『G』の異世界漂流日記   作:アゴン

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NieR:Automata。

アニメ化おめでとう!




その151 第七特異点

 

 

『────ごめんなさい』

 

 それはいつの日だったか。普段は優しくて厳しかった祖母が、珍しく感情を顕にしていた。どんなに辛くても泣き言など口にせず、元気だった祖母は………その日、どういう訳か泣いていた。

 

ごめんなさい、ごめんなさいと、一体誰に謝っているのだろうか。泣いている祖母の涙を止めてやろうと、幼いながらあの手この手で笑わせようとした自分は、きっと祖母から見て滑稽に見えた事だろう。

 

しかし、そんな自分を祖母は泣きながら笑い、抱き留めてくれた。

 

『ごめんなさいモニカ、ごめんなさいテリウス、ごめんなさい………シュウ様。私には、この子の幸せを奪う事は、出来ません』

 

『お婆ちゃん?』

 

 モニカとは誰か、テリウスとは何者か、そして………シュウなる者は何者か。疑問に思うことは多々あれど、それを問い詰める事は修司には出来なかった。

 

だって、その顔は何処までも慈愛に満ちていて───。

 

『修司、私の可愛い孫。どうか………幸せになって』

 

その微笑みは、何処までも幸福にみちていたのだから。

 

それは、自身の祖母であるサフィーネ=グレイスが亡くなる数日前の出来事。

 

 ────懐かしい夢を、見た気がした。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「─────あ、う………ここは? アグッ」

 

 朦朧とする意識を覚醒させ、立ち上がろうとする腕に力を入れようとした時、全身に鋭い痛みが走るのを自覚する。倒れ、地に伏せる修司は自身に何が起きたのかをゆっくり思い出しながら、全身に走る痛みを堪えながら立ち上がる。

 

そうだ。自分は確かペルシャ湾にいた筈。ペルシャ湾で北壁を襲い掛かってきた怪物を何とか打ち倒し、その後に海で起きた超常現象に嫌な予感を感じ、灯台にいるペルシャ湾に滞在している観測班の人々と共に一時ウルクへ避難しようとしていたのだ。

 

「っ、不味い。皆にもこの事を報せないと!」

 

 脳裏に浮かぶのは、悪意に満ちた怪物達と邪悪に染まる化け物。化け物の方は恐らく先にペルシャ湾で自分が倒した奴と同類の存在なのだろう。根拠はないが、言葉では表現出来ない確信が修司にはあった。

 

そして、黒い怪物達も同様に危険な存在だ。奴等がペルシャ湾から這い出てくるモノなら、その数は計り知れない。どちらも危険度は高く、放置できない存在である以上、それを知る修司が下すべき判断は急ぎウルクへ戻り、王に事の顛末を報告するだけだ。

 

「クソ! あれから一体どれだけ時間が経ったんだ!? 王様は、立香ちゃん達は無事なんだろうな!?」

 

せめてカルデアへ話を繋げようとするも、あの化け物の一撃を受けてしまった所為で通信機器が破損してしまったのか繋がらず、焦燥感が修司の胸中を掻き乱す。

 

このままでは駄目だと、一旦落ち着こうとする修司だが、遠くから聞こえてくる悲鳴がそれを許さない。既に破れ掛けていた胴着の上着を破り捨て、それを自身の腕の出血の簡単な応急措置へ施すと、修司は脇目も降らずに悲鳴の方へ走り出す。

 

「止めて、お願い止めて! 人間の体はそっちに曲がらないの! 裂けちゃう、裂けちゃうカラァァァァッ!!??」

 

「助けて、誰か、誰かぁ!」

 

目の当たりにしたのは、一つの地獄。逃げ惑う人々を無遠慮に、無慈悲に───否、弄ぶ黒い怪物達に修司の怒りの沸点は飛び越えた。自身の状態を鑑みず、肉体に掛かる負担を忘れて、修司は界王拳を発動。女性に鋭い触手を振り上げる怪物の頭を、言葉も発せずに蹴りとばす。

