『G』の異世界漂流日記   作:アゴン

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今回は短め。




その120

 

 

 

√Z月√*日

 

 マシュちゃんの体も修復し、これ迄数多くの微小特異点(イベント)を乗り越え、遂に自分達カルデアはロマニを含めたスタッフ達の健闘の甲斐あって最後の第七特異点の座標を特定する事に成功した。

 

場所は西暦が始まる遥か昔、紀元前の中でも神代と呼ばれる神秘の濃い世界。ロマニ曰く、神秘の濃度がこれ迄とは桁外れな為、特定する時間が掛かったのだとか。

 

予想より時間が掛かった事にロマニは自分と立香ちゃんに謝ってきたが、限られた人員と環境の中で懸命にやり遂げたロマニ達を責める者は此処にはいない。

 

寧ろ時間があったお陰でマシュちゃんの体は万全となったし、立香ちゃんはケイローン先生を始めとした数多くの師の中で生き残る術を獲得していたようだし、自分に至っては自身を今一度鍛え直す事が出来た。

 

最後の特異点に向けて気迫も準備も万端。いつでも行けると意気込む自分達に、ロマニは敢えて待ったを掛けた。と言うのも、ロマニを含めカルデアのスタッフ達は最後の特異点の特定に少なくない消耗を強いられ、現在結構な疲労困憊の状態なのだとか。

 

最後の特異点の原因を修復し、其処にある聖杯を回収したらその次は最後の戦い───即ち、魔術王ソロモンとの決戦が間近に控えているという事、休息の時間はなんとか捻出させるが、“期限”が迫っている以上あまり悠長していられる時間はないだろう。

 

そう、時間だ。もうじき人類史が完全に消えてなくなる2017年まで、猶予はそんなに残されてはいない。七つの特異点を攻略するだけでは人理焼却は防げない。人理を修復し、自分が元の世界に戻る為には全ての元凶である魔術王を倒すしかない。

 

最後の特異点の修復と魔術王ソロモンの攻略、この二つを立て続けにこなさなければならない以上、今の内に最後の休み時間を設けておきたいと言うのが、ロマニの言い分らしい。

 

と言うか、これ以上働くと狂戦士な看護師が実力行使に出てくる為、休むしかないと言うのが本音らしい。最後にあんまりなオチに吹き出したが、確かにそうなってはカルデアは完全に機能停止する為、休息をするしかないのだろう。

 

 そう言うわけで今日一日、俺と立香ちゃんは完全なる休日の日となった。ロマニ達も交代制で仮眠を取り、それぞれ思い思いの一日を過ごす事になった。

 

立香ちゃんはマシュちゃんと一緒に娯楽室で暇なサーヴァント達を誘って遊び、ロマニはマギ⭐マリなるブログの更新をチェックしたり、ムニエルやスタッフの皆も仮眠を取るまでサーヴァントの皆と楽しそうに雑談をしていた。

 

カルデアに多くの英霊達が召喚され、最初こそはスタッフの皆は超常の力を持つサーヴァントの皆に怯え、警戒していたけど、自分や立香ちゃんが自然に接している内に、一人また一人と、気付けばスタッフの皆がサーヴァントの皆と話すようになっていた。

 

特にムニエル、彼はサーヴァントという存在に誰よりも心を開き、彼なりに対等に接してきた。と言うか、アストルフォが来てから露骨にサーヴァントに絡むようになっていた。

 

この間なんて黒髭の奴となんか熱弁していたぞ。男の娘同士は映えるか否か、とか。自分には分からない世界を熱く語っていた。この間なんて百合の間に入るのは外道とか言って、通路を仲良さそうに歩いていたイリヤ嬢と美遊ちゃんの間に入ろうとしていたクマのヌイグルミを一緒に鬼気迫る勢いで蹴り飛ばしていたっけ。

 

 そんな、一部のスタッフのプライベートな瞬間を目の当たりにした辺り、スッカリ皆カルデアでの生活に慣れた様だ。

 

残された問題はあと二つ。第七の特異点を修復し、その先で待つ魔術王をブッ倒す。それで人理焼却の前提条件は覆り、全てが元に戻る。そしたら、未だ冷凍保存された状態のアイツ等も治療する目処が立つ事だろう。

