『G』の異世界漂流日記   作:アゴン

376 / 417
今回は短め、かつ話が進んでいない。

申し訳ありません。


その147 第七特異点

 

 

 

 女神エレシュキガルとの戦いは立香による対話のお陰で、和解という形で決着が付いた。唐突に現れた老人の奮った一太刀のお陰で彼女は三女神同盟からの楔から解き放たれ、今後は立香に協力をする事で王による断罪も逃れる事が出来た。

 

エレシュキガルの誘いによって衰弱死した魂達も無事に冥界から解放され、ウルクの街は再び活動を再開した。

 

それから翌日、クタ市から戻ってきた一行はそのままウルク市へ帰還を果たし、そのまま王の待つジグラットへ直行した。

 

「戻ったな。カルデア一行、では早速だが対ゴルゴーン戦の作戦内容を決める。疲れているのは百も承知、だが付き合え」

 

 王の下へ辿り着けば、開口一番にゴルゴーンとの戦いを模索するのに付き合えと語る王に断る者はいなかった。シドゥリから労いの言葉と大使館でちょっとした料理を提供すると言われ、気分の盛り上がった立香達はその勢いのまま作戦会議に乗り出した。

 

「レオニダスの情報によれば、ゴルゴーンの魔獣の数は既に10万を超え、今も尚増え続けているらしい。質も数も劣る北壁では、半日も保たずに蹂躙されるだろうよ」

 

「なら、ここはやはり少数精鋭でゴルゴーンの根城に奇襲を仕掛けるのが定石か?」

 

「とは言っても、あの神殿に人間は入れないわよ? 何度か様子を見たことがあるから分かるけど、アレは要塞化した神殿、規模もでかいけど、それ以上に下にある地下空洞が広いのよね」

 

「………聞く限りだと、まるで蟻の巣みたいだな。そう言えば以前、蟻の巣に溶かした鉄を流し込んでオブジェクトを作るって動画を見たことがあるな」

 

「………うん、止めようか。て言うか、なんて話をだすんだい君は」

 

現在、北の森には10万以上の魔獣の軍勢が犇めきあっており、その全てが数日後の北壁に向けて進軍を開始している。このまま正面から挑めば人類に甚大な被害が被ってしまう。

 

其所で挙げられるのは少数精鋭によるゴルゴーンの神殿への強襲。北壁が魔獣からの侵攻を食い止めている間、ゴルゴーンを討ち取ると言うのが人類側に残された一手である。

 

しかし、当然ながら問題もあった。ゴルゴーンの住み処としている神殿は侵入する人間を溶かす鮮血神殿、幾ら礼装に守られているとは言え、立香ではどうあっても侵入するのは不可能と言えた。

 

「じゃあ、やっぱり俺が直接出向いた方がいいかな?」

 

「いや、それ以上に貴様にはやって貰う仕事がある」

 

立香が鮮血神殿に乗り込めないのなら、修司が直接向かうしかない。そうなると自分がゴルゴーンの頚を取るまでの間、立香とマシュには皆と共に北壁を防衛する役目を任せる事になる。10万を超える勢力、それはこれ迄立香達が相手をしてきた中で最も多く、また過酷な相手だ。

 

そうなればまさしく時間との勝負。ゴルゴーンをどれだけ速く倒せるのかが、今後の戦いの行く末を決めると言っても過言ではない。自然と身体に力が込められる。そんな武者震いをする修司を諌めたのは、やはり偉大なる王だった。

 

「もうじき、北壁にマルドゥークの手斧が運ばれる頃合いだ。貴様には手斧を受け取り次第、ゴルゴーンの神殿に向けて投擲するがよい」

 

「お、王よ! 本気ですか!?」

 

「マジか、そうなってくるとコントロールが重要になってくるな。ゴルゴーンの気を感じるにウルクから大体30kmの距離だから………ギリ当たるかなぁ」

 

「っ!?」

 

 巨大なマルドゥークの手斧を投擲し、ゴルゴーンの神殿を破壊せよ。そう命令を下すギルガメッシュ王に、シドゥリは当然ながら異議を唱えようとした。

 

