『G』の異世界漂流日記   作:アゴン

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寒さがぶり返してきた今日、ヒスイ地方でポケモンゲットだぜ!


その146 第七特異点

 女神エレシュキガル。冥界の最高責任者として君臨している恐ろしき女神。人類を脅かす三女神同盟の一柱として名を連ねている女神はその実、誰よりも慈悲深く、誰よりも女神らしい女神だった。

 

「いーい! 本来なら冥界のルールを無視した罪で厳罰に処すつもりだったけど、貴方がウルクの人間じゃないから特別に見逃しているだけなんだからね!」

 

「あ、はい。お手数掛けましてスミマセン」

 

「残りのカルデアのマスターが来たらケチョンケチョンにしてやるんだから、その時が来たら覚悟なさい! あ、それはそれとして用意したお茶どうだった? 熱くなかった?」

 

「あ、お構い無く、お茶の温度も適温で美味しく戴いております」

 

人類を現在進行形で脅かしている筈の女神、エレシュキガル。邂逅した際には突然現れた修司にアタフタと動揺していたが、女神の矜持もあって直ぐ様神として振る舞おうとしていた。

 

冥界のルールを破った者には誰であろうと厳罰を。七つの扉の試練を無視して底へ降り立った修司にエレシュキガルは相応の罰を下そうとした。

 

しかし、一応人間判定であり、これ迄ただの一人もそのまま冥界の底へ降り立とうとした人間なんて存在しなかった事なので、あり得ない事態を前に再びエレシュキガルはアタフタと狼狽し、どうしたモノか頭を抱えて悩んでしまっている。

 

そんな色んな意味で生真面目なエレシュキガルを前にしては流石の修司も戦う意欲など持てる筈もなく、一先ず残りのカルデアのマスター、藤丸立香達が合流してくる合間はエレシュキガルの客人として迎えられる事となった。

 

冥界始まって以来の客人。始めての体験にエレシュキガルは依り代の記憶からこの状況に適した振る舞いを模索し、一先ずはお茶を振る舞う事にした。

 

外見が遠坂凛である所為か、そこら辺の振る舞いは非常に優雅で、出されたお茶も冥界とは思えない程に温かく、茶葉も良質だった。………何故に冥界にこれ程の茶葉が? 疑問に思う修司だが、一先ずは流しておくことにした。

 

「しかし、意外と言えば意外だなぁ。神って総じて勝手な連中ばかりかと思っていたけど、アンタみたいな真面目な神もいるんだな」

 

「と、当然でしょ。私は冥界の管理を任されている神、人が死に、最後の寄る辺として存在するのがこの冥界なの。魂の安息を管理する者として、半端な仕事は出来ないのだわ」

 

 胸を張り、自慢気に語るエレシュキガルに修司は少し感慨深くなった。神という存在は自らが超越者として振る舞っている為か、その態度は終始上から目線の奴等が多い。某神話の神々なんかその最たる例で、数少ない例外を除けば、大抵が自分の勝手な都合で人類を振り回している連中ばかりだ。

 

………そう言えば、その数少ない例外の中には目の前のエレシュキガルと同じ冥界の神がいた筈。なに? 冥界の神様は基本的に優れた人格の持ち主だったりしているの?

 

「────まぁ、アンタが自分の仕事に真摯に向き合っているというのは、何となく分かったよ。いや、だからこそ分からない。其処まで人類を想っているアンタが、どうして三女神同盟という人類と敵対する道を選んだんだ?」

 

「────それは」

 

 こうして直接話を交わし、エレシュキガルの真面目さを知った修司は目の前の女神が人類の敵対者とは到底思えなかった。

 

冥界とはもっと薄暗く、冷たい所だと思っていた。しかし、予想に反して目の前の女神には確かな暖かさがあった。依り代となった遠坂(善)の影響が出ている為か? いや、恐らくは違う。

 

それは先にも記述した通り。冥界の神であるエレシュキガルが慈悲深い女神だという事、彼女がシュメル神話時代の人々の魂に、神代が終わるその時まで寄り添っていたからだ。

 

譬え凍えるような寒い冥界の底であっても、魂だけとなった存在が凍らずにいられたのも、偏にエレシュキガルという女神がいたからに他ならない。

 

(待て、それならば彼女が敵対する理由って……)

 

彼女が人類の敵対する道を選んだのも、人類の事を想っての事ならば? 魔獣達に無惨に殺された後、せめて死後の冥界では穏やかに過ごして欲しい。なんて、彼女なりの優しさだというのなら?

