『G』の異世界漂流日記   作:アゴン

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今回、ボッチにある制約が課せられる模様(今更)


その140 第七特異点

 

 

 エビフ山。それはシュメル神話の中でも最高峰の魔境、或いは霊峰として記録されており、最高神アンでさえ恐れていた山脈。その昔、アンはエビフ山に執心していたイナンナ──もとい、イシュタルに警告したのだが、イシュタルはこれを拒否。

 

数多の武器を手に嵐を巻き起こしながらエビフ山の攻略に乗り出した。道中エビフ山からの猛攻撃を受けるが、イシュタルはそんなエビフ山の態度に激昂。逆ギレというレベルでは済まされない居直り強盗を発揮し、エビフ山の息の根を止めた。

 

以降、人々に“戦いの神”としての側面を神々や人間側に見せ付けたイシュタルは、エビフ山を己の縄張りと定め、今も神殿を建てて拠点としているとか。

 

何とも出鱈目で、負けん気の強い神だ。そもそも山が意思を持つとか、それこそ意味が分からない。神代というのは其処まで出鱈目な世界観なのだろうか。

 

「───と、まぁエビフ山と女神イシュタルの関係性はこんなものかな」

 

『しかし、女神イシュタルを仲間に引き入れろとは、ギルガメッシュ王も無茶振りが好きだよなぁ』

 

 荷馬車を引きながらエビフ山という山を昇る理由、それはエビフ山に神殿を構える女神イシュタルを仲間に加えるという大胆なモノだった。ゴルゴーンを倒した後に起こるかも知れないナニか、引き起こされるかも知れない災厄を思えば、今は一つでも頼もしい戦力が欲しい所。

 

ゴルゴーンやケツァルコアトル程ではないにしろ、イシュタルも神性として見れば相当な力を持っているとされており、修司を除いたカルデア側も可能とならば是非とも引き入れたい人材だ。

 

ただ、賢王ギルガメッシュは女神イシュタルに大した期待は持っておらず、王が気に掛けているのはイシュタルが使役しているとされる天の牡牛(グガランナ)が、心強い神獣とされているからだ。

 

 グガランナ。一説にはその蹄の一撃は大地を砕き、大河すらも干上がらせるという絶対的な力を持つとされている。イシュタルが父神から泣き落としで半ば強奪した神々の牡牛、女神イシュタルを引き入れるという事は、グガランナを引き入れると同じ。

 

故にギルガメッシュ王は荷馬車に詰め込んだ秘策を以て、立香達に女神イシュタルの懐柔を命じたのだ。

 

「王様の無茶振りはいつもの事とはいえ………マジかぁ、引き入れちゃうのかぁ。いや、言わんとしている事は分かるんだけどさぁ」

 

「しゅ、修司さん? その、大丈夫ですか?」

 

 賢王ギルガメッシュの滅多に見せない直々の命令。それを下された多くの兵士達は同情し、シドゥリは誉れある仕事だと褒め称えた。神霊とは言え神を仲間に引き入れるというお伽噺みたいな任務に緊張する立香だが、修司の心中はそれどころではなかった。

 

嘗て同じ師から中華拳法の八極拳を学んでいた同門。遠坂凛はその八極拳の姉弟子で、同じ学校出身。卒業後も何かと腐れ縁の続く…………矢鱈とやらかすことの多い問題児。

 

そんな遠坂凛が、女神イシュタルの依り代として顕現している。一体、どういう運命でどんな確率でその様な事態に陥るのか。これも人理焼却による影響か、そんな問題児をこれから頭を下げに行って仲間になるよう説得しなくてはならないと思うと、修司は憂鬱で仕方がなかった。

 

「ハッハッハ、君程の男でも苦手とする異性がいるとは思わなかったな。いや、だからこそかな? ジャガーマンなる女神も君の知り合いだと聞くし、案外そう言う星の下に生まれたのかも知れないね」

 

「おいやめろ。マジでやめろ。折角考えないようにしていたのに考えちゃうだろ」

 

 自分の知り合いが神霊の依り代として現界する。それは修司にとって他人事ではなく、既に姉弟子と嘗ての恩師が顕現している以上、マーリンの言っている事は不吉な予言に聞こえる。

 

「もし、もし他にも俺の知り合いが来てみろ。絶対巻き込むからな。エミヤとかエミヤとかエミヤとか、絶対何がなんでも巻き込んでやるからな」

 

もし、もし仮に他の神霊が地元の知り合いを依り代として現界していたら───なんて、考えるだけでも気が滅入る。

 

