『G』の異世界漂流日記   作:アゴン

374 / 417

は、話が進まないなりぃ……。


その145 第七特異点

 

 

 

 エレシュキガル。それは、女神イシュタルと対を為す存在であり、此度の特異点が発生した際は三女神の一柱として人類と敵対する道を選んだ冥界の女主人である。

 

本来であればウルクの都市神であるイシュタルのみを召喚するつもりが、依り代とした女性の内面が余程二柱の神性と色んな意味で相性が良かったのか、或いは召喚した巫女達の実力が凄まじかったのか、一人の依り代に二つもの神性が器として成立してしまった。

 

その片割れが善のイシュタルであり、悪のエレシュキガルである。現在エレシュキガルはクタ市の地下深くの冥界へ陣取っており、一行は冥界に囚われた賢王とウルクの人々の魂を解放させる為に、目的地であるクタへ向かった。

 

「さて、取り敢えず超特急でクタ市にまで駆け付けた訳だが………君達、そろそろ観念してもいいんじゃあないかな?」

 

「はぁ、ケツァルコアトルがいなかったら力付くで逃げられたのに」

 

「いやぁ、何となく分かっていたよ? 分かっていたけどさ………何で姉弟子の顔をした奴と二度も顔を合わせなきゃならないんだよ」

 

 呆れ半分でマーリンが後ろで踞る一人と一柱へ振り返ると、イシュタルと修司がそれぞれ地面に体育座りで俯いていた。エレシュキガルは女神イシュタルにとって天敵にも等しい神であり、また修司にとって知人との邂逅である。

 

ジャガーとイシュタル、立て続けに知人の顔をした女神と相対しする事で修司のメンタルはゴリゴリに削られ、唯でさえ辟易とした状態だ。そこに冥界の女神として知られるエレシュキガルまでもが姉弟子の顔をしているのだと考えると、修司がげっそりするのも仕方がなかった。

 

しかし、どんなに否定した所で事実は変わらないし、自分達のするべき事も………また、変わらない。女神ゴルゴーンとの決戦もあと数日まで迫っている以上、あまり悠長な事はしていられない。

 

そして、ケツァルコアトルに叱咤されるイシュタルを見て、いい加減腹を括った修司は、気合いをいれるように自身の両頬を軽く叩く。

 

「ッシ、今さらウダウダしても仕方ねぇ。とっとと冥界に向かって片を付けよう」

 

「だね。………所で、冥界にはどうやって行くの?」

 

 一般的に、冥界という場所は死後の人間の魂が行き着く場所だとされており、生きている人間には決して踏み込めない領域とされている。

 

しかし、此処は神々が未だ存在している神代。人と神が別たれて間もない時代、神秘が色濃く残るこの世界には冥界もまた人々と近しい距離に存在していた。

 

「やっぱり、地面をブチ抜くしかないのかね? 出来ればこの時代の大地をあまり壊したくはないんだけど………」

 

「まぁ、アンタが加減なくやったらそうなるでしょうよ。あまり派手な事をしたら、それこそエレシュキガルの逆鱗に触れる事になるわ。ここは、経験者である私に任せなさい」

 

「成る程、確かに一度冥界下りをした女神イシュタルなら、冥界の門を開くのに適しているね」

 

「冥界下り?」

 

 修司が冥界への突入方法のやり方を模索していると、溜め息を吐きながら観念した様子のイシュタルが自分に任せろと前に出る。女神イシュタルがどうして冥界への行き方を知っているのか疑問に思い首を傾げると、マーリンが納得したように手を叩いた。

 

冥界下り。曰く、神話のイシュタルはエビフ山を攻略した事もあって、当時は物凄く調子に乗っていた。シュメル神話に於いて自分こそが至上の女神だと、信じて疑わなかった天の女主人は、七つの権能を持って単身冥界へと侵攻を始めた。

 

あのエビフ山を制覇した自分に怖いモノは何もない。意気揚々に冥界へ繰り出したイシュタルは───見事、エレシュキガルの前に大敗を喫した。七つの権能を持った空前絶後の力を持ったイシュタルは、冥界に於ける絶対的な法則であるエレシュキガルに為す統べがなく、自慢の権能も冥界に備えられた七つの真実の門とやらに剥がされ、エレシュキガルに辿り着く頃にはイシュタルは裸同然にされていた。

 

その後はエレシュキガルの持つ槍に滅多刺しにされ、冥界に囚われる事になるが、その後は神々の交渉の後に何とか冥界から解放されたという。

 

