『G』の異世界漂流日記   作:アゴン

359 / 417

今回、一部のキャラが著しく崩壊しているかもしれません。

ご了承ください。


その130 第七特異点

 

 

 

 ────ないで。

 

 ────いかないで。

 

 ────れないで。

 

 ────はなれないで。

 

 ────わたしから、また───

 

 ────また、わたしをおいていかないで───

 

 かえってきて────かえって────

 

 もういちど、わたしのもとに─────

 

 もういちど────もういちど────

 

 いえ、いいえ───

 

 もう、にどと───

 

 わたし を あいさない で

 

 

 

 

 

 ───罪には、幾つかの種類があるとされている。他人を欺く。他人を陥れる。他人を羨む。命を奪う。

 

それらは全て人類だけが抱える悪。

 

それらは全て人類だけに及ぼす毒。

 

だが───これは、その中でも最も古い悪。原罪のⅡ。◼️から離れ、楽園を去った(つみ)

 

あぁ、しかし───。

 

 生命は海から生まれた。原初の海ナンム。始まりの女神ナンム。人類にとって、女神とは海そのもの。潮騒は呼び声となってお前達の罪を克明にする。

 

思い出せ。

 

忘れるな。

 

この声こそお前達の原罪。

 

この名こそお前達の救済。

 

その名は───

 

“Aa、Aa────”

 

“Aaaaaaa──────”

 

 

 

 

 遥か深き水底に、悲しき声が………聞こえた気がした。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「いやぁ、悪いね。ワザワザ見送りまでさせちゃって」

 

「気にしないでよ。私達が北壁に向かうまでまだ時間はあるし、ギルガメッシュ王には事前に許可を貰っているからさ」

 

 賢王ギルガメッシュの命により、南にある連絡の途絶えた市、ウルへ単身向かうことになった修司は、命令を受けた直後に行動を開始し、見送りに付いてきた立香達と一緒に南の門へとやってきた。

 

密林に呑まれた市、ウル市と更に奥にあるとされるエリドゥ市、ウルクとは一切の連絡が途絶えて久しいその地に向かい、そこで何が起きたのかを調べるのが今回の修司の任務だ。

 

 過去に二度に渡ってギルガメッシュ王の喚び掛けに答えた二騎のサーヴァントを向かわせてきたが、何れも失敗し、調査に派遣した風魔小太郎と天草四郎が消滅したと言う結果だけが残ったまま。

 

立香もマシュも彼等の強さは知っている。だからこそそんな二人が任務を失敗した事実を重く受け止め、修司の安否を気遣い、せめて見送りに向かおうと門前まで付いてきたのだ。

 

「俺の事は大丈夫だからさ、二人も充分気を付けろよ? 何せこれから向かう北壁にはあの無尽蔵とも言える魔獣がいるんだ。レオニダスさんがいるからと言って、決して油断しないように」

 

 自身の事を親身になって心配してくれる立香とマシュの優しさは素直に嬉しく思うが、危険な任務を請け負ったのは二人も同じだ。何せ此処のところ魔獣の数は徐々に増えていく一方で、更に言えば強力な魔獣がチラホラ目撃される様になっているらしいのだ。

 

ウルガ、ムシュマッヘ、魔獣の中でも危険視されている魔獣は、“魔獣の女神”の子供として知られ、その親とされる神はメソポタミア神にてある女神を差している。

 

その女神の名はティアマト。世界の創世を担い、メソポタミアの大地となった存在として知られるメソポタミア神話全ての母、北部に棲む“魔獣の女神”をティアマト神と同一視している兵士は多い。まして、本当に彼女が人類を滅ぼすと知れた時の人類側の衝撃は計り知れない。

 

故に少しでも今は問題を片付けようと、賢王は自分に命令したのだと認識する。例え全てが片付けられなくても、最低限の成果は持ち帰ってみせる。意気込む修司だが………ふと、あるサーヴァントの事を考えた。

 

「それにしても……茨木の奴、何処に逃げてったんだ? アイツがいれば、兵士達の負担も少しは軽くなっていただろうに……」

 

 賢王ギルガメッシュが召喚されたサーヴァント。その内の一騎である茨木童子、大江山における鬼の首魁の一人である彼女は、あろうことか王の命令を聞かずに逃走、今頃は何処かの山に隠れ潜んでいるのではないかと、同僚である牛若丸は言っていた。

 

