『G』の異世界漂流日記   作:アゴン

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最近、絶対魔獣戦線バビロニアを履修しながら書いてます。

やっぱりエレシュキガル様がメインヒロインなのでは?




その158 第七特異点

 

 

 

 

『シラカワノ系譜、ソノ体、我二差シダ────』

 

「オラァッ!」

 

 悪意を振り撒く髑髏の顔に、修司の怒りの籠った拳を叩き付ける。ティアマト同様に見上げる程に巨大な翼を持つ髑髏は悶絶しながら吹き飛び、苦悶の雄叫びを上げる。

 

「まずは、ひとぉつッ!」

 

しかし、そんな髑髏の怪物の苦痛に満ちた叫びなど一切気に掛ける事はなく、修司は手刀に気を纏わせて振り下ろし、怪物を両断する。

 

かめはめ波で一網打尽にする事も考えたが、ティアマトを庇った時のように、吸収される可能性がある以上迂闊に放つことは出来ないし、何より修司の気力体力が持たない。

 

故に、余計な負荷を負わないために修司はこの巨大な怪物達を前に、自ら接近戦を挑むこととなった。

 

「先程から気になっているのですが、もしやこの怪物は修司殿のお知り合いか何かでございますか?」

 

「冗談でも止めてくれ、正真正銘縁のない化け物だ。遠慮なく素っ首叩き落としていいから!」

 

「無論、そのつもりですよ!」

 

 軽口を叩きながらも、ラフム達を迎撃する牛若丸は、足場にしている翼竜を呼び掛け、弁慶と共に突っ切っていく。

 

ティアマトだけでなく、髑髏の怪物達にさえ護るように集まってくるラフムの群れ。時間が経過し、全ての個体が飛行能力の獲得まで進化したラフムは、既に並みのサーヴァントを凌駕する膂力を持ち合わせていた。

 

そんなラフム達を相手に大立ち回りを見せ付けていられるのは、偏に牛若丸と弁慶の連携の上手さによるものが大きい。幾度となく戦場を乗り越えてきた源氏武者、圧倒的数の差を前にしても彼女が遅れを取る事は有り得ない。

 

加えて、彼女の傍らには弁慶がいる。喩え、それが名を借りた偽りの者であろうと、彼の魂にまで焼き付いたあの日の二人の姿は、悠久の時を超えた今でも微塵も色褪せる事はない。

 

故に、常陸坊も主の後に続く。近付いていくるラフムの群れを背負った籠に入っている無数の得物を使って撃退していく。そんな彼等に修司も援護の閃光を放った。

 

放たれた閃光は牛若丸達の進路上に屯っていたラフムを消し飛ばし、髑髏の怪物へ続く道を切り開く。

 

「助太刀、感謝致します!」

 

修司からの援護に感謝しながら、遂に牛若丸達は髑髏の怪物の下へ肉薄する。

 

「遠巻きから見ても思いましたが、近くで見るとよりおぞましさが増すな」

 

「どうやら、相手は怨霊の類いの様子。であれば、此処は拙僧の出番かと!」

 

「仕方あるまい。出番は譲ろう! 代わりに、確実に決めろよ!」

 

「承知!」

 

 主である牛若丸の後押しを受け、弁慶が翼竜から飛び、怪物へと肉薄する。見れば見る程怖気のする出で立ち、こんなモノに付きまとわれる修司を不憫と同情しながらも、弁慶は宝具の開帳を謳い上げる。

 

彼は、弁慶という英傑の名を騙る者。されど偽物と言うにはその在り方は誠実で、坊主を名乗るにはその男は臆病で、それでいて………優しかった。

 

常陸坊海尊。牛若丸こと源義経と共に戦場を駆け巡り、共に活躍し、そして………主の下から逃げ出した臆病者の僧兵である。死に行く主を護ることも、共に死ぬことも選ばなかった男は己を死ぬまで軽蔑し続け、源義経を永遠の英雄にするべく、その後の人生の全てを掛けて語り部となった。

 

(しかし、此度の召喚にて嘗ての主と共に戦えるとは、サーヴァントというのは実に因果な存在でありますな!)