「───と、そんな訳でエレシュキガルは女神イシュタルにとって天敵とも呼べる存在という訳さ」

 

「………お前、人の敷地に押し入り強盗をしておいてムザムザ情けを掛けられたのかよ」

 

「う、煩いわね! イチイチ過去の事をほじくり返さないで!」

 

 イシュタルがやったのは、冥界という別の神が管轄する所に無断で押し入るという強盗紛いの事を仕出かしたのと同然で、エレシュキガルは不正に侵入してきたイシュタルを正当に防衛したに過ぎない。

 

本来ならエレシュキガルの冥界という権能を用いてイシュタルを打ち首に処す事も出来た筈、にも拘わらず打ちのめす程度に加減し、その後も条件付きであるもののイシュタルを解放している。

 

───もしかして、エレシュキガルとは普通に全うな女神なのでは? 三女神同盟の一柱で人類に仇為す存在となっているのも、実は彼女なりの深い理由があるのでは? この時、修司の中で女神エレシュキガルは冥界のおっかない神から何だかんだ慈悲深いマジモンの女神(暫定)に格上げされた。

 

因みに、ケツァルコアトルは肉体言語が得意な話の通じる女神である。

 

閑話休題。

 

「まぁ、イシュタルが当時は甘ったれた女神なのは事実として、今回はその辺りも踏まえてキチンと案内してくれる筈だから、きっと大丈夫でーす!」

 

「今回は、ケツァルコアトルさんは同行しないのですか?」

 

「冥界では神性はマイナスに働くの。大した力のない奴は差程効果は無いけど、強い神性はその分マイナスの補正を受ける事になるわ」

 

「あぁ、確かに太陽の神であるケツァルコアトルとは相性が最悪になりそうだな」

 

「序でに言えばマーリンもね。コイツ、弁舌が立つし、仮に私達がエレシュキガルに負けた場合、頼りになるのは地上にいるコイツらだけよ」

 

 エレシュキガルは冥界に於ける最高責任者。冥界に落ちたら最後、立香達は彼女との戦いは避けられず、勝って冥界から抜け出すか、負けて冥界に囚われるかの二択しかない。

 

仮に負けた時、その時は地上に残るケツァルコアトルやマーリンが立香達の救出を考えるが、その時はどう足掻いても女神イシュタルは助からず、ゴルゴーンとの決戦は最悪な形で迎える事となるだろう。

 

「………ま、要は負けなきゃ良いだけの話だろ」

 

「簡単に言うけど、勝算はあるの?」

 

「でなけりゃ此処には来ていないだろ」

 

「そ。そのくらい単純だと、私も気が楽だわ」

 

 遠坂凛という女性を依り代に、新たに新生を果たした女神イシュタル、器である彼女の影響を多大に受けたイシュタルは、嘗ての頃より大分角が取れ、比較的人に近しい価値観を持つようになった。

 

そんな彼女の性根は、勝ち気で強気な負けん気さが特徴で、物事を単純に捉えるその在り方は何処と無く修司と似ている。

 

「んじゃ、そろそろ行くわよ!」

 

「うし、二人とも俺の体にしがみつけ」

 

「おー!」

 

「よ、宜しくお願いします!」

 

 気持ちを固めたイシュタルが、マアンナと共に空へ飛ぶ。彼女の内から感じられる力が強くなっていくのを感じた修司は、立香とマシュの二人に自分にしがみつく様に指示を出す。

 

「マアンナ船首砲門に潮汐収束弾、装填! 出力ラピス・ラズリの三分の一の二等辺!」

 

「砕け冥界の門!、空無き()(アン)の光を!」

 

瞬間、空から光の矢が放たれ、一行は地下深くへと落下していった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「地表を抜けたら、其処は冥界だった、ね。マジでその通りだとは」

 

「冥界って、地下なんだ。確かに言われてみればそんなに違和感無いかも」

 

 イシュタルの豪快な一撃によって冥界への突入を果たした一行は、眼前に広がる空間に唖然となった。そこはまるで巨大な地下空洞、物理的にあり得ない空間を前に修司は驚き以上の関心を抱いた。

 

「今更聞くが、転移の魔術とか使わないのはエレシュキガルに力を奪われるのを恐れた為か?」

 

「そうね。冥界への転移は出来なくも無いけど、万が一の事を考えたら迂闊に使いたくないってのが本音ね。転移した直後、力を奪われて落下死なんて笑えないでしょう?」

 

