『G』の異世界漂流日記   作:アゴン

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今回はほのぼの回


その36

 ───京都。日本に旧くから伝わる歴史ある街として知られており、毎年多くの観光客で賑わっている。雅のある風景や趣のある建物の外観、その独特な文化は外国人観光客の心を掴んで放さない。

 

風情のある古の街。修学旅行の定番とも言えるこの街に向けてIS学園の生徒達が降り立った。織斑千冬を始めとした教師達の引率を受け、古都を往く。

 

嘗てここがこの国の中心である事を学びながら、旅行を楽しんでいる。IS学園には海外からの留学生が多く在籍している為、学生達は目を輝かせながら旅行を楽しんでいた。

 

そんな中、ある複数の少女達が地元の人達の目に留まった。他の生徒達と同様に制服を身に纏っているが、その小さな体躯から高校生には見えず、彼女達の存在は地元の人達から見て浮いている様に思えた。

 

「ふわぁ~、これが金閣寺なんだ~。ホントに金ピカだぁ~」

 

「あれって全部金箔なんでしょ? 昔の人ってばなんでワザワザそんな事に貴重な資源を使うかなぁ。威厳の為?」

 

「インゲン? サキはインゲン豆が食べたいのか?」

 

「インゲン豆? ミンミン食べたーい!」

 

「あぁもう! メイもミンミンも少しは静かにしなさい! 他の人の迷惑になるでしょ!」

 

「そういうタンポポが一番うるさいけどねー」

 

「何か言った!?」

 

「別に~」

 

五人の少女達がそれぞれはしゃぎながら観光地を堪能している。少々騒がしくは思えるが、長女らしき女の子がどうにかまとめている事から、地元の人達は生暖かい目でその様子を眺めていた。

 

確かにこの少女達は他の生徒達と比べてやや体格が小さい様に見える。しかし、それは彼女達の体質故の事であって実際はもう少し歳を重ねているのかもしれない。幼く見えるのも姉妹と一緒にいるだけであって、別にさほど問題に思う所はない。

 

というか、幼い体躯をした少女は他にもいるではないか。長い銀髪の少女に至っては他の女子生徒より一回りほど小さい。それこそ、先の五人の少女達と近しい体格だ。

 

やはりただの体質の違いか。地元の人々はこれから健やかに成長するであろう少女達を見守りながら散ろうとした……その時。

 

「あ~、お父さんだ~。お父さん、こっちだよ~」

 

少女達の中でも一番おっとりとした少女が父と呼ぶ人間に向けて手を振っている。修学旅行に父兄も参加しているのか? そう不思議に思いながら少女の視線の先にいる人物に目を向けると───地元の人達は一斉に噴き出した。

 

人垣を越えて少女に歩み寄っていく一人の青年。その肩には青く両サイドに分けたツインテールの髪型が特徴的な少女を乗せている。これだけを見れば仲むつまじい親子の姿に見えるだろうが、問題はその肩車をしている青年にあった。

 

紫炎の様に揺らめく頭髪、身に纏う白衣はその人間そのものの在り方を現しているかのように、知的で冷静さを体現しているようだった。

 

 

 白河修司。世界で二番目の男性のIS操縦者であり、世界を現在進行形で揺るがしている男。そんな彼が父と呼ぶ少女の所へと歩みを進めていくではないか。

 

あまりの光景に周辺の人間の口が開いたままの状態となっている。端から見れば仲睦まじい親子の様子なのに親である人間の所為でシュールな光景にしか見えない。

 

というか、娘? 結婚していたの? まさか紳士な世界の住人の人? 混乱する思考で様々な憶測を立てている彼らに対し、目の前の親子達は団欒の時を過ごしていた。

 

「お父さんってば~、どこに行ってたの~? もしかして~、迷子だったの~?」

 

「違うよ。実は俺も学生の頃に修学旅行で京都に来ていてね、あの頃は無計画で所構わず見ていくのを観光だと勘違いしてね。折角の機会だし今度はじっくりと見て回ろうと思ってたんだよ」

 

「お父さんの学生時代~? あはは~、お父さんってば面白い冗談を言うんだね~」

 

「……モモちゃん、それってどういう意味かな?」

 

「ていうかハナ、いつまで父さんに乗ってるの! 早く降りなさい。父さんが困っているでしょ!」

 

「えー? いいじゃん別にぃ~!」

 

「次! 次ミンミンが乗るー!」

 

「ハイハイ順番にな、その前にまずは記念写真を撮ろうか。折角京都に来たのだから思い出として残しておこうな」

 

