『G』の異世界漂流日記   作:アゴン

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今回は、マシュ達の頑張るお話。

すっかり気温が寒くなり、暖房を意識する様になりました。

皆さんも体調管理、気を付けてください。


その111 第六特異点

 

 

 

「────答えよ」

 

 修司と分かれてから少し、五分も満たない時間の中で走り続けてきた藤丸立香と、彼女に付き従ってきたサーヴァント達は、遂に獅子王の前へと辿り着いた。

 

玉座へ続く長い廊下をひた走り、大きな扉の先に広がる部屋。その中心にその王はいた。

 

尊大にして荘厳。太陽王とは別の意味で畏怖を憶える佇まい、黄金に靡く髪と、白銀の鎧に身を包んでいるその姿は、自分達の知る騎士王と良く似ていた。

 

「────答えよ。お前達は何者か。何を以て我が城に。何を以て我が前にその身を晒す者か」

 

「我は獅子王。嵐の王にして最果ての主。聖槍ロンゴミニアドを司る、英霊の残滓である」

 

獅子王の声、それを耳にしただけで体が竦む。獅子王の言葉には人間としての暖かさはまるでなく、まるで機械を相手にしているかの様な印象だ。だというのに、マシュはギアス(呪い)を受けた様に全身が縮み上がる錯覚を覚えた。

 

(アレが獅子王───聖槍を持ち続けたアーサー王………覚悟していたというのに、これほど恐ろしいとは………ですが、それでも───私は、あの方を正視しないと!)

 

 恐ろしい。自分の罪を、嘗て己が犯した過ちを前に、挫けそうになりながらも、ベディヴィエールは自身を鼓舞した。

 

「────答えよ。お前達は私を呼ぶ者か。お前達は私を拒む者か。藤丸立香、遥かなカルデアより訪れた最後のマスター、その片割れよ。お前は、何の為にこの果てに訪れた?」

 

「……人理を、貴方を止める為に来た!」

 

凍てつくような視線を前に、立香は正面から答えた。全ては人理を修復し、その先で待つ魔術王に挑むためだと、彼女はハッキリと口にした。それが、目の前の獅子王を殺すという意味だと、理解した上で。

 

「───成る程。強い眼だ。余程例の山吹色の男を信用しているのだな。だが残念だ。お前は、聖槍には選ばれない」

 

「その魂は善を知りながら悪を成す。善にありながら悪を許す。それは悪と同義だ。我が足下まで辿り着いた、最新の人間に期待したが───死ぬがよい。私の作る理想都市に、お前の魂は不要である」

 

「───では、円卓を解放する。見るがいい。これが最果ての波。世界の表面を剥いだ、この惑星の真の姿だ」

 

 瞬間、魔力の嵐が吹き荒れ、その場にいる全員の視界が塞がれる。やがて荒れ狂う魔力の暴風は収まり、次に立香達が目にしたのは……荒波、“世界の果て”と呼ばれる断絶された場所だった。

 

その光景にダ・ヴィンチは目を見張る。彼女は、始めから世界の果てで待っていた。つまり、それは最初から、何時でも世界を閉じる事が出来たという意味。これ迄の戦いは、獅子王の慈悲の上で成り立っていたのだと、ダ・ヴィンチはその事実を前に悔しさを覚えた。

 

しかし、そんな事は関係ない。玉座から立ち上がり、槍を手にする獅子王を前に戸惑うマシュを振り切りながら、藤丸立香は再び叫ぶ。

 

「うるさい! 私の価値を、お前が勝手に決めるな!」

 

「せ、先輩!?」

 

「何が理想都市よ、大勢の人間を殺して、沢山の人達を悲しませて、自分の都合の良い人間だけを選抜して………貴方のやっている事は人類の救済でも何でもない!」

 

獅子王と円卓軍。この特異点で彼等の行ってきた蛮行を前に、憤りを感じていたのは修司だけではない。彼と同じ、人並みの感性を持つ立香もまた、獅子王に対して鬱憤を募らせていたのだ。

 

相手が獅子王だろうが、騎士王の成れの果てだろうと関係ない。超常の存在たる獅子王に対して、真っ向から言い放つ立香に、ダ・ヴィンチは良いものを見たと拍手喝采とばかりに捲し立てた。

