『G』の異世界漂流日記   作:アゴン

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今回は短め。

早くウルク決戦へ進みたい。



その157 第七特異点

 

 

 

 巨大。その神の真体は剰りに巨大だった。大地を見下ろし、シュメルの大地を己の理で埋め尽くそうとするその神の名は─────ティアマト。

 

世界を創世し、世界の土台となったとされたとされる女神は、その生み出した世界によって否定された。そんな彼女にとって人類とは自分の居場所を奪い取った侵略者に等しい。ならば、その瞳に写るのは憎悪か、それとも怒りか。本能のままに突き動かせる彼女の思考を読み解く者は………この世界には存在しない。

 

 原初の女神である彼女が目指すのは、ウルクという人類最後の砦。そこを破壊し、其所を護る人類の楔(ギルガメッシュ)を屠りさえすれば、それだけで人類の焼却は揺るぎないモノとなる。

 

総数一億越えの子供達(ラフム)を引き連れ、彼女は目指す。ヒトの時代を終わらせ、新しい創世を始める為に………と、その時だ。

 

「波ァァァァッ!!」

 

 遥か前方から、蒼白い光が見えた瞬間、途方もない衝撃がティアマトを震わせた。大気を揺さぶり、大地を震撼させる巨大な光。我が子らが盾となって防いでも、それでも尚伝わってくる熱量と余波。

 

そして、その余波に負けたティアマトは、その巨大な体ごと後ろへ押し出された。物理的に力で押し負けた事実に、ティアマトの瞳は揺らぐ。能面の様な顔に、僅かな驚愕の色を滲ませて眼前を見据える彼女の視界には、紺色のインナーが顕となった半壊した胴着を身に纏う人間──────白河修司がそこにいた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ちっ、やっぱりラフムで防いだか。悪い皆、失敗した!」

 

 ティアマトから遠く離れた地点にて、先制攻撃を仕掛けた修司は、己の一撃を防がれた事を悔やみ、皆に奇襲の一撃が防がれた事を素直に口にした。

 

「ノー、今の一撃でラフムが一定数削られました。お陰で私達の負担を軽くできたと思えば無問題デース、ポジティブポジティブ、切り替えて行きましょう!」

 

「それに、今ので母さんを後ろに吹っ飛ばしたわ! 今ので一時間は稼げたんじゃないかしら?」

 

前を見据える修司達の前方には、無数のラフムを引き連れた原初の創世神ティアマトが今までと変わらぬ速度で前進してくる。修司の放つかめはめ波は、ラフム達が盾となる事で直撃を防がれたが、それでも残った衝撃によって原初の神の進撃を幾分か遅らせる事が出来た。

 

『女神イシュタルの言う通り、一定の時間は稼げた上、更にはラフムの数を減らせたんだ! これ以上の好機はない!』

 

「修司さんはイシュタルさんと一緒に援護をお願い! 私とマシュはケツァルコアトルさんを目的地まで……!」

 

「イエース! 宜しくお願いしまーす!」

 

 幾度の修羅場を潜り抜け、すっかり逞しくなった藤丸立香。自ら危険な役割を勝って出てた彼女は乗せられた翼竜に頼み込み、マシュ達と共にティアマトの下へと飛翔していく。

 

「それでは、我々も暴れると致しましょうか」

 

「………所で、今更だけどあんた達はどうやって戦うつもり? 其所のトンチキ(修司)と違って、全うな英霊なんでしょ?」

 

もう一頭の翼竜には、弁慶と牛若丸が待機している。彼等とイシュタル、そして修司の役割はティアマトの足元へ向かう立香達の援護とラフムに対する遊撃。しかし肝心のティアマトの足元は命を変質させる黒泥─────ケイオスタイドで満ちている。

 

翼竜を足場にしなければ戦えない彼等が、空を飛ぶラフムにどうやって抗うつもりなのか、不思議に思ったイシュタルが何気なく質問すると………。

 

「やるぞ、弁慶!」

 