 

「───いや、やっぱいいわ」

 

「………え?」

 

「アンタの真意を探るのは皆と揃ってからにするよ、俺が此処に来たのはあくまで一つの疑問を解消する為、アンタを追求する事じゃない」

 

もし、自分の考えている事が正しかったなら───なんて、其処まで思い至った修司はそれは今することじゃないと割り切った。

 

わざわざ冥界の底、エレシュキガルのいる所まで落ちてきたのは修司が抱くある疑問を解消すること、そしてその疑問は既に確信へと変わっている。あの日、イシュタルを仲間にしたその日から、女神エレシュキガルは定期的にイシュタルを通して藤丸立香の前に現れていたのだと。

 

「………それで、その疑問は解消されたのかしら?」

 

「あぁ、お蔭様でな」

 

そして、その事を言いふらす事もしない。普段冥界という孤独な世界を強いられている中、イシュタルという女神を介してまで立香と触れ合いたかったのか。自ら冥界の女神として在る事を決めた彼女に、決め付けた言葉を吐くのは、それこそ無粋と言えるだろう。

 

 ────白河修司は認めた。死という形ではあるが、それでも誰よりも人に寄り添う目の前の女神こそが本来の神と呼ばれる存在だという事を。

 

いや本当、どこぞの神々はマジで見習って欲しい。心底、そう思うのだった。

 

「と、そろそろ立香ちゃん達が此処に来る頃合いだな。王様もいるし、イシュタルは………あーあ、本当にアリンコ並みにちっさくなってらぁ」

 

「───ちょっと」

 

「ん?」

 

「………ひ、久し振りに誰かと話せて良かったのだわ。アンタの無茶な行動には辟易とさせられたけど………その、あ、ありがとうなのだわ」

 

 モジモジと照れ臭そうにしているエレシュキガルに、修司は何処かホッコリとした気分になるのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『────はぁ、僕も君のハチャメチャ具合にはもう慣れたから良いけどさ、あんまり人を心配させるモノじゃないよ。幾ら君のレイシフト適正が規格外(EX)相当だとしても、物事には例外が付きまとうんだからね』

 

「悪かったって。次は気が付いたら事前に説明するからさ、そう怒るなって」

 

 それから暫くして、無事に七つの扉の試練を乗り越え、途中で賢王ギルガメッシュと合流した立香達は、修司と同様にエレシュキガルの下へ辿り着き、冥界の女神エレシュキガルと幾分か問答を挟んだ後、結局は一度戦う事となった。

 

自分の理解者になって欲しいエレシュキガルに、それは出来ないと立香は断った。その断りが自身すら拒絶したものだと思い込んだエレシュキガルは巨大なガルラ霊となって立香とマシュを強襲、今回の戦いが今までと違う所は、これは相手を打ち倒す戦いではなく、エレシュキガルという少し拗らせた女神の想いを救い上げる戦いだという事。

 

渾身の一撃を放つエレシュキガルに、マシュは宝具を使ってこれを防ぐ。自分のありったけの力を出しきったエレシュキガルは自身の敗北を認める事となった。

 

「それで? どうして貴様は戦いに参加しなかったのだ? たかが冥界の女神の一柱程度、とるに足らないと思い上がったか?」

 

 色々と暴露され、悶絶しているエレシュキガルを尻目に賢王ギルガメッシュ半ば確信した様子で訊ねてきた。

 

「まさか、あの女神が本気になったらそれこそ俺も参戦していたさ」

 

「ほう? では侮っていたのはエレシュキガルであると?」

 

「どうかな、女神エレシュキガルは確かに神性としての格は中堅程度なんだろうけど、冥界の責任者という肩書きは伊達じゃない。もし彼女が一柱の神としてではなく、冥界の責任者として対峙されていたら、戦いの内容はもっと別物になってたんじゃないのか?」