『いや、流石にそれはないだろう。確かに修司君の知り合いが二人も神霊の依り代として顕現しているのは驚きだが、それは途方もない確率の筈だ。今後、仮に神霊が君達の回りに現れたとしても、それが修司君の知り合いである可能性はゼロに等しい筈さ』

 

「だ、だよな! そうだよな! こんな偶然、そうそうあることじゃないもんな!」

 

 尚、今後カルデアに破壊神の妻や天秤の女神、二柱の愛の神のそれぞれに修司とエミヤの共通の知人が依り代として召喚される事になり、ちょっとした騒動になるのはまた別のお話。

 

『ともあれ、女神イシュタルもそうだが彼女の従えるグガランナもかなり強力な神獣だ。仲間に引き入れる事、それ自体は僕も賛成だな』

 

「グガランナか。俺もグから始まる相棒を持ってるけど、やっぱり強いのかな?」

 

『そりゃあもう。グガランナは最高神アヌが造り出した最高傑作の神造兵器だからね。純粋な火力という意味でなら、君の相方にだって引けは取らないんじゃないかな?』

 

「───へぇ」

 

 通信越しから聞こえてくるロマニの得意気な声に、修司は密かにあることを企んだ。もし、全ての問題に片が付き、余興を楽しめる程の余裕があったら、叶う事なら一度勝負しておきたいなと。

 

シュメル神話に於ける最大最強の神獣、その大層な肩書きがどの程度のモノか、好奇心ながら興味が湧いた瞬間でもあった。

 

「あ、修司さんってば、悪い顔してるー」

 

「気を付けるんだよマスターちゃん、ああいう手合いの男はバトルジャンキーの可能性が高い。君も将来伴侶を探すつもりなら、彼みたいな人種だけは避けた方がいい」

 

「聞こえてるぞ花男。除草剤で駆除してやろうか」

 

「花男!?」

 

「素直にいい気味です」

 

「フォウフォーウ!」

 

「て言うか、アナはもう平気なの?」

 

「あ、はい。体の方はもう平気です。特に問題も無いのに寝込んでばかりもいられませんから」

 

「でも、あまり無理はしないで下さいね」

 

「えぇ………」

 

和気藹々としながらエビフ山を進んでから暫くの時間が経ち、遂に一行は女神イシュタルが拠点としている神殿へと辿り着いた。その外装は一言で言えば派手であり良く言えば目立ち、悪く言えば成金感が凄まじい金ぴかの神殿だった。

 

両脇に聳え立っている招き猫とか、一体どんな建築センスがあればこんなトンチキ建物が出来上がるのか、一同は素直に疑問に思った。

 

「───なぁ、本当に仲間に引き入れなきゃダメか? 俺、今メッチャ大使館に帰りたいんだけど」

 

「ダメだよ修司さん、辛い現実から目を背けちゃ。………あ、私ちょっと用件思い出したから先に帰るね」

 

「ダブスタもここまで来ると清々しいね。でもさせないよ、何故なら女神イシュタルの攻略には君達二人の力が不可欠だからさ!」

 

「そう言いながら二人を盾にする辺り、本当にマーリンはクズですね」

 

「フォウ! マーリンマジシスベシフォーウ!」

 

 此処まで来ておいて、我ながら情けない。しかし、修司は思うのだ。何が悲しくてあの姉弟子に頭を下げなくちゃならないのかと。

 

騒動に巻き込まれ、その都度尻拭いをさせられてきた苦い記憶。その癖自分は姉弟子だから偉いのだと無駄に偉ぶり、此方の貸しを無かった事にしようとする。

 

そんな自分勝手な姉弟子に魔術師云々問わずシバキ倒そうとしたのは………一度や二度ではない。それをしなかったのは偏に周囲の人間から気遣われていたからだ。

 

卒業後も付き合いのある友人達から何度も落ち着くよう諭されたり、彼女の妹からは姉がスミマセンと頭を下げられたりもした。

 

もうね。本当にね、いい加減にしろと言いたい訳ですよ。何が悲しくて態々紀元前にレイシフトしてまで腐れ縁の姉弟子に振り回さなければならないのか。………アレ? 冷静に考えれば考える程、なんだかムカついて来たぞぉ?

