『G』の異世界漂流日記   作:アゴン

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済まない。エルデンリングが時間泥棒過ぎて済まない。



その156 第七特異点

 

 

 

「─────いてて、今更ながら結構無理をしちまったな」

 

 ジグラットでの作戦会議を終え、大使館へ戻ってきたカルデア一行。藤丸立香やマシュがそれぞれの思いを抱きながらウルク滞在最後の一日を過ごしている中、修司もまた用意されたベッドの上で寛いでいた。

 

全身に施された治療の痕、用意された包帯に巻かれて修司の全身はほぼミイラ状態となっている。思えば、北壁での戦いから今日までほぼ休みなく戦い続けてきた修司にとって、最大のインターバルとも言えた。

 

ロマニからも少しでも体力を回復する様に珍しく厳命され、現在修司は気の力を応用しての自己の回復能力を体力が損なわれない程度に底上げしていた。

 

この分なら、朝方までになら大分回復出来るだろう。問題は体力が尽きるまでにティアマト神をどれだけ足止め出来るかだ。

 

その上、恐らくはあの二対の怪物達も出張ってくる筈。自分とあの怪物の間にどの様な因縁があるのかは知らないが、召喚されれば必ず自分に襲ってくるし、更に言えばその執拗さを魔術王は絶対に利用してくる事だろう。

 

ティアマト神と魔術王の横槍、この二つを相手にしなければいけないのが、今回の特異点の辛い所だ。

 

「けど、やり遂げなくちゃいけないよな」

 

 出来なければ自分達は敗北し、人類史は焼却されたまま終わってしまう。

 

………上等だ。此方は伊達に英雄王の臣下を名乗ってはおらず、その英雄王はこの世の全てを背負っている英雄の中の英雄だ。であるならばこの程度の逆境、乗り込えて見せなければ彼の臣下を名乗れない。

 

握り締めた拳に力を込め、明日の決戦に気合いを入れていると、扉を叩くノックの音が聞こえてきた。

 

「修司殿、今宜しいでしょうか?」

 

「弁慶さん? あぁ、どうぞ」

 

 扉の向こうから弁慶の声が聞こえ、つい反射的に答えて入ってきても構わない旨を伝えると、落ち着いた弁慶の声とは裏腹に、勢い良く扉は開かれた。

 

「修司どのぉ~、いかんでござるよぉ~? こんな部屋の中で籠っていてはぁ~!」

 

「牛若丸? おいおい、酔ってんのかよ」

 

「酔ってないでござるぅ~」

 

開かれた扉から、酒で出来上がった牛若丸が雪崩れ込んできた。猫撫で声で抱き付いてくる源氏の武将に、修司は若干戸惑いながら保護者面している弁慶にどういう事かと説明を求めた。

 

「申し訳ありません修司殿。拙僧は止めたのですが、この通り酔ってしまった彼女を止める手立てがなく……」

 

「明日は決戦、であるならば最後くらい共に酒を酌み交わしてもバチは当たらないでしょう。レオニダスも下で待ってます故、ささ、修司殿もお早く」

 

 サーヴァントが酒に酔う事はほぼないが、荊軻の様に趣味で酔い潰れる英霊も存在している為、修司はそれ以上追求する事はしなかった。

 

それに、牛若丸が言うように明日は決戦で、人類の命運を決める戦いが始まる。ただ部屋で休んでいても体力は回復しても気力までは全快には至らない。体を回復させるだけでなく、磨り減らした心の回復も必要なのだと、牛若丸は暗に訴えている様に思えた。

 

此処まで気を遣わせてしまっては断る理由もない。便乗する形にはなるが、修司もその晩酌に肖る事にした。

 

「おぉ、修司殿も参られたか」

 

「レオニダスさん……」

 

 半ば強引に連れられ、一階へとやってきた修司が目にしたのは、片腕を失ったレオニダスだった。左肩からその先にある筈のモノが無く、痛々しい包帯の中から血が滲み出ている。

 

「それ……ラフムか?」

 

「─────えぇ、卑劣にも子供を手に掛けようとした個体がいましてな、それを庇ってしまったら不覚を取ってしまって。あぁ、ご心配には及びませぬ。止血は既に終えておりますから」

 

「─────そっか、ありがとうな」

 

「礼には及びませぬ。我等英霊は人類史に刻まれた影法師、ただの影が命を守り、次へと繋げられるのであれば、これ以上ない誉でありましょう」

 

“だから、貴方が気に病む必要はない” 片腕を失っても次に繋げる命を守ることが出来たレオニダスは、自身の負傷を厭わずに笑う。そんなレオニダスに修司は少し心が軽くなった気がした。

 

「とは言え、次の決戦に私の出番は恐らくはありません」

 

「え、そうなのか?」

 