 

三女神同盟の一人として人類と敵対する道を選んだのも、それはあくまで自分の都合。だから冥界の責任者としてではなく、エレシュキガルという単体で戦いを仕掛けてきた時点で、彼女という実直さが表れていた。

 

もし仮にエレシュキガルが冥界総出で立香達を迎え撃とうとするならば、きっと冥界はもっと凄惨な状況になっていた事だろう。

 

それに………。

 

「何より、俺にはあの女神様は殴れん。あんな出来た神様、俺今まで見たことないもん」

 

「…………ねぇ、なんか私の時と対応違すぎない? 同じ依り代でしょう? 私、アイツに以前思い切りお尻を叩かれたんですけど?」

 

「───そうか、ならば仕方あるまいな」

 

「オイコラ」

 

 何より、エレシュキガルという冥界の華を散らすような真似なんて、修司にはとてもじゃないが出来なかった。この寂しい冥界という薄暗い世界で、それでも懸命に咲き誇る一輪の華。決して見栄えが良いわけでもないが、それでも見るものに慈しみの感情を抱かせる不思議な魅力が彼女にはあったのだ。

 

それを聞かれれば、ギルガメッシュ王も揶揄する事はない。後ろで騒ぐ天の女主人を無視しながら、今度は修司が王へ訊ねた。

 

「それで、なんだけどさ。やっぱりエレシュキガルは………その、処罰の対象になっちまうのかな? 恩情とか無かったり」

 

「それはあの女神次第よ。我は王であるが故に冷酷だが、同時に慈悲も示さねばならん。あの頑固者が我が配下に加わることを是とするならば、最大限の譲歩を以て穏便に済ませてやろうではないか」

 

「やっぱ、そうなるか」

 

 ギルガメッシュは自ら過労という割りと洒落にならない死因で冥界へ落ちているが、それでもエレシュキガルに勝利したことで後に冥界から解放される手筈となっている。他の亡くなった人達も同様に今頃は続々とウルクに保管されている遺体に魂が戻っている事だろう。

 

しかし、エレシュキガル本人はそうはいかない。彼女は自らの意志で女神同盟に参加した敵対神、シュメル神話の女神が、同じ世界の住人達を自ら進んで手を下し、死へと誘ったのだ。その罪は決して軽くはなく、必要であるならば王権を使っての断罪も吝かではない程に。

 

当然立香はそんなことは望んでないし、マシュも修司もどうにかしてエレシュキガルを三女神同盟から抜けさせてやりたいと考えているのだが………如何せん、エレシュキガル本人が頷こうとはしなかったのだ。

 

自分は罪人。そこにどんな理由があろうとも、メソポタミアの人々の脅威となったのは事実。ならばその罪と正しく向き合い、然るべき処罰を受け入れるのが筋なのだと、エレシュキガルは言って聞かなかった。

 

どうしたものかと修司が頭を悩ませていたその時、ふと、殺気を感じた。

 

おぞましく洗練されていて、恐ろしい程に信仰に溢れた死の気配。突然感じた殺気に修司は瞬時に辺りを見渡し身構えた。

 

“未熟、あまりにも未熟。やはりお前ではそこ止まりよ”

 

そして、次の瞬間。一行の目の前には一刀の下に両断されたエレシュキガルの姿が………見えた気がした。

 

「エレシュキガルッ!?」

 

突然の事態に驚く一同、誰もが唖然としている中、倒れ付したエレシュキガルの背後に一人の老人が大剣を携えて佇んでいる。

 

修司にはその佇まいに覚えがあった。いや、忘れる筈がない。あの何処までも無駄を省いた究極の一撃とも呼べる一太刀、それは先の特異点で修司自身がイヤと言う程味わったモノなのだから。

 

 エレシュキガルが斬られたと誤認したイシュタルが、間髪入れずに老剣士に蹴り掛かる。エレシュキガルに敗北を認めさせた事で取り戻した力、女神としての膂力をフルに活用した一撃は、されど、目の前の老人に当たることはなかった。

 

「嘘っ!?」

 