 

「ひゅう、なんてクソ度胸だ! サーヴァントではあの神格には萎縮するというのに! でも、言ってやれ言ってやれ! それは人間である君にしかできない事だ!」

 

「どうして世界を閉ざそうとするの!? なんで、そうまでして貴方は世界を終わらせようとするの!?」

 

ダ・ヴィンチの後押しを受けて、立香は言葉を続ける。何故、どうしてと、獅子王が山の民や太陽王を敵に回してでも成し遂げようとしている────自称、人類の救済。その理由を訊ねる立香に獅子王は目を閉じ、失望したと言わんばかりに溜め息を吐き出した。

 

「………理由か。どんな時代であれ、人間(お前達)はそれを聞きたがる。私が世界を閉じるのは、人間(お前達)を残す為だ。ある者の大偉業によって、この惑星の歴史は終了する。人理は焼却され、人類史は無に帰される。だが、それは私の存在意義に反する」

 

「我らは人間達によって生み出されたもの。神は、人間なくして存在できない。故にお前達を残す。何を犠牲にしても護る。───これは私の意思だ。魔術王が自由(すき)にするのなら、私も自由(すき)にすると決めた」

 

「あぁ、告白しよう。ずっと、私はそうしたかった。お前達を愛している。お前達が大切だ。だから、お前達(人類)を失うことに耐えられない」

 

 それは、獅子王の告白。心からの本音だった。人間を愛し、真に大切だと想っている。例えあらゆる犠牲を払おうとも、人間に永遠を与えるのだと。後世に残し、いつか訪れる誰かにこの様な種族がいたのだと。

 

故に、獅子王は選び取った。悪を成さず、悪に触れても悪を知らず、善に飽きる事なく、また善の自覚なきもの達。この清き魂を集め、固定し、資料とする事で永遠に価値の変わらぬモノとして、己の槍に納めるのだと、獅子王は臆面もなく言った。

 

それを聞いたとき、ダ・ヴィンチも、マシュも、ベディヴィエールも、立香も、果てはカルデアにいる全ての者達が驚きを顕にするが、一部の………特に、英雄王は酷く落胆した様子で嘆息を溢していた。

 

「これの───何が間違っている? 私の偉業は、全て人間(お前達)の為なのに」

 

「………ふざけないでよ。そんなの、ただの標本じゃない!」

 

「そう思うか? 盾の英霊よ。定められた命の中でも、更に限りある命とされた者よ。お前ならば、私の言うことにも理解できるのではないか?」

 

 獅子王の行いは、単なる標本。そう言いきる立香に早々に見切りを付けた獅子王は、話の矛先をマシュへと向けた。獅子王はマシュの寿命を、造られた命であるが故に短命であることを既に見抜いていた。残りの時間が短い彼女ならば、自分の言いたいことも理解できるだろうと、僅かな期待を乗せて問い掛けると……。

 

「………そう、ですね。確かに、貴方の選択も一つの最善なのでしょう。滅び逝く世界を前に、出来る事は少ない。それなら、残った命を必死に守り通す。それもまた、王に求められる素質なのでしょう」

 

「………そうか、ならば───」

 

「だけど、私は思うんです。いつか尽きる命だというのなら、だからこそその刹那の時間を、精一杯生きようと。無駄かもしれません。徒労に終わり、意味もなく死を迎えるのだとしても………私は、最後まで生きてみたいと、そう、思うんです」

 

「………それが、価値のないモノだとしても?」

 

「だとしても………です。私は、最期まで、私の思うがままに、生きようと思います。それが例え───貴方と相対する事に、なるのだとしても」

 

強く、澄んだ瞳だった。自分の終りが近い事を理解しても、それでも尚、自分の思うがままに生きたいと口にするマシュに、ダ・ヴィンチは今回の旅で一番の驚きを露にしていた。

 

そして、うっすらと笑う。あの無垢な少女が、ここまで自分の我を押し通せる様になったのだと、万能の天才ダ・ヴィンチは嬉しく思えた。

 

対する獅子王は、無言になる。自身の救いを振り払い、要らないと断じられた事実に、彼女の腹は決まる。もう、自分に理解者はいない。ならば後は最後の仕上げを行うだけだと、聖槍の化身である獅子王───否、女神ロンゴミニアドは自身の力を解放していく。