「えぇ、ギルガメッシュ王からの勅命でしてな。この後、私は北壁に向かって避難してきた民の守衛に勤める事になりますので」

 

 如何にサーヴァントと言えど、片腕を失った状態で前線に立つのは厳しく、更に言えばレオニダスは護る事に特化した英霊。前線に立って槍を奮うより、後ろに下がって半壊した北壁の代わりに、盾として最期まで立たせるというのが、王からの采配なのだとか。

 

最後まで無駄のない采配に修司は流石だと舌を巻くが、同時にやる気が満ち溢れてきた。自分達の後ろにレオニダスという守りの要がいてくれるのなら、自分も思う存分戦える。

 

「兵士達には、既に私から伝えられる全てを伝える事が出来ました。ウルクの護りにはきっと力になってくれる事でしょう」

 

「ギルガメッシュ王も言ってましたよ。協力感謝すると。あの暴君と名高いギルガメッシュ王が感謝ですよ? いやぁ、歴史というのは面白い!」

 

 揶揄するように口にする牛若丸だが、その言葉の内には確かな尊敬の感情が込められていて、修司もまたそれに同意するように頷いた。

 

「本当、王様に喚ばれたのがレオニダスさんで良かったよ」

 

ギルガメッシュ王という英傑に喚び出された七騎の英霊、既にその数は半数以下へと磨り減って来てはいるが、それでも彼等は戦う意味も意義も見失ってはいなかった。この魔獣戦線に召喚されて早半年、戦いの毎日であってもそれでも彼等が諦めなかったからこそ、現在まで人類史は繋いで来られたのだ。

 

心から思う。一緒に戦えたのが彼等で良かった。

 

「さて、それでは修司殿、グラスは持ちましたかな? 生憎麦酒は僅かしか残ってませんので、この一杯で最後となりますが……」

 

「あぁ、構わない。ありがとう」

 

 弁慶にグラスを渡され、牛若丸に注がれる。正真正銘ウルクでの最後の一杯。牛若丸の演技に騙され、事前に自分も呑んでも良いという空気を作ってくれたその気遣いに感謝しつつ。

 

「────それじゃあ、乾杯」

 

修司は、ウルクの最後の麦酒を飲み干した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ───────翌朝。ウルクでの最後の休日を過ごし、気力体力共に回復した一行は、再びジグラットへと訪れ、対ティアマト神に対する作戦会議を行った。

 

当初は、グガランナという切り札が無いことに酷く衝撃を受け、その影響もあって会議処ではなかったが、一晩頭を休ませた甲斐があり、今朝は驚く程に話が進んだ。

 

まず、女神ティアマトは海洋から進行してくる黒い泥を介して、ウルクヘ進撃してくる。逆を言えばその泥さえ取り除けば、女神ティアマトの速度は著しく低下するという事。故に、作戦の第一段階の攻撃目標はティアマト自身ではなく、彼女を運ぶ泥となった。

 

 大量の黒い泥の物理的除去。それならば自分の役目だと、ケツァルコアトルが挙手をした。黒泥改めケイオスタイドの除去、ペルシャ湾という海洋そのものを消滅する事は出来ないが、彼女を取り巻く泥を消滅させる事は出来ると、彼女は豪語する。

 

何でも、それはケツァルコアトルの神殿に飾られた神具であり、あれがなければこの手段は選べなかったという。神格もサーヴァントの規格ではあるが万全で、もしかしたらダメージも少しは通せるのではないかと、彼女は語った。

 

太陽遍歴ピエドラ・デル・ソル。太陽神ケツァルコアトルがもつこの宝具を以て、ティアマトの進軍を止める。

 

だが、当然この策には裏があった。太陽遍歴の宝具はケツァルコアトルの体力を著しく奪うだけでなく、発動まで結構な時間を有する。その為、誰かが彼女の側に立って守り続ける必要がある。

 

無論、その為にイシュタルも協力するし、修司もかめはめ波という長距離砲撃で援護をする。だが、それでもかなりの危険性を孕んでいるのは間違いなく、同時にそれを実行できるのは、藤丸立香と彼女のサーヴァントであるマシュ=キリエライトの二名しかいない。

 

ケイオスタイドに僅かでも触れてしまったら、生身の人間でも変質、変容は避けられず、それは人間にとしての死を意味している。嘗てない危険の作戦を前に………。

 

「よし、やろう!」

 

 人類最後のマスターは、二つ返事で了承した。

 

彼女の快活な返答を以てティアマト迎撃作戦の開始、その号砲となった。

 

ギルガメッシュの言葉と共に兵士たちへ持ち場へつく様に指示を出す。勝っても負けてもウルクは滅ぶ。しかし、それでも彼等は戦う道を選んだ。全てはその先にある未来のために………。

 

 立香達が出撃の準備の為に外へ向かう。その背中を見送り、自身もまたジグラットから出ようとした時………ギルガメッシュの足は止まった。

 

