『G』の異世界漂流日記   作:アゴン

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メリークリスマス!

今回もソロな自分です。


その134 第七特異点

 

 

 ウル市から押し寄せる魔獣の群れを掃討した後、ジグラットに戻ってきた修司は賢王ギルガメッシュからの命により、立香とマシュが王からの命令を果たすまでの間、修司は北壁の魔獣戦線に一時参加して魔獣達を間引く事となった。

 

人類にとって最前線とも言える北壁での戦い、半年間人類を支えた壁の中にはウルク市と同等の街並みが出来ており、その環境は活気に満ちていた。

 

ここで戦えるのなら修司としても望む所であり、レオニダスや牛若丸、弁慶達も参戦していた事から、魔獣の間引きは滞りなく進んだ。

 

とは言っても、遊撃隊として活躍している牛若丸とは違い、修司がやって来た事は単純な作業であり、その内容も北部の森から現れる魔獣達を横切る様に気功波でブッパするというだけの簡単なモノだったりする。

 

かめはめ波だったり、気円斬だったり、その都度趣向を変えて気功波を放ち、押し寄せる魔獣の群れに歯止めを掛けるという単純な作業。うち漏らした魔獣は牛若丸や弁慶が討ち取り、壁に到達した魔獣には兵士達が担当する流れとなった。

 

たまに、乱戦で魔獣に捕まった兵士がいたりするので、見かねて作業を止めて救出したりしているが、機動力のある牛若丸のお陰でフォローが間に合い、この日の魔獣戦線は嘗てない程に安定した立ち回りが可能となっていた。

 

更には、時折ギルガメッシュ王からレオニダスを経由して、籠城戦を強いる事になった市に赴き、幼い女子供を中心に空からの救出を行ったりするなど、中々濃い日々を過ごす事となった。

 

「いやはや、修司殿の鬼神のごとき活躍、凄まじいの一言ですな!」

 

「いやぁ、単に気功波をブッパしていただけなんだけどな。単純な作業で個人的にちょっと消化不良気味だし。南米の女神と再戦するにも個人的にはもう少し肉弾戦を鍛えたかったなぁ」

 

「例の太陽神ですか。なんでも、向こうの技は必ず受けねばならず、此方の攻撃も相手のルールに則ったモノでないと有効打にはならないと聞きましたが?」

 

「あくまでマーリンの見解だけどな。でも、結構的を得ていると思うし、俺自身納得している部分があるからなぁ。多分、間違いないんじゃないか?」

 

「やれやれ、神というのも不思議なモノですな。まさか人間が生み出した技に傾倒するとは……」

 

 現在、魔獣の侵攻も修司が参戦した事で動揺しているのか、その侵攻は以前よりも緩やかになっていた。これを好機と判断したレオニダスは、疲弊している兵士達を順番に休ませている。今は修司と牛若丸が休憩する番となり、現在は近くの屋台で簡単な食事を摘まんでいる所である。

 

「しかし、魔獣戦線に参加して数日経っているけど、連中中々諦めないな。北壁には俺達がいるから獣なりに突破は無理だと分かるだろうし………まさか、知らない所で穴でも掘ってウルクに侵入しようとしてたり?」

 

「いえ、それは恐らく無いかと。連中、人を襲い浚う知恵はあっても、土を掘って進むという奇策を考える知能は無いと思われます。そんな事をしたらとっくにウルク市は混乱に陥っている事でしょうし、何よりあのギルガメッシュ王が見逃すとは思えません」

 

「だよなぁ。そもそも、そうなったら俺も流石に気付くし、可能性としては低いか」

 

 修司が魔獣戦線に参加して早数日、修司の放つ気功波が魔獣の大部分を間引いた事で、北壁には少しばかり余裕の日々が訪れる事になった。その間は王の命令により損壊した壁の修復作業を急がせたり、相変わらず北壁は慌ただしいが、それでも人々の顔には普段以上に笑顔が生まれている気がする。

 

その甲斐あって、こうして魔獣達の目論み等を考察する余裕も生まれている訳だが、如何せん相手は獣。人間とは違い基本的に本能で動いているだけなので、連中の考えを理解しろと言う方が土台無理な話だった。

 

しかし、そんな本能に動く獣だからこそ修司の力に気圧される個体も少なくはない。爪や牙を突き立てても薄皮一つ削れない怪物を前に、魔獣達は次第に尻込みする事となった。

 

「なら、そろそろ魔獣の女神とやらが出てくる頃合いかな。自慢の子供達が狩り尽くされて、黙っている様な奴ではなさそうだし」

 

「ほう、その心は?」

 

「魔獣には人間に対する憎悪が見て取れるからな。その大元である女神が俺達の活躍を見過ごすとは思えん」

 

 そう、先程から何度も述べた様に、これ迄魔獣を押し止めていた魔獣戦線は修司というハチャメチャ製造機の活躍により、その数を大幅に減らされている。中にはサーヴァントでも苦戦しそうな大型の魔獣も出てきたりしたが、そういう手合いの魔獣も、修司の放つ手刀(エクスカリバー)によって一瞬にして両断されている。

