『G』の異世界漂流日記   作:アゴン

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今回、独自解釈があるかも?




その141 第七特異点

 

 

「ふははははは! よくぞ帰った、素晴らしき勇者達よ!」

 

 エビフ山にて、女神イシュタルを無事に仲間に引き入れたカルデア一行。賢王ギルガメッシュに事の顛末を報告しようとジグラットの王の間へ向かうと、其処に非常に機嫌が良さそうなギルガメッシュ王の高笑いが聞こえてきた。

 

シュメル神話に於いて、ギリシャの神々にも引けを取らないアレなイシュタルを軍門に降したという事実が良い意味で琴線に引っ掛かったのだろう。今にもイシュタルにNDKでプゲラな顔芸を披露しそうなテンション高めの賢王に、修司達は苦笑いで見守った。

 

「さて、恥知らずにも出戻ってきた其処の女神! 我等が軍門に降った感想を述べるが良い! あぁ、字数は任意で構わんぞ? 言い訳が長ければ長いほど、貴様へのメシウマが進むのだからなぁ!」

 

「ねぇ、王様大丈夫? ちゃんと休めてる? 何かテンションおかしくない?」

 

この神代で既にメシウマなんて概念を持ち込もうとしている賢王、普段よりもテンションの高いギルガメッシュ王の言動に割りと本気で心配になってきた修司は、側に控えているシドゥリへ声を掛ける。

 

「私も、何とか王の負担を減らそうとしているのですが……ここ最近、魔獣の被害が増えてきた事も影響しているみたいでして……」

 

「そっか……やっぱり、一度ゴルゴーンの巣に出張った方がいいんかなぁ?」

 

女神ゴルゴーンを撃退し、魔獣達の勢いを削いだつもりでいたが、どうやら魔獣母神はまだやるつもりらしい。自分達がエビフ山に赴いている間、勢いを取りも出しつつある魔獣達による被害は徐々に拡大しつつある。

 

自分がいない間に好き勝手してくれるゴルゴーンに苛つきながら、やはり10日待たずに今からでも攻め込んでやるかと、修司は視線を北壁方面に向ける。

 

「───修司、分かっていような」

 

「………っ、やっぱり、駄目か?」

 

「何度も言わせるな。此度の戦いは本来であれば我々今を生きる人間のモノ、確かに貴様の力は認めよう。しかし、度が過ぎる節介は傲慢の切っ掛けになると知れ」

 

 今にも魔獣母神の神殿に向かって、ゴルゴーンを討伐してやろうかと目論む修司を、ギルガメッシュ王が先んじて牽制する。王の言いたいことは分かる。この時代に起きた問題は、当時の人々が解決するべきだと言うのも理解できる。

 

しかし、自らは決戦は10日後と指定しておきながら、その手先は未だに人類へ攻撃を続けている。それも、自分達がウルクから離れた時を見計らってである。

 

人類を餌としか見ておらず、終始上から目線のゴルゴーン。自らを女神を自称しておきながらやり方が姑息な蛇に、修司が苛立ちを募らせるのは必然と言えた。

 

だが、それでも王は構うなと言う。北壁への被害は出ても人的損害は今の所出ておらず、牛若丸や弁慶、レオニダスの奮闘のお陰で未だ魔獣戦線の士気は落ちていない。神々の気紛れや卑劣さはいつもの事、そう暗に語る賢王に、修司はある種の違和感を感じた。

 

まるで、ゴルゴーンを討ち取るのに躊躇しているような感覚。───いや、躊躇というよりもっと別の………例えば、ゴルゴーンを討ち取った後に待つ何かに備える準備期間を得る為、そんな算段を垣間見た気がする。

 

(もしかして、本当にゴルゴーンの背後には何かがいるのか? 魔術王でもキングゥでもない、この時代に潜む何かが………)

 

以前感じたゴルゴーンへの違和感。自らをティアマトと騙って起きながら、まるでその事に違和感を持っていない様子。もしかしたら、自分の推測は当たっているのか?

