『G』の異世界漂流日記   作:アゴン

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今回、ボッチが結構口悪いです。

不快にさせてしまったら申し訳ありません。




その110 第六特異点

 

 

 ────数分前、聖都キャメロット内部。

 

山の翁達や山の民、多くの協力者達が尽力してくれた事で開かれた道筋。一度は発動された聖槍の“果て”も、太陽王がカルデア一行に後を託してくれた事で、一度は阻止できた。

 

時空断層にも匹敵する魔力の壁も消失し、再び開かれた道を立香達はひた走る。これ迄の旅路を経て、体力と逃げ足だけなら自信のある立香は、遥か頂上まで延びる階段を、速度を落とさないまま走り続けていた。

 

獅子王の座す玉座まであと僅か、一行がラストスパートを駆けて脚を動かそうとした時、それは起きてしまった。

 

突然足場を揺らす振動、すわ地震かと錯覚する一行が一瞬だけ鑪を踏むと、頭上から巨大な瓦礫が降り掛かってきた。このまでは立香に直撃する、そうはさせないと一番乗り近くにいた修司が立香の背中を押し出し、代わりに修司が瓦礫の下敷きになる。

 

「修司さん!?」

 

突然の事に立香は息を呑んだ。自分の代わりに瓦礫の下敷きになった修司、マシュもベディヴィエールも目を見開いて瓦礫を退かそうとするが……。

 

「ったく、ビックリしたなーもう。………って、瓦礫の所為で外に押し出されちまってるし。立香ちゃんは無事? 怪我とかしてないかい?」

 

「あ、うん。ヘイキデス」

 

瓦礫の向こうから平然とした様子の修司が聞こえてきて、立香達はズルッとコケそうになる。そうだ、この男は数あるサーヴァント達の攻撃を正面から受けてきた怪物だ。あの大英雄達の一撃を受けて生きている彼が、今更瓦礫程度に押し潰される筈もなかった。

 

「良かった。なら………ロマニ、今何が起きたか説明頼めるか?」

 

『あぁ、たった今解析が終わった所だ。どうやら獅子王はもう一度聖槍を発動させ、再び世界を閉じようとしている。太陽王という障害が消えた今、自分の目的を達成させる為にね』

 

口調こそ落ち着いているが、ロマニの心境は嘗て無いほどに荒ぶっていた。獅子王の持つ聖槍、それが再び真価を発揮すれば今度こそ世界は崩壊し、特異点の修復は不可能となってしまう。もう慌てるリアクションをしている暇もない、そんな淡々と解説するロマニに危機感を覚えた立香とマシュは事の重大さを理解し、頬から汗を流す。

 

もう、獅子王を止められるのは自分達しかいない。改めて覚悟を決めた立香は改めて玉座へ向かおうとした時。

 

「これは………なんだ?」

 

『修司君? どうかしたのかい?』

 

「向こうから大きめの気を感じる。圧されているのは───ランスロットか?」

 

 ふと、修司の気の感知に奇妙なモノが引っ掛かる。力の質や大きさは然程じゃないのに、それでもランスロットを着実に追い込んでいる。円卓の騎士の中で最強と謡われる湖の騎士が追い詰められるなど、ただ事じゃない。

 

「………悪い皆、先に行っててくれ。ちょっと気になることが出来た」

 

『え、えぇ!?』

 

「ロマニ、ちょーっと煩いよ? 修司君、野暮用って? 君がこの土壇場で自分勝手な言動で皆を戸惑わせる男ではないことは、私も皆も充分理解している」

 

この土壇場に於いて、一人別行動を取ろうとする修司にロマニもダ・ヴィンチも呼び止める。獅子王と正面切ってマトモに戦える数少ない、そんな修司を自分勝手な男でない事を理解した上で、ダ・ヴィンチは簡潔に事情を訪ねる。

 

「実は今、妙な気配を感じてな。ランスロットが追い詰められているっぽいんだ。アイツが護るのは俺達の後ろ、万が一破られたら、俺たちは獅子王とランスロットを負かせた奴とで挟み撃ちにされちまう」

 