 

魔獣は人間に対する強い憎悪を抱いており、その大元である魔獣の女神も同様に人類に対して強い憎しみを抱いている可能性は高い。であるならば、そんな憎しみの対象である人間に戦線を押し上げられた事実は、魔獣の女神にとっても面白くない話に聞こえるだろう。

 

数々の子供達が駆逐された事に、もし魔獣の女神が怒り心頭なら、その怒りをぶつける為に自分達の前に現れる日も近いのかも知れない。レオニダスもそういう予感があるからこそ、ギルガメッシュ王に進言し北壁の修復を願い出たのだろう。

 

謂わば、この活気は来るべき魔獣の女神との戦いを想定した前準備。決して気は抜けないというウルクの人々の決意の現れでもあった。

 

「成る程、ならばその時は魔獣の女神はこの牛若丸が討ち取ってご覧にいれましょう。憎しみに呑まれた女神を討ち取る経験なぞ、生前含めて終ぞありませんでしたからな」

 

「はは、そりゃいいや。それなら俺も対ケツァルコアトルに集中出来るからな、頼りにしてるよ」

 

「ふふ。えぇ、魔獣の女神の頸はこの牛若丸が取りましょうとも。その暁には藤丸殿に頭を撫でて貰うのです!」

 

「あまり、刺激の強いのは止めてあげてね」

 

 魔獣の女神は自分が討ち取ると、そう息巻いて胸を張る牛若丸に修司は頼もしく思えた。自分達なら今回もきっと特異点を乗り越えられるのだと、修司は信じて疑わなかった。

 

と、そんな時だ。

 

「休憩の最中、失礼します! 修司殿に伝令、至急王の下に戻られたし!」

 

修司達のいる屋台へ、急いだ様子で駆け付けてくる。王からの直々の命令に事態が動くことを予想した修司は、急いでジグラットに向かおうと全身に軽く気を纏わせる。

 

「悪い牛若丸。話は一旦此処までだ」

 

「いえいえ、お気になさらず。また、共に戦場を駆け抜けましょう」

 

話に付き合ってくれた牛若丸に礼を言い、修司はジグラットに向かって飛翔する。相変わらず人間離れしているなと、呆れながらもその後ろ姿を見送った。

 

「あの様子だと、いよいよその時が来ましたか。流石は賢王ギルガメッシュ、日々の業務に忙殺されても機を見定める正確さは健在か」

 

 修司が魔獣戦線にて活躍して数日、入れ替わるように別の任務へ赴いた立香達の事を思い返す牛若丸は、生前培ってきた経験から人類の次なる段階へ移行する動きを予見した。

 

即ち、人類の反抗。これ迄魔獣達に好き勝手されてきた人類が、漸くその時を迎える。

 

既に此方の準備は整っている。後は王の号令を待つだけだと、牛若丸はその時が来るのを楽しみにするのだった。

 

「牛若丸殿、その顔はいけませんぞ。幼子達が泣き出してしまいます故」

 

「よぉし、景気祝いにまずはお前の頸を叩き落としてやろうか!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「そっか、そっちも大変だったんだな」

 

「アハハ、まぁでも、皆のお陰で何とか今回も助かったよ。イシュタルさんにも助けられたしね」

 

 言伝(ことづ)てを届けてくれた兵士の言葉に従い、急ぎジグラットへ戻ってきた修司はそこで待っていた立香達と共に分かれていた間の情報共有を行うと、魔獣戦線に参加していた修司以上に濃い話を聞くこととなった。

 

クタ市に向かう前、王自ら足を運んだペルシア湾の水質調査。そこで遭遇したエルキドゥとの戦い、この時はエルキドゥの体に不調があったのか、賢王ギルガメッシュと数回刃を交えるだけに終わり、自身に優勢な状況だったにも関わらず、自ら撤退していったという。

 

自分がいたら間違いなく仕留めていたのに……とは、思っても口にしない。ギルガメッシュ王とエルキドゥが刃を交えたという事は、エルキドゥの真偽を見極めたという事に他にない。しかし、そのギルガメッシュ王本人が何も語るつもりがないと言うのなら、此方から訊ねるのは不躾という事なのだろう。

 

とは言え、流石に襲われたら抵抗するけどね。幾ら外見が王の親友と似ていても、敵対する以上修司は手加減をするつもりはない。王もその事自体は了承しているし、何なら出来るモノならやってみろと挑発の言葉を戴く程だ。

 

 個人的に修司が話を聞いて驚いたのは、クタ市での出来事だった。其処は魔獣すら近付こうとしない冥府に近い土地の様で、最初は順調に粘土板を探していたのだが、途中から立香の気配は消え、観測していたロマニ達も突然消えた立香の反応に当初はかなり慌てていたらしい。

 

