『G』の異世界漂流日記   作:アゴン

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今回、ちょっと無理矢理感の強い話かもしれません。

ご了承下さい。


その143 第七特異点

 

 

 ぶつかり合う力と力、双方とも尋常なる戦いを望んで始まった死闘は、互いの力比べから始まった。

 

互いに両手を組み、力をぶつけ合う。其処に小手先の技といった不純物はなく、何処までも純粋な力比べだった。

 

「おぉーっと! 両選手、先ずは取っ組み合いから始まったァッ!」

 

「先ずは純粋な力比べで相手の機先を制しようって魂胆だね」

 

「乱暴だけど、順当な展開ね。これを制した方がこの戦いの流れを掴むのだわ」

 

「え? 本当に実況解説をしちゃってるよこの人達!?」

 

「い、意外……でも、ないのでしょうね」

 

実況解説しているジャガー達の様子に唖然となる立香とマシュ。戦いは始まったばかり、陥没し始める地面の中心で力比べをし続ける二人を眺めて、二人は改めてリングから距離を置くことにした。

 

 すると、今まで力比べをしていた二人の挙動に変化が現れる。このままでは埒が明かないと察した両者が、自身の首を引き………限界まで引き絞ると、互いの額に向けて頭突きを見舞わせた。

 

甲高い金属音、或いは被災した岩盤の音が大気を震わせる。互いに頭突きを放ち、二人の距離はキスが出来そうな程に近い。

 

しかし、二人の間に流れる空気はそんな甘ったるいモノではなく、互いに抱くのは相手を倒すという気概だけ。ジャガーマンを地面に叩き付けた時のような邪悪な笑みを浮かべているケツァルコアトルに対し、修司は真剣な表情で、互いの瞳を見つめている。

 

このまま状況が拮抗したまま続くのか? 観戦に専念していた立香が手に汗を握って見守る中、均衡は唐突に終わりを告げた。

 

修司の身に纏っている炎が、朱く変化を帯び始めた。界王拳、これ迄数多くの英傑英霊達を打ち倒してきた修司の奥の手の一つ。

 

此処で出すのか、突然に修司が自らの切り札を率先して引き出された事実に立香とマシュ、ロマニ達カルデアの面々は表情を僅かに強張らせる。

 

しかし、こうなったら修司の独壇場だ。こと力勝負に於いて界王拳を使った修司の膂力は並の英霊の比ではない。この状態の修司を圧倒するには、信仰深き彼の山の翁位しか今のところ存在していない。

 

そんな時だ。修司の前から、突然フッとケツァルコアトルの姿が掻き消える。何が起きたと戸惑う以上に、修司の本能が既視感を感じ取り、自然と両腕を交差させて防御の姿勢を取る。

 

瞬間、下から突き上げられる衝撃に修司は眉を寄せる。瞬く間にリング上空まで吹き飛ばされる刹那、両足で蹴り上げるケツァルコアトルの姿が見えた。

 

来る。先の戦いでも覚えのあるケツァルコアトルの必勝パターン、この状況を覆す為に、修司は翔んで拳を振り抜いてくるケツァルコアトルに正面から打ち合いを挑んだ。

 

振り抜かれる太陽神の拳。片腕で防いで見せるが、伝わってくるその一撃は非常に重く、この時点で修司は三女神の中でも一番厄介なのは、目の前にいる女神なのだと確信した。そんな女神に狙われ、辟易とする思いだが、純粋な力勝負なら依然として修司も負けていない。

 

 お返しに、修司も拳を振り抜き、ケツァルコアトルもこれまた同様に片腕で防ぐ。が、打撃の威力だけなら修司に軍配が上がるのか、彼女の表情の方がより痛みを感じたように表情を歪める。

 

だが、そんな表情も一瞬。次の瞬間には振り払い、今度は蹴りを放ってきた。蹴りと蹴り、拳と拳、空中にて繰り出される打撃の応酬に、エリドゥ市の大気が震えていく。

 

「あ、ぐ……流石に、これは……!」

 

「───っ!」

 

しかし、先にも述べたように打撃の威力は修司の方が上をいっている為、打撃戦に持ち込んだ筈のケツァルコアトルから苦悶の声が漏れ始める。

 

「隙ありィッ!」

 

「っ!?」

 

当然、そんな隙を修司は見逃さず、防戦に入り掛けたケツァルコアトルの“肉のカーテン”を力任せに打ち破る。此処だ。防御を崩され、苦し紛れに拳を放ってくるケツァルコアトルの一撃を避け、瞬時に修司は彼女の両足を掴み取る。

