『G』の異世界漂流日記   作:アゴン

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2021年もあと僅か。

身体に気を付けて過ごしましょう。


その131 第七特異点

 

 

 

 賢王ギルガメッシュからの命を受け、南のウル市へ調査をする事になった修司。召喚された女神の影響か、メソポタミア南部は密林に覆われていた。

 

連絡が途絶えて久しいウル市、過去二度に渡って賢王が召喚したサーヴァントを調査へ送ったのだが、何れも失敗に終わおり、三度目の正直という事で修司がウル市へ向かう事になった。

 

そこで待ち受ける脅威を知る由もなく、呑気にウル市へ降り立つ修司はそこで、嘗てない衝撃的事実を前に……遂に、膝を折ることとなった。

 

『ちょっ、何があったんだい修司君!? 君のバイタルの数値グラフ、エライ事になっているんだけど!?』

 

 

 カルデアでは、目下の観測対象は立香とマシュに向けられており、修司への対応は必要最低限に留まっている。それは修司のレイシフト適性値の高さと、本人の突出した戦闘能力を考慮しての配慮であり、この対応の差は修司本人も了承している。

 

しかし、今回に限ってそうは言っていられない事態が起きた。基本的に落ち着いている修司の生命兆候(バイタルグラフ)、これ迄のレイシフトにおいて此処まで変動したのは、第三特異点におけるヘラクレスと戦った時以来だ。前例の状況から今回も予想だに出来ない強敵が現れたのか、ロマニは一旦立香とマシュの観測をダ・ヴィンチに委ね、一時修司との回線を繋ぐ。

 

一体修司の身に何が起きているのか、所長代理として修司の安否を気遣うロマニは、何があったのかを状況説明を求め……。

 

「もうダメだ、おしまいだぁ……」

 

『本当になにがあった!?』

 

 地面に両手両膝を付けて項垂れる修司に、ロマニは何がなんだか分からなかった。

 

「ロマニ、俺はもうダメだ。心が、心が、追い付いて来ないぃ………」

 

「ニャーハッハッハ! 脅えろ、すくめ! MSの性能を充分に発揮できないまま、死んでいくがいい! 所で皆は連邦派? ジオン派? ジャガーは専ら……SEED派ダァーッ!!」

 

「ゲフゥッ!?」

 

『し、修司くぅぅん!?』

 

地面に項垂れ、明らかに無防備な所に謎のサーヴァントが襲い掛かる。振り抜かれた蹴りは見事に修司の腹部へと直撃し、修司は半泣きな目を見開いて吹っ飛んでいった。

 

そこへ更に掛けたトンチキサーヴァント、ジャガーを名乗る女神が追撃する。手にした猫手付きの棍棒を振り回し、容赦なく修司へ見舞う。前後左右、多角的に、抉るように振り抜かれるジャガーマンの攻撃は無抵抗な修司に吸い込まれる様に叩き込まれていく。

 

『なんだ!? 何が起こっている!? 計測した感じ確かに目の前のサーヴァント(?)は神霊だけど、それでも君が一方的にやられる相手では筈だろ? 一体どうしちゃったんだ!?』

 

「知らないなら教えてあげよう見えない人、そこの純情ボーイはね、お姉さんの魅力にメロメロなんだゾッ♡ さぁ、その魂、神に還しなさい(キリッ」

 

確かに、目の前のふざけた言動をしているサーヴァントは神霊、並の英霊とは一線を画す力を持つ存在だが、それでもロマニには一方的にやられる修司が不思議でならなかった。彼はこれ迄本体と殆んど相違ないヘラクレスとクー・フーリンを打ち倒し、幾度となく強敵達を正面から打ち破ってきた。

 

そんな彼が此処までやられるのは、なにか理由がある筈。急いでロマニは修司の状態を調べるが、残念な事に修司の身体からは異常は確認できなかった。

 

未だ地面に項垂れる修司、そんな修司を棍棒を振り回しながらジャガーマンが近付いてくる。

 

………所で、何故女神なのに“マン”なの?