 

「………よし、取り敢えずあの神殿からぶっ壊してやるか」

 

「ちょ、急にやる気出してきた!?」

 

「いや、どちらかと言うと満々なのは殺る気の方では?」

 

 どちらにせよ、今はあの神殿にいる駄女神を叩き出さなければならない。仲間として引き入れる以上力は示す必要もあるだろうし、何なら先手必勝で後の交渉で有利に立つ為にも、此処は一度本気でブッパする必要があるだろう。

 

「か……め……は……め……」

 

「ちょ、修司さん!?」

 

「ストーップ! ストーップです!」

 

最初は軽めに一撃……ではなく、正真正銘本気の、それも界王拳を使ってのかめはめ波を放とうとする修司に、立香とマシュは必死の形相で待ったを掛ける。

 

「ん? どしたの二人とも」

 

「どしたの? じゃないよ! なに本気でかめはめ波をブッパしようとしてるのさ!?」

 

「そ、そうですよ! 幾ら女神イシュタルでも流石にそれは不味いですよ!」

 

「いや、やっぱり交渉するなら初手で相手に舐められる訳にはいかないかなーって……」

 

『いや舐められる処じゃないから。エビフ山ごと女神イシュタル消滅しちゃうから。今のエネルギー、どう見てもゴルゴーン戦で見せた奴より威力とか上だったし』

 

「いや、何かもう全部ぶっ飛ばした方が話が綺麗に進むかなって………」

 

「綺麗というか、それだと更地が増えるだけだねぇ。それも割と笑えない奴」

 

「────チッ」

 

「遂に舌打ちまでしましたよこの人」

 

その場のノリで、あわよくば女神抹殺を目論む修司に、立香は必死で止めてと懇願した。一体あの女神の依り代と修司の間にどの様な因縁があったのか、興味はあれど、迂闊に触れてはならない気がした。

 

で、結局イシュタルが出てくるまで待ち続けた一行は、神殿の奥から彼女が現れるのを確認すると説得を開始。

 

最初はやって来た立香とマシュに神としての威厳を見せようとしていたが、横から現れた修司によってそれは瓦解。駄々っ子の様に喚き散らす彼女に改めて修司はかめはめ波の姿勢を見せるが、立香の持ち前の交渉技術によってどうにか場を納め、持ってきた荷馬車に載せられた宝石の数々によって、一時の契約を結ぶことが出来た。

 

「………いいでしょう。藤丸立香、貴方の献身的な奉納と信仰によって、一時の契約を結ぶことを許しましょう。この女神イシュタル、上手く使いこなして見せなさい」

 

「──何だコイツ、さっきまで人を見るなりギャン泣きしていた癖に」

 

 

「修司さん、シッ! 今大事な時ですから」

 

 ギルガメッシュ王が持つ宝物庫、そこには過去未来問わず人類の遺産が詰め込まれる蔵とされており、その中の宝石類を二割程献上する事で、女神イシュタルを買収する事に成功した。荷馬車にある宝石はその手付き金、宝石を愛しておきながら宝石とは何処までも縁のないイシュタルにとって、その話は渡りに船以上の価値があった。

 

「まぁ、ゴルゴーンを彼処まで追い詰めた君が殺る気満々で現れたんだ。同じ女神として、彼女が警戒するのは仕方がないさ」

 

「警戒、というより単に喚き散らしていただけですけどね」

 

立香の必死な説得により、スッカリ気を良くしたイシュタルは、依り代の現金さも相まってギャン泣き状態から即座に復活し、すっかりその気になっている。

 

ともあれ、これで女神の一柱を攻略できたと一同が安堵した………のも束の間。

 

「それじゃあ早速………はい」

 

「あ? 何だよこの足」

 

「なにって、誓いの口付けでしょう? 古来、契約を結ぶにあたって口付けとは重要な意味を持っているの」

 

「………それを、何で俺に?」

 

「やれやれ、察しの悪い事。私の脚に口付けをしなさいな。これでどちらが上かハッキリするでしょ?」

 

 差し出された女神の脚、その鍛えられながらもスラッとしたその健脚は戦いの神の一端を思わせる。だが、それ以上にやらかし感が強い、折角此処までいい感じに話がまとまってきたのに、それを台無しにする様な女神イシュタルの振る舞いに、立香とマシュは顔を青くさせた。

 

この女神はなにをどう勘違いしたのか、その脳内には仲間になる=カルデア一行は自分の(しもべ)と認識したようで、その顔には愉悦の笑みが張り付いている。カルデアが自分の下に付くという事は目の前の自分を恐れさせた生意気な人間も自分の手下と言うこと。

 