 

その技に、立香は覚えがあった。

 

「あ、あれは───!」

 

「おおっと、これはァ───!?」

 

それは第四の特異点にて、なまはげの仮面を被った修司が、殺人鬼であるジャックザリッパーを倒した時に見せた必殺技。キン肉星の王子が得意とされている“キン肉バスター”、ルチャリブレを愛するケツァルコアトルに、同じくプロレス技で対抗する修司。

 

そのフェア精神は確かに清く、精錬されたモノがある。………が、この場面に於いて、それは悪手に過ぎた。

 

「───甘いッ!」

 

「なァッ!?」

 

瞬間、修司の視界が逆転する。上から下へ、回転する様に返されるその姿は、キン肉バスターの合わせ鏡。

 

即ち───。

 

「これが私の、キン肉バスター返しデェーッス!!

 

修司の放つ筈だった必殺技、そのカウンターによってケツァルコアトルは大地に降り立った。砕かれる大地、周辺一帯を揺るがす大振動、その際のに引き起こされる衝撃が余すことなく修司の身体に叩き込まれていく。

 

 視界が、白い火花で覆われる。乱雑に投げ出され、地に這いつくばる修司は、襲い来る襲撃による眩暈と脳震盪に、身体の自由が一時的に封じられてしまった。

 

「なんと言う大波乱! 空中乱闘から修司選手の必殺、キン肉バスターが炸裂するかと思いきや、ククルん選手まさかの返し技だァッ! 決め手となる筈だった技が返された以上、修司選手への肉体的精神的ダメージは深刻だぞぉッ!」

 

「そうですねー、これはちょっと不味いですねぇ」

 

「あのまま打撃戦に待ち込めば勝てる試合だったのに、無駄に心の贅肉をひけらかすからこうなるのよ」

 

相手がプロレス技で来るのなら、此方もプロレス技で挑むべきだと、そう思っていたが故の逆転劇。ケツァルコアトルの権能を未だに勘違いしたままの修司が敢えて選んだ戦法は、モノの見事に裏目に出てしまっていた。

 

「て言うか、なんかケツァルコアトルさんの耐久力、異常じゃない? 修司さんの打撃を何発か受けた筈なのに、あまり利いた様子がないなんて………」

 

『それは、恐らく彼女の権能に依る所が大きいんだと思う。太陽神ケツァルコアトルは善性の神、人々の営みに寄り添い、時には人の王として顕現した事のある彼女は、謂わば善の化身。何だかんだ修司君も善の性質のある人間だ。そんな彼の攻撃は彼女の権能の前では大きく減衰されてしまうのだろう』

 

「そんな、それでは修司さんは常にハンデを背負わされているのも同じでは……!」

 

 善性の化身であるケツァルコアトルには、同じく善き人間である修司の攻撃はあまり通ることはない。性善説という言葉があるように、人は生まれながらにして善き部分が大多数を秘めているとされている。

 

ケツァルコアトルはそんな善の性質を色濃く受け持った神性である事から、同じ善の性質を持つサーヴァントの攻撃を大きく減衰させてしまう効果がある。そんな彼女と対等近くに戦える者はこの場おいては悪性を持つジャガーマンしかおらず、そのジャガーマンは現在試合解説に熱中している始末。

 

しかし、そんな反則染みた権能を前にそれでも修司は正面から戦うと決めた。ならば自分は、そんな修司を応援するだけだと、立香はロープ近くまで駆け寄って声を張り上げる。

 

「頑張れ修司さん、頑張れェーッ!」

 

「ファイトです!」

 

「ムーチョ、可愛らしいマスターちゃんからの応援、羨ましい限りデース」

 

「ただの可愛い娘じゃあねぇぜ。俺達の頼れる───もう一人のマスターさ」

 

「なら、カッコ悪い所は………もう見せられませんね」

 

立香の応援が耳朶を叩き、朦朧としていた修司の意識を叩き起こす。自分に出来ることを精一杯にと、頑張れと後押しされた修司は情けない自身を内心で叱咤しながら、スリーカウント以内に立ち上がる。

 

「あぁ、悪かったよケツァルコアトルさん。この期に及んで、俺はまだアンタを舐めていた。太陽神でありながら、時には人の王としての側面があった貴女を、俺は心の何処かで見下していた」

 

「────」

 

 サーヴァントとは、強さを打ち止めされた存在。神霊だろうとその枠組みは絶対であり、より強い存在であるほど、打ち込まれる楔の影響は色濃く残ってしまう。

 