 

横に佇むマーリンが訝しげに修司を横目で観察している。そんな夢魔の視線に気付いた修司が、なんだとマーリンに訪ねた時、煽られていたイシュタルの怒号がジグラットに木霊する。

 

「うるっさいわね! この性悪ギルガメッシュ! なにちょーっと強い人間を味方に引き入れただけで強気になっているのよ! そして修司! アンタもあまり図に乗らない事ね。神々を舐めていると、今に手酷いしっぺ返しを食らうんだから! その時は白旗を振ったって助けてあげないんだからね!」

 

「………いやぁー、ここまで開き直られると、一周回って感心するわぁー」

 

「あの、修司様? 白旗とは一体?」

 

「あぁ、白旗ってのは降参の意味を相手に伝える手段の事さ、他にも両手を上げてバンザイの姿勢とかも自分の負けを認めるジェスチャーだったりするんだ」

 

「バンザイ………ですか?」

 

「そうそう、バンザーイってね」

 

 イシュタルの呼び掛けに思考の海から戻った修司は、女神の開き直り振りに嘗ての姉弟子を幻視する。アイツもこんな感じだったなと、これじゃあイシュタルの依り代に選ばれるのは無理もないと、修司は妙な気持ちで納得した。

 

その一方で、白旗に込められた意味や相手に降参の意思を伝えるジェスチャーをシドゥリに一通り教える。そして、今尚続く賢王とイシュタルの煽り合戦にシドゥリが両者の間を取り持つ事で一端終わりとし、改めて女神イシュタルを仲間にしたという報告を口にした。

 

 幸いなのが、女神イシュタルが契約者である藤丸立香を結構気に入ってくれているという事、依り代の面倒見の良さが色濃く出たのか、立香を凄いマスターにしてやると豪語するその様子は、嘗て衛宮士郎を魔術の弟子として導いた面影が垣間見得た気がした。

 

「そんじゃイシュタ凛、これからは一応俺達に味方をしてくれるって事でいいんだな?」

 

「名前まで合体しなくてもいいわよ。幾ら依り代と融合して新しい私とは言っても、私は女神イシュタルとしてここにいるんだから」

 

当初、女神イシュタルの依り代となった女性の安否について言及したロマニ、カルデアにてマシュという人道に背いた存在を生み出した組織の一員であるロマニを、イシュタルは自分を棚に上げて追求してくる愚か者と蔑んでいたが、棚に上げるのではなく、事実として受け止め、それでも敢えて訪ねてくる彼の胆力に感心したイシュタルは、現時点での自分の様子を以下のように現した。

 

今のイシュタルは、本来の女神の部分と依り代となった人格がうまい具合に融合して新たに生まれた存在なのだと。故にイシュタルの依り代となった遠坂凛の自我意識に何ら影響はなく、またイシュタルの神性も損なわれていない新しいイシュタルとして誕生したのだ。

 

これを修司はフュージョンして生まれたモノだと解釈し、後に教えた立香も納得。相変わらずアニメ知識で理解する二人に物申したくなったロマニだが、実際にその通りなので訂正する事は出来なかった。

 

閑話休題。

 

「さて、それでは対ゴルゴーンに於いて次なる段階に進むとする。女神イシュタルという尖兵を獲得したのならば、次はマルドゥークの手斧だ」

 

 マルドゥークの手斧、それは創世の神の一柱であるティアマトの喉笛を切り裂いたとされる神具。既にその在処はエリドゥ市にあると確認されており、そして其処を拠点としている恐るべき女神の情報もまた、既に全員に行き渡っている。

 

『アステカ文明の太陽神、ケツァルコアトル。本来ならば一つの神話を代表する主神クラスであり、またその実力は凄まじい』

 

「そして、ルチャリブレ────まさかのプロレスの達人と来たもんだ」

 

ゴルゴーンを討伐するにあたって、マルドゥークの手斧は可能な限り手元に置いておきたい代物だ。しかし、それを守る太陽神は一度は修司すらも負けを認めざるを得なかった傑物。立香やマシュ達が正面から挑むには、ある意味ゴルゴーン以上に困難な相手と言えるだろう。