 

 レフ=ライノールの手によって爆破された四十数名の魔術師達。その中には共に困難に立ち向かう筈だったチームメイトもいて、その彼等は今もコフィンの中で眠っているままだ。全てが終わった後でもう一度彼等と顔を合わせられるかどうかは分からないが、いつかまた会えたら、土産話として話すのも良いだろう。

 

───だから、もう少しだけ待っていて欲しい。俺達が必ず、人理を修復して世界を取り戻してみせるから。

 

その時はきっと、笑って再会出来ると………信じている。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 それは、時間にして修司達が第四の特異点を修復させた直後。通常の時間軸、空間から隔絶された場所に───その玉座は在った。

 

長い時の中で、ただ人類を見下ろしていただけの無能な王。自身が最も憎悪し、軽蔑し、唾棄するモノだと断じる吐き溜の玉座。そんな己が座する玉座に魔術の王はすがり付く様子でしがみついていた。

 

「クソ、クソ、クソがァッ! 何なのだあの巨人は!? なぜあの様な泥人形のごとき木偶人形に、この私が敗走しているのだ!?」

 

遡ること数分前、魔術王ソロモンは一人の人間を見下し、その存在を塵芥に変えようとしていた。己が使役する魔神柱の力で以て、意気がる矮小な人間をその思い上がりと共に消すつもりだった。

 

けれど、そんな彼の目論みはアッサリと覆り、魔術王は命からがら逃げ惑い、漸く自身の拠点へたどり着く事が出来た。50万もの僕を失った事、それ自体は問題ではない。問題なのは、自分を此処まで追い詰めたあの蒼い魔神に、どうあっても勝てる気がしないという事。

 

そう、魔術王ソロモンは知ってしまった。自分ではあの魔なる神に勝てないのだと、その優れた頭脳ではなく、生物としての本能で理解してしまった。人間を否定し、地球に生息するあらゆる命を否定していた魔術王が、よりにもよって一つの生命体として恐怖し、無惨にも逃げ惑って来たのだ。

 

度しがたい屈辱。しかしどんなに喚いた所で自身が逃げた事実は変わらないし、今も恐怖で震えている事も変わりない。一度理解した恐怖を拭い去る程、魔術王ソロモンの人間性は豊かではない。

 

 ならばどうするのか。あれだけの強さを持っているのなら、次の第五第六の特異点は言うに及ばず修復されるだろうし、最後に残された第七の特異点も、時間稼ぎは出来ても修復されるのは間違いないだろう。そうなれば、次にアレと敵対した時が自分の最期だ。

 

───最早、認めるしかない。認める事でしか現状を正しく認識出来ない程、魔術王ソロモンは追い詰められていた。

 

「おのれ、カルデア。おのれ、白河修司。おのれ、蒼の魔神!」

 

人理焼却という大業を成し遂げ、早く次の工程に挑まなければいけないのに、あの時目にした魔神の圧倒的な力が脳裏に刻まれ、恐怖と焦燥で脚がすくんでしまう。

 

どうすれば良い。どうすれば、自分はあの魔神に勝てるのか。古代から続く魔術の知識と叡知を駆使しても、アレを凌ぐ存在を魔術王は知らない。

 

混濁する思考。頭を両手で抱え、絶望を前に歯を食い縛る魔術王は………ふと、あることに気付いた。

 

 それは、玉座の近くで打ち捨てられていたある手帳だった。人理焼却の後、どういう訳かこの神殿に流れ着いた一冊の手帳。人類史に残された一切の存在は燃え尽きた筈、建物は勿論のこと紙の一欠片まで、一切の例外を認めず燃やし尽くした筈。

 

一見すればなんの魔術的保護も強化もされていない………ただの紙束。魔術王もこれ迄は一切の興味を抱かず、ただ捨て置いた嘗ての人類史の残り火。それが、何故今になって自身の視界に入ってきたのか。

 

まるで運命的で、いっそ作為的な感覚。されどこの直感は無視できないと、魔術の王はその手帳を拾い上げた。

 