茨木童子はその逸話から生き延びる事に特化した英霊だとされており、その耐久性やいざと言う時の逃げ足の速さはウルクにて生き延びることを最優先としている戦い方にとても相性が良いと思えた。

 

「いない者を頼っても仕方ありません。しかしご安心下され、もしあの鬼が血迷って我等に牙を向けてきたら、その時は源に連なるモノとして、躊躇なくあの頚を落としてご覧にいれましょう」

 

「いや、あはは、それはちょっと勘弁して欲しいかなぁ……て。一応王様に喚ばれたサーヴァント何だし、あんまり言わないであげて」

 

「そうですか? 一応カルデアにおられます頼光殿に相談した所、満面の笑みでゴーサインを出されましたが?」

 

「なにしてんの頼光さんンンンンっ!?」

 

「ハハハ……」

 

 逃げた茨木童子を、次に牙を向けてきたら頸を落とす。そんな源氏ジョーク(?)を耳にして………そろそろ、向かう時が来た。

 

「んじゃ、俺はそろそろ行くよ。夕方頃には帰ってくるから、上手く行ったらそっちに顔を出すよ」

 

「うん、分かった。修司さんも気を付けて」

 

「牛若丸達も、大変だとは思うけど二人の事、宜しくな」

 

「それは構いませんが………アレ? ウル市はどう急いでも往復で三日は掛かる距離の筈ですが………」

 

軽めの準備運動をして、適度に身体を解した修司はウルクは任せると立香とマシュに託し、そんな二人を頼むと牛若丸に頼み込む。

 

此処からウル市は結構な距離がある。サーヴァントの脚でも数日は掛かる距離、それを一体どうやって縮めるのか、牛若丸が不思議に首を傾げた時。

 

「んじゃ、ちょっと行ってくるな」

 

 “ドンッ”

 

 修司が全身に力を込めて白い炎を纏った瞬間、白河修司という人間は瞬く間に空へ向けて翔けていく。余程の神格しか空を自由に飛べない筈の飛行能力、それが人間である筈の修司が容易く行っている事実に、牛若丸は当然ながら、周囲にいたウルクの人々も唖然とした様子で立ち尽くしていた。

 

「ふ、藤丸殿、修司って………空、飛べたの?」

 

「あ、何か久し振りに見たその反応。そうだよね、それが正しい反応だよね」

 

「さぁ、私達も向かいましょう。先輩、支援の程、宜しくお願いしますね!」

 

「うん、任せてよ! よーし、頑張るゾッ!」

 

あっという間に空の彼方へ消えていく修司を見送り、立香とマシュも北壁へ向かおうと踵を返す。そんな二人を頼もしく思いながら、牛若丸も弁慶も彼女の後を追うのだった。

 

「さて、ホドホドに頑張ってくれれば此方としてもありがたいんだけど………彼の行動は私にも読めないからなぁ。はぁ、仕事が増えそ」

 

「マーリン、どうしたのです? 置いていきますよ」

 

そんな彼等の背後には、煤けた背中を晒す夢魔がいたとか。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「………本当に、密林が出来てるな」

 

 空を飛び、瞬く間に目的地へ辿り着いた修司は上空からでも分かる密林(ジャングル)に僅かに動揺する。空からでも伝わってくる大地の熱気や動植物達の声、その様子はまるで遥か古に存在したとされる恐竜達の時代を想起させた。

 

これは修司としても未知なる体験、過去に何度か南米を旅してその都度森には入った事はあるが、これはあの時よりも気温や湿度は上だろう。一体どうしてメソポタミア文明の時代にこの様な密林が誕生したのか、可能性として考えられるなら、先の特異点にも在ったエジプト領がそうだろう。

 

太陽王オジマンディアス、彼の王が現界した際も地形は変わってしまっていた。密林に棲む女神も相当な力の持ち主である事は分かっている。そういう事なら、メソポタミアの一部が変異しても修司としては差程不自然な話ではなかった。問題はその密林の女神、そのものだ。

 

(此処まで近付いて漸く分かった。此処にいる女神、相当やべぇ奴だぞ。下手したら、魔獣の女神以上なんじゃ………)

 

日々絶え間なく襲ってくる魔獣の群れ、その更に奥には予想している数十倍の魔力反応が検出されていると、以前ロマニは言っていた。

 

その規模からして潜んでいる魔獣の女神は相当な怪物だと、何となく理解できる。しかし、今修司が感知している力の気配は、明らかにそれ以上に強大だ。この特異点にレイシフトした当初は太陽王や獅子王クラスの神霊かと警戒していたが………これは、明らかにその水準を超えている。