 

ギュルギュルと音を立てて首が飛んでいく怪物、首が地べたに着くのと同時に、胴体諸とも塵となって消えていく。その様子に、周囲の同類達は一瞬だけ動きを止めた。その隙を見逃さず、着地と同時に加速した修司は、一切の加減も遠慮もなく、怪物達を己の素手で蹴散らしていく。

 

手刀で、拳で、蹴りで、肘や膝で、修司自身も痛みで苛まされている筈なのに全く意に介さず、暴力による蹂躙は続いた。

 

「皆、無事か!?」

 

その集落の化け物達を駆逐するのに一分も掛からず終わらせた修司は、生き残った人々に声を掛ける。修司の声に戸惑いながら反応してくれたのは………僅か七人。負傷者を含めれば十数人規模の集落の人々が修司を見て集まってきた。

 

たったこれだけ。この集落は規模的に見て、数百人の規模で成り立っている筈。建物の数からして数十人程度なのは………絶対にあり得ない事だ。

 

それはつまり………と、そこまで考えて修司は首を横に振った。失ったモノを数えるのは、精神的に堪える。今は現実逃避でも前を向くべきだと気持ちを無理矢理に変えた修司は、不安そうにしている住人達を安心にさせるべく、笑顔で応える。

 

「皆さん、これから自分はウルクに向かいます。道中は自分が守りますので、どうか安心してください」

 

 すると、修司の強さを目の当たりにした人々は安心し、安堵の表情を浮かべる。だが、いつまでも此処に足止めをする訳には行かない。いつまたあの怪物達が此処に押し寄せてくるか分からない以上、早急に移動が必要になってくる。

 

全身が酷い鈍痛に苛まされ、今にも倒れてしまいそうだが、此処にいる人達を助けると決めた以上やるしかない。

 

比較的軽傷の人達と協力し、助け合いながら集落を出て直ぐ………再び、黒い怪物達はやって来た。

 

「s@biehk?」

 

「6et:zbq@!」

 

「3c-@4! 3c-@4!」

 

「f@of@oidw3c-@4!」

 

 口はあるから何かしらの言葉を話せるのは分かったが……如何せん、何を言っているのか分からない。これ迄世界を旅して様々な言語を耳にして来た修司でさえも、初めて耳にするモノだった。

 

しかし、その発声に吐き気を催す程の邪悪な意志が詰まっているのは理解できた。コイツ等とは根本的に相容れない、怪我を負っている修司にではなく、無抵抗な人々を進んで狙っている事から、その性悪さは伺い知れた。

 

「何言ってんのか知らねぇよ。コミュニケーションを取りたきゃ、人語を介してから出直してこい!」

 

 手刀に気を纏わせ、横に薙ぎ払う。どれだけ負傷を負っていようとも、目の前の怪物をまとめて屠る位訳はない。問題なのは、護衛対象の方だ。

 

ウルクまでは、まだ此処から幾分か時間が必要になってくる。これまで休みなしで走り続けてきた彼等には、もうこれ以上の行軍を行えるほどの体力は残されていない。

 

負傷した人々の怪我も、修司が気を分け与えた事でどうにか動けるようになってはいるが……それも、もう長くは持たないだろう。

 

そして、自分をペルシャ湾から吹っ飛ばしたあの化け物も、何処に潜んでいるのか分からない今、迂闊に足を止めるのも許されない。現在、あの化け物の気配は消えているから、今すぐ此方に牙を向けてくる事はないだろうが………それでもいつまた自分の前に現れ、襲ってくるか分からない。

 

故に、今は僅かな望みに懸けてウルクへ向かうのが、今の修司に出来る最善の手段だった。

 

「s@47zw動ew.k?」

 

「6md\e! f@of@oir.k6md\e!」

 

「こっちくんな!」

 

 性懲りもなく襲ってくる怪物達を修司は蹴りで薙ぎ倒す。あの集落から脱出して数刻、幾度となく怪物達を蹴散らして分かった事だが、どうやらこの黒い怪物は恐怖という感情が抜け落ちているらしい。