時間がないことから簡単に説明したが、それだけで何か察したらしい。瓦礫越しからでも分かる向こう側から伝わってくる張り詰めた空気、沈黙の時間は十秒か一分か、それでも幸いな事に掛けられた時間は然程長くは掛からなかった。

 

「────分かった。なら、修司さんは向こうをお願い。そっちが片付く間、私達でなんとか獅子王を抑えてみるよ」

 

声色こそ震えているものの、立香の言葉に迷いはなかった。土壇場で戦力の要の不在という不安を抱えながら、それでも何とかして見せると口にする立香に、修司達は彼女の確かな成長を感じ取っていた。

 

「で、でもなるべく早く合流してくれると嬉しいかなー」

 

「あぁ、片が付いたら超特急で駆け付けるよ。ロマニは立香ちゃんを全面的に支援してやってくれ、俺の方は大丈夫だから」

 

『あーもう、分かったよ。彼女達の事は僕が責任を以て何とかするよ』

 

「ありがとうロマニ! じゃあ……先に行くね!」

 

「修司さん、ランスロット卿の事………その、宜しくお願いします!」

 

 遠ざかっていく立香達の気配。逞しく成長してくれた彼女達を嬉しく思いながら、修司は感じた気配の下へ向かって飛翔する。

 

これが、修司がアグラヴェインと対面する数秒前の出来事である。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「………山吹色の胴着。そうか、貴様が噂に聞く山吹の男か」

 

「そういうお前は偉い仏頂面だな。纏う覇気も武人というより文官………成る程、アンタが鉄のアグラヴェインって奴か。まぁ消去法的に、それしかないんだろうけどな」

 

 動き始める王城、聖槍が本来の姿を見せ始めている中相対する二人。ランスロットを追い詰め、今まさに止めの一振りを振り下ろそうとしているのは、鉄のアグラヴェイン。ベディヴィエールから聞き及んでいた彼の人物像は、戦場で戦うより人を使い、情報という武器を使って騎士王の勝利を影から支える文官気質の男で、人と関わりを持たない人間嫌いだと耳にしている。

 

そんな直接的な戦闘力を持ち合わせていないアグラヴェインが、気迫だけで(・・・・・)ランスロットを圧している。此処に来るまでに、アグラヴェインにも何らかのギフトが獅子王から施されていると予想していたが、修司の予想は見事に外れた。これ迄の獅子王の騎士達とは違い、素であのランスロットと斬り合えている。

 

生前からの因縁か、はたまた別の要因か。いずれにせよ、自分の意思だけで円卓最強を下しつつあるアグラヴェインに修司は最初で最後の尊敬の念を抱いた。

 

「し、シュージ殿、何故、貴殿がここに?」

 

「なに、此処から少し奇妙な気配を感じてな。アンタが負けそうになっているのが気になって、ちょっと顔を出しに来ただけだ」

 

「そ、そうでしたか」

 

「ランスロットさん、アンタはもう下がれ。アンタはもう充分戦ってくれた。地上に戻って皆と一緒に、今度は生き延びるように頑張ってくれ。これは、アンタの子供の願いでもある」

 

 傷だらけのランスロットを見て、修司は下がるように言い含める。彼はもう充分に戦い、傷付いた。忠義と己の正義の間で、葛藤しながらも自らの進むべき道を選び取ったランスロットに、修司は最大限の敬意を送った。

 

対するランスロットは、最後まで戦おうとした。しかし、一度ならず二度も王を裏切り、同胞に刃を向けた時点で、自身に何かを語る資格はない。自分の責任に最期まで向き合えないのは無念だが、子供に心配を掛けるなと言われた以上、引き下がる事しか出来なかった。

 

剣を支えに、ランスロットはその場から去っていく。アグラヴェインはトドメを刺せなかった事を悔しく思うだろうが………それも一瞬。乱れた髪を直しながらいつもの鉄仮面に戻ったアグラヴェインは、ランスロットにではなく修司に注意を向ける。その目にはもう、ランスロットに対する関心は失せていた。

 

「ふん、下らんな。そんな男の何処に気遣う価値がある。そんな程度の低い理由で、お前は勝機を逃したというのか?」

 

「へぇ、分かるのか?」

 