あの様な巨大なマルドゥークの手斧を、ただの人間には持ち上げる事すら不可能だろう。況してや、遥か遠くにある神殿にピンポイントで当てるなど、そんなこと神代の英雄にだって不可能な事だろう。

 

しかし、投げられる事よりも当たるか否かに重きを置いて悩んでいる修司に、シドゥリは言葉を失って絶句していた。そんな彼女を尻目に、立香はそれが普通の反応だよねと、ウンウンと感慨深く頷いている。

 

「私なら当てることも出来ますが………三女神同盟の契約は絶対、互いに不可侵を決めた間柄ですので、私にはどう足掻いてもゴルゴーンに手出しは出来ないのデース」

 

「そっかぁ、ならやっぱり俺が何とかするしか無いのかぁ。やっべ、なんか緊張してきた」

 

「なら、その緊張を私が解きほぐして上げよう。修司、マルドゥークの手斧を投げる際は、この布を一切れ、何処でもいいから巻いておくといい」

 

「あ、でも大丈夫か。いざとなったらワームホールを使って直接ゴルゴーンの神殿にぶちこめば良いだけだし」

 

「────え?」

 

「そうなってくると………別に、マルドゥークの手斧に拘らなくても良いのか? いや、神殿が神性に連なるモノじゃないと破壊出来ないなら、やっぱりそうするべきかなのかな?」

 

「───ねぇ藤丸、コイツ一体何を言っているの?」

 

「うん、なんかごめんね」

 

 先の第六特異点にて、既に修司は相手の拠点を距離を関係なく殲滅出来る術を確立している。脳裏に浮かぶ白亜の城の外壁が無残な瓦礫の山に変えられた光景、崩れ落ちる騎士達の様子を立香とマシュの二人は今も覚えている。

 

それを、目の前の男は再び起こそうと言うのだ。

 

「どちらでもよい。確実に神殿を破壊できるのなら、方法は貴様の一任とする。ならば、残るは戦力の話よ」

 

「藤丸立香ちゃんには私とマシュ、ならびにアナが付き添う事にして、あと誰か一人は助力が欲しいかな」

 

「なら、ここは私が行くのが適任ね。ゴルゴーンは私のウルクにちょっかいを出した礼をしなくちゃいけないし、その分北壁に戦力が回せるでしょ」

 

 神殿の破壊は修司に任せるとして、残る問題はゴルゴーンとの決戦に挑むメンバーの選出となるのだが、その選出は意外な程に滞りなく決した。

 

魔獣母神に挑むのは、人類最後のマスターの一人である藤丸立香と、その相方であるマシュと花の魔術師マーリン。そしてあと二枠にアナとイシュタルの計5名が選ばれた。

 

たった五人による電撃作戦。賭けに出るには少々心許ない人数だが、これ迄の旅を経て立香もマシュも相当鍛えられているのは修司も承知している。きっと、彼女達なら成し遂げてくれると、そう思えるほどの逞しさがあった。

 

「なら、俺は北壁に残るとしよう。なぁに、そう緊張することはないさ。何かあればマーリンが何とかしてくれるだろうし、万が一逃げる事があっても、その時は俺が何とかするからさ」

 

「うん。その時は遠慮無く頼らせて貰うとするよ!」

 

仮に作戦が失敗し、ゴルゴーンから敗走する事になっても、最悪マーリンが逃がしてくれるだろうし、そうなった時は修司が駆け付け、ゴルゴーンを討伐する。

 

ゴルゴーンは既に一度勝った相手だ。奴の姉である双子の姉妹女神からも仕方がないと諦めている以上、修司が遠慮する要素はない。ただ一つ、考慮する事があるとするならば………。

 

「王様、一つ質問してもいいか?」

 

「………キングゥの事、今回の戦いでは恐らく奴も出てくると思うんだけど、どうする?」

 

「どうする、とは?」

 

「王様が最後の砦として此処から動かないって言うなら、キングゥと出会うのは多分無いんじゃないかって事さ」

 