 

そもそも、あんな怪物が知性や理性を持ち合わせているのかなんて定かではないが、自分と同個体が呆気なく屠られたならば、通常の生命体は僅かでもそれに反応する筈だ。

 

しかし、奴等は自分の仲間があっさりと倒されたことにも対して反応せず、構うことなく襲ってくる。これ迄の自然体系に属する生命体なら、まずあり得ない挙動だ。

 

そもそも、この怪物達は何処から現れ、どうやって此処まで数を増やしてきた? やはりペルシャ湾の深海か? 産み出される母体が存在するのなら、その母体は今何をしている?

 

(余計な事は考えるな! 今はこの人達をウルクまで守ることだけに集中しろ!)

 

 無駄に回る思考に歯止めを掛け、目の前の敵を倒すことに集中する。四方八方から押し寄せる怪物に、再び修司が界王拳を解放しようとした時。

 

 

「ゼぁッ!」

 

地を駆ける牛若丸が、黒い怪物を一息に両断していく。先駆ける牛若丸に続き弁慶が、次々に怪物達を斬り倒していく。

 

「修司殿、ご無事でしたか!」

 

「牛若丸、弁慶も、どうして………ここに?」

 

「拙者達だけではございませぬよ」

 

 北壁にいる筈の彼等がどうして此処にいるのか、疑問に思う修司だが、その答えは直ぐに返ってきた。背後から聞こえてくる声、懐かしく聞きなれたその声に振り返ると、其処には急いだ様子で此方に駆けてくる立香達が見えた。

 

「修司さん!」

 

「立香ちゃん、マシュちゃんも、どうして此処に? ゴルゴーンの討伐に向かった筈じゃあ………」

 

『その事は僕から説明するよ。けれどその前に修司君、君にも聞きたい事がある。先の北壁から現れた謎の神性が現れてから、一体何が起きたんだい?』

 

通信越しに現れるロマニ、恐らくはカルデアからもこの異常事態の観測に乗り出しているのだろう。少しでも情報が欲しい彼の言葉に、修司は二つ返事で頷いて順番に説明を始めた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『そうか、二体目の謎の神性はペルシャ湾の灯台を破壊した後姿を消したのか』

 

「あぁ、北壁に現れたデカブツはちゃんと倒したから、あれは別個体の存在と見て間違いない筈だ。それにしては、やたらと形状が類似していた気もするが………」

 

「そ、そんな神が存在するのでしょうか?」

 

『うーん、どうなんだろ? 神々の在り方って言うのは僕達人類には推し量れない所があるからなぁ。ケツァルコアトル然り、イシュタルやエレシュキガル然り』

 

「あの化け物に関する考察は後にしましょ。一先ず謎の神性には留意するとして、先ずは修司の方からまとめさせましょ」

 

「ですね。牛若丸達が避難民達の引き継ぎを任せてくれたけど、私達に出来る時間はあまり残されていないからね」

 

 立香達が修司と合流し、それぞれに起きた出来事を纏めると、様々な事が一度に起きたのだと確認した。

 

まず、ゴルゴーンの討伐はアナという一人の少女の犠牲により、何とか成功したのは良かったが、それ以降は予想外の出来事が息つく暇もなく押し寄せてきたのだ。

 

ゴルゴーンに権能を預ける形で繋がっていた人類悪(ビースト)なる存在、ペルシャ湾から引き起こされる異常現象と、黒い怪物達はこれに関係するものだと、カルデアと賢王ギルガメッシュは認識している。

 

人類悪。初めて耳にする単語だが、要するにそいつが今回の特異点の元凶であり原因。ならばソイツを倒せば万事解決なのではないかと思いたい所だが、北壁に現れた怪物が話をややこしくさせている。

 

北壁に現れた謎の存在。その醜悪さと凶悪さから人類と敵対する輩であることは明白だが、残念な事にあの化け物を特定するモノがカルデア側からは何も発見できなかった。

 

