────」

 

その光景に、誰もが確信する。これが最後だと、この一撃で全てが決まると、神も夢魔も死神も人も、全てが静観し見守るなか。

 

“──────往け、小僧”

 

 黄金の王の言葉が、修司の耳朶を叩いた気がした。

 

「波ァァァァァァッ!!」

 

「AAAAAAAAAAッ!!」

 

放たれる極光と極光、激突したその光は一瞬の拮抗にも拘わらず、冥界を蹂躙していく。

 

そう、一瞬だった。シュメル全土を消滅させ、半ば自暴自棄となったティアマト神の決死の一撃。文字通り神の全てを込められた一撃は、修司の放つ蒼白い閃光を打ち消す事は出来ず……。

 

ティアマト神は、冥界の奥深くへと突き抜けて行った。

 

 ──────止まらない。ティアマト神の埋没は止まらない。蒼い閃光に打ち破れ、冥界の底を突き抜けたティアマトは、幾つもの時代(テクスチャ)を物理的に破壊しながら落ちていく。

 

深淵を、内海を、虚数すら射ち貫き、最後に到達したのは────。

 

(─────宇宙(ソラ)?)

 

 外装が溶け、全ての権能が破壊し尽くされたティアマト神が眼にしたのは、宇宙だった。何故、自分は宇宙にいる? 機能不全となった思考を回転させ、周囲の状況を視たティアマトは理解する。

 

自分は、地球から押し出されたのだと。地殻を穿ち、マントルを貫通し、外核をぶち抜き、内核を掠り、ウルクとは正反対の地表に出て、そのまま押し出される形で自身は宇宙へ押し出されたのだ。

 

嗚呼、地球とはこんなにも蒼かったのか。外界に打ち出されたティアマト、その眼に自身のあった惑星()を見据えると、地表に穿たれた巨大な孔から一つの星が見えた気がした。

 

細く、小さな光。瞬く間に大きく強く輝きを増していくそれは、正しく輝く星であった。

 

(─────ティアマト、アンタはアンタで、叶えたい願いがあったんだろうな)

 

 輝く星─────修司は、自ら穿ち貫いた孔を通って、その先の宇宙で揺蕩うティアマトを見て思う。嘗て、かの女神は穏やかな性格で、慈悲深いと、その昔、子守唄代わりに王から聞いた記憶があった。

 

彼女がこうなったのは、人類史(自分達)にも責任はある。そう語る王に修司は誓った。

 

“なら、その心配がなくなる位、強くなってやる”そういい放つ自分に、王は“そうか”と笑った。

 

ティアマトの願いを踏みにじる。其処に一変の後悔も罪悪感も在りはしない。抱くのはただ、この出会いと巡り合わせに対する………感謝である。

 

子はいずれ、親から巣立つもの。それは人と神であっても変わらず────故に、修司は拳を奮うのだ。

 

イメージするのは、最強の一撃。先の一撃よりもずっともっと深く強く、力を拳へ集約させていく。

 

応用するのは无二打(にのうち要らず)。紡ぎ、繋げるのは人の新たな可能性。

 

故に。

 

可能性を紡ぐ開闢の拳(エヌマ・エリシュ)

 

その一撃は確かに、神を撃ち貫いた。

 

 

 

 

 

 




Q.ティアマトの権能、機能してなくない?

A.ボッチがタコ殴りしてぶち壊しました。ヤバイですね!

Q.最後辺り地球ぶち抜いているけど、これ大丈夫なん?

A.アラヤ君やガイア君が神秘君一生懸命に治してくれるからヘーキヘーキ()

Q.この事魔術王は知ってるの?

A.現在の魔術王(?)の心境

「ガハハ、勝ったな風呂入ってくる」

次回で第七特異点は終了。

それでは次回も、また見てボッチノシ


▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。