 頁を捲る。瞬間、魔術王は深淵を目の当たりにした。一切の魔術的要素はないのに、流れ込んでくる膨大な情報の渦。顔をしかめ、本能が危険と警邏を鳴らしているのに、魔術王◼️◼️◼️◼️◼️はその光景に目が離せなかった。

 

それは、古い記憶。この世界にも何処にも属さない、時間と空間が交差する、禁忌にして忌憶。

 

 

“───それは、黒き地獄”

 

“───それは、黒き天使”

 

“───それは、黒き銃神”

 

“───それは、古き人祖達”

 

「あ、ああ、ああああああっ!!!」

 

流れ込んでくる。情報が、禁忌が、忌憶が、虚ろなる魂と深淵を通して、己という媒体に流れ込んでくる。

 

有り得ざる記憶────否、虚憶が、その一端が魔術王の内へと流れ込んでくる。

 

そしてその果てに、彼は見た。自身が恐れる魔神、その源流となった恐るべき神の存在を。おぞましく醜い、荒ぶる破壊の神を。

 

「──は、はははは、ハハハハハハ!」

 

気付けば、魔術王なる者は嗤っていた。滑稽だと、先程まで自身が抱いていた魔神への恐怖が、嘘のように薄れていた。代わりに内から溢れ出るのは圧倒的優越感。

 

「何が、なにが重力の魔神か! 馬鹿馬鹿しい。所詮は貴様も、神を模倣した紛い物ではないか!」

 

 紛い物、或いは偽物。蒼い魔神に恐怖していた者とは思えない強気な言葉。しかし、そう思えるだけの根拠が魔術王にはあった。

 

「ならば、私はかの神と契約を結ぶとしよう。おお、破壊の神よ。おぞましく醜き荒ぶる神よ。その力を以て、私は今度こそ全てを終わらせてやろう」

 

恐怖と狂気の狭間にて、扉は開かれた。魔術王ソロモンは七十二の悪魔を従えた召喚の魔術師。扉が用意されたのなら、其処からかの神を呼び出すなど……容易い事だった。

 

さぁ、魂は呼び出された。後は肉と骨で継ぎ足し、その形となる器を整えるだけ。

 

遥か遠い時間神殿にて、王は謳いあげる。来るべき破壊神の到来を、今か今かと待ち望んでいた。

 

 

 

 




次回は第七特異点の導入部分に入ります。

その後は第七特異点の話へ移行しますので、どうか今暫くお待ちください。

それでは次回も、また見てボッチノシ

Q.どうして魔術王は────と繋がったの?

A.以前、この世界にはボッチが二人いることを示唆されました。つまり?







オマケ

とあるサーヴァント達との会話。その一

「ふぅ、よし。今日の鍛練終わり。汗流したら食堂に言ってエミヤになんか作ってもらうとするか」

「お、修司の兄ちゃんか。小さくなったのに、毎日精が出るね」

「ヘクトールさんか。そっちも弟さんの付き合いか? 相変わらず面倒見がいいな」

「まぁ、知らない相手じゃないしな。身内の面倒位見てやらないと。それにコイツ、放っておくとすーぐアキレウスの野郎に喧嘩を売るからよ」

「べ、別に僕はあんな奴何とも思ってませんよ!? アイツが構ってそうにしてたから、仕方なーく付き合ってやっているだけです!」

「と、前にこんな風にあしらわれてからずっとこんな感じさ、悔しいのは分かるが、何かと影響されるのはどうかと思うのよおじさんは」

「はは、可愛らしくい弟さんじゃないか。………所でパリス君や、君のところにいた太陽の神様は、一緒じゃないのか?」

「あ、あれ? そう言えばアポロン様のお姿が見えませんね」

「なんか知らないけど、俺ってあの神様から避けられてる気がするんだよね。いや、ギリシャの神なんて此方から願い下げだから別に良いんだけど」

「神からも避けられる、ねぇ。お前さん、マジで前世に何かやらかしてるんじゃないの?」

「うーん、心当たりは無いんだけどなぁ」




「何故だ。何故だ我が神核はあの男を前にすると震えが止まらなくなるのだ!?」




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