「ふふん! 父上がそこまで言うのなら仕方がない。特別に私が隣に来てやるから感謝するのだぞ!」

 

親子仲良く金閣寺の前に立ち、学園の生徒に写真を撮ってもらっている。家族揃っての観光らしくそれ自体は微笑ましいモノに見えるが、修司の存在感によりその微笑ましさがどこか遠い所へ吹き飛んでしまっている気がする。

 

写真を撮っている生徒は別段慌てた様子もなく淡々とした様子で彼らの写真を撮っている。一体IS学園では何が起こっているのか、その疑問ばかりが周辺の人間の脳内に埋め尽くされていた。

 

「ちょっとハナ! アナタいつまで父さんに乗ってるの! いい加減降りなさい! 怒るわよ!」

 

「いーじゃん別にこのまま映っても! あ、もしかしてタンポポも父ちゃんに肩車して欲しいのか?」

 

「な、ななな! 何を言ってるのよいきなり!」

 

「ダメだよ! 次はミンミンの番だよ! タンポポ、割り込みダメ!」

 

「べ、別にそんなんじゃ……」

 

「そうは言ってもやっぱり肩車して欲しいと思うタンポポでした」

 

「なっ!? サキ、アナタねぇ!」

 

「コラコラ、ちゃんと全員肩車してあげるから喧嘩するんじゃありません。サキも、後で高い高いしてあげるからふてくされるんじゃありません」

 

「ぶっは!? な、何で私だけそんなオプション付けてるのよ!? つーか何よ高い高いって、私は赤ちゃんか!?」

 

「? 何か変か? 実際お前達は生まれて三日も経ってないんだ。オートマトンの頃の時間も合わせても精々三ヶ月ちょい。乳幼児扱いしても可笑しくないだろう?」

 

「だからって……ああもう! 好きにすればいいでしょ!」

 

「ふわ~、サキちゃんお顔真っ赤~」

 

「うるさい!」

 

賑やかな光景。聞こえてくる会話も別段おかしい所はないし、見てる限りではどこも不信な所はない。しかし……。

 

「ほら、あまり騒ぐと他の観光客の皆さんに迷惑になりますよ。私達も早いところ行くとしましょう」

 

「「「はーい!」」」

 

やはり、白河修司という人間の存在感がその微笑ましい光景を吹き飛ばしてしまっている。周辺の人間は特に何か言う事はなく、去っていく修司の後ろ姿を見つめる事しか出来なかった。

 

……というよりも、関わりたくないというのが本音だった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 京都の修学旅行を楽しんで既に時刻は夜の8時過ぎ、現在自分達は学園の皆とは別の所にある旅館で娘達と共に過ごさせて貰っている。共にとは言っても同じ部屋ではなく、隣の部屋を割り振られているから厳密には違うけれど……そんな事気にしない程に悠々と過ごさせて貰っている。 

 

娘達も初めての旅館やら料理、更には露天風呂を堪能したりと思う存分楽しんでくれていたし、この旅館を貸し切る形で場所を提供してくれた織斑先生や山田先生には本当に頭が上がらなくなった。

 

他の先生方も自分達の事を気遣ってくれてよく娘達の様子を聞いてきてくれるし、この旅館にも護衛の人を何人か付けて貰っているし本当に学園の人達は気配りの出来る良い人ばかりだ。学園の理事長も自分の事を気に掛けてくれてるって十蔵さんも言ってたし、本当に何から何まで有り難い。

 

 自分の置かれている恵まれた環境に感謝していると、夜空に二つの光が瞬いた。それが彼女たちの帰還の合図だと知っている自分は窓を開け、彼女達を招き入れた。

 

風を切りながら部屋へ入ってくる二羽の鳥。蒼い梟と黒い燕は部屋内でクルクル旋回すると、部屋の中央に置かれたテーブルへと着地した。

 

蒼い梟は蒼鴉であるアリカちゃん、それに対してアミカちゃんは燕をモチーフにした待機状態となっている。アリカちゃんの様に自由に空を飛べるようイメージしてこの様な形にした。

 

何故燕かって? いやね。ホントは鷲とか鷹とかにしたかったよ? けどさ、そういう大型の鳥ってどちらかと言えば男の子向けじゃん? 女の子には向かないと思うんだよね。燕なら女の子でも受けがいいかなーって、……すんません。フツーに偏見ですねコレ。

 

『お待たせしましたマスター、アリカとアミカ、ただいま戻りました!』

 

『ましたー』

 

「ご苦労様。それで、首尾はどうだった?」

 