 

「目が付け所が鋭いが、だが教えん禁則事項だ! 教えて欲しいなら、手土産の一つでも持ってこんかいベランメェー!」

 

「ガハッ!」

 

振り抜かれる棍棒によるジャガーの一撃、この神霊はふざけているが強い。絶賛絶不調の修司を抜きにしても、目の前の神霊の強さは凄まじいモノを感じた。

 

『修司君! 調子が悪いなら一旦撤退するのも手だよ! ほら、君には目眩ましの術とか舞空術があるじゃないか! それを使えば───』

 

「へー、空を自由に飛べるんだ。スゴイナー、憧れちゃうなー、だがしかーし! 既にここら一体はククルんの縄張り、呼べば飛竜が飛んできて君の頭をパックンチョ、オススメはしないよ?」

 

『馬鹿ロマニ! 相手に情報与えてどうするのさ!』

 

『し、しまった!?』

 

 しかもこの神霊、妙に鋭い。舞空術というワードだけで修司が空を飛べることも察したようだ。しかも既に対抗策も用意されていると来た。予想以上に強かなジャガーにロマニは戦慄した。

 

「違う、違うんだロマニ、俺は別に、アイツに魅了された訳でも、勝てないと諦めているんじゃないんだ」

 

『修司君!? な、なら……どうして!?』

 

「それは、アイツが………あのジャガーマンが…………俺の学生時代の教師だからなんだよォォォッ!!

 

『は? ────はぁぁぁぁっ!!??

 

涙声を滲ませながらの修司の慟哭、有り得ざる事実を前にロマニは………いや、カルデアに於ける一部のサーヴァントを除いた全ての人員が、思考を停止させ………次の瞬間、あらゆる感情を爆発させた。

 

『教師!? アレが!? あのトンチキ女神が君の教師!? 嘘でしょ!?』

 

「ヴン、高校の、英語教諭」

 

『『英語の!?』』

 

通信越しから聞こえてくる声には、ロマニやダ・ヴィンチだけでなくモニタリングしているカルデア職員の人達の声も聞こえた。恐らく、この時の彼等の感情はほぼ同一に一致していた事だろう。

 

『え? ちょ、ちょっと待って? この間の女神イシュタルの時、彼女も君の知り合いっぽい事言ってたよね?』

 

「ズズ………ヴン、同じ高校出身で、八極拳の姉弟子」

 

『どうなってるの君の地元!?』

 

「俺が知りてぇよぉッ!!」

 

驚愕して追及するロマニへ修司も涙目となって吼えて返す。この特異点にレイシフトして、二度目の知り合いとの遭遇。依り代として選ばれたのは何となく察するが、それにしたって確率が酷すぎる。自身の知っている知り合いの内、二人も神霊として召喚されるなんて、一体どんな確率だというのか。

 

そして、修司が一方的にやられる理由もこれで得心した。相手が学生時代の恩師だと言うのなら、流石の修司も手は出しにくいだろう。………アレ? でも女神イシュタルが相手の時は、割りと容赦なく臀部をひっぱたいた様な………。

 

「ほうほう、私がおミャーの超絶美人教師に激似という訳か。それならば致し方なし………だが! ここは弱肉強給食が絶対の密林チホー! 如何なるフレンズでもこの理には逆らえないのにゃー! 具体的にいうと、死ねぃ!」

 

 自分が修司の知り合いだと分かっても、一切の容赦なくジャガーは攻撃を仕掛けてくる。当然だ。彼女にとって修司は己のテリトリーに侵入してきた異物、動物的本能で以て敵対するのは必然の事だった。

 

そう、相手はどんなに知り合いと良く似ていても、相手は人類を滅ぼすと誓う女神。だと言うのなら、修司が取るべき選択肢は一つしかない。

 

再び振り抜かれる一撃、狙いは修司頭部。直撃すれば女神の膂力で修司の頭は柘榴に散る事だろう。

 

しかし……。

 

「そう、だよな。どんな理由があれ、今のアンタは人類を脅かす存在だ。なら俺は………それに、全霊を以て抗うだけだ!」

 

振り抜かれた一撃は、しかして修司の片手に収まるだけに留まった。繰り出される一撃はサーヴァントすら一撃で屠れる威力があった。しかし、そんな女神の一撃を、修司は片手で受け止めて見せた。

 

 空気が変わる。先程まで己にやられっぱなしだった獲物である筈の修司の身体から、白い炎が溢れ出てる。アレ? これ、ひょっとしなくても敗北案件では?

