『G』の異世界漂流日記   作:アゴン

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今回も日常回。地味回ともいう。

Q.もしもこのボッチがよう実に学生としていたらどうなる?

A.裏で行われている天才同士の権謀術数に一切気付かず、青春を謳歌します。

え? 聞いてない?


その117

 

 

 

√X月√∂日

 

 立香ちゃんからの報告を受け、速攻で話し合いの場を設けて皆であれやこれやと意見交換をしてから翌日。取り敢えずマシュちゃんの身体に悪い部分が見付からなかったということで、一先ずは保留という結論に至った。

 

膨大なGN粒子を浴びたマシュちゃん、確かに彼女の身体を何とかする為にGNドライヴ搭載型マシンを造ったのは間違いないが、それにしたって症状が出るのが早すぎる気がする。

 

GN粒子は確かに人体に変革と呼べる程の影響を与えるが、それでも表面化するのは早くて数ヶ月は掛かるし、人によっては一年以上の時間を有するモノだってある。

 

 だが、マシュちゃんはそんな自分が記憶するどの実例よりも早く覚醒し、革新者(イノベイター)の特徴を顕にしている。革新者というのは、人よりもチョビッと優れた………まぁ、空間把握能力やら身体能力やらが向上した自分が何となく………もしくは格好良さとか、思い付きで付けた人類の呼称である。別に大した意味はない。

 

そんな革新者の最大の特徴は眼、暗闇の中でも分かる光を発光させることである。これは革新者となった過去の例と同様に、マシュちゃんの脳量子波が情報処理を行っている際に顕れる症状だが、特に危険視されるような症状ではない。

 

現にマシュちゃん本人も特に痛覚等の自覚症状が無いと言っているし、その報告に強がっている節も見当たらない。キョトンとしているマシュちゃんにロマニが深い溜め息が出てきたのが印象的ではあったが……。

 

 だが、一体どうしてマシュちゃんが此処まで早く革新者として変革したのか、自分を含めたエジソンさん達とあれこれ意見を交わした結果、自分達はある仮説に行き着いた。

 

そもそも、マシュちゃんは英霊との融合症例として製造された人造人間(ホムンクルス)。言い方は悪いが、魔術師にとって彼女は使い捨てられる生命体だった。

 

しかし、逆を言えば人間としてまっさらな状態。絵画で言えば真っ白なキャンバス、人として純粋な彼女だからこそ、GN粒子もこれ迄の実例よりも濃く影響され、マシュちゃんの肉体に作用したのではないか? というのが、自分達の推測である。

 

ともあれ、彼女の身体自体に悪影響は確認されず、寧ろロマニが見せてくれた診断結果には立香ちゃんと同様に極めて良好の文字が刻まれている。検査自体はこれからも続くだろうが、自分の知る過去の症例を鑑みれば、それもあと数年の辛抱だろう。これ迄の彼女を蝕んでいた造られた生命体由来の楔はなくなり、これからは人並みの幸せだって望めることだろう。

 

 問題は、人理焼却を含めた諸々が解決した後、国連や魔術界隈からの余計な介入と、人間社会への影響だ。自分の元いた世界では王様に頼んでそこら辺の問題は既に解決してもらっているが、この世界ではそうはいかない。

 

人間というのは、自分と違う存在に対して必要以上に反応し、敵意やら害意を向けてくる。そして、そんな悪意に見舞われた人は自己を守る為に自分は特別な存在であると、選民思想に囚われがちになる。革新者となった人達も一時はその可能性に不安を抱いたりしていた。

 

そうなる前に王様は国連を始めとした各国機関にGNドライヴの設計の公開とその他諸々を条件に、革新者の人達が日常生活を送れるように全面的支援をするよう契約を取り付け、社会への影響を緩やかなモノとさせた。

 

あ、因みにそこら辺を無視して襲撃してきた魔術師達は強制的に太平洋の海へダイブしてもらってます。勿論物理的に。

 

そして、一方で他とは異なった革新者達が増長したり、横柄な性格にならないか危惧していたのだけれど、どういうことか皆そんな様子はなく、日々健全に研鑽を重ねてくれている。特に一時は危なかったとある子は自分と魔術師の攻防を目撃してしまって以降、めっきり素直になってしまっていた。

 

閑話休題。

 

 と、そんな訳でこの世界にはそういった問題が多々あるが、そこら辺はロマニ達に上手く何とかしてもらう他ないだろう。幸い革新者となったのはカルデア内にてマシュちゃんのみ、GNボーダーだって事が済み次第国連にくれてやれば良いし、それを条件にマシュちゃんの身柄の安全を約束させれば良い。

 

何なら、そのまま自分の属する会社に逃げ込むという手段だってある。この世界にも王様の会社があるのは既に分かっているし、俺の名前を出せば会社だって無下にはしない。会社への貢献を条件に厚待遇な生活も約束されるだろう。

 