 

 己の恥を無かった事にするのではなく、ただ主の名を語り継がせる事だけに執着した男は、この古代シュメルの地で再び嘗ての主と肩を並べる機会を得た。嬉しくない筈などなく、同時に許せる筈もなかった。

 

こんな自分が、主と共に戦って言い訳がない。何度もそう思い、その度に言われた。

 

『貴様の後悔など知ったことか』

 

主である牛若丸の愛刀、薄緑もかくやという程にバッサリと切り捨てられた常陸坊は、その日を境に嘗ての様に接することを決めた。違うのは、従う主が古代のウルク王だという事。

 

 そして、嘗ての主と再び肩を並べて戦っている内に、様々な出来事が起こった。魔獣達の司令塔の強襲と、これを相討ちという形で倒して見せた巴御前の勇姿。偵察に向かった天草四郎と風魔小太郎の敗北、そして、遥か未来のカルデアからやってきた人類最後のマスター達。

 

彼等の登場に事態は目まぐるしく移り変わり、気がつけば、魔獣達の女神であるゴルゴーンとの決戦、なんて事になっていた。戦いには臆病で、死してサーヴァントになった後も、何度も臆病風に吹かれつつあった自分が、途中で逃げ出さずにここまでこれた。

 

今度こそ主と共に戦い抜くと決めた自分が、何の気負いもなくこの場までこれた。その事実が己にとってもどれ程の救いとなったのか、それは常陸坊本人以外誰も知らない。

 

 感謝しよう。自分を召喚してくれたギルガメッシュ王に、感謝しよう。こんな自分と未だに共に戦ってくれた嘗ての主に、感謝しよう。戦いの恐怖を忘れる程にワクワクとハチャメチャの毎日を与えてくれたカルデアの戦士達に。

 

『─────雑兵ガ、身ノ程ヲ知レ』

 

「ぬっ!?」

 

「常陸坊ッ!!」

 

 怪物から放たれる衝撃波が、常陸坊に直撃する。全身を引き裂き、耳朶に骨と肉が砕かれる音が叩き込まれる。口から血反吐をぶちまけ、視界が紅く染まっていく。

 

「あの髑髏、分離出来たのかよ!?」

 

翼を持つ髑髏、常陸坊に距離を詰められ迎え撃つ手段を失ったと思われたソレは分離し、広がった攻撃範囲を利用して、自身の身体ごと常陸坊を衝撃波で撃ち抜いたのだ。

 

翼と分離された形でその姿を露にした怪物、まるで幼虫の様に蠢くその様は目の当たりにした修司と牛若丸に言葉に出来ない違和感を募らせていく。

 

だが、ここで怯んではいられない。今すぐに常陸坊の救出に向かおうと、修司が再び朱い気を纏った時。

 

「修司殿、あとはお頼み申す!」

 

 ダンッと、倒れ掛けた己の体に力を入れた常陸坊が踏みと止まり、声を上げて修司に後を託す。

 

「ギルガメッシュ王、牛若丸殿、そしてカルデアの皆々様方………お先に失礼致す。いざ、ご照覧あれい!」

 

“五百羅漢補陀落渡海”

 

紡がれる宝具。それは、相手が霊体であるのなら英霊怨霊問わず、問答無用に成仏させる浄化の神業。

 

理の異なる異界の怪物に、通じるかどうかは分からなかったが、この怪物も怨霊に類する存在(モノ)。更に言えば、この怪物はこの世界の存在である魔術王が召喚したのであれば、常陸坊の宝具が通じる可能性もまた大きかった。

 

『バ、バカナ! 我ガ消エテイク!? コンナ、タダノ光二!? ア、有リ得ン………』

 

 斯くして、この賭けは常陸坊が勝利した。霊基の核を砕かれ、消滅間近となったその男は自らが消えるのを実感しながらも、それでもその顔には笑みが張り付いていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「常陸坊、過去の意趣返しのつもりか? 小癪な」

 

 髑髏の怪物の撃破と共に消滅していった常陸坊に、牛若丸は呆れた口調で小さく溢した。しかし、今は感傷に耽る余裕はなく、残る怪物達の撃破に備え、牛若丸は再び愛刀を奮う。

 

「ならば、私も私の仕事をこなすとしよう。修司殿! 止め、お願い致します!」

 

「任された!」

 