 

「あと、確かジャガーって女神も一緒なんだよね? その………修司さんの当時の先生が依り代になっている」

 

「止めてくれ立香ちゃん。その事実は俺に効く」

 

そして、エリドゥ市の攻略に於いて最も難易度が高いと言わしめているのが、ジャガーマンなる女神である。何を血迷ったのかこの女神、よりにもよって学生時代の修司の恩師、藤村大河を依り代として選び、古代メソポタミアに現界しやがったのだ。

 

流石の修司も嘗て世話になった恩師に対し、二度も仇で返すのは躊躇われた。

 

『うーん、やはりここは立香ちゃんとマシュがジャガーマンの相手をして、修司君がケツァルコアトルの相手をする。て言うのが定石かな』

 

「あぁ、そうしてくれると俺も助かる。ケツァルコアトルは俺が何とか出来ても、ジャガーマンだけはなぁ……」

 

 

「修司さんが其処まで言うなんて、ジャガーマン。依り代も含めて、そんなにも恐ろしい女神なのでしょうか?」

 

「と言うか、女神なのに“マン”なんだ」

 

 エリドゥ市の奪還と、マルドゥークの手斧の奪取は対ゴルゴーンに於ける必要な要素だ。最悪、修司によるゴリ押しで何とかなるかもしれないがそれはそれ、取れる手段や可能性があるのなら挑んだ方が良いだろうし、色々と怪しいゴルゴーン戦後の事を考えれば、密林の女神の攻略はゴルゴーンとの決戦の前に済ませた方がいい。

 

それに、約束もある。たかが口約束ではあるが修司はあの太陽の女神との決着をケツァルコアトルと交わしてしまっている。其処に魔術的縛りや破ったら神秘的な罰が降される訳ではないが、自らそう決めた以上そうしたいと思うのが修司の本音だった。

 

『と言うか、ジャガーマンもそうだけど何故ケツァルコアトルまでもが女神なんだ? 神話体系で見れば、元々あの神は男性神の筈なんだけど』

 

「あぁ、そっか。人間は知らないわよね。あなた達で言うところのメキシコ、南米の神話体系はまた一段と変わり種なのよ。あそこの神性はこの惑星で生まれたものじゃなくて、空から降ってきたモノだと言われているわ」

 

 ロマニの呟く一つの疑問、本来であれば男性神である筈のケツァルコアトルに対する疑念への解説は女神イシュタルからの爆弾発言から始まった。

 

その昔、地表に衝突した小惑星。その惑星についていた“何か”が植物に寄生する事で生き延びて───やがて、現地動物を“神”に変化させる微生物となって、あの土地の文明を築き上げた。

 

南米の神性は“人間から人間”に乗り移るもの。その中には女性の“器”もあったのだろう。

 

故に、ケツァルコアトルが女神として現界したのも差程不思議な事ではないと、女神イシュタルはそう締めくくった。

 

『と、とんでもない情報をありがとう女神様! 地球はまだまだ奥深いな!』

 

小惑星の衝突。そう口にした女神イシュタルの説明を聞いて唖然とする一同だが、ふと修司は一つの疑問を思い浮かんだ。

 

「………なぁ、一つ気になった事があるんだけど、いいかな?」

 

「………? 何よ、私の説明に納得がいかないって言うの?」

 

「そうじゃねぇさ。俺が気になるのは、地表に衝突した小惑星………その時期さ。一般的に小惑星規模の隕石が地表に落ちたとされる記録は残されていないが、落ちたとされる説(・・・・・・・・)は色濃く残っているからな」

 

「そ、それって………」

 

「恐竜が絶滅した直接の原因とされている……」

 

地表に衝突した小惑星、それに関係していると推測されているのは、嘗てこの惑星に存在したとされる絶滅種族───恐竜達だ。

 

人類が独自の文化文明を築き上げるよりも遥かな昔、太古の時代に存在していた地上の支配者達。その歴史は人類が古代から現代に至るよりも長く、そして古い。

 