ドヤ顔満載な女神イシュタル。そんな彼女の前に俯き、沈黙していた修司はイシュタルの脚の前に跪き……。

 

「それはそれは………気を遣わせた様で」

 

「全くよ。さっさと済ませてちょ────い”

っ!?」

 

瞬間、全身を貫く痛みが女神イシュタルを襲った。

 

「ンンンンン? これはこれは女神様、だいぶお体の方がお疲れのご様子ですねぇ。僭越ながら、足ツボマッサージで癒してご覧にいれましょう」

 

「ちょ、ちょ、やめ、いた、いだだだだだぁっ!?」

 

足が逃げられないようにガッチリと脇で固定され、その足裏をグーで刷り込んでいく。所謂足ツボマッサージ、嘗て味わったことの無い未体験な痛みに再び女神イシュタルの目が涙目に変わる。

 

「あーあ、結局こうなっちゃった」

 

「で、ですが、一応契約は交わされたみたいですし、万事オッケーかと!」

 

『うーん。これはちょっと修司君を責められないなぁ』

 

「フォフォーウ!」

 

 天舟にしがみつき、どうにか逃れようとするイシュタルだが、生憎修司の膂力から抜け出せる事はなく、天の女主人の悲鳴はエビフ山の空へ溶けていくのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「はぁ、全く、無駄に体力が使わされた一日だったな」

 

 女神イシュタルとの契約を無事に終え、エビフ山の下山を始めた一行は、夜も直に深くなる事もあり、道中にあった廃屋の小屋を見つけて今夜は其処で野宿する事となった。

 

交代制の見張り番。本来なら修司もそれに参加するべきなのだが、戦えない自分を卑下する立香が修司の分まで寝ずの番をすると言い出した。当然、それは駄目だと修司も諭そうとしたが、修司には残る女神との戦いに備えて体力を万全にして欲しいと、らしくないことを言って、半ば無理矢理替わって来たのだ。

 

「ったく、戦えるとか戦えないとか、そんな事を気にしても仕方ないだろうに。立香ちゃんは立香ちゃんなりに良く頑張っている」

 

そもそも、彼女は巻き込まれた一般人というだけで人理焼却の負い目や、人理修復の責任を感じる必要など一切無いのだ。それに、そんな彼女だからこそ多くの英霊達が力を貸してくれるし、応えてくれる。

 

『まぁ、あまりそう言わないであげてよ。君の戦いをこれ迄幾度と無く見てきた彼女も、色々思うところはあるんだろうさ』

 

最初のレフによるカルデアの人為的爆破、その復興から人類の主戦力、更には限られた寿命だったマシュの革新。それらを成し遂げた修司に立香が多少の負い目を感じてしまうのは、ある意味仕方の無い事なのかもしれない。

 

ただ、それを修司一人で成し遂げた訳じゃないのも、また事実である。これ等の偉業を成し遂げた背景にはカルデアの各スタッフ達や、立香が縁を結んで召喚し、その喚び掛けに応えてくれたサーヴァントの皆がいたからこそ、成り立った事なのだ。

 

『兎も角、彼女の事は僕達に任せて、君も早く休むといい。───と、言いたい所だけど』

 

「うん? まだ何かあるのか?」

 

『君の相方、グランゾン。今回の特異点では喚び出さない方が良いかも知れない』

 

 ロマニから告げられる一言、それは修司の相棒であるグランゾンの召喚不可だった。それを告げられた修司は一瞬だけ目を丸くさせるが、すぐに何かを思い立ったのか、手を頭の上で組んで納得した様子で壁に寄り掛かる。

 

「それって、やっぱり特異点と関係してるのか?」

 

『あぁ、君の相棒グランゾンは、存在そのものが未知数なのもあるけど、それ以上に異質なんだ。特異点という不安定な時空でアレ程の存在が顕現したとなると、特異点への負担は計り知れない。況してや、今君達のいる時代は神代。不安定に不安定を重ねている環境で、グランゾンの様な存在を出したらどうなるのか………皆目、検討も付かない』

 

「────」

 

ロマニの言わんとしている事は、修司も何となく理解していた。これ迄の特異点攻略に於いて、修司は積極的にグランゾンを出そうとはせず、あくまで自分自身の力でやり遂げてきたのは、グランゾンを出すまでもない。ではなく、出すのは憚れた(・・・・・・)と言うのが大きい。

 