英霊とは人類史に刻まれた影法師。これ迄幾度となく英傑英霊と正面から戦い、時には真なる英雄とも呼べる怪物達と相手してきた。

 

だからなのだろう。多くの英雄達と戦い、打ち克ってきた事で自然と修司は無意識の内に慢心を抱いてしまっていた。ダウンサイジングされた神霊相手に、全霊を出すのは忍びないと、心の何処かで遠慮してしまっていた。

 

情けない。もし万が一ここにあの翁がいたら、一体どんな叱責を受けた事だろう。無様と蔑むか、それとも愚かと呆れられるか………或いは、その両方か。

 

 自分に出来るのは、いつだって最善以上に全力を尽くす事だけ。自分の出来ることを成し遂げる為に───修司は、自らの意志でその領域に踏み込む。

 

眼を瞑り、意識を集中させる。周囲の流れる風を、立香達の呼吸の音を、自身の心音や流れる血液の流れを、その全てを認識し、把握していく。

 

軈て、光が修司の身体から溢れ、纏っていき、次に眼を開けると───その瞳は身に纏う光と同じ、仄かな銀色の輝きを纏わせていた。

 

明らかに変わった修司の雰囲気、ピリピリと皮膚に伝わってくる圧力に微笑む太陽神の頬に汗が伝り落ちていく。

 

「───さぁ、第二ラウンド…………始めるか」

 

「ムーチョ」

 

 感嘆の声が漏れる。人は、人間とは此処まで至れるのか。歓喜に満ちた笑みを浮かべながら、ケツァルコアトルは修司に向かって地を蹴った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 振り抜かれる拳、当たればダメージは免れず、場合によってはサーヴァントすら致命傷になりかねない、太陽神ケツァルコアトルの本気の一振。

 

相手の顔面目掛けて放たれた拳は、されど当たることはなく、ただ空しく空を切るだけに終わる。大きな一撃は当たらないのなら、細かく鋭く回転を上げることで、ケツァルコアトルは拳の弾幕を修司へと見舞う。

 

面制圧にも等しい一方的な弾幕。一種の宝具とすら見間違えてしまうその弾幕を………信じがたい事に、身に纏う胴着に掠りすらしなかった。

 

この時、初めてケツァルコアトルは我が眼を疑った。物理的に避ける余地などありはしない弾幕を、事実躱してしまう矛盾をやり遂げる修司に、太陽神はただあ然となっていた。

 

そして、それは解説していたマーリン達も同様で、特に女神イシュタルは、人間である修司の飛躍的過ぎる強さの発露にただただ驚いていた。

 

「───ちょっと待ってよ、何なのよアイツ、急に動きが変わりすぎてない!?」

 

「どうやら、あれが彼の本気の形態なんだろうね。いやぁ驚いた。確かにあれじゃあ円卓の彼等では止められないや」

 

「うーん。其処にいるようで其処にいないような………もしや、彼はシュレディンガー的な人類だった?」

 

 第六特異点にて、信仰深い山の翁の助力によって得られた白河修司が踏み込んだ新たな領域。これ迄何度かこの状態を披露した場面はあったが、何れもホンの一瞬。瞬き程度の合間しか使用してこなかった。

 

常時展開する程の体力が無かったのか、それとも使う必要が無い程に使い手自身が強くなったのか。どちらにせよ、修司がその気になったという事実は変わらない。

 

 太陽神は笑う。邪悪に、天真爛漫に、神の眼を以てしても捉えきれない修司の動きと、其処に至るまでの努力に。

 

「あは、アハハハハハ! 凄い! 凄いわ修司! 貴方は強いのね。何処までも、何処までも! 貴方は際限なく強くなっていく!」

 

「────」

 

「人間とは、此処まで強くなれるのね。人間とは、此処まで至れるのね。あぁ、嬉しい。貴方という人間が存在したという事実だけで、神々(私達)は報われたわ」

 

「………なに言ってんだよ」

 

「───え?」

 

「こっからだろ? 俺も、アンタも!」

 

修司の口許が不敵に歪む。まだまだ自分はこんなものじゃない、自分の強さへの探求は始まったばかりで、これから先もドンドン修司は先を進み続けるだろう。

 

終わることなき前進。それは、人類に寄り添ってきたケツァルコアトルにとって、何物にも勝る口説き文句に等しかった。

 

「あぁ、本当に───」

 

 瞬間、ケツァルコアトルから炎が吹き荒れる。修司が普段使う闘気とは似て非なる焔、それが先の戦いで見せた彼女の宝具。

 

しかし、それならば組み敷かれ無ければ良いだけの話だ。今の修司にはそう言った小手先の技は意味を成さないのは、立ち会ったケツァルコアトルが一番よく知っている筈。

 

ならば、一体何をするつまりなのか。注意深く相手を見据える修司が次に目の当たりにしたのは………空を往く火の鳥の姿だった。

 

高く、高く翔んでいく太陽の神。高さを増すごとに膨れ上がっていく神の力。

 

「行くわよ修司、私の全て………受け止められるかしら!