「承知! ………ンヌゥーンッ!」

 

 見れば、振りかぶった薙刀の上に、牛若丸が乗っている。彼等の睨む先にあるのは、此方に近付きつつあるラフムの群れ、まさかと目を丸くさせたイシュタルが唖然とするなか、振り抜かれた弁慶の一投が牛若丸を弾丸のごとく吹っ飛ばしていく。

 

「ひとぉーっつ!」

 

突然サーヴァントが吹っ飛んできた。その光景に驚いたラフムの顔(口?)に牛若丸の愛刀である薄緑が捩じ込まれる。断末魔を上げるラフムだが、その程度の悲鳴に源氏の侍が動揺する筈もなく、彼女の一刀は容赦なくラフムの顔を両断せしめた。

 

当然ながら、ワザワザ此方に近付いてきた牛若丸をラフムが見逃す筈もなく、塵に還る同胞に遠慮する事なく、刃となった触腕を振るう。

 

しかし、牛若丸はこれ等のラフムの攻撃を受ける事なく、身を翻して回避し、振り抜かれたラフムの触腕を足場にして周囲に自身の刃を振る舞った。

 

ラフムからラフムへ、形態変化を果たして飛行能力を獲得したラフムを足場代わりにして戦い続けるその様は、まるで舞を踊っているように美しく、また苛烈だった。時にはラフムの翼を切り落として落下させ、時には敢えて攻撃を引き付けて同士討ちを狙う。

 

嘗て、檀ノ浦の戦いにて足場の悪い船上にて自由奔放に跳び跳ねながら戦ったとされる牛若丸。喩え空中であろうとその逸話は変わらず、彼女は構うことなく上空数百メートルの戦場にて刃を奮い続ける。

 

黒い泥の様な血が舞う中で、その少女だけは嗤っていた。

 

「ふぅ、一先ず掻き乱して来ましたが、効果は今一つでしたな」

 

「牛若丸殿、返り血が着いております故、失礼します」

 

 ラフムの血はティアマトの垂れ流すケイオスタイド程では無いにせよ、サーヴァントにとっては猛毒に等しい。表情こそは出さないが、それでも呼吸が荒くなっている牛若丸に弁慶は持参していた手拭いを使って、彼女に付着したラフムの血を拭っていく。

 

「お疲れ牛若丸さん、一応俺の気も分けておくよ」

 

「いえ、それには及びませぬ。修司殿は此度の戦いの要、貴方の手を煩わせる訳には参りませぬ。気持ちだけ、受け取らせて貰います」

 

修司の気を分けて貰えば、牛若丸も長く前線に挑める事は可能。だが、今回の戦いは人類の命運を掛けた決戦。主戦力である修司には可能な限り体力を温存して貰うのが最善だろう。そんな彼女の決意に後押しされ、修司もまた決意する。

 

「………あんた達が戦えるのは分かったわ。なら、遠慮なく頼らせて貰うわよ。私も、その気になって暴れて上げるわ!」

 

「宜しくお頼み申す。それでは修司殿、引き続き攻撃の方も宜しくお願い致します!」

 

「あぁ、任せろ! 今度は界王拳込みでぶっ飛ばしてやる!」

 

「守りの方は私にお任せを。この常陸坊、今度こそ最期までこの戦いに挑ませて貰う所存!」

 

 敵は見上げる程に巨大な神。ティアマト神からすれば今の自分達は塵芥に等しいだろう。一分一秒という時間を賭けて、巨大なティアマト神を足止めする彼等の行いは、ラフムから視て滑稽にしか映らなかった。

 

面白い。無駄な事に命を賭けて面白い。嗤いながら向かってくるラフムに、牛若丸は刃を奮う。

 

 しかし、牛若丸の刃である薄緑の強度は長きに渡る戦いの末に限界に差し掛かっていた。加えて、形態変化を遂げたラフムの強さは以前よりも段違いに増している。純粋な強さはゴルゴーンの魔獣を軽く越えているだろう。

 