エルキドゥと全く同じの外見となっているキングゥ、二人の間にあるカラクリを既に看破しつつあった修司は、賢王に意見を求めた。次の戦いではキングゥも確実に出てくるだろう、そうなれば今度こそ奴とは雌雄を決するつもりだし、そうなったら奴と王が出逢える事は二度と無い。

 

果たして本当にそれでいいのか、戦いの前に最後の憂いを失くそうと、ハッキリと口にする修司に賢王ギルガメッシュは静かに見下ろしている。

 

「構わん。貴様がキングゥとやらを仕留めると言うのなら、是非もない」

 

そして、当然の如く、王はハッキリと口にした。その判断に控えているシドゥリの表情が僅かに歪むが、王がそう決断された以上、本当にそうするしかないのだろう。

 

「分かった。時間を取らせてゴメン」

 

「良い。これ迄の貴様の活躍に免じ、特に赦す。さぁ、全ての話しはこれで終わった。戦士達よ、準備が終え次第疾く動くがよい!」

 

そうして、ゴルゴーン戦への話し合いも終えた事で、その場は解散となり、修司達も大使館へ引き返していく。

 

その際、マーリンと王の最期の別れの挨拶を交わしているのを耳にした気がするが………無粋と思った修司は、その話しに加わる事無く、立香達と共に足早にジグラットを後にするのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

「───王様、本当にいいんだね?」

 

「それは先の小僧の話しなら、問答は不要だぞ。既に我は答えを出した。であるならば、それ以上の言葉は無粋と言うものだぞ」

 

「成る程、正しく君は人類最後の砦となる訳だ。なら、僕との契約もこれでお仕舞いって事になるのかな」

 

「そうなるな。しかし………」

 

「おや、此処に来て何か心配ごとかい?」

 

「…………先日、冥界から解放される際、奇妙なモノを見た。マーリン、貴様の千里眼は何か視なかったか?」

 

「…………いや、私は特になにも」

 

「そうか………ならば良い。貴様もとっとと持ち場へ戻り、小娘達の面倒を見てみると言い」

 

「────分かった。君も、どうか気を付けて」

 

「ふん、誰に向かって言っている」

 

 マーリンとの最後の言葉を交わし、ジグラットから立ち去る彼の後ろ姿を見送った王は、一人天井を仰ぎ見る。

 

冥界から解放された際に見た一つの光景、それは以前から王が夢に見る世界が終わる光景だ。

 

滅びの終末機構と共にウルクに押し寄せる二つの影、千里眼を通して世界がギルガメッシュ王に訴えてくる。

 

押し寄せる破壊の神の残滓、立ち上がるのは一つの影。

 

その光景を意味するモノは何なのか、それは王にも分からない。

 

 

 

 

 

 






次回からゴルゴーン戦。

そして、オリジナル展開が少し続きます。

それでは次回もまた見てボッチノシ




オマケ


「しかし、驚いたよ。イヴェット嬢は兎も角として、降霊科の君まで来ているとはね。ともあれ、久し振りに会えて嬉しく思うよ。オフェリア」

「そうね。私としては、あまり喜べない状況だけど……て言うか、貴方が連れてきた問題児二人、何とかならない?」

「と、いうと?」

「フラット=エスカルドス。彼は………まぁいいわ。何だかんだ魔術の天才だし、でも………白河修司。アイツは別よ。魔術の素養も無ければ神秘に対する知識もない。あんな一般人と仲良くした所で、貴方に利益があるとは思えないけど?」

「利益がない………か。果たしてそうかな?」

「どういう意味?」

「彼は、天才じゃない。確かにそれは認めよう。何せ彼は、天才すら当てはまらない異端児だ。あの知識、その技術、現代科学を大きく凌駕する革新の力は、最早一種の特異点にすら思える」

「けれどねオフェリア。私やカドックにとってそんな事はどうでもいいのさ。私が、彼と行動を共にするのはただ一つ」

「ワクワクするからさ」



「修司! この果物メッチャ美味いよ!」

「コラコラフラット君、車内では静かにしなさいと───ウッワなにこの葡萄、ウッマ」

「し、師匠……」

「目を合わせるなグレイ。一同合わせたら最後、今回の騒動がよりハチャメチャになるぞ!」


▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。