問題は………魔術師関係なんだよなぁ。アイツ等、人間社会に溶け込む癖に社会のルールを守らないから質が悪く、時計塔の上層部に至っては神秘が秘匿されれば後はどうでも良さそうな感じで、平気で事を闇に葬ろうとしてくるんだよなぁ。

 

しかもこの場合、危険性はマシュちゃんだけでなく立香ちゃんにだって及んでくる話だ。立香ちゃんはこれ迄数多くの英霊と縁を結び、絆を育んできた女傑だ。謂わば、彼女の存在そのものが魔術師達にはサーヴァントを喚び出す聖遺物に見えるのだろう。

 

そうさせないためにも立香ちゃんとマシュちゃんの人理修復後の対応は、自分達にとって急務と言えるだろう。尤も、向こうが権力で有無を言わさないのなら、此方だってそうさせてもらうけどね。

 

 知ってるんだぜ? この世界の俺、国連に相当な技術提供を与えているってことはな。元いた世界では既に浸透した何てことない技術だが、この世界では未だ破格の価値を持っている。

 

その技術を一度にではなく、段階的に渡している以上、国連は白河修司という人間を無視できない筈。向こうが俺という存在を認識している以上、下手な強行手段は控えるだろう。

 

しかし、我ながら悪どいやり方だ。本来の俺ならば世界に技術を浸透させる為に国連や各国にはホイホイと技術を軽めに渡して技術革新を促しているが、この世界では小出し程度に抑えている。恐らくは、この世界で俺に召喚されたという王様の助言なのだろう。

 

もしかしたらこの世界の王様は其処まで読んでいるのかもしれない。何せあの人は、この世全てを背負う英雄王だ。この程度の読み合い位何てことないのだろう。

 

 さて、長々と続いたが振り返ってみればいつもと変わらない一日だったと評しておこう。マシュちゃんは革新者になった所で性格変わるような娘じゃないし、立香ちゃんの今後の処遇についてだって、それは自分達大人の役割であって、彼女達が気に病むことではない。

 

今後の対策を考慮しつつ、今回はこれで終わることにしよう。

 

 

 

√X月√g日

 

 さて、マシュちゃんの肉体改造という大きな目的を果たし、一先ず肩の荷を下ろした自分は、今一度自分を鍛え直す為、丁度暇なサーヴァントを誘いシミュレーターを使って軽く身体を動かすことにした。

 

相手は円卓最強というだけあって振るわれる剣筋は鋭く、研究やら開発で鈍った自分の身体を否応なしに鍛え上げてくれた。流石の腕前だと忖度無しに付き合ってくれたサーヴァントにお礼を言うと、マシュちゃんがやって来て自分に組手の誘いをしてきたのだ。

 

ここ数日身体の調子も良好で、次に最後の特異点が控えていることから、予想される激戦に備え、今の内に可能な限り自分に指導を受けたいのだと、マシュちゃんは極力自分の隣に立つサーヴァントを見ないように誘ってきてくれたのだ。

 

そんな勤勉なマシュちゃんの要望に応えてやりたい所だったが、生憎此方にも都合がある。具体的にはシミュレーター内で誰よりも先に殺意高めで待ち構えていた……ケルトの影の女王の相手をするためである。

 

この女、自分が第六特異点で力を付けてきたことを誰よりも鋭く嗅ぎ分け、今日という日を待ち構えていやがったのだ。マシュちゃんの身体を良くする迄はと我慢していた様だけど、彼女が元気になったという報せを受けた瞬間、我先にと勝負の申し込みをするようになったのだ。

 

今までは予定があるから~とか、先約があるから~と躱してきたが、それも最近になって言い訳も限界になり、ここ数日この女からの誘いはより過激なモノになっていた。

 

 具体的に言えば………夜這いである。この女、よりにもよって人の部屋に土足で侵入し、夜這いを仕掛けてきたのである。仮にもスカサハという女傑は美人で、端から聞けば羨ましいと怨嗟の声が向けられることだろう。

 

だが、相手はケルト。挨拶代わりに殺意と得物を放ってくる頭のおかしい連中で、彼女はその筆頭株でもある。曰く、“影の女王からの夜這いは俺も勘弁したい所である。”そう語るのはケルトの叔父貴的存在、フェルグス=マック=ロイである。

 

そんな彼女に夜這い(強襲)までされては、最早無視は出来ない。ぶっちゃけ今でも嫌だとは思うが、それでも逃がしてくれないのがケルトの嫌な所である。

 

一応直前まで何とかしようとしたよ? 夜這いを掛けられた日にはケイローン先生にガチで相談したし、エルえもんやエミえもんにも半泣き混じりで助けを求めたりした。

 

そんな俺に………アイツ等酷いんだ。いや、ケイローン先生はまだいいよ? 親身に相談に乗ってくれたし、最後は滅茶苦茶申し訳無さそうに謝ってくれたし、お陰で心は少し軽くなったさ。