このままではいずれ此方が力尽きてしまう。だが、それでも最期までこの刃を奮い続けようと、眼前迫るラフムを見据えた時。

 

文字通りの横槍がラフムの群れに突き刺さった。

 

「っ、今のは!?」

 

 見れば、ギルス市に残る投擲部隊が城壁に備えられた投擲装置に石を込めている。数にしてたったの30、ティアマト神に果敢に挑む立香達をせめてもの援護として放たれた一投は確かにラフム達の感心を引き寄せて見せた。

 

「人間、人間人間人間人間人間人間人間人間人間人間人間人間人間人間人間人間人間人間人間人間人間人間人間人間人間人間人間人間人間人間人間ッ!!」

 

「あっちに人間がいるぞ! 楽しいな、愉しいな!」

 

「惨めだな。愉しいな。哀しいな。愉快だな!」

 

「そうかよ。けど、余所見をしているお前らも、結構間抜けで面白いぜ─────牛若ァッ!」

 

「応ッ!」

 

そして、その一瞬の感心が修司に特大のかめはめ波を放つ為に必要な一瞬の隙となった。朱い炎を身に纏い、腰だめに構えた両手を突き出した瞬間─────ラフム達は巨大な蒼白い閃光に包まれた。

 

直前、ラフムを足蹴なして上へと跳躍した牛若丸は修司の放つかめはめ波を目で追った。直撃コース、減らされたラフムの数から今度こそティアマトに直撃されると思われた修司の一撃は、突如として空から現れる例の化け物によって阻まれてしまう。

 

髑髏の顔と、それに似合わない翼を持つ怪物。白河修司に一方的な因縁を持つ謎の神性。それが五つ、ティアマトを護るように現れた。

 

「北壁に現れた奴とは違った…………例の空を飛ぶ怪物ですか!」

 

「地上にはもう片方の怪物は見当たらない。ならば、修司殿!」

 

「あぁ、少々数は多いが、此処で退くわけには行かない! 二人とも、付き合ってくれ!」

 

「「承知ッ!」」

 

 立香達がケツァルコアトルをティアマトの足下に送り届けるには、あの五体の怪物達が邪魔だ。予想していたよりも多くの数が送られてきたが、此処で引き下がるわけにはいかない。

 

修司は朱い炎を身に纏い、牛若丸達と共に立ち塞がる怪物達へと吶喊していく。

 

 

 






Q.何クルス、乱用し過ぎじゃない?

A.も、元々こんなあつかいだっから……。

次回から話の展開が早くなるかも。

それでは次回もまた見てボッチノシ





オマケ

Apocrypha+1



「修司、お前にはどんなに言葉を重ねても返しきれない恩がある。けど、それでもどうか言わせて欲しい。俺と、ライダーを助けてくれて、ありがとう」

「おう。どういたしまして」

「────それで、それはそれとして………あれは少々やりすぎなんじゃないのか?」

「あん?」

「ひぐ、グス、俺の、俺のクラレントがぁ、俺の剣がぁ、ポッキーみたいにへし折れたぁ」

「うわー、綺麗に折れちゃってるよ。助けて貰っておいてなんだけど、もう少し違うやり方は無かったの?」

「いや、セイバーって言えば剣だし、得物を折れば大人しくなるかなーって。アーサー王の時もそうだったし」

「まさかの前科持ちだった!? …………て、ちょっと待って、理性の蒸発した僕でも聞き捨てならない言葉が出てきたんだけど!?」

「アーサー王の剣も、折ったのか!?」

「え? うん。普通に膝で。さっきみたいに」

「「うわぁ」」

「コラー! そこのハチャメチャ生産機! いい加減に自重しなさーい!」

「あ、ジャンヌさんだ」

「貴方には色々と聞かなくてはならない事がありますから、そこを動かないで────」

「アッセイ!」

「ブベラッハァッ!?」

「る、ルーラーッ!?」

「ルーラーが、でっかい肉塊に吹っ飛ばされたァー!」

「なんだ、コイツ」


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