 

燃え盛る白い炎を纏う修司に、今度はジャガーが戦慄する。やっべ、私これ死ぬかもしれん。動物の野性的直感を以て、ジャガーが逃げようとするが………出来ない。棍棒を掴んだ手の握力がジャガーの膂力を以てしても抜け出せない。

 

「先に謝ります。ごめんなさいジャガ村先生、アナタへの恩───仇で返します!」

 

「………で、出来れば優しくブヘラッ!?

 

 何かを言い掛けるジャガーだが、時既に遅し。力を込めた張り手の一撃は、迷うことなくジャガーの顔面へと直撃。これ迄一方的に殴られてきたお返しとばかりに振り抜かれた張り手はジャガーを縦回転しながら吹き飛ばし───。

 

「っ!」

 

しかし、吹っ飛んでいくジャガーを何者かが受け止めた。

 

「あら、こんな所で何をしているのかしらジャガー? アナタにそんな勝手を許した覚えはないんだケド?」

 

「く、ククルん!?」

 

 顔面に大きな紅葉(手形)を張り付けながら、ジャガーマンは自分の頭を鷲掴みにする何者かに狼狽する。酷く脅え、恐怖に顔を歪ませるジャガーマンに先程までの偉容は感じられない。代わりに、虎の女神を鷲掴みにしている女性らしき人物からは異常な程の闘気が滲み出ている。

 

コイツだ。ジャガーが影となっているから全容はまだ分からないが、奴を鷲掴みにしているこの女性こそが、南米の女神。三女神同盟の一角を担う、人類の敵対者なのだと、修司は感じられる強大な気に確信した。

 

「アナタには、森の番を任せていた筈だけど……そんな簡単な仕事もまかせられないんじゃあ、此処に置いておく意味はないわネ」

 

「ククルん、ステイ。違うの、これは違うのよ。全てはあの山吹色のハチャメチャボーイが元凶なの! だって空を飛んでくるとか、控えめに言ってチートでは? 道中をバグ技でショートカットするとか、それなんてRTA───」

 

「もういいわ。罰として、少し寝てなさい」

 

「ブゴォッ!?」

 

「じゃ、ジャガ村先生ッ!?」

 

 ミシミシと頭蓋骨から軋む音を立て、哀れ野生の女神は大地へとめり込んだ。深々と地面深く突き刺さり、犬神家状態となった嘗ての恩師。そんな恩師の顔面を張り手で殴り飛ばした自身が言えた事ではないが、あんまりにも雑な扱いに修司は再び泣きたくなった。

 

『修司君気を付けて、この女神───相当ヤバイぞ』

 

 

「あぁ、どうやらその様だ」

 

大地が揺れる程の衝撃により、周囲の建物に逃げ込んだウル市の人々はすっかり脅えてしまっている。このままでは恐怖でパニックを起こしかねないと判断した修司は、場所を移動する隙を模索する意味を込めて、こちらに歩み寄ってくる女神へ声を掛けた。

 

「………アンタが三女神同盟の一人、人類と敵対している神か? 俺の名は白河修司、人理を修復するためにカルデアからやってきた者だ」

 

「ワァオッ! 元気な挨拶ありがとうデース! 先程の一撃、とてもベリーナイスでした。その精錬された肉体と技に応え、私も名乗りましょう」

 

「我が名はケツァルコアトル。南米からちょっとウルクと人類を滅ぼしにやってきたルチャドーラデーッス!」

 

 陽気。ケツァルコアトルと名乗る女神から最初に受けた印象は、その一言に尽きた。相手は人類を絶滅させると豪語する女神同盟の一角、彼女達の抱く心情はてっきり人類に対して強い憎しみだと思っていただけに、彼女の陽気な反応は修司から見ても予想外だった。

 

『け、ケツァルコアトルだって!? アステカ文明の最高神、主神クラスの神霊じゃないか!?』

 