 

でもあの二人は絶許。特に便乗してきたクー・フーリン、アイツだけはいつか死なす。人が真剣な悩んでるのにいい加減腹を括れだの、骨を拾ってやるだの、呆れ半分でまるでマトモに取りあってくれない。クー・フーリンに至っては笑いながら俺に指差して来やがった。

 

 後で覚えてろ。そんな誓いを立てながら食堂から立ち去ろうとする俺を唯一慰めたくれたのが………熊のぬいぐるみだった。

 

何でも、今の俺達は似た境遇なのかもしれないのだとか。去り際に月の女神に物理的に搾られる彼の姿は、いつも以上に哀愁が漂っていた。そうか、アレと同類なのか、俺って………。

 

 そんな訳でしつこいスカサハを相手する為、マシュちゃんの組手には前哨戦として相手してもらっていた円卓最強ことランスロットさんにお願いすることにしました。

 

て言うか、泣き付かれたんだよね。ここ最近、他のサーヴァントやカルデアのスタッフとは馴染むようになり、騎士王ともそれとなく話せるようになったけれども、未だにマシュとはマトモに会話をしたことがなく、仮にあったとしても事務的会話しか記憶にないのだと。

 

息子だったのが娘に変わり、距離感とか分からなくなってはいたが、此処は人理救済の為に数多の英霊が集うカルデア。過去の遺恨を乗り越え、今こそ親子の関係を深める時だと、一大決心をしたのだとか。

 

其処で自分に頼る辺り………何とも残念な気もするが、親として立ち上がるのなら、協力は惜しみはしないということで、細やかではあるが手を貸すことにした。

 

 で、早速その時が来たから自分が仲を取り持つことにしたのだけれど………まぁマシュちゃんの拒否反応が凄いこと。

 

う◯美ちゃんの如く鋭い眼、しかもその眼が革新者張りに光り輝くもんだから、それはもう迫力がエライことになっていた。女の子がして良い顔じゃない表情にランスロットはタジタジだったが………自分が出来るのは此処まで。

 

何せ此方は此方で、飢えた獣を相手にしなくてはならないのだ。申し訳ないが、後はランスロット本人の力で何とかして欲しい。

 

 そんな訳で始まった俺とスカサハの組手という名の死合い(誤字に非ず)が始まり、決着が付くまでの数十分の間、俺は槍の雨という地獄を見る羽目になった。

 

分かる? 縦横無尽に襲い掛かる槍の応酬とか、普通に泣けてくるからね? 後にシミュレーターの映像を見たヴラドさんも「これは酷い」と呆れながらスカサハさんに説教してくれたからね?

 

バーサーカーが呆れ、説教を噛ます程。それがあの戦いの悲惨さを物語っている。まぁ勝ったけどね。山のじっちゃんのお陰で会得したモノで、何とか双方無事に終わることが出来ました。山のじっちゃん、マジありがと。このご恩はきっと返します。

 

 で、久しぶりに疲弊した自分の所に、今度はマシュちゃんからお誘いがありました。あれ? ランスロットは?

 

疑問に首を傾げた自分に、「ランスロット卿は急用があるとのことです」と可愛らしく言ってきた。ランスロットェ。

 

バーサーカーの彼とは比較的マトモに対応しているのに、どうしてこうなってしまうのか。その後、可愛い娘のような彼女の頼みを無下には出来ず、結局は相手をする俺なのでした。

 

いやー、久し振りに疲れた。精神的に。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「は、はは……」

 

 ───いつぶりだろう、此処まで心が踊るのは。いつぶりだろう、こんなにも気持ちが昂るのは。我が振るうは絶死の槍、振れば死は免れない破滅の一振。縦横無尽、一切の隙間なく放たれるスカサハの絶技の応酬は、しかし目の前の淡く光る理不尽によって覆される。

 

迫り来る避けられない死の空間を避けるという矛盾、絶技を越えた理不尽の現象を前に、スカサハは自身の心臓の鼓動を確かに感じた。

 

誰にも殺されず、強さだけを望んで至った人外の極致。それを今、たかが二十代の青年が越えようとしている。

 

嬉しく思わない訳がない。楽しみ、期待しないわけがない。あれだけの才能を、あれだけの可能性を、自分の手で育てられないのが悔しいが、今はただ彼の更なる成長を期待している自分がいる。

 

 嗚呼、間違いない。彼が、彼こそが………私を、スカサハという存在を────。

 

「ハハハ、ハハハハハハ!」

 

 仮想の大地の下で、大の字になりながら敗北を噛み締める影の女王、その笑みは何処までも純粋で………狂喜に歪んでいた。

 

 

 

 

 





Q.ボッチを狙う人ってどんな人達?

A.ボッチなんだからそんな稀有な人、いるわけないだろ! いい加減にしろ!

それでは次回もまた見てボッチノシ




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