 

 軈て、ケツァルコアトルは一つの形へと形成していく。それは嘗て全ての種を滅ぼしたとされる大隕石、星を揺るがす宇宙からの贈り物───その、再現である。

 

実況席から、やりすぎだと騒ぐジャガーの声。白河修司という一人の人間を倒す為に、此処までやるのかと呆れるイシュタル。残ったマーリンはマシュと立香の所まで駆け寄り、逃げる準備を始めている。

 

落ちてくる神性。たった一人の人間を倒す為に、己の全てを賭けて挑んでくるその矜持。此処で逃げては───あまりにも無作法。

 

故に。

 

「良いぜ、ケツァルコアトル。貴方の挑戦………受けて立つ」

 

修司もまた、全力でこれを迎え撃つ。落ちてくる太陽の神、これを破壊せず、威力だけを殺しきる。無理と矛盾に彩られた難題に、それでも修司は笑って挑む。

 

 飛ぶ。落下してくる大隕石に向かって修司が繰り出すのは………自慢の拳。これしかなく、またこれで充分だった。

 

落ちてくる大質量の神性に、修司の拳が振り抜かれる。瞬間、エリドゥ市に光が満ち溢れ、その様子はまるで太陽の沈む様な光景だったという。

 

 

「………あれ? そう言えば、ケツァルコアトルの攻撃って必ず当たるっていう権能じゃなかったっけ?」

 

「マーリンさん?」

 

「おっと、それは今は言わない約束だよ。レディー達」

 

「フフォーウ! マーリンマジフォーウ!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 一方、その頃。

 

「………ふむ、目が覚めた時、そこは冥界であったとはな。ハッハッハ、愉快愉快」

 

「───ではないわぁ! 何を死んでいるのだ我ェーッ!?」

 

偉大なる賢王ギルガメッシュ、現在彼は冥府にて一人ノリツッコミを嗜んでいた。

 

 

 

 




Q.最後のこれ、ケツァル姐さんの第二宝具?

A.近いけど違います。使ったらこれから先の必要な場面で使えなくなりますので、霊基を限界まで引き上げた特攻染みた攻撃、みたいなものです。

Q.王様、何ですぐ過労死してまうん?

A.宿命なんや節子。

次回で太陽神攻略完了。そして、あの女神がいよいよ登場!?

それでは次回もまたみてボッチノシ





オマケ。

もしもボッチが時計塔に短期留学したら? そのに

「所でシュージ、時計塔に推薦でやってきたって言うけど、具体的には何が出来るの?」

「手から気功波(ビーム)が撃てます」

「何だよそれ、ガンドの事を言ってるのか?」

「ガンド? あぁ、あの霊丸擬きね。一応出来るぞ。あと、気を解放して身体能力を底上げしたりとか? 今の所そんくらいかな?」

「ふーん、体術の心得とかあるのか? なんなら、今から僕と勝負してみようか?」

「良いね! なら、勝った方がグレイにデートのお誘いをするって事で!」

「何ィッ!? グレイたんと!? ふ、ふふふ! この勝負、絶対に負けられん! 勝負だ! シュージ!」

「いや、そもそも本人に許しもなくデートのお誘いとか………普通にダメだろ」

「良いから良いから、ルシアン君に君の事を説明するにはこれくらいがちょうど良いさ。それに、君も魔術師との接近戦は嗜んでおきたいだろ?」

「それは……まぁ、出来ることなら」

「因みに、シュージはどれくらい戦えるの? ほら、何か如何にも鍛えているっぽいし」

「ん? あー、ヘラクレスには負けて、クー・フーリンには一応勝てて、アーサー王の聖剣をへし折ったりしたかな?」

「…………なんて?」





「た、大変です師匠! スヴェンさんが修練場の天井に突き刺さって、愉快なオブジェクトになっています!」

「今すぐあの馬鹿者たちに始末させろ!」




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