『G』の異世界漂流日記   作:アゴン

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今回も短め、お許し!



その122 第七特異点

 

 

 

 

 ビュウビュウと、吹き抜けるような風が頬を撫でる。レイシフトの光に包まれ、特異点である現地へ赴く筈だったカルデア一向。最早慣れた筈のレイシフトだが、この時だけはいつもと様子が違っていた。

 

「そ、空ァァァッ!?」

 

そう、人類最後のマスターである藤丸立香は、現在マシュと共にスカイダイビングの真っ只中にいた。パラシュートもなく、当然ながら命綱もない。レイシフト先の大地が一望出来る程の高い場所に転移された立香は、いきなりの展開に唖然となる。

 

「せ、せせせせ先輩! 落ちてます、バンジーです! 目視ですが現在、高度千メートル! 地上に激突まで、あと十数秒!」

 

隣から聞こえてきたマシュの声に、立香は正気を取り戻す。このままでは地面と激突し、大地に二つの赤い花火が出来上がってしまう。何とかしなくては、そう自分に言い聞かせながら、藤丸立香はマスターとしてマシュに指示を飛ばす。

 

が………、それよりも速く、山吹色の何かが落ち行く二人を抱き抱える。言うに及ばず、共にレイシフトを果たした白河修司だった。

 

「悪い二人とも、遅くなった」

 

「しゅ、修司さん!」

 

「よ、良かった~、助かったよ~」

 

過酷な修行のお陰で、舞空術なる空を飛ぶ術を身に付けた修司。重力という楔から解き放たれたこの男は、既に既存する物理法則から解離しつつある。そんな男に無事に拾われた立香とマシュは、それぞれ安心したように溜め息を吐いた。

 

「しかし、これはどういう事だ? 聞いた話だと俺達のレイシフト先は街中にされる手筈だったと思ったが……俺は兎も角、二人まで空に投げ出されるとは、流石に予想外だ」

 

「自分は兎も角って……」

 

「さ、流石修司さん! 唐突な空からバンジーの経験者です!」

 

「うん、誉めてないからね」

 

『済まない皆! 大丈夫かい!? 全員無事!?』

 

 これ迄修司は魔術王からの介入の所為か、最初の転移で何度か上空に投げ出されている。既に慣れているし、今となっては空を飛翔する術もあるから別段驚きもしなければ戸惑う事もしないが、マシュと立香の二人が空に投げ出される所を見た時は、流石に少し焦った。

 

まさか、魔術王の手が自分だけではなく二人にまで及んで来たのか? そうなれば中々に厄介な事だぞと、修司が僅かに不安に駆られる中、ロマニから通信が入る。

 

ロマニが言うには、どうやら今回のレイシフト先への転移は意図的に弾かれたものだと言う。本来ならこの時代最大の都市にレイシフト先を設定していたのだが、都市に襲撃を想定して覆われていた結界に弾かれ、その影響により地上千メートルの上空に投げ出されたのだと言う。

 

魔術王からの横槍でないことに安堵する三人、とは言え現在地は目的地となるウルク市から離れた所で、更に言えば自分達は未だ空の上だ。

 

『でも、修司君が空を飛べるお陰で何とかなりそうだ。そのままウルクへひとっ飛びしちゃおう!』

 

「イェーイ! 光る雲を突き抜けてFly Awayしようぜ!」

 

「……いや、それは止めておいた方がいいかもしれん」

 

「修司さん?」

 

 空を飛べるという大きなアドバンテージを有しているのに、敢えて待ったを掛ける修司に、マシュとロマニは首を傾げて訝しむ。

 

「この特異点に来てさっきから感じていたけど、どうやらこの特異点には結構ヤバそうな奴等がウジャウジャいやがる。その所為か、あんまり上手く気の察知が出来ないんだ」

 

『そ、それはもしかして、先の第六特異点の時の様な感じかい?』

 

「いや、数だけ言うなら第六特異点以上だ。獅子王や太陽王、それに比肩するような奴が………少なくとも三体はいる」

 

 修司が溢す衝撃的な事実に立香とマシュは絶句する。獅子王と言えば第六の特異点にて最後に戦った女神ロンゴミニアドだ。それに比肩、或いは凌駕する存在と言えば、先ず間違いなく神霊クラスの怪物だと考えられるだろう。

 

一体いるだけでその土地周辺がその者の気に覆われ、近くにいる者の気を探る事が困難になってくる。そんな桁外れの力を持つ存在が少なくとも三体いるという、レイシフト早々に衝撃的な事実を前に立香は肩を落とした。

