あ、今回は短めです。申し訳ありません。
「ほう、南米の太陽神ケツァルコアトル。それが三女神同盟の一柱か、更にはジャガーマンなる女神も確認できたと。成る程、字面で見れば結構な成果だ。これ迄二度のウル市、エリドゥ市の調査失敗を鑑みれば、貴様が生還してきただけでも見事と言えよう。貴様のいう敗北した話も………水に流してやるのも吝かではない。だが一つ貴様に言いたい事がある」
「あのイシュタルめに続いて知人が神霊の依り代とか、どの様な所業を重ねればその様な縁を結ぶのだ? 我、素直に疑問なのだが?」
ジャガーマンとケツァルコアトル、二柱との遭遇戦を切り抜け、ウル市とエリドゥ市の状況を見てきた修司はウルク市に戻って早々にジグラットへ訪れ、あるがままの報告を賢王に説明した。二度に渡って失敗してきた南部への調査、それが今回初めて成功してきた事実はウルク市の人々にとって快挙と言えた。
賢王ギルガメッシュもその事自体は認めているし、カルデアのロマニからも同じ報告がされている以上、正確性は確実だと認識している。故に、今袖に振る事はしない。ただ、先の女神イシュタルに続き、ジャガーマンなるUMAまでもが修司の知人という事実の方がギルガメッシュ王的には興味があった。
「……すいません、そこら辺については出来ればノータッチでお願いします」
「何というか………苦労しているのだな、貴様も」
まさかのギルガメッシュ王からの同情である。シドゥリや他の臣下達からすれば仰天ものだが、ギルガメッシュ自身からすればそうでもない。只でさえ女神イシュタルのガワが修司の姉弟子というのはメソポタミア的に肩ポンして慰めるレベルだし、更には聞いているだけで愉快なのは間違いないジャガーマン、その外見は学生時代の恩師だという。
一体どういう巡り合わせ? 君、何か悪いことでもしたん? そう思える程に修司の縁はギルガメッシュ王から見て奇天烈怪奇なモノだった。
「でも、無事で良かったぁ。ウル市から地震が起きたって話を聞いた時は面喰らっちゃったけど、元気な姿を見て安心したよ」
「ですね。ドクターから酷く慌てた様子で通信が来た時は驚きましたから」
北壁で魔獣戦線に参加してきた立香とマシュと苦笑う。そんな空気を取り繕う様に静観していたロマニが話に入ってくる。
『アステカの主神クラスが相手だと流石の修司君も分が悪かったか。それで、どんな風に戦ったんだい? 相手の戦闘スタイルはそのまま攻略の鍵になる。なんでもいい、出来るだけ詳細な情報を開示してくれ』
本格的に戦う前に連絡を一時断っていたから、ロマニが知っているのは二柱の女神の真名と容姿だけ、だからせめて相手の戦い方を知る事で次の戦いに対する備えとなるようにしたのだが……。
「あー、何て言うか。プロレスだった」
『へ? プロレスって、あのプロレス?』
「うん。メキシコではルチャリブレとして知られる奴、いやー驚いたよ。まさか南米の神様がプロレス技を仕掛けてくるとはな。思わず諸に受けちゃったよ俺」
「成る程、南米の神々はイロモノ系で来たか!」
南米の主神クラスの神霊は、プロレスを主軸に戦うお方だった。ロマニは頭が痛くなってきた。
「そうは言うがなマーリン、アレは中々のレスラーだぞ? 遥か上空からパイルドライバーを掛けられた時なんて、拘束が強くて抜け出せなかったからな」
「え、修司さんが抜け出さないって………そんなにヤバい筋力してるの? ケツァルコアトルってヘラクレス並みの腕力なの?」
マーリンはイロモノだと南米の女神達を扱き下ろすが、それにしては油断ならない相手だと修司は訂正する。
思い返すのは最後に受けたパイルドライバー。遥か上空からの一撃は修司に抜け出す暇を与える事無く、地面へと叩き付けた。直撃すれば命はない神の一撃、イロモノと侮るには、女神ケツァルコアトルの一撃は洒落にならなかった。
「──ハッ、そうか。そういう事か!」
「マーリンさん、どうしたのです?」
「おかしいと思ったんだよ、彼程の手練れが相手の攻撃を態々受けていた事にさ。幾ら主神クラスと言えど相手は神霊、ダウンサイジングされて出せる出力も低くなった彼女の力ではトンチキ人間の彼の動きを完全に封じるのは難しい筈だ」
「………え? トンチキ人間って俺の事?」
ケツァルコアトルの異常な力、そのカラクリを看破したであろう花の魔術師マーリン。大真面目な表情で語り始めるグランド候補のキャスターに、ロマニとフォウは嫌な予感がした。
「だから、私は一つの推測を立てた。修司君、確かプロレスには幾つかのルールがあったよね?」
「え? あ、あぁ……スリーカウントとか、反則技とか、知り合いにプロレス好きの魔術師がいて、そいつから色々教わったよ」
『待って、今サラッと凄いこと言わなかった!?』
「話を続けるよ。そう、プロレスには当然ルールがある。そして、その中には暗黙のルールと呼ばれるものも存在している。例えば“相手の技を避けてはならない”とか、ね」
「っ!?」
「ま、まさか……!」
「そう! つまり女神ケツァルコアトルの攻撃はプロレスのルールを概念的に付与されたモノ、だから修司君は彼女の攻撃をマトモに受ける事しか出来なかったんだよ!」