 

奔流する魔力。それは遥か遠くのカルデアにまで届き、立香達を観測しているシバが数枚吹き飛んでいく程。映像も乱れ、不明瞭となったモニターにロマニは慌てふためく。

 

『うわぁ!? し、シバが数枚吹き飛んだ!? 獅子王の魔力は、カルデアにまで届くというのか!?』

 

「いいだろう。ならば、この一撃を以てお前達を葬ろう。お前達の消滅を以て、最果てを解き放つ。私は嵐の王。常世から大地を飲む荒波。世界の果て、そのものである」

 

「………だが嘆くな。それが、人間(お前達)の幸福である」

 

嵐が、世界の果てにて吹き荒れる。世界を揺るがし、世界に終わりをもたらす終焉の一撃。それを前に……。

 

「それは、違う!」

 

「私は、私達は、貴方の幸福を認めません!」

 

二人は吼える。まだ幼くて、未熟で、不格好でありながらも、二つの命は女神に向けて吼え立てる。

 

「何故なら、私達は! この時代で、多くの命を見てきたから!」

 

「子供を助ける為に命を落とした人がいた! その事を嘆く人がいた!」

 

「そして────それでも、生き続けると。自分が生きている限り、お母さんの人生は続くと顔をあげた人がいました!」

 

「終わりは無意味なものじゃない! 命は先に続くんだ。その場の限りのものじゃなく!」

 

二人は見た。凄惨な現実を、残酷な運命を、どうしようもない………絶望を。

 

そして、同じくらい眩しいものを見た。大切な人を奪われ、嘆きの底に落ちても、それでも立ち上がる命の輝きを。

 

「いつまでもいつまでも、多くのモノが失われても、広く広く繋がっていくものなのです!」

 

「ロンゴミニアド! 貴方が荒波で、世界の果てだと言うのなら!」

 

「私達は、全力でこれと戦います!」

 

故に、二人は立ち上がる。世界の果て、その一撃を真っ正面から受けて立つと!

 

「いいだろう。では見せてやろう。我が聖槍の呼ぶ嵐。世界の皮を剥がした下にある真実を!」

 

 ────そして、槍は輝きを放つ。

 

「聖槍、抜錨。其は空を裂き地を繋ぐ嵐の錨───」

 

空が渦を巻く。逆巻き、荒れ狂い、その全てが槍の中へ収束されていく。

 

「最果てより光を放て………! ロンゴ、ミニアド───!

 

 空が堕ちてくる。天に光が覆われ、全てを無に帰す滅びの光。避けるのは不可能───否、元より二人は逃げるつもりなどなかった。

 

脳裏に浮かぶのは、一人の英霊。自分達の為にその身を捧げた偉大なる弓の英雄、自分達は彼の様にはなれない。でも、きっとこの光に立ち向かった時、彼もこの様な気分だったのだろうと、マシュと立香は不敵に笑う。

 

「やるよ、マシュ!」

 

「了解です。マスター・藤丸立香、私に力を……! 見ていて下さい所長───今こそ、人理の礎を証明します!!!」

 

藤丸立香の令呪が光り、放たれる魔力の全てをマシュへと注ぎ込んでいく。迫り来る終幕の光、あの時と同じ、決して避けられない死の運命。

 

頼みの綱の彼はいない、この場には自分達しかいないのにそれでも何故か………負ける気はしなかった。

 

「其は全ての疵、全ての怨恨を癒す我等の故郷───顕現せよ、いまは遥か理想の城(ロード・キャメロット)”!!

 

 ───落ち行く聖槍の光の前に、白亜の城が顕現した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ────出し切った。マシュに秘められた英霊の力、盾の英雄であるギャラハッドの力を、マシュ=キリエライトは今度こそ十全に引き出して見せた。

 

いまは遥か理想の城(ロード・キャメロット)” その性質は守護。その持ち主の精神が、心が強く在る限り、決して壊れない白亜の城。そんな嘗て円卓の騎士達が夢見、騎士達の王もそうあって欲しいと願って築き上げた………遥か遠き城。

 

その光景を、カルデアの医務室で待機していた騎士王の目にも届き、静かに涙を流していた。嗚呼、あれこそが嘗て我等が抱いた情景、失われた筈の騎士達の集う円卓の城。

 