 

『そ、それなら尚更、急いで空を飛んだ方がいいんじゃないのかい!? 確かにその情報で不安になるのは分かるけど、君だって負けてないんだ! トップスピードで飛べば大抵の脅威は振り切れる筈だよ!』

 

「そのトップスピードに、立香ちゃんを巻き込めないなぁ」

 

『あっ………』

 

修司の飛行速度は既に音速を超えており、肉体的スペックを併せ持てば充分この特異点でも通用するだろう。しかし、今の修司の腕にはマシュと、何より正面切っての戦闘はほぼ不可能な立香を抱えている。礼装の力によって多少は耐久力は底上げされているが、それでも修司の殺人的スピードに耐えられる程ではない。

 

「万が一、空で敵と遭遇すれば俺は二人を抱えたまま対応しなくちゃいけなくなる。流石に其処までの実戦経験はないし、何より二人を巻き込むわけには行かない」

 

『そ、そうか。なんかその……ごめんなさい』

 

「私もごめん。修司さんの足を引っ張っちゃって」

 

「気にすんな、二人を抱えたまま充分に戦えない俺も、まだまだ未熟だって事さ。それに、理由は他にもある」

 

「そ、そうなのですか?」

 

「あぁ、最初にこの特異点に転移した時、俺は相当高い場所から落とされたみたいでな。お陰で色々と見えた。パッと見た感じ、向こうにかなりデカイ街を見掛けた。如何にも城塞都市みたいな土地でさ、その城壁に如何にも対空を想定した砲台が備えられていたんだ」

 

 転移直後、修司は立香達以上に高い所へ転移された。特異点修復の旅を始めて三度目、いい加減慣れてきた修司はどうせなら情報収集してやろうとした時、ふと遠くにある街を見掛けた。

 

それは如何にも城塞と呼べる大規模な街並みで、街を囲む巨大な城壁には数十もの砲台が備え付けられている。あれが何を相手にして用意された代物なのかは知る由もないが、修司が空に浮かんだまま近付くのは気が引ける程に、その城塞都市は物々しかった。

 

「そう言うわけで、一端落ち着ける場所に降りておきたいんだけど………ロマニ、何処かにいい場所なかったりしないか?」

 

『そ、そうだね。なら、すぐ近くの廃墟なんてどうだろう? 彼処なら落ち着いて話し合いが出来ると思う』

 

『枠外から失礼、みんなの頼れるダ・ヴィンチたぞ! ロマニに捕捉説明を付け足すと、その廃墟には未知数の怪物が複数体確認されている。恐らくはこの特異点のエネミーだ。降りる時は充分に気を付けてくれ!』

 

「了解だ。そう言う訳で二人とも、準備はいいか?」

 

「勿論! 千里の道も一歩からってね!」

 

「はい、私も行けます!」

 

 諸々の事情から空を行く事を断念し、一先ずはロマニから教わった廃墟に向かう。その途中、廃墟に群がるエネミーと思われる敵性生物に修司が気弾を放つことで数を減らし、その勢いのまま地面に着地する。

 

立香はマシュへ、修司はそんな二人の背を護るようにそれぞれ廃墟へ降り立つ。廃墟というにはまだ人の痕跡が強く残されていていて、まるでつい最近滅んだような光景に修司達は息を呑んだ。

 

『来るよ! 皆、頑張って!』

 

聞こえてくるロマニの激励の言葉、それを合図とばかりに物陰からエネミーの群れが現れる。獣、鋭い牙と爪を生やし、低い声で唸る獰猛な魔獣が姿を現す。

 

「グルルルルゥ………」

 

明らかな殺意を滲ませ、殺す為に襲い掛かる魔獣達に修司達はこれ迄の特異点とは毛色の違う何かを感じた。

 

しかし戸惑いこそすれ、彼等は既に幾度となく修羅場を超えてきた者達だ。

 

「ガァァァッ!!」

 

「オラァッ!」

 

牙を剥き出し、噛み殺そうと迫る魔獣に修司は正面から拳を繰り出す。牙をへし折り、そのまま気功波を放ち、周囲の魔獣諸とも消滅させていく。

 

マシュも負けておらず、立香の支援を受けながら大立ち回りを続け、更にはイノベイター特有の空間認識能力の高さで以て、周囲を把握して押し寄せる魔獣達を相手に有利に立ち回っている。

 

修司とマシュ、共に立香へ近付けさせないまま魔獣達を駆逐していき、数分立たない内に周辺は魔獣の死骸で溢れ返っていた。

 