「「「な、なんだってー!?」」」
ドヤ顔晒して堂々と嘘を語るマーリンに対し、カルデア組の三人は心底信じきった様子で騙されていた。魔術知識など素人に毛が生えた程度の修司と立香、対するマシュは比較的に魔術知識は持ち合わせているものの、大魔術師マーリンの言葉を否定できる程の知識はない。
『いやいやいや、そんな訳ないでしょうが! うちの貴重な戦力達にに平然と嘘吹き込むの止めてくれる!?』
「フォウフォーウ!!」
「で、ですがドクター! マーリンさんの言うことも一理あるかもしれません! 偉大なるキン肉星の王子も、基本的に相手の技は受けてました!」
『ホラァ! 純粋なマシュが真に受けちゃったじゃんか~! て言うか誰よ、マシュにキン肉マンの知識植え付けたのは!?』
『いや、マシュ嬢の礼装は控え目に言って女子レスラーでも通用するのでは?』
『誰かー! 黒髭をコブラツイストで締め上げてェェッ!!』
通信の向こうで某海賊の断末魔が聞こえた気がしたが、話が脱線しそうなので満場一致でスルーする事にした。
尚、ケツァルコアトルの技をマトモに受けた云々の話は単に修司が動揺していただけだったりするのだが………それに気付くのは当分先の事である。
「漫才は其処までだ。南米の二柱の神の攻略は今は棚上げする事とする。聞いた限り、どうやら密林の女神は魔獣の女神とは相反する考えの様だからな」
同じ人類と敵対する女神だが、明確な敵意と憎悪を持っている魔獣達に対し、ケツァルコアトルとジャガーマンは今すぐ人類に対して本気で仕掛けてくる様子はない。ウル市に取り残された人々は戦う気力こそ無いものの、基本的には生け贄方式で身の安全を保証されており、その生け贄にされた人達もエリドゥ市で労働に宛てられていること以外、特に危害を加えられた様子はない。
野蛮だが理性ある獣、それがギルガメッシュ王が抱いた南米の女神への印象である。
よって、危険度的に言えば魔獣の女神の方が高いと賢王ギルガメッシュは判断する。女神の強さ自体はケツァルコアトルも侮れないし、今後も要注意な神である事には変わりない。今後も定期的に調査をするべき案件だろう。勿論、担当は修司で。
「そして、マルドゥークの手斧の所在も確認できた。運び出す荷車の製作も考えねばならんが、それでも事態は前に進んだ。褒めてやろう、修司とやら。貴様のハチャメチャは一先ず一定の成果を成し遂げた」
「あ、ありがとうございます」
この特異点に来て、初めて賢王からの直々の褒め言葉を戴いた修司は、僅かに動揺しながら確かに受け取った。在り方や人格は修司の知る英雄王とは多少異なっているが、それでも数える程しか褒められた事のない修司にとって王からの一言は値千金にも勝った。
しかし……。
「だが、貴様には同様に度しがたい責がある。貴様と太陽神ケツァルコアトルとの一戦の影響で、ウル市方面に屯っていた魔獣どもが北壁に向かって進んでいる。急ぎ現場に向かい、これを駆除せよ!」
「やっべ、それがあったか! い、急いで駆逐してきまーす!」
急いで進軍してくる魔獣の群れを駆逐する為、再び修司は空を飛んでいく。そんな修司を見送りながら、立香とマシュも続くようにジグラットを後にする。
しかし、ギルガメッシュ王は去ろうとする二人を呼び止めた。
「暫し待て、貴様達には別の任務を与えるとする」
「え? でも……私達、まだ北壁の魔獣を倒しきっていないよ?」
「たわけ、お前達がいた程度で魔獣どもが屠れるなら、バビロニアを解体してはおらん。代わりに、あのトンチキめを宛がわせる。その間にお前達はマーリンと共にクタ市へ向かい、天命の粘土板を見付け出すのだ」
「天命の………粘土板?」
そう言えば、マーリンが探していたモノもそんな名前だった気がする。天命の粘土板、それは昔にギルガメッシュ王がクタ市で瞑想に入った際に記したとされる自身の未来に関する粘土板。
それの探索と北部でのイシュタルに関係する情報を集めることも序でに命じ、王は立香達を下がらせる。
ウル市とエリドゥ市からの思わぬ情報の収穫、予想だに出来なかった展開。それでも此方の予定が思っていたより差違がないのは、良くも悪くも修司の所為だろうか。
ともあれ、この分ならニップル市の解放作戦も滞りなく進められる事だろう。魔獣戦線が始まって以来の大規模作戦、果たしてそこで待つのは何なのか。
何れにせよ、ハチャメチャな出来事が待っているのは間違いない。訪れるその時が来るまで、王は背凭れに寄りかかって思考を巡らせ、その光景に思いを馳せるのだった。
Q.結局、ケツァルコアトルの権能はなんなの?
A.プロレス、或いはルチャ。ケツァルコアトルがプロレス技を仕掛けてくる限り、此方もプロレス技で対抗するしかない。
修司はプロレス技は有名どころしか知らないため、プロレスの概念を付与されたケツァルコアトルに、並々ならぬ危機感を抱いている。
と、修司を含めた三人は思い込んでいる。
Q.つまり?
A.マーリンが悪い
「こんな事になるなんて思わなかったんだ! わ、私は悪くねぇ!」(笑)
「フフォーウ!」
それでは次回もまた見てボッチノシ