上空から追いかけてきたイシュタル、どうやら本当に冥界の案内を努めてくれるらしく、何だかんだ立香達を見捨てない彼女に、修司は遠坂凛の面影を思い出す。

 

「ねーイシュタル、この鳥籠みたいなのなにー?」

 

「それ、エレシュキガルが作った魂の檻よ。あんまり見つめない方がいいわよ、下手したら廃人になるから」

 

「うぇぇ!?」

 

 辺りに散りばめられた無数の檻、細く長い檻の中には幾つもの青白い炎が犇めき合っている。それが嘗て地上に存在した人の成れの果てだと教えられた立香は、驚きながら後退り、マシュと共に修司の所へ駆け寄っていく。

 

「つまり、此処にある檻の中にある魂全部が、これ迄の戦いで死んで逝った人達の魂か」

 

「………やはり、ギルガメッシュ王を死に誘ったのも、女神エレシュキガルの仕業なのでしょうか」

 

「───前来た時は此処までじゃなかったんだけどね。アイツ、本格的に冥界を死者の楽園にするつもりなのかしら?」

 

死者の国なのに楽園とは、何とも矛盾した話に思えるが、確かにイシュタルの言うとおり、冥界には死者の魂で溢れてしまっている。この中には賢王ギルガメッシュを始め、大勢の人々の魂が囚われてしまっている。

 

彼等を一刻も早く取り返す為、修司達は先へと進む。途中、亡霊のエネミーが何度か一行の前に立ちはだかったが、マシュと修司によって瞬く間に撃退。その後の道中も特に弱体化された様子もなく、一行の旅路は快調に進んだ。

 

「修司さん、どう? なんか体に変化とかない?」

 

「今の所は特にないかな。冥界は女神エレシュキガルの管轄だって聞いたから突入した時点で何らかのペナルティがあると思っていたけど、案外平気っぽいな」

 

「それは、多分アンタ達がカルデアから来た異邦のマスターってのも理由の一つなのだからじゃない? エレシュキガルが絶対的な力を持つとされているのはあくまでも“死者”に対してだからね。あくまで人間である貴方達にはあまり意味のない制約よ」

 

「良かったね修司さん、人間認定されたよ」

 

「ほっとけ」

 

あくまでもエレシュキガルの支配が通じるのは死者だけであり、生きたまま冥界に落ちた立香達はその対象になり得ない。

 

過去に女神イシュタルが完膚なきまでに叩きのめされたのは、偏に彼女が神だからに他ならない。神性ではなく、あくまで人間である修司達にとって冥界での縛りは有ってないようなモノだった。

 

尤も、生きた人間が冥界に拘わりたいと思わないのが普通なのだが……。

 

『いやー、冥界に行くと言って通信が繋がるか不安だったけど、杞憂で良かったよ。しかし、本当に地下にあるんだね冥界って』

 

「そりゃそうよ。天界も下界も冥界も、同じ織物(スクロール)から成り立っているんだもの。私からしたら冥界も天界もない現代の方が不思議よ」

 

「天界かぁ、やっぱりみんな頭の上に輪っかとか浮かんでいるのかな?」

 

「天使の羽とか生えてたり?」

 

「……何の話?」

 

 それからイシュタルの神話に於ける世界の成り立ちを聞きながら冥界を下り続けると、一つの門が聳え立っていた。恐らくは、これが過去にイシュタルの権能を剥がしたと言われる七つの門の一つなのだろう。

 

“───冥界に落ちた生者よ、その魂の在り方を答えよ”

 

「基本的に、門からの質問は二択よ。貴方達のどちらかが試されるから、楽だと思った方に答えなさい」

 

「え? そんなんでいいの?」

 

 イシュタルの権能を剥がしたと言われる門、まだ質問の内容は聞いていないが、それでもこの形式は下ってきた人間に対して有利な気がする。それとも、外した時のペナルティが余程重いのか?

 

そして、恐らくこの門の前では如何なる嘘も通じず、真実しか通すことはない。一体どんな質問が飛んでくるのか立香達は身構えていると。

 

“───それでは、罪深き者、藤丸立香に問う”

 

(え? 名指し?)

 

“美の基準は千差万別のようで絶対なり。黒は白に勝り、地は天に勝る。であれば───”

 

“エレシュキガルとイシュタル。美しいのはどちらなりや?”