 

「兎に角、先ずはウル市からだ。──と、見付けた。彼処か」

 

 ウル市の更に奥から感じられる大きな力。今はそれに触れるのは止めておこうと、修司は本来の目的地であるウル市を目指す。

 

地上を見下ろしたまま探すこと数分、ウルクと同規模の市を見付けた。教えて貰った位置的に彼処がウル市で間違いないと確信した修司は、広場と思われる場所に着地する。

 

「え、え? 今、空から人が………」

 

「良かった。皆さんご無事でしたか、突然現れた事に驚かせて申し訳ありません。自分はウルク市から王の勅命でこの地へ調査しに来た者です」

 

「まぁ、ギルガメッシュ王の! それは………ワザワザご足労いただき、ありがとうございます」

 

「ウルクから此処まで、更に森の中での行軍はさぞかし大変でしたでしょう」

 

「いえいえ、空を飛んで来ましたので、差程時間は掛かっておりません。それよりも………幾つかお話を聞かせていただいても宜しいですか?」

 

「………え? えぇ、構いませんが………え? 空を、飛んで?」

 

 降り立ったウル市、其処にはウルク程の活気こそはないが、元気に生活している人々がいた。一先ず無事だった彼等に安堵した修司は辺りを見渡し、近くの住人へ話を伺う。

 

聞けば、現在ウル市は森に呑まれ、女神の法則(ルール)に則った生活を強いられているが、それ以外の束縛や制限はなく、皆健やかに生活出来ているとの事。

 

特に、魔獣の女神の子供達は一匹たりともこの密林には近付かない事から、安全面で言えば此処はウルクより生活しやすいという。

 

当然、ウルクにも応援を求めようとしたが、そうすれば密林の女神の法則に触れてしまう事になる。彼の女神の怒りに触れれば自分達ではどうする事も出来ない、そう語る女性に修司はどうしたモノかと頭を抱えた。

 

(くっそー、どうすっかなぁ。この人達をウルクへ連れていくには些か面倒が多すぎるしなぁ)

 

 地上を往けば密林が人々の行く手を阻み、仮に抜け出せたとしても、外には魔獣達がウヨウヨいる。女子供ばかりで戦える者が少ないウル市では、精々この市に立て込もって生活するしかない。

 

ならば空からならどうか? と思ったが、それは先の立香とマシュを抱えた時と同様に推奨出来ない。女神側に空を飛べる奴がいないとも限らないし、何より未だ空中戦を経験していない修司では、ウル市の人々を守りながら強行するにはリスクが高すぎる。

 

一体どうしたらいいのか、考え込む修司は………ふと、違和感を覚えた。

 

「そう言えば、この市には男性が少なすぎる気もしますが、皆さんどちらへ?」

 

「っ!?」

 

 

 何となく口にした疑問、修司の発せられた一言が起因で周囲の空気が重くなる。あからさまに少ない男性、対照的に無事な女性や子供、お年寄り。不可解な光景とアンバランスな生活風景を前に、修司がその答えに辿り着くのに差程時間は掛からなかった。

 

「…………生け贄、ですか」

 

「っ、し、仕方がなかったのです! 我々が生きるには一日に一度、エリドゥに男性を生け贄に捧げる事、それがあの神の法則なのです!」

 

「………そっか」

 

「アナタには、アナタには分からないでしょう!! ウルクの人々と違って、我々は戦えない! あの女神の下で日々生け贄に選ばれるのを怯えながら過ごすしかないのです!」

 

ウル市は、生け贄によって生き長らえてきた市だった。自分達では戦えないから、戦った所で意味がないから、戦う前から戦う事を放棄した………敗者の市。

 

何もかもがウルクとは正反対、それがウル市の実態だった。

 

「………分かった。アンタ達がそれで納得しているなら、俺から言える事はない」

 

「…………」

 

しかし、それを修司は悪とは思わない。何故なら嘗て幾度となく世界を旅し、その度に色んな事を経験してきた修司は、目の前の彼女と似たような人間を何度も目にして来た事があったからだ。

 

今のウル市の人々は頑張れなくなった人達、立ち上がることを諦めた人達だ。働きアリの中に怠けるアリがいるように、此処にいる人達はある日を境に抗うことを止めた人達なのだ。

 

それは一種の病、或いは呪いに近いモノだ。自分ではどうやっても叶わない、諦めるしかないのだと、その方が楽だと、そう決めてしまった人達の心は鉛のように重くなってしまっている。