振り返り、玉座の方へ視線を向けると───────彼女が、王の出立を願うように頭を垂れる。そんな光景が、見えた気がした。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ウルクに残る全ての民に告げる」

 

 決戦の朝。その日、王は言った。

 

「半年より前、魔獣戦線が作られた時だ。我はお前達に言った」

 

どう足掻いても、ウルクは滅ぶ。避けることも、防ぐ事も出来ない絶対的な終末の時を、このウルクは迎える事になる。

 

故に、王は言った

 

「逃げるのも良い。享楽に浸るのも良い。嘆きから冥界に身を投げても良いとな」

 

現実逃避。立ち向かわず、逃げることを優先し、享楽に溺れ、絶望のまま死に果てる。王は、その全てを赦すと言った。

 

仕方がないと、王自身が半ば認めていたから。

 

しかし。

 

「だが、お前達は戦うと口にした」

 

諦めない。最期まで、人として戦うと、民達は言った。

 

「この結末を知った上で、なお抗うと。まさに、ウルクは幸福な都市であった。その歴史も、生活も、民も─────この我も含めてな」

 

嬉しかった。人は、人類は、神という絶対的な超常の存在を前にしても、それでも立ち上がれる勇気を持っている。あぁ、本当に………自分達は幸せであった。

 

譬え滅びを前提とした日々であったとしても、あの日常こそが王にとっての宝であった。

 

故に、王は言う。

 

「─────今一度言おう。ウルクは滅ぶ!」

 

それは、最早変えようのない事実。

 

「だが、憂う必要はない。何故か! それは勝利の暁を一人でも拝むものが在れば、その胸中に我等の生き様が刻まれるからだ!」

 

 どう足掻いても滅びは免れず、この戦いは価値のないモノかもしれない。しかし、それでも確かな意味があった。

 

喩え、それがどんなに小さく、細くても、そこに繋がる何かが、誰かがいるのなら、それだけでも自分達の存在した意味は……………確かに在るのだ。

 

「喩え死するとも! 子を残せずとも! 人は人の中に意志を残す! それこそが、人が持つ力の粋! 血を介さず知性による継承、命の連鎖!」

 

喩えそれが、血を介したモノではなく、言葉で残すモノではなく、知性という人が持つ意志という継承。

 

「ウルクの滅びは、我等の滅びではない! 我等は勝利の暁に輝き、その光で次代を繋ぐ!」

 

これは、倒す為の戦いではない。後に人という命を繋ぐ…………護るための戦い。故に。

 

「心せよ、我が精鋭達よ!! 今こそ原初の神を否定し、我等は人の時代を始める」

 

これは、神との訣別の戦い。人が踏み締めるはじめの一歩。

 

「その命──────()に捧げよ! 後の世に、我等ウルクの栄光を、伝える為に!」

 

 瞬間、怒号がウルクにて弾け飛ぶ。男が叫んだ。女が叫んだ。老人も、少年も、兵士も、その全てが王にとって最高の精鋭であるが故に………。

 

「立香ちゃん、マシュちゃん────絶対、勝とうな」

 

「うん!」

 

「はい!」

 

決戦が、始まる。

 

 

 

 




この時のギルガメッシュ王、どう足掻いても某騎士王では太刀打ち出来ないと思ったのは自分だけ?
特に、第六特異点の獅子王とか、逆立ちしても王の器として敵わないと思った。

それでは次回もまた見てボッチノシ






オマケ

Apocrypha+1

「はっ、擬きにしては良くやった方見てぇだが、所詮はホムンクルス。俺の敵じゃなかったな」

「はぁ、はぁ、くそ、時限式の奇跡ではこれ迄か」

「もういい、逃げてくれジーク! 君まで殺される必要はない! 逃げるんだ!」

「嫌だ! 俺は、俺を………俺の近しい人が死ぬ所なんて、もう見たくないんだ!」

「ほざけ三下。今のテメェに何ができ─────」

「オラァッ!」

「プゲラッ!?」

「「っ!?」」

「ふぅ、どうやら間に合ったみたいだな」

「え、えぇ!? 誰ッ!? なんか知らない人が来たァッ!?」

「修司、来て………くれたのか」

「おうよ。ってか、大分傷だらけじゃねぇか。その様子だと相当頑張ってくれたみたいだな。よし、後は俺に任せておけ」

「ま、待ってくれ! 貴方一人じゃあ────」

「大丈夫。俺、強いから」

「テメェ、いきなり不意打ちかますとは良い度胸じゃねぇか! 死ぬ覚悟は出来てるんだろうなぁ!?」

「へっ、お前こそ、その大事な剣をへし折られる覚悟は出来てるのかよ? …………掛かってこいよチンピラ、格の違いって奴を、分かりやすく教えてやる」

「上等!」


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