古代南米の神性が外宇宙からの来訪者で、かつ動植物に寄生する存在だと言うのなら、その存在は人類史だけでなく嘗て存在した恐竜の絶滅の原因解明にも繋がるかもしれない。

 

 これ迄の旅路の中でも破格な衝撃的事実を前に、立香もマシュも呆然としているだけ、賢王ギルガメッシュもその千里眼で南米の様子を伺おうとするが、人理焼却された今ではそれも敵わない。

 

これから相対する密林の女神、その生命力の強さに改めて圧倒される中、修司は別の可能性を見出だしていた。それはやはり小惑星衝突の時期。確かに一般的に小惑星規模の隕石の衝突は恐竜の存在していた時期とされているが、女神イシュタルのは地表に衝突したと説明しただけで、それが恐竜の時代と明記してはいない。

 

 ────嘗て、まだこの惑星が星の形として不完全だった頃、この地上は須く炎とマグマに覆われていたとされている。幾つもの隕石がぶつかり合い衝突し、砕けてはまた衝突を繰り返す。その果てに生まれたのが地球であり、今の自分達の生きる世界の土台となっている。

 

もし、イシュタルの言う生き延びたとされる時期が恐竜時代の終わり………ではなく、惑星の創世記頃の時代にまで遡ると言うのなら、その神性の強靭さは他の神話体系よりも群を抜いているのかもしれない。

 

………まぁ、何れにせよこれは自分の勝手な憶測だし、変に脅かすつもりもないから、今この場で吹聴しなくてもいいだろう。どちらにせよ、自分とあの女神が戦うのは避けられない事。ならばそれまでに気持ちを切り替えて置くとしよう。

 

一先ず、女神イシュタルを仲間に引き入れた。次はエリドゥに向かい、ケツァルコアトルをどうにかするのが自分の役目だと、修司は思考を切り替えて立香達と共に出立の準備に向かおうとして………。

 

ジグラット────否、ウルク市全体を揺さぶる様な振動が、修司達の足場を揺るがせた。

 

「………! マスター、今地震の様なものが………」

 

「まさか………!」

 

「報告、報告────! 王よ、失礼致します! ウルク南門より火急の報あり! 南門、消滅! 至急応援を寄越されたし、との事!」

 

 南門の消滅。その報告を受けた賢王は見張りは何をやっていたと叱咤するが、相手はただの一人。魔獣の様な手下も連れず、単身一人で乗り込んできた敵の正体は………一同が予想していたケツァルコアトルその人である。

 

「ケツァルコアトルと名乗る女神、現在ジグラットに向かって侵攻中!」

 

「ちっ、よもや女神が単身で乗り込んでくるとはな! 敵ながら天晴れよ。兵士達は迎撃より住民の避難を優先させろと伝えよ!」

 

「は、はは! しかし、まだ一つ問題が!」

 

「なんだ!?」

 

「それがその………ケツァルコアトルと名乗る女神は、修司殿との決着を強く望まれているとの事です!」

 

報告に来た兵士が、気まずそうに修司を見る。すると、自然と王の間にいる全員からの視線が修司へ集まっていく。

 

中でも、賢王の手はフルフルと震えだし………。

 

「えぇい! また貴様かこのハチャメチャ小僧めが! いい加減少しは自重という言葉を覚えぬか!」

 

「いやこれ俺関係なくない!?」

 

 実際は関係大有りだが、生憎とそれを追求できるものはこの場にはいない。プンスカと怒るギルガメッシュ王を尻目に、一行は南門へと向かうのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「う、うわぁぁぁぁっ! だ、駄目だ! 我々では歯が立たない!」

 

「諦めるな! 援軍が来るまで何とか持ちこたえるんだ!」

 

「周囲の住民の避難完了まであと少しだ! 頑張って踏みとどまらせてくれ!」

 

「ワァオ! ウルクの人達のガッツ、中々デェース!」

 