「貴様の事は報告だけだが、うんざりするほど耳にしている。ガウェインを降し、そこの俗物を懐柔し、モードレッドを降し、そして恐らく………トリスタンを消したのも貴様だ。我等円卓を悉く打ち破ったもの、であるならば獅子王と互する力を持つ者である可能性は当然出てくる────業腹だがな」

 

 唯でさえ深い眉間に、より一層深くして睨んでくるアグラヴェインに、修司は肩を竦めた。

 

「白河修司、貴様は言ったな。我等が王では人類は救えないと、それだけ断言した以上、根拠は当然あるのだろうな?」

 

「正確に言えば、人類は救済を求めてはいない。なんだが………まぁ、根拠も何も、獅子王のやり方自体が根拠、とだけ言っておくかな」

 

「聖抜の儀式の事を言ってるなら、アレは必要なモノだった。聖都キャメロットにも限界はあり、際限なく難民を救うのは不可能だ。如何に獅子王が完璧であろうと、限界は存在する。そも、ただ死を待つだけの人間を僅かでも救ってやれる。それだけでも充分なのではないかね?」

 

 聖抜に選ばれなかった人々を殺していくのも、必要な犠牲だと、息を荒くしながら口にするアグラヴェインに、修司は何処までも冷ややかだった。彼の口から出てくるのは獅子王を擁護するものばかりで、それを進言しているのは自分なのだと、アグラヴェインは語り続ける。

 

それはまるで、悪い事をした子供を庇う親の様だと修司は思った。全ての悪行を成したのは自分の独断で、獅子王には何一つ非はないのだと。しかし、アグラヴェイン一人だけに押し付けるには、あまりにも無理があった。

 

「────なぁ」

 

「なにかね、この期に及んで何か言いたい事でも……」

 

「お前さ、本当はとっくに気付いているんじゃねぇの? 獅子王だけじゃあ理想郷は作れないって。獅子王では人類を救えないって、誰よりもお前が一番良く分かっているんじゃないのか?」

 

「────っ」

 

 崩れた。あの仏頂面のアグラヴェインが、無骨で人間嫌いのアグラヴェインが、他でもない人間の言葉によって、心の内に秘めた感情を顕にされている。

 

獅子王は完璧だ。そう信じ、そう在り続けてきたアグラヴェインが、目を大きく見開いている。

 

「………獅子王がやっているのは唯の標本だ。自分に都合の良い人間だけを選び、聖槍に取り込み、管理する。そこに自由というモノはなく、意思という自我はない」

 

「────無用なモノだ。そんなもの、獅子王の掲げる理想郷には、全く不要なモノ、人理焼却から免れるのだ。その程度の代償、望んで受け入れるべきだろう」

 

「人理焼却から免れる。ねぇ……」

 

「そうだ。魔術王の人理焼却から逃れる為に、獅子王は聖断なされた。何も知らない者が、知った様な口は控えて貰おうか」

 

「───ハ、ハハハ、クハハハハハハ!!」

 

 嗤う。顔を手で抑え、抱腹絶倒とばかりに修司は嗤った。突然嗤う修司にアグラヴェインは一瞬面喰らうが、次に彼は憤怒の激情に駆られ、怒鳴り付ける。

 

「何が、何が可笑しい!?」

 

「これが嗤わずにいられるか。免れる? おいおいアグラヴェインさんよ、言葉はもっと正確に選べよ。魔術王の人理焼却から免れる? 違うだろ?」

 

「“逃げ”たんだろ? お前の所の王様はさぁ」

 

「っ!?」

 

「なーんか言葉を選んで仰々しく語っているけどさぁ、要するにお前ン所の王様は魔術王の人理焼却を前に戦う前から諦めたんだろ? 私じゃあ魔術王に敵いません。だからその分の負債を他の人に押し付けましょう。今回の話はそれだけで片が付く話だろ?」

 

「───黙れ」

 

「獅子王………いや、今は女神ロンゴミニアドか? いやぁ、どっちにしろ見物だったろうなぁ。良い歳した女が、野郎に尻振って逃げ惑う姿ってのは」

 

「貴様ァッ!!」

 

激昂したアグラヴェインが、手元にあった槍を投げ付けるも、避けられる。分かっていた事だと冷静に分析するも、アグラヴェインの思考は煮えたぎった怒りで、冷静に回る筈の思考回路は機能不全に陥っていた。