 

『「「「………ンンン?」」」』

 

「ちょっと! 前の時とは違うじゃない!」

 

飛んどきた問いは確かに二択、しかし………なんだろう、予想としていたものとは全く違う内容に立香は勿論、修司やロマニすらも一瞬質問の意味を理解出来なかった。

 

「こ、これは神話になぞられたナゾナゾの類い、なのでしょうか?」

 

「いや、或いは引っ掛けという可能性も。もしかしたら、二択という自体が此方を惑わすブラフか?」

 

「す、すみませーん! テレフォンとか救済処置はありますかー!?」

 

“─────N─────A─────I─────Z─────O─────”

 

“少し冷静に考えて、これ迄の旅路を振り返ってみよう。其処に答えがあるのだわ by麗しき冥界の女主人”

 

「あ、ヒントはくれるんだ」

 

「やだ、冥界の女主人優しすぎ」

 

救済処置はないと言いながら、それでも甲斐甲斐しくヒントは出してくれる辺り、この女神も何だかんだ世話焼きである。

 

て言うか、この流れでもう答えを言っている様なモノじゃん。優しいというか甘いというか、本当にこんなのが最後の三女神の一柱なのかと思えてしまう程に、冥界の女神は慈悲深かった。

 

「じゃ、じゃあ折角ヒントもくれたことだし、答えは──「イシュタル!」 え?」

 

「答えはイシュタルよ! 間違いないわ!」

 

「えぇ、此処でそれを言うか? 普通」

 

「い、イシュタルさん、それは、幾ら何でも……」

 

 そんな冥界の女主人の慈悲をドライブシュートで蹴り倒すのが、天の女主人であるイシュタルだった。問いに応えるのは立香だと言うのに、まさかの被せる勢いで応えるイシュタルに、修司は勿論マシュですら若干引き気味だった。

 

「だって、美の女神と言ったら私じゃない! 私は美と戦いを司るイケイケな女神! 対してあっちは冥界なんてジメジメした所がお似合いなエレシュキガルよ! 答えなんて決まっているじゃない!」

 

「お前、本当にそう言う所だぞ?」

 

美しいのは自分だと、頑なに吼えるイシュタルに三人とも辟易としていた。これではいつまでたっても進めないと頭を抱えていると、“ブブー”と何処からか不正解の音が鳴り、女神イシュタルに雷が落ちてきた。

 

 

「ミギャァッ!?」

 

「い、イシュタルさーん!?」

 

“B────A────K────A────G────A────”

 

“質問者以外の答えは不正解と見なします。他の参加者は控えます様に”

 

プスプスと煙を立てるイシュタル。そんな彼女を尻目に立香が正解を口にすると、ピンポンという聞き慣れた正解の音が鳴り、門の扉が開いていく。

 

「ま、まさか冥界の七つの試練にこんな仕掛けがあっただなんて………」

 

「アレか、不在防止の為のシステムに近しい気もするが……」

 

「と、ともあれこれで先に進めます。イシュタルさん

、大丈夫ですか?」

 

「うぅ、なんて意地の悪い問いなのかしら。悪辣さで言えば前回以上よ!」

 

 雷に打たれ、丸こげとなったイシュタル。これに懲りたら少しは自重して欲しいなと思いながら、一行は門を潜った。

 

立香もマシュも問題なく進み、修司もまた何ともなく進んでいける。後に残すのはイシュタルとなった瞬間。

 

「イタッ!?」

 

 バチリと、彼女の体から光が走った。今度は何だと振り返ると、其処には幾分か縮んだイシュタルがいた。

 

「イシュタル、お前……なんか縮んでね? て言うか、なんかガッツリ気が減ってね?」

 

「ほ、本当だ。イシュタル、縮んじゃってるよ!?」

 

「だ、大丈夫ですか!?」

 

「な、なんで!?」

 

マアンナを含め、イシュタルの体全体が縮んでしまい、感じられる気に至っては半分以下になってしまっている。これも先の答えに割り込んだ罰なのか、一行が突然の不思議に首を傾げた時、尊大に満ちた声が修司達の耳朶を叩いた。

 

“そうよ、自らの愚かさを思い知ったかしら、イシュタル。アナタは冥界下りに失敗している。この神話上の事実があるかぎり、冥界の呪いからは逃れられない”

 

“荒野を象徴する冠。葦の測量尺。瑠璃の首飾り。ビーズのネックレス。金の腕輪。魅惑の胸飾り。そして、最後に残された貴婦人の衣装。嘗てのアナタはこの七つの宝を私に奪われた”

 

“その決まりは今も生きている。宝に該当する権能がない以上、アナタ自身が負債を払うしかないわ”

 

“分かる? アナタは門をくぐる度に小さくなっていく。七分の一ずつ神性を奪われていくの”