 そして、そんな白亜の城は獅子王の裁きの一撃すらも耐えて見せた。魔力の残滓となって霧散していくマシュの宝具、されど彼女が顕現させた白亜の城には………一切の綻びが見受けられなかった。

 

マシュの持てる全ての魔力と、立香の令呪によるブースト。これら全てを出し切った二人は、互いに肩を貸し合いながら地に膝を着ける。

 

そう、自分達は全てを出し切った。意識を保っているのが難しい程に、持てる限りの全てを使い切ったのだ。

 

だから───。

 

「あとの事は…………お願いしますね」

 

「おう、任せておけ」

 

いつの間にか隣に立つ山吹色の男───白河修司に、立香は手を伸ばす。手を貸して欲しいのかと、修司も手を伸ばすと。

 

パンッと、小気味の良い音と共に手を叩かれる。一瞬だけ目をキョトンとさせる修司、そんな珍しい反応を見せる彼が面白くて、立香は笑うと………今度こそ意識を手放した。

 

「ダ・ヴィンチちゃん、二人の事、頼む」

 

「あぁ、任せたまえよ。二人の事は私が全霊を以て護るとも」

 

バトンタッチ。後の事の全てを修司に託したと、一時の間だけ眠りに付いた二人。そんなマシュと立香をダ・ヴィンチに預けると、修司は獅子王へ向き直った。

 

 

「貴様が、山吹色の男か。人の身でありながら、我が円卓を退ける膂力。認めるしかないだろうな、貴様の力はもはや英霊の枠組すら当てはまらない」

 

「………別に、どうだっていいんだよ。そんな事は」

 

「───なに?」

 

 言いたい事は沢山あった。人類の救済というお題目で、大量虐殺を果たした事、太陽王や山の民、多くの協力者を得られる道もあった筈なのに、数多ある道を模索しなかった事、ガウェインやランスロット達以外の円卓の騎士達の事、訊ねたい事や糾弾するべき事は幾らでもある筈なのに…………今は、全てがどうでもいい。

 

滅びの光を前に、一歩も退かずに立ち向かった二人を見てしまえば、自分の罵詈雑言の言葉など流されてしまうのは当然と言えるだろう。

 

「獅子王───いや、女神ロンゴミニアドか? 取り敢えず今は一つだけ聞いておこうか。………アンタは、人の可能性を、命の輝きを、どうして其処まで蔑ろに出来る? どうして、誰かを信じようとしなかった?」

 

「可能性? なんだ───それは? そんなものになんの意味がある。そんなモノに、どのような価値があるというのだ」

 

 故に、その言葉を聞いて修司は改めて安堵した。

 

────嗚呼、思った通りで良かったと。

 

「そうか。それがお前の答えか」

 

「ならば、どうだというのだ。人の可能性? そんな不確かなモノに賭けて、一体それがなんだというのだ!」

 

獅子王が苛つき始める。神の如き視点を得ても、白河修司という男の言葉が理解できないらしい。神霊という位階に魂の格が繰り上がった事で失った弊害、感情を露にする獅子王に、遥か彼方に座す英雄王は不敵に鼻で笑い薄ら笑う。

 

そして、そんな神霊を前に……。

 

「獅子王、或いは女神ロンゴミニアド。お前が人の、命の可能性を切り捨て、自分のエゴを押し付けるというのなら───」

 

先ずは───

 

「そのふざけた幻想を、テメェの得物諸とも───ぶち壊す

 

宣戦布告を口にするのだった。

 

 

 

 

 

 






次回、解放、シンなる者。

それでは次回もまた見てボッチノシ







おまけ

とあるイベントにて。

「そういえばさ、私達がエリちゃんのイベントに出張っている間、修司さんは何してたの?」

「カボチャで造った仮面を被って、ひたすらダンスを踊ってました」

「………なんの為に?」

「反省を、促す為に」

「何に対する反省!?」

「因みに、エミヤも一緒にやってくれました」

「いや本当になにしてんの!?」

 後に、これがアイドルを目指すエリちゃんに立ち塞がる新たなユニット、“反省を促す謎のダンス集団”が現れるとは、この時、藤丸立香は思いもしなかった。

「予想できるか!?」



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