 

腕を掲げる。すると、アグラヴェインの周囲には無数の粛正騎士が現れ、アグラヴェインの放つ鎖に巻き付いて黒化していく。恐らくはアレがアグラヴェインの宝具、他者に何らかのブーストを掛ける補助的な役割を担うモノなのだろう。

 

獅子王の直属の騎士に、アグラヴェインの宝具。二つの要素を兼ね備えた粛正騎士は、単純な膂力だけなら円卓の騎士にも匹敵していた。

 

「北斗────剛掌波!!」

 

が、その悉くが修司の手によって粉砕されていく。どれだけ力を増し、速さを担おうとも、実力が伴わなければ意味がない。嘗て自分が味わった体験が活かされた事に、修司は皮肉に思いながらも微かに嬉しく思った。

 

「貴様に何が分かる! この滅び行く世界で、滅ぶ事が確定した世界で、それでも人を救わんと立ち上がった獅子王の決断を! 最低限の人命しか救えないと分かって、他の命を切り捨てるしかないと聖断された王の気持ちが、貴様に分かるか!」

 

「知るかよ、興味もねぇわ」

 

霧散していく獅子王の粛正騎士達、自身の宝具で強化しながらも、それでも鎧袖一触にされる現実にアグラヴェインは歯を食い縛りながら吼え立てる。獅子王の聖断を侮辱するな、そう吼えるアグラヴェインに対し、修司の眼は何処までも冷たかった。

 

「ならお前は、抵抗すら許さずに殺された人達の気持ちを少しでも察してやった事はあったのかよ? 父を殺し、母を殺し、子供を殺し、その人にとって大切な人達を、一方的に殺して奪ってきたお前らが、人間の心を語るな」

 

「っ、それは───」

 

「全て自分が負うべき咎、なんてなまっちょろい台詞を吐くなよ? お前のやった事は、全て獅子王の理想を叶うべきモノ、ならその責任も全て獅子王のモノだろうが」

 

「ち、違っ、違う! それは違う!」

 

「何も違わないだろうが。お前のやった事は、獅子王の為という免罪符を使った───唯の大量殺戮だ。同罪なんだよ、お前も獅子王も」

 

 踵を返す。ランスロットを地上に逃がし、脅威と思われていたアグラヴェインも、既に満身創痍。修司が自ら手を下さなくとも、その内朽ちていくだろう。

 

無駄な時間を使った。これ以上この男に関わる意味はないと、立香達の所へ向かおうとした時、修司は遥か頭上から力の奔流が広がっていくのを感じた。

 

────世界が捲れていく。他でもない、塔の天辺から。恐らくは獅子王が何かしたのだろう。固有結界とも違う世界の変質に、修司は舌打ちを打ちながら地上を見る。

 

どうやら、まだ地上には影響が出ていないのだろう。未だ戦い続けている山の民達に、不謹慎ながら安堵していると、修司は改めてアグラヴェインへ向き直る。

 

「続きがしたいなら追ってこい。その時は───獅子王諸とも、その湯だった脳天カチ割ってやるよ」

 

それだけを言い残し、修司は飛翔する。瞬間、裁きの光と白亜の防壁がぶつかり合うという光景が生まれるが、それを認識する余裕はアグラヴェインには無かった。

 

 




Q.今回、ボッチとアグラヴェインのやり取りはカルデアで流れたの?

A.カルデアのサポートはこの時点で全て立香に向けられている為、幸い誰も目撃することはありませんでした。一部のサーヴァントは、ボッチのやらかしを目に出来なくて残念がっていた模様。

Q.もし、今回のやりとりを騎士王が見ていたらどうなってたの? 若しくはその逆。

A.万が一アルトリアが目撃したら、血反吐をぶち巻きながら座に直帰します。また、アグラヴェインにアルトリアが全部見ていたと知られたら、同じ様な事になる模様。
そう言う意味なら、まだ今回のボッチは優しいというか甘いですね(笑)

Q.この悪いボッチはいつまで続くの?

A.まだ、ギャン泣きさせてない輩が残っとるじゃろ?




それでは次回も、また見てボッチ



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