 

 イシュタルが門を潜れば潜る程、彼女の弱体化は進み、その分の力はエレシュキガルへと流れていく。それはエレシュキガルとイシュタルの現在の関係を良く理解した非常に効率的な罠だった。

 

冥界下りを終え、そこに待つエレシュキガルを倒す。その頃にはイシュタルの力の大部分を奪い取ったエレシュキガルが待っている。

 

彼女を倒さなければ冥界からの脱出は叶わない。しかし、エレシュキガルの下へ辿り着くには七つある門をくぐらなければならない。

 

八方塞がりな状況、冥界に降り立った時点で自分達は罠に嵌められていたのだと、理解するには些か遅すぎた。ウルクの人々や賢王ギルガメッシュを死に誘ったのも、全ては自分達を冥界に捕える為のエレシュキガルの罠だったと、この時ロマニは始めて気付かされた。

 

(まぁ、確かに底にいるエレシュキガルの気が膨れ上がったのは事実だけど、別に其処までじゃないな。成る程、あくまでエレシュキガルが強大なのは死者に対する権能って訳ね)

 

 譬えイシュタルの力が全て奪われたとしても、修司ならば充分に対処可能だった。

 

ただ、少し気になったのはエレシュキガルを倒すと聞いた時の立香の反応、戦う事に迷っている様子の彼女を見て、修司はある事を思い出した。

 

そして、その思い出した事を確認する為に。

 

「悪い皆、ちょっと俺、先に落ちてるわ」

 

「「「え?」」」

 

“───へ?”

 

修司は呆ける一同の反応を尻目に、冥界の底へ続く道をわざと踏み外す。それはまるで階段を下りる様に、なんて事なく自然と、白河修司は冥界の底へ落ちていく。

 

 頭上から聞こえてくる悲鳴に似た叫びも瞬く間に小さくなり、落下し続ける事数十秒。残り六つの門をスッ飛ばし、修司は冥界の底へと辿り着いた。

 

「よぉ、お前が冥界の女神、エレシュキガルか?」

 

「────っ!」(ビクゥッ)

 

冥界の底、その中央地点に佇む女性。その髪型と雰囲気から間違いなく遠坂凛を依り代にしているであろう冥界の女神は………。

 

「な、何て礼儀知らず! 冥界のルールを無視して落っこちてくるとか! 正気の沙汰ではないのだわ! 貴方、怪我とかない!? 骨とか折ったりしてないでしょうね!?」

 

「──────え、優し」

 

これ迄出会ってきた女神の中で、誰よりも女神であった。

 

 

 

 

 

 

 

 





女神エレシュキガルは女神。はっきりわかんだね。

それでは次回もまた見てボッチノシ




オマケ

もしもボッチが時計塔に短期留学してたら。 そのさん


「ハァイ修司、アンタの新しい発明品を見に来たよ」

「またアンタか。婆さん、アンタは一応この時計塔のお偉いさんなんだろ? 良いのかよ、こんな若造の部屋に通ってくるなんて……て言うか、いい加減ノック位しろよ」

「良いじゃないか。オレと坊やの仲だ。堅苦しいのは抜きにしよう。それで、今度は何を造ったんだい? もしかして、その手にある小さな鳥の模型がそうかい?」

「あぁこれ? これは自律型思考回路搭載の量子デバイスでね。まだ中身に何を入れるか検討中なんだ」

「ほほーう。じゃあなにかい? その鳥は勝手に動き回るだけじゃなく、モノを入れる箱にもなるって言うのかい?」

「───婆さん、本当に魔術師? 魔術師って機械に疎いんじゃなかったの?」

「伊達に歳は食ってないからね。それで、それに何をいれるつもりなんだい?」

「まぁ、拡張領域はまだそんなに大きくないからあんまり大したモノは入らないけど、近い内に何らかの装備は入れるつもりだよ。変身スーツとか」

「───よし、そのデバイス、言い値で買おうじゃないか!」

「残念だが、それは既に予約済みさ。そうこの私、キリシュタリア=ヴォーダイムがね!」

「なにぃっ!? 天体科の秘蔵っ子だとぉっ!?」

「因みに、それは既に二台目さ。初代変身スーツ装着者はこの僕、そうフラットさ!」

「チィィ! 小僧共が、少しは年長者に譲り合いの精神を持ったらどうなんだい!?」

「……いや、帰れよお前ら」

尚、この日複数人の魔術師が胃痛で病院に運ばれたりするのは………また、別のお話。


▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。