その外見は嘗ての魔獣達の司令塔であるギルタブリルと似ているのでは、という話が出てきたが、王は似ているが根本的に違うとこれを一蹴している。

 

唯一心当たりがありそうな修司もまた、分からないとしか言葉に出来なかった。ただ、あれが人類と敵対する存在であることは間違いなく、発見次第修司が倒すと本人が宣言している。

 

「あの化け物は見付け次第俺がぶちのめすとして、例の黒い怪物────ラフムか、アレを生み出す大元を何とかするって言うのが、俺達のやるべき事なんだな」

 

 話は変わり、修司は黒い怪物───ラフムについて言及する。アレはペルシャ湾から現れる黒い泥そのもので、神代の泥で出来ている為に雌雄の個体差は存在せず、繁殖する機能もない。ある意味、完成された生命体と言うのが、あのラフムであるとロマニは言う。

 

完成された存在にしては、悪意に満ちすぎているという気もするが、それが人類悪であるティアマトから産まれたモノであるならば、ああ言った存在になるのも当然なのかもしれない。

 

そう、ゴルゴーンに権能を与え、自分の分身、或いは傀儡としていたのは、シュメル創世の女神であるティアマトだった。世界を創り、基盤として地に還ったとされる原初の神が、人類を滅ぼす為に遂に目覚めようとしている。

 

人類未曾有の危機、それをどうにかするのが今後の自分達のするべき事だと、アッサリと受け入れる修司に、立香達は頼もしく思えた。

 

「んじゃあ、そのティアマトがペルシャ湾にいるのを調査する為に、立香ちゃん達が派遣されたって言うのか? いや、普通に有り難いけどね」

 

「そ、それは………」

 

 立香達が此処まで来てくれたと言うことは、ペルシャ湾に潜むティアマトの居場所やラフムについての調査かと思っていた。だが、その事を追求すると、途端に言い淀むマシュに修司は何故かイヤな予感を感じた。

 

「修司さん、私達がウル近辺まで来たのは調査の為だけじゃないの」

 

「立香ちゃん?」

 

「…………シドゥリさんが、ラフムに連れ去られたの。市民を守る為に、自分の身体を盾にして………」

 

申し訳なさそうに、目を伏せて語る立香に………。

 

「──────なんだって?」

 

 修司はただ、呆然と目を見開くのだった。

 

 

 

 

 

 





次回、涙。

喩え変わっても、変わらぬ想いがきっと────。




それでは次回も、また見てボッチノシ




オマケ


これは、白河修司が聖杯戦争を終わらせてまだ日が浅い頃のお話。

「………あれ? 俺、部屋のベッドで寝てた筈なのに、どうして外にいるんだ? しかもいつの間にかいつもの一張羅着てるし」

見渡す限りの田舎道。しかし、空気の違いから、此処が日本ではない事を悟った修司は、未だに自身が夢心地であることに気付く。

夢にしては臨場感が凄まじいが………ま、こう言う日もあるだろう。一先ず目を覚ます迄の間探検する事にした修司は、空腹の事もあり近くの農家の自宅に失敬する事にした。

「スミマセン。日本から着た修司というモノですが、何か食べ物を分けて貰っても良いですか?」

「おや、今日は客が多い日だな。これも神の思し召しか」

「あ、急な来訪スミマセン。ご迷惑でしたら断って下さっても大丈夫ですので」

「腹を空かせた子供を放り捨てる程、私は残忍ではないよ。さぁさ、遠慮せずに入ってきなさい。暖かいスープを用意しよう」

「あ、ありがとうございます」

人の良い老人からの、善意の施しを受けることにした修司は、此処で一つの出会いを果たす。

「あ、お孫さんかな? 初めまして、俺は修司って言います」

「お、俺は………ジーク。ただのジークだ」

 それは、外典。本来ならば出会うこと無い二人の邂逅は、後に大きなハチャメチャを巻き起こすになることを………この時、まだ誰も知ることはなかった。

Fate/Apocrypha+1



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