 

そんな人々の心を突き動かすには並大抵の事じゃない。大半の人はそんな彼等を見捨てるしか選択出来ないし、流石の修司でもしてやれる事は限られている。

 

「でも、その前に幾つか教えてくれないか? 密林の女神は何者なのか、一体どんな奴なのか、少しでもいい、情報が欲しいんだ」

 

「そ、それは………」

 

「頼む。近い内に、女神は俺達が必ず倒すから。その時は絶対にアンタ達の世界も取り戻すから、だから頼む………力を貸してくれ」

 

 頭を下げ、力を貸して欲しいと頼み込む修司に女性は言葉を詰まらせた。どうしてこの人は自分達に此処まで親身でいられるのか、何もかもを諦めた自分達に、どうしてまだ見捨てようとしないのか。

 

何処までも真摯に向き合う修司に女性が口を開き掛けた時………、修司は近付いてくる強い気配を感じ取る。

 

「なにか来る。この気配は………神霊か?」

 

「あ、あぁ何て事! あの恐ろしい神がやってくる! 恐ろしくおぞましい獣の神が!」

 

瞬間、ウル市の人々は急いでそれぞれの自宅へ閉じ籠っていく。酷く覚えた様子のウル市の人々、その様子から並外れた怪物なのだと察した修司は、真剣な眼差しで近付いてくる気配に向き直る。

 

「………上等、密林の女神の前哨戦だ。景気良く暴れて森の奥から引きずり出してやる」

 

「ニャハハハハハ! その意気や良し! 女の子ならばざぁこ ♡ざぁこ♡ と煽ること必至! ………誰が雑魚ニャー! あ、でも銀タラなら食べてもいいよ?」

 

「…………あぁ?」

 

 聞こえてくるのは………なんともトンチキな言語。言葉こそ伝わっているが、そのニュアンスが絶妙に合わない空気。まるで未知なる遭遇、未だ見えてこない声の正体に、修司は精神を研ぎ澄ませて迎え撃つ準備を整える。

 

「あ、今呆れた其処の君、いいセンスだ。殺すのは最後にしてやる………と、思っていたのか!? バカめ、すり替えておいたのさ!」

 

「………………」

 

何だろう、酷く癪に障る。というか、何か普通に不快になってきた。そろそろ気配が近付いてきたし、先に仕掛けてもいいかな? いいよね? よし、殺ろう。

 

「………フンッ」

 

 素早く動き回る相手に向かって、先を読んだ気弾が投げられる。なにもしなければ直撃コース、当たった所で牽制にしかならない威力のソレを………しかし、迫り来る形容しがたいナニカは弾き飛ばした。

 

「変身途中で攻撃してくる怪人は即ブッ殺! 誰が決めた? 私が決めた! そんなキューティクルでバイオレンスなアナタの名前は………とう!」

 

弾き飛ばされた気弾が、修司へ返される。片手で弾き消すと、それに合わせるかの様にソレは舞い降りた。

 

コイツ、言動はふざけているが出来る。腐っても神霊なのだと、改めて修司は気を引き締めて降り立つソレを静かに見据えた。

 

「シュッシュッと参上、オス! オラジャガーマンッ! いっちょ、やってみっかぁ!」

 

 明らかに着ぐるみな格好、或いは寝間着、虎なのかジャガーなのか判断に困るモノを身に纏うソレは、高らかに吼えながら修司の前に立ち塞がる。

 

愕然とした。呆然となった。あ然となったし、言葉も失った。何故って? そんなの、決まりきっている。

 

「………………」

 

「フフン、カッコよすぎる私の登場に言葉もないか。しかし臆するなボーイ! お姉さんはいつでも、君たちのみ・か・た・だ・ゾ♡」

 

「…………ぇ」

 

「エ?」

 

「エミヤァァァァァッ!! 今すぐここにこぉぉぉい!! これ絶対お前の案件だろォォォォッ!?」

 

 先の姉弟子に続き、嘗ての恩師の参戦に修司のメンタルはボドボドだッ!!

 

 




Q.ジャガーマンってこんな感じだったっけ?

A.こんな感じ……の筈!


Q.果たしてボッチの叫びは届くのか!?

A.届いたとしてもどうしようもない。現実は非情である。



次回、太陽の女神

「さぁ、楽しい楽しいルチャの時間デーッス!」

それでは次回もまた見てボッチノシ



▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。