「よし、どうにか片付いたか」

 

「早く移動した方が良いかもしれません。魔獣の血の臭いに吊られ、他の魔獣が押し寄せてくるかもしれません」

 

「だね。修司さん、街のあった方向って覚えてる?」

 

「あぁ、確かこっちに………なんだ?」

 

 魔獣の殲滅も終わり、早々に廃墟からの脱出を提案するマシュに立香もまた同意する。度重なる旅を経て心身ともに逞しくなった二人を嬉しく思いつつ、最初に見掛けた城塞都市に向かって針路を定めようとした時、ふと修司は背後の上空から何かを感じ取った。

 

強い気配だ。格だけで言うなら三体の巨大な気を放つ連中と遜色がない。そんな強い気配を放つ何かが、一直線に此方へ向かって来ている。

 

「どーいーてー! ぶーつーかーるー!」

 

「立香ちゃん、ちょっとゴメンよ」

 

「へ、な、なに?」

 

その何かは、まるで落ちるように此方に向かって来ている。このままでは立香に直撃すると瞬時に察した修司は、立香を抱き抱えて後ろに飛ぶ。

 

瞬間、着弾。「ぶへぇ!?」と悲鳴らしき声が聞こえた気がしたが、舞い上がる砂埃の所為でそれどころではない。突然の事態にロマニはパニクるが、立香の無事に一先ず安堵する。

 

「い、一体何が……!?」

 

「び、ビックリした」

 

「二人とも、気を付けろ。コイツ、多分神霊だ」

 

「「っ!?」」

 

 神霊。そう修司が口にすると、立香とマシュの表情は強張り、何時でも戦闘出来るよう身構える。軈て砂塵は収まり、砂煙が晴れていく。

 

すると、砂煙の中で踞っていたそれは、唐突にガバりと起き上がり……。

 

「ちょっとぉ! 本当に退く事は無いんじゃないの!? 私のクッションになれると言う栄誉を授けられると言うのに、何て無礼な連中なのかしら!」

 

「へ?」

 

「お、女の人、ドクター大変です! 空から女性の方が落ちてきました!」

 

『バルス! って、言ってる場合じゃない! 二人とも気を付けて! 修司君の言うとおり、その子は神霊だ! 見た目に騙されてはいけないよ!』

 

「ねぇ、聞いてるの!? 特に其処のアンタ、男でしょう! 私と言う絶世の美女を抱き止めるこの上ない栄光を、どうしてみすみす手放すのかしら!? 尤も、私と言う存在に触れた以上、唯では済まさないけどね!」

 

「ど、どうしよう修司さん、この人? なんか凄いよ」

 

「……………」

 

「修司さん?」

 

 落ちてくる際は退いてと言っていたのに、いざ実行するとなぜ退くのだと憤慨してくる。この如何にも理不尽な謎の女性にマシュも立香も戸惑うが、肝心の修司は無反応だった。

 

見れば、修司の表情は何とも言えない複雑そうな顔をしている。その心境はまるで、知り合いの見たくはなかった一面を目の当たりにしたような、そんな顔だ。

 

未だに喚き続ける女性、色々と際どい格好と黒く揺れるツインテールの髪、それは何度瞬きをしても変わらない光景に……。

 

「いや、なにしてんの? 遠坂」

 

頬を引くつかせながら、修司は震える声で姉弟子の名を口にするのだった。

 

 

 

 






第七特異点は書くべき所が多いから、今まで以上に長くなりそう。

どうか、ご容赦ください。

それでは次回もまた見てボッチノシ




オマケ

「そう言えば、修司さんって元気玉って作れないの?」

「うん? そうだなぁ、試したことは何回かあるんだけど、一度も成功したことが無いんだよな」

「やっぱり、元気玉は難しいの?」

「あぁ、何せ自分の力じゃなく、他人や自然から力を借りる奥義だからな。魔術や呪術でもなく、仙道に近いってケイローン先生が言ってたっけ」

「ふーん」

「一応圏境を習得する際、周囲の自然と気配を合わせる鍛練もしてたんだけど、それでも出来ない辺り、やっぱ素養も関係あるんだと思うよ」

「そっかー、修司さんでも厳しいかー」

「まぁ、腐らずにこれからも続けていくさ。継続は力なりってな」

「頑張れー!」

「おう、ありがとな」










G「いい加減観念して、力寄越せや、おう?」

太陽系の各惑星「ヒィィィ………」プルプルプル

何て事があったり無かったり


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