まるですり抜けた様な感覚。タイミングや間合いの詰め方から確実に入ったであろう蹴りが、まるで当たらなかった。体験したことのない事象を前に、イシュタルは勿論ギルガメッシュ王すらも僅かではあるが驚きを露にしている。

 

「落ち着け。私が断ち切るは同盟の契りである」

 

見れば、倒れているエレシュキガルの身体は真っ二つにはなっておらず、至って正常のままだった。

 

そして、同時に修司は気付いた。彼が断ち切ったのは、三女神同盟の間に交わされたとされる契約そのものであると。

 

同時に確信した。自分達の前にいるのはあの霊廟の主にして初代の山の翁であると。

 

何故彼が此処にいるのか、疑問に思う所は数あれど、今はその事に追求出来る余地はない。何故なら、彼の翁の視線は他ならぬ修司に向けられているのだから。

 

相変わらず、鋭い眼光だ。魂すら底冷えするような眼差しに修司は身をすくむ思いをした。

 

「………小僧、貴様の知り合いか?」

 

「あ、えっと………はい。そんな感じです」

 

「ふむ、なら余計な詮索は無用か」

 

 本来であれば王として老人の身の上を追求する所だが、修司の知り合いという事で納得し、賢王ギルガメッシュはそれ以上老人について問い詰める事はしなかった。

 

そして、その後は老人の言葉でエレシュキガルの真意を暴いた立香は、改めて彼女に協力を要請し、エレシュキガルもこれに快諾した。いつかは死という運命に落ちる人の魂、その最後の拠り所として人々に眠るように命を奪っていった優しき女神は、己の敗北を条件に全ての魂を解放し、正式に立香に助力する事を誓った。

 

「………さて、では我も戻るとしよう。エレシュキガルの縛りがなくなり、見るべきものを見た以上、これ以上冥界に留まる理由は無いからな」

 

「王様、その………出来ればご自愛してくれよ」

 

「ふん、無茶を言う。だが、覚えておこう。そして小僧、ウルクに戻ればゴルゴーンとの決戦である。女神との決戦、心しておけよ」

 

「あぁ、分かってる」

 

ではな、と、簡単に別れを告げて冥界から姿を消す王を見送りながら、呼び掛けてくる立香達に向き直る。これで三女神の全てが片付いた。後は復讐に燃えるゴルゴーンを打ち倒し、その裏に潜む元凶をどうにかするだけである。

 

このまま行けば何とか上手く行く………そう、思っていた。

 

“シンカの戦士よ、急ぐがよい。破壊の徒は既に其処まで迫って来ておるぞ”

 

「っ!」

 

 冥界の底で、修司にだけ聞こえた死神からの警告。破壊の徒、聞き慣れない言葉に心臓の音が跳ね上がるのを自覚しながら、修司は一人、反芻し続けた。

 

 

 

女神ゴルゴーンとの決戦まで、あと────。

 

 

 




執筆遅く、申し訳ありません。

次回はいよいよゴルゴーン戦。はたしてその先に待つモノとは!?

次回、決戦(偽)

それでは次回もまた見てボッチ



オマケ

もしもボッチが時計塔に短期入学してたら その四

「へー、これが魔眼蒐集列車かぁ」

「スゲェな。パッと見ただけでも相当手が込んでのが分かるぞ、この蒸気機関車。具体的に言えば、先頭車両に変形機構があるな」

「おー! ならこれを参考に勇者特急部隊も造っちゃう!?」

「ふふ、喜んでくれた様で何よりだよ。招待券を用意した甲斐があったよ」

「ありがとうなキリシュタリア、お礼に今度開発中のMSに乗せてやるよ」

「ヨッシャ!」

「あーあ、カドックも来ればよかったのに」

「仕方ないさ。実家に呼ばれたと言われちゃ、無理強いは出来ねぇよ」

「私達は私達で、カドックの分まで楽しもうじゃないか。あ、あの出店木刀売ってる!」

「え、な、なんでここに時計塔の三バカがいるのよ!?」

「お嬢様、お気を確かに」

「し、師匠大変です! 例の三人衆が……!」

「」




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