「うーん。相変わらずの強引さ。ウルクの皆さん、ホントにサーセン」

 

 ウルクの南門。ノック感覚で粉砕された城壁の門は以前のような荘厳さは微塵もなく、無惨な瓦礫の山となっている。舞い上がる砂塵の中から闊歩するのは、密林の女神と恐れられている太陽神ケツァルコアトルと、その取り巻きであるジャガーマンだった。

 

防衛に殉じるウルクの兵士達を、鎧袖一触。挑みかかる兵士達を一人一人丁寧に相手をする一方で、意識を失った兵士達をジャガーマンが丁重に寝かせてやるという奇妙な光景が生まれていた。

 

「ジャガー、彼等を決して死なせてはダメよ。彼にも言われているでしょ? 自分との決着が付くまでの間、決してウルクには手を出してはならないと」

 

「いや、それなら普通にエリドゥで待っていれば良いのでは?」

 

「何か言った?」

 

「イエ、ナンデモアリマセン」

 

 ウルクの兵士が派手に吹っ飛ばされ、見た目こそ即死しているような有り様だが、不思議な事に誰も死んではおらず、不思議と気絶程度で済んでいる。ケツァルコアトルは修司との約束を守る為の必要な事だと言うが、そもそもエリドゥから出なければ良かっただけの話なのでは?

 

至極当然の疑問を口にするジャガーだが、そこは絶対な上下関係。微笑みながら凄んでくるククルんを前にジャガーはただ大人しくするしかないのだ。

 

お願いハチャメチャボーイよ、早く来て。そんなジャガーマンの熱意が届いたのか、ケツァルコアトルの前に山吹色の彼が舞い降りる。

 

「おい。どういうつもりだよケツァルコアトルさんよ? 俺との決着の前に余計な手出しはしない約束だった筈だろ」

 

「え、えへへ………その、修司に会うのが我慢出来なかったから………つい、来ちゃった」

 

「ついって………アンタなぁ」

 

 修司が現れた事で、途端にモジモジと態度を軟化させるケツァルコアトル。嘗て見たことのない腐れ縁の相手にジャガーは辟易となる。

 

「………まぁ、兵士の皆は怪我が無いように気を遣ってくれたみたいだし、門も一見派手に壊れている様だけど、門の部分が綺麗に割れているだけだから修繕も比較的簡単そうだ。尤も、それを判断するのは王様だけど」

 

一目見てケツァルコアトルなりに気を遣った事を看破する修司だが、自分との約束を破ってウルクに攻めてきた事は変わらない。一体どういうつもりなのか、腕を組んで訝しむ修司にケツァルコアトルは表情を引き締める。

 

「勿論、ただ遊びに来た訳ではありませーん。白河修司、貴方に改めて決闘を申し込みマース」

 

「───おう。その決闘、受け取った」

 

「場所はエリドゥ市。既にリングは此方で用意しました。三日以内に来てくれることを期待してまーす」

 

「おう、委細承知した。決して遅れない事を誓うよ」

 

 真面目な顔から告げられるのは───宣戦布告。ケツァルコアトル直々の決闘の誘いに、修司は驚くこと無く了承する。

 

既に修司の中でケツァルコアトルの相手は自分がするべきだと認識しており、それを立香やマシュに譲るつもりもない。それに、本来であるならば一度は敗北した自分が直接出向いて言うべき事なのに、向こうから誘ってきてくれたのだ。

 

ならば、此方はただ受け入れるだけ。そう気持ちを固めた修司は組んでいた両腕をほどいて改めて面と向かって向き直る。

 

「────ルールは無用。互いに全力を尽くしましょ」

 

「あぁ、今度はちゃんといい勝負にしたいしな」

 

「それで、私が敗北した暁にはエリドゥ市にあるマルドゥークの手斧を献上し、以降はあなた達の傘下に降る事を約束しましょう」

 

「うん? まぁ、あんた程の傑物が味方になるのは有り難いが………」

 

 この女神、戦う前から自身の負けることを想定している? らしくないケツァルコアトルの提案に首を傾げる修司だが………。

 

「そして、私が勝った暁には───白河修司、貴方を婿に戴きマース!」

 

「うん? まぁ、それも別に────何て?