その後は何事もなく反応が復活し、立香も見付ける事に成功したのだが、ロマニが言うには、立香の反応が消えていた数分の間、彼女は死亡扱いとなっていたそうだ。

 

これ迄戦いを共にしてきた立香が、僅かな間とは言え死んでいた。その事実に修司は怖気がしたし、当然不安にも感じた。しかし困った事に本人には自分が死んでいたつもりなど微塵もなく、冥府に落ちたのも精々落とし穴に落とされた程度にしか感じられなかったらしい。

 

その冥府も、突然現れた老人の手によって助けられたらしく、気付けば天命の粘土板も手にしていた事から、本人的には万々歳だった様だ。

 

「………前々から思っていたけど、立香ちゃんって時折凄く危ない橋を渡っていない? 俺、ちょっと君の将来が心配になってきたぞ」

 

「いや、修司さんがそれを言います?」

 

『うーん、正直どっちもどっちかなぁ』

 

今一つ危機感の足りない立香に苦言を言いたい修司だが、立香の言う通り自分の所為で苦労をさせた事もある為に、あまり強く言えなかった。

 

 そして、その後にこれまた遭遇したイシュタルとの戦闘だが……彼女の名誉の為、今回は割愛とする事にした。

 

詳しくは言えない。が、話を聞いたギルガメッシュ王が腹筋大崩壊といった感じで爆笑してました。

 

閑話休題。

 

「エルキドゥ、イシュタル、そしてクタ市を覆う冥府の影、か。ウル市とエリドゥ市にも負けず劣らずの厄介な話だけど、ここで素直に引き下がる訳には行かねぇよな」

 

「うん。私達、まだまだ頑張れるよ!」

 

「ほう、よくぞ吼えた。では貴様らに改めて仕事を命じるとしよう。一度ならず二度目の我からの勅命である。感謝して咽び泣くがいい」

 

「あ、漸く笑いが収まったみたい」

 

「大丈夫ですかギルガメッシュ王、あまり無理をなされない方が宜しいかと思いますけど……」

 

 未だに問題は数多くあり、何れも質の悪い案件ばかりだが、それでもまだ自分達は戦えるぞと、立香もマシュも闘志を滾らせる。

 

そんな彼等に賢王は再び命令を下すが、先程までえずく程まで笑っていた彼に大丈夫なのかと三人とも王に心配の眼差しを向けた。

 

「えぇい、その様な眼で我を見るでないわ。流石に凹むぞ」

 

心底心配しているが故に邪の感情等ないと分かっているギルガメッシュだが、流石に憐れみの視線を向けられるのは慣れていなかったらしい。咳払いをして場を整わせ、真剣な眼差しで玉座を座り直す

 

「───そこの修司めが派手に暴れた事で、今の魔獣どもは浮き足が立っている。レオニダス同様にこれを好機とし、再び魔獣の動きが活発化するまでの合間、籠城していたニップルの民を救出する事とする」

 

 それは、事実上の人類の反撃の合図でもあった。

 

 

その後、詳しい話はレオニダスから聞くこととなり、シドゥリに軽く挨拶を済ませた後にジグラットから出ようとする修司だが、賢王から呼び止めが掛かった。

 

「修司、お前も見ておけ」

 

「え? これって確か……天命の粘土板?」

 

「其処には深き瞑想をしていた我が深淵より覗き見た光が記されている。既に藤丸立香にも見せた。次は貴様の番よ」

 

何故、一見ただの粘土を乾燥させた板にその様な機能が備わっているのか。不思議に思うツッコミは堪え、修司は王に言われた通りに粘土板に触れ、なぞるように教わった呪文を口にする。

 

そして───。

 

 

 

 

 

 

 

 

 悲劇、惨劇、嘆き、慟哭。悲しみと終わりに彩られ、悔恨と憎悪に満ちた感情(こえ)が、修司の胸中を激しく叩く。

 

それは、涙を流す母への嘆きであり、理不尽に殺される父が抱く怒り、この様な地獄があって良いのか、ソレは声にならない叫びで自身の持ち主である□□□□に訴える。

 

何故、お前は何もしないのか。何故、力ある筈のお前が何も感じないのか。何故この様な惨劇を無視する。どうして、この様な悲劇を見て見ぬふりが出来るのか。

 

激しい感情を以て訴えかけるソレに───。

 

『さぁ、別に、なにも?』

 

無感情の声だけが、イヤに耳に残った。

 

 

 

 

 




Q.もしも、ボッチがAC版のバビロニアと第6の獣と遭遇したら?

A.偽王には八頁分の無駄無駄ラッシュと、幼女ネロちゃまには偽王と同程度の尻叩きがもれなくプレゼントされます。

なんてクリスマスだ。やったぜ!


次回、降臨、魔獣の女神

「随分調子に乗っている人間がいるなぁ。どれ、一つ味見をしてやろう」

「なんだァ、テメェ?」





それでは次回もまた見てボッチノシ


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