確かに、グランゾンの力は強大だ。出せば此方の勝利は揺るがなく、また人理修復も飛躍的に容易くなるだろう。だが、一度出してしまったら、何か取り返しの付かない事が起きるのではないか? そんな予感が修司の胸中で渦巻いていた。

 

第一、第二特異点は出すまでもなく修復し、第三特異点は個人的感情が多分に含まれているが、それでも出す余裕が無かった所がある。

 

本格的にグランゾンを召喚したのは、第四の特異点。初めて人理焼却の元凶である魔術王ソロモンと相対した時である。奴は、その卓越した魔術の力で修司と外界を遮断し、特異点とすら呼ばれない別の場所で戦う事となった。

 

あの時はきっと、例外中の例外。魔術王が態々別の場所を用意してくれた事で起きた条件の揃った瞬間なのだろう。

 

第六特異点も同様、アレは獅子王の持つ聖槍が特異点を最果てと呼ばれる時空断層にも似た現象を引き起こしていたが故に可能とした荒業である。アレも、一歩間違えれば取り返しの付かない事態になっていたかもしれない。

 

もし、特異点攻略中にグランゾンを出していたら、一体どうなっているのか? 最悪の場合、修司とグランゾンを除いた全てが無に還るかもしれない。それを何となく理解していたから、修司はグランゾンを積極的に使用しては来なかった。

 

「────ま、そう言う事なら仕方がない。切り札が使えないと言うのは痛いけど、それならそれでやりようはあるさ」

 

『済まない。君には負担を掛けてしまうね。此方も、事態が進むにつれて特異点の解析を急ぐ。もし、僕が召喚可能だと判断した場合は………』

 

「その時は、お言葉に甘えて喚ばせて貰うよ」

 

 グランゾンという強力な手札を封じられたのは手痛いが、それならそれで割り切って戦うまでだ。そんな気持ちを切り替える修司を申し訳なく思いつつ、ロマニは通信を一時閉じる。

 

もしかしたら、立香もこの事に何となく気付いているのかも知れない。自分とは違い、己の体一つで戦い続けなければならない修司を、僅かでも休ませてやりたいという彼女なりの心遣いと言うのなら、今日ばかりは甘えて休む事にしよう。

 

 そう思い、床へ横になること数分。修司はふと違和感を感じた。

 

───イシュタルの気配がおかしい。先程まで鬱陶しい程に荒ぶったイシュタルの気が、まるで清流のごとく静かになっている。

 

いや、静かというより、これではまるで………。

 

不思議に思った修司は立ち上がり、空き家から身を乗り出していく。自分達同様休んでいたマーリンは、突然起き上がった修司に訝しげな視線を送り……。

 

「あれ? どうかしたのかい?」

 

「………なぁ、今なんか、変な気配を感じなかったか?」

 

「? ………いや、私は特に感じなかったが?」

 

 どうやら本気で感じなかったらしく、マーリンは不思議に首を傾げているだけだった。自分の気の所為か? 不思議に思う修司は、焚き火で楽しそうに雑談している立香とイシュタルを見掛けるが………やはり、特に変わった様子はない。

 

「あれかな、エビフ山には確かギルガメッシュ王が召喚した茨木童子なる鬼が逃げ隠れしているみたいだから、多分それを感じ取ったんじゃないかな?」

 

「────そう、なのかな? いかん、どうやら本気で疲れている様だ。主に精神的な意味で」

 

「それはいけない。ほら、見張りなら私が責任以てやっておくから、君はゆっくり休んでおくといい。何なら、普段は男相手には絶対しないけど、夢見が良くなるように花の香りをプレゼントしようか?」

 

「いや、止めておく。そんじゃ………お休み」

 

どうやら、女神イシュタルとのやり取りが相当精神的にキツかったらしい。マーリンに促され、再び床へ横になる修司は今度こそ安心して眠りに就き、万全な状態となって朝を迎えるのだった。

 

しかし、まだ安心は出来ない。女神イシュタルを引き入れた修司達の前に立ち塞がるのは………太陽の女神。

 

遂に我慢の限界を迎えた彼女は、ジャガーのUMAを引き連れてウルクへ強襲。

 

戦いは、更なる混沌へ移行していく。

 

 

 

 

 

 





と、言うわけでボッチにグランゾンが喚び出せない縛りが付与されました。

尚、今回の明確な縛りは第七特異点攻略までですので、ご容赦下さい。

Q.この縛り、何か意味あるの?

A.この世には天与呪縛という言葉があってね。
つまり、そう言うことだってばよ。


それでは次回も、また見てボッチノシ



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