 

「やったー! 今“うん”て言いましたよ! 言質取りました! もう取り消しは出来まセーン!」

 

「え? 修司さん、結婚するの!?」

 

『うわーい。もうツッコミしないぞ僕ぁ』

 

「なんという大スクープ! これは、すぐにでもウルク広報部にリークしなければ!」

 

次に出てきたとんでもない条件を前に、自然と頷いてしまった修司。しかも運が悪いことに駆け付けてきた立香達にも聞かれてしまい、悪ノリしたマーリンがウルク市全体に噂を伝播させてしまう。

 

こうして、敵にも味方にも逃げ場を奪われた修司はこの日、絶対に負けられない戦いを強いられる事となった。

 

「本当、うちのククルんがスミマセン」

 

誰もが冷静を欠く中で、ジャガーだけは唯一マトモだった。

 

 

 




遂に始まったアニメプリコネ。キャルちゃんの可愛さに大満足な自分でした。

それでは次回もまたみてボッチノシ







オマケ



「───ここ、何処だ? 三咲町?」

 それは、いつもの夢。しかし、夢と言うにはおぞましく、悪夢と呼ぶには美しい物語。

見知らぬ土地に目覚めた修司は、そこで新たな出会いを果たす。

吸血鬼、真祖、死徒、聞き慣れない単語に血腥い噂。

元の世界、元いた場所に戻る為、修司は見知らぬ土地にて自分の戦いを始める事になる。

「ふーん、驚きや恐怖はあっても、それ以上に強い心があるのね。………生意気、消えちゃいなさいよ。あんたみたいな奴、大っ嫌いなのよね」

「………なぁ」

「あぁ?」

「アンタはさ、それでいいのか? 嫌悪する吸血鬼にさせられて、元に戻ろうとは思わないのか?」

「はぁ? バカじゃないの? 今の私が一番好きだった頃の私なのよ。何処までもキラキラで輝いていた私の絶頂期、あんたみたいな余所者に、私の事を語らないでよ!」

「そっか………でも、大人になって、何も上手くいかないけど、それでも精一杯頑張って生きるあんたの事、俺、結構好きだったよ」

「っ!!」

「ノエルさん、道に迷っていた俺を助けてくれてありがとう。だから、少しだけ我慢してくれよな。あんたに絡み付いたその呪縛、根刮ぎぶっ潰してやるからよ」

「………嫌い。嫌いよ、あんたみたいな奴、大っ嫌い。でも………お願い、修司………」

「助けて」

「おう、任せろ」

度重なる戦いと戦い。新たに出会いを育み、縁を結び、助け、助けられてきた修司は元凶へと相対する。

「ほう? 面白いな人間。その力、一体どうやって手に入れた? 吸血鬼でもなければ死徒でもない。教会の人間でもないお前は、今後どうやってその力で生きていく?」

「知るか。俺は俺だ。どんなに強くなろうと、その事実は変わらない。そして、テメェはここで死ね。テメェが積み上げてきた全ての罪に、地獄の底で五体投地で詫び続けろ」

「はっ、吼えるなよ。人間!」

人に苦しみを与え続けてきた存在、長きに渡る吸血鬼との戦い。これを解決したのは………なんの因果も関係もないただの一般人。

そんな彼は、これから何と出会うのか。それは……誰にも分からない。








「アンタ、誰だ? アルさんじゃねぇな」

「然り。余はこの星の呼び掛けに応えし者。白河修司、可能性の体現者。シンカの戦士よ。星の要請に応え、汝を消しに来た」

「そうかよ。悪いが、黙ってやられてやるつもりはねぇぞ」

「それでいい。汝はただ、余に示し続ければよい。貴様の魂を、その輝きを、どうか余すこと無く魅せてくれ」

泡沫の夢の中、一つの決着が始まる。


月姫R+1 開幕。







「いや、それはニャイわー」




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