押し寄せるラフムの群れを足場に、牛若丸は空を行く。既に怪物は牛若丸を捉え、彼女を屠ろうと龍を模した六つの触腕を伸ばしてくる。

 

『羽虫風情ガ、身ノ程ヲ知レ』

 

「は、貴様の様なデカブツに我が動きを捉えられるモノかよ。──────遮那王流離譚が二景、薄緑・天刃縮歩ッ!」

 

 瞬間、髑髏の怪物の視界から、牛若丸の姿が掻き消える。何処に消えたと辺りを見渡しても彼女の姿は見えず、逃亡の二文字が過った瞬間、髑髏の怪物は己の腕の一つが切り落とされていた事に気付く。

 

斬られた。髑髏の怪物でも探知出来ない速度で切り裂かれ、更には翼にまで刃を突き立てようとしている。唯の英霊風情にしては大したものだと感心するが………しかし、それだけだ。

 

この羽虫は弱い。脅威の度合いで言えば、先程の僧兵の方がまだ高い。素早いだけの羽虫に用はないと、怪物は身を捩って牛若丸を吹き飛ばす。

 

牛若丸に見せた僅かな感心、それは彼女が作り上げた隙の瞬間であり、彼女が即席に組み立てた勝利の方程式。

 

「怪物よ。どうやら貴様は、戦というものを知らぬらしい」

 

聞こえてきたその言葉の意味を理解できなかった怪物は呆れる。たかが羽虫が自分と対等に戦えるつもりでいるのかと、一蹴した瞬間。

 

「オラ、今度は俺だ。たらふく食らえよ、羽虫」

 

『ッ!?』

 

 聞こえてきた憎き男の因子を受け継いだ人間の、侮蔑に満ちた声に怪物は目を剥く。握り締められて振りかぶられた拳、既に男は怪物に向かって狙いを定めており。

 

「オッラァッ!!」

 

振り抜かれた拳は髑髏の顔面を砕き、ティアマトから流出しているケイオスタイドに呑み込まれ、跡形もなく消滅していった。

 

これで、残る怪物の数は二つ。ラフムの数も度重なる修司の放ったかめはめ波により、相当数の数がすり減らされている。

 

これなら行ける。エレシュキガルが冥界とウルクの境界を繋げるまでの時間も、この調子なら問題なく稼げられる。牛若丸に負担を掛ける事になるが、一気に怪物達を打ち倒そうと、修司が全身に気力を滾らせた時。

 

ふと、違和感に気付いた。

 

 ティアマトが、視線を向けている。これ迄ウルクにしか眼中に無かった原初の女神が、ウルクとは別方向へ────まるで、狙いを定めているかのように向けられている。

 

一体何に? ────いや、誰に? 其処まで思考を巡らせ、同時に修司は回答を得ると、形振り構わずその視線の先へと目指す。

 

奴は気付いた。この乱戦の中で戦っている者達の中で最も排除すべき者の事を。

 

光が放つ。眼光から、目映い光に晒された立香は自分が狙われた事に最後まで気付かず、気付いた時には何もかもが手遅れだった。

 

(あ、私……死んだ)

 

 漠然的にそう確信した瞬間、立香の視界が突然ぶれ、軽い衝撃が彼女の身体を押し退けた。マシュのお陰で倒れずに済んだと安堵したのも束の間。

 

「─────え?」

 

藤丸立香は、目の前の状況が理解できなかった。何故、自分は生きている? 死んだと思った自分は生きていて、どうして………。

 

「修司…………さん?」

 

向こうで戦っていた筈の修司が、心臓を貫かれているのか。

 

絶望と悲哀に満ちた悲鳴が戦場に木霊する。しかし、絶望の時は………まだ、終わりそうに無かった。

 

 ティアマトのウルク到達まで、あと…………。

 

 

 

 

 

 

 





Q.常陸坊の宝具って、何クルスさんに効くの?

A.現地からの直輸入だったら、効果は半減でした。今回は魔術王ソロモンによる召喚という形で顕現してますので、何クルスさんの性質も重なって、今回のような結果になりました。

Q.ボッチ、心臓抉られたけど大丈夫なん?

A.予定調和とは言わないで。


それでは次回もまた見てボッチノシ






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