「あぁ、メガテンやペルソナでお馴染みの、翼を持つ蛇。確か、太陽神の側面も持っているんだったか? まったく、トンでもねぇ奴が出てきたな」

 

『ゲーム知識で納得する君も大概だと思うけどね! でもおかしいぞ、ケツァルコアトルは基本的に男神として知られる神の筈、女神だなんて聞いてないぞ!?』

 

「その点含めて、聞き出せば良いだろう。ロマニ、この事を皆に伝えてくれ、この情報は間違いなく今後の役に立つ」

 

『き、君はどうするんだい!?』

 

「無論、頃合いを見て逃げるさ。今回俺が王様に命じられたのはあくまでも“調査”、その範疇を越える様な真似はしないさ」

 

『わ、分かったよ。でも、必ず戻ってくるんだよ!』

 

 修司からの提案を受け、ロマニは修司との通信を一時的に絶って立香のサポートに向かった。残された修司は今まで仕掛けてこなかった女神へ向き直る。

 

「………悪い、待たせたな」

 

「気にしなくても大丈夫、セコンドとの作戦会議は試合開始前に必要だもの。でも、そっちこそいいの? 貴方なら一目散に逃げることだって出来たでしょうに……」

 

「なに、こっちにも都合があってな。確かに王様………賢王ギルガメッシュからは調査を命じられていているが、戦闘行為自体は禁止されていない。あくまでアンタ等女神を倒すなって釘刺されただけさ」

 

「───へぇ?」

 

瞬間、先程まで陽気な笑みを浮かべていた太陽の女神は、そのご尊顔に邪悪な微笑みを張り付かせる。凶悪な微笑み、蛇に睨まれた蛙はこんな気分なのかと、妙に納得しながら修司は身構える。

 

「それに、仮に逃げたとしても………アンタ、絶対追ってくるだろ? そう言う顔をしている」

 

 仮に、もし修司がこの場で撤退を選択した時、間違いなくこの女神は追ってくるだろう。今の自分は女神の庭を荒らす不届き者、そんな人間をなにもしないで帰す程、神という存在は甘くはない。

 

なにより………。

 

「いい加減、神に対して俺自身が何処までやれるか、知っておく必要があるからな」

 

神という超常の存在に、自分の強さが何処まで通用するのか確かめたくなった。相手は一つの神話を担う最高神の一柱、油断も慢心もせずに修司は拳を握り身構える。

 

そんな神に対する不遜な態度の修司を前に……。

 

「ンーーーーー! Fantástico(素晴らしい)!! その何処までも挑戦的な姿勢! お姉さん、とっても気に入っちゃった♪ いいわ、アナタの勇気を讃えて───私も、その気になっちゃう!!」

 

ケツァルコアトルは心底嬉しそうに、楽しそうに笑う。何やら奇妙なフラグが立った気もするが………それはそれ、自分の力が何処まで通用するのか確めるためにも、修司は太陽の女神へ挑む。

 

 

 

 

 

「あの………私は?」

 

 

 

 

 





Q.今回の一番の被害者は?

A.ウル市の人々。

次回、VSルチャリブレ

「地獄の断頭台、みせてあげマース!」



それでは次回もまた見てボッチノシ






オマケ。

とある未来で違う世界線のカルデアの日常。

「ねぇー立香、師匠知らない?」

「修司さん? ………そう言えば、今日はまだ見てないな」

「奴なら、ティアマトに抱えられているのを見掛けたぞ」

「えー、またぁ? この間は妖精国の女王だったし、いい加減私も師匠を抱っこしたいな~」

「気を纏っている修司さん、ポカポカしてていい具合に温いから、小さくなってからは子供の体温と相まって、冬場では女性陣から人気だからね~」

「本人は凄まじく嫌がっているがな。女湯に連れて行かれそうになった時は、流石に手を貸したが……」

「だって、小さくなった師匠可愛いんだもん!」

「まぁ、強い癖にあの見た目だからね。ギャップに弱い人なら仕方ないの………かな?」

「そして、行く行くは師匠を私色に染め上げて………グフフフフ」

「うーん、この大剣豪」






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