『はい。この旅館と生徒の皆さんがいる旅館を基点に半径10キロに渡って索敵を行ってきましたが、特にこれと言った不審な人影は見当たりませんでした』

 

『私も路地裏とかアチコチ見て回って来ましたけど、特に変わった所や人は見当たりませんでした。他にも建物内部とか怪しい所とか確認してきましたけど……やっぱりその、特に問題は見受けられませんでした』

 

「なるほど、分かった。二人ともこんな雑用を押し付けてしまって悪かったね。後は羽を休めるなり好きに飛んできても構わないよ」

 

『あ、ありがとうございますマスター。けど、本当に大丈夫なのでしょうか。連中、マスターの命をそう簡単に諦めるとは思えないのですけど……』

 

 不安そうに語るアリカちゃん、アリカちゃんのいう連中というのは十中八九女性権利団体の事だろう。昼間から堂々と人を拉致する様な連中だ。嵐の前の静けさの様に何の動きも見せない連中に少しばかり気味悪がっているのだろう。

 

事実、俺が警戒しているのも奴らに関してだ。人目も憚らない強行姿勢。手段を選ばないやり方はテロリストとしては実に合理的で有能な手段だ。故に二人にはそんな事をしでかす連中がいないか予め探りを入れさせてもらったが、どうやらそれが余計な不安を煽ってしまったらしい。

 

『って、すみません。折角の旅行なのに私、変な事言って……』

 

「気にすることはないよ。アリカちゃんの気持ちは俺も分かるからね。……完全に安全とは言えないけれどここには政府からSPが俺達を守ってくれる為に何人も人員を派遣してくれているし、ちょっと離れているけれど織斑先生や山田先生、そして生徒会長の楯無ちゃんも来てくれている。そう不安に思う事はないよ」

 

『で、ですが……ってマスター、どうしてあの生徒会長が来ているって知ってるんです?』

 

「? どうしてって、普通に分かるじゃん。ちょくちょく俺の方を物影から見てくるし、時々一夏君の様子も見に行ってるじゃないか。まぁ、どうして側で護衛したりしないのかって思う時もあるけれど……あぁそうか、二年で生徒会長である自分が来ている事で他の生徒達に気を遣わせない様に気を付けているのか。流石更識家の当主、社交性も高いなぁ」

 

『…………』

 

「ん? どうしたアリカちゃん。そんな目を丸くさせて」

 

『えー……いや、その、何というか』

 

『マスターって、本当に色々鈍いなぁって』

 

何故か二人から呆れのため息が零れる。鈍いとは一体何の事だろうか? これでも周囲に不審人物がいないか常に気を張らせているのだけれど……。

 

そう不思議に思う自分を余所に扉からノックの音が鳴り、次の瞬間勢い良く扉が開かれる。

 

「父上、私が遊びに来たぞ!」

 

「おー! アリカとアミカがいる!」

 

「ホントだー! どこいってたのー?」

 

『あわわわ、いっぺんに来ないで下さいー!』

 

『ミンちゃん、強く抱きしめないで、く、苦しい……』

 

部屋へなだれ込むように様にやってくる娘達。揉みくちゃにされているアリカちゃんとアミカちゃんに助け船を出しながら、俺は落ち着くよう呼び掛けた。

 

「みんなその辺にしておきなさい、二人も苦しんでいるだろう。幾ら他にお客さんがいないからってあまり騒ぐのではないよ」

 

「うー、分かったよー」

 

「むぅ、父上が言うなら仕方ない」

 

「その代わり、後で俺がそっちの部屋にお邪魔するから、それまで大人しくまっていなさい」

 

「ホント!? 絶対だからね!」

 

「待ってるよー!」

 

ドタバタと騒がしく部屋を後にする娘達に自分は自然と笑みが零れる。彼女達から元気を貰った自分は床で目を回しているアリカとアミカをテーブルに寝かせると、とある書類を広げた。そこに描かれているのは設計図、────宇宙活動において必ず必要となってくる代物。

 

長距離航空宇宙艦。それが今後の自分が目指すべき頂きである。

 

 

 

 




今更ではありますが、新年あけましておめでとうございます。
今年も宜しくお願い致します。


Q楯無の事、アミカとアリカは知らないの?
A勿論知ってます。けれど彼女達が知っているのは上空からその姿を視認しているからで気配で気付いている訳ではないのであしからず。

Q主人公ってこの世界で大体どのくらいの強さなの?(生身で)
A少なくともIS装備の千冬さんよりは弱いです。

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