『G』の異世界漂流日記   作:アゴン

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今回も、展開が早いかもしれません。

ご了承下さい。




その109 第六特異点

 

 

 白亜の城キャメロット。何人にも侵されず、嘗てはブリテンの人々の希望であり、模範と在ろうとした騎士王が座した居城。その中を走るのは修司達カルデアと現地のサーヴァント達、押し寄せてくる粛正騎士達を蹴散らしながら、一行は獅子王のいる塔の頂上へとひた走る。

 

「……なんだろう? 聖都ってこんなに人気がない所だったの?」

 

聖都の居住区エリア。そう思われる箇所を走り抜く最中、立香はふとそんな違和感に気付く。人気がない。これ迄、聖都には聖抜によって選ばれた人々が穏やかに過ごしていると思われてきたが、実際に建物には人のいる様子はなく、立香達のいる大通りや路地裏に至るまで全く人気がないのは……流石に違和感は拭えなかった。

 

「戦いが始まるからと、事前に避難させていたか、それとも既に聖槍に取り込まれたか。どちらにせよ、無為に扱われている事はない筈だよ、獅子王にとって彼等は掛け替えのない…………いや、換えの効かない貴重品なのだからね」

 

 貴重品。聖抜に選ばれた人達を、獅子王はモノとして認識していると暗喩するダ・ヴィンチの表現にベディヴィエールの表情が険しくなる。彼の騎士の様子を察したダ・ヴィンチはすぐに意地悪な言い方をしたと謝罪する。

 

だが、彼も分かっていた。今の獅子王は最早自分達の知る騎士王とは何処までも解離していて、今となってはその面影は微塵も残ってはいないという事に。人としてではなく、神としての在り方に寄ってしまった獅子王に、人間の価値観とは相容れないと、これ迄の獅子王のやり方でベディヴェールは何となく察してしまっていた。

 

けど、それでも自分は成すべき事を果たさないといけない。喩え、獅子王が自分の事を忘れているのだとしても。そんな、ベディヴェールがいよいよ覚悟を決め始めると、前方から騎士の群れが殺到してくる。

 

それは、獅子王の直属の粛正騎士。獅子王自らが造り、近衛とした謂わば分身とも呼べる集団。そんな彼等を相手に時間を掛けるわけにはいかない。

 

「久し振りに行くぜ、ペガサス───流星拳!!」

 

そんな獅子王の直属部隊を、鎧袖一触に薙ぎ倒す。拳から放たれる弾幕により、悉く撃ち抜かれた粛正騎士達は魔力の霧となって霧散する。ガウェインを降した時のような輝きは纏っていないが、それでも白河修司の強さは以前よりも跳ね上がっていた。

 

「………さっきから気になってたけど、どうして修司さんは私達と一緒にいるの?」

 

「え?」

 

「いやだって………修司さんって空飛べるじゃん」

 

「た、確かにそうですよね。修司さんならかめはめ波を塔の頂上に向けて放っていると思ってました」

 

「君達俺を何だと思っての?」

 

「「ハチャメチャ量産機」」

 

「凄い、二人とも息がピッタリね!」

 

「ハハハ! 伊達に幾度と無く修羅場を潜り抜けてはおらぬな!」

 

「フォフォーウ!」

 

 唐突に思い浮かんだ立香の素朴な疑問だが、確かにこれ迄の修司なら、戦いを引き延ばそうとせず、早期決戦に持ち込もうとするだろう。かめはめ波をブッパしたり、武空術で塔の頂上へ一人特効しかけたり、なんなら先の城門を破壊したように、あの巨大な剣を王城へ向けて叩き込んだりしていた筈。

 

なのに、今はそんな事をする気配が全くない。決戦の時だというのに、驚くほど大人しい修司にマシュも立香も違和感を拭えなかった。

 

「まぁ、確かにそういう手もアリっちゃアリなんだけどな……」

 

そう言って修司はベディヴェールの方へ視線を向ける。これ迄彼は獅子王に対して並みならぬ執念の様なモノを向けていることは、修司も何となく察してはいた。仮に獅子王と戦えば、ほぼ間違いなく修司は獅子王を倒すだろう。そうしないのは、ベディヴェールの事情を考えているが故の事だった。

 

ベディヴェールが獅子王もとい、この特異点のアルトリア=ペンドラゴンに用があるのは以前から分かっていた。ここ最近では何かしらの気持ちを固めたのか、表情も幾分マシなモノになっている。そんな彼の覚悟に水を差すのに気が引けたからである。

 

まぁ尤も、別に全員抱えても問題なく飛べるんだけどね。

 

「けど、此処まで来た以上、あんまり悠長な事を言ってもいられないか。ヨシ、ならお望み通りの展開にしてやろうじゃないか。二人は両腕に抱えるから良いとして、問題はダ・ヴィンチちゃんとベディヴェールだな」

 

「え? 嘘、本当にやるつもり!?」

 

「ど、どうしましょう先輩! 完全に藪蛇でした!」

 

「え、これ私も巻き込まれる流れですか!?」

 

「あちゃー、これはもう覚悟を決めるしかないかな」

 

 何やら四人供非常に嫌がっている様子だが、今は時間が僅かでも惜しい状況だ。いつ獅子王の聖槍とやらが本格的に動き出すのか分からない以上、手をこまねいている場合ではない。後でセクハラで訴えられることを覚悟しつつ、立香とマシュの二人を両腕にそれぞれ抱えようとした時───それは起きた。

 

「「「っ!?」」」

 

塔の王城を中心に光が溢れ出す。金色に輝く光、天を衝かんとばかりに増していく輝きに修司達の足が止まる。

 

「な、なにこれ………」

 

『まさか、ロンゴミニアドの輝きか!?』

 

「知っているのかエルメロイ先生!?」

 

戸惑う修司達を正気に戻したのは、ロード・エルメロイ二世。ロマニの通信に割って入ってきた時計塔のロードは、酷く表情を強張らせながら解説を始めた。

 

『あぁ、恐らく獅子王の仕業だろう。聖槍を起動させ、遂に世界を閉じようとしている!(・・・・・・・・・・・・・)

 

「ど、ドクター! ロード・エルメロイの解説は───!?」

 

『あぁ、残念ながらその様だ。三蔵法師が見たという世界の果て、何もない無の空間が聖都に向かって押し寄せて来ている!』

 

世界の果て、そこから先の世界は存在しないという文字通りの無の世界。獅子王が人理焼却に抗う為に実行するたった一つの救済処置。

 

「ていっ!」

 

王城を包み込む黄金の光に向けて、修司はそこら辺に転がっている瓦礫の破片を掴んで投げ捨てる。常人離れした修司の投擲、それは間違いなく王城の玉座に向けて放たれたのだが………虚しくも、光の中に吸い込まれるだけに終わった。

 

「吸い込まれた? いや、掻き消されたのか」

 

『あの光の壁は凄まじい魔力によって時空断層の様に隔たれてしまっている! 何処かに発生源となっている場所はないかな!? いきなり現れたんだ。急な仕掛けには僅かながら穴がある筈だよ!』

 

ロマニから告げられる王城を守る光の壁の性質を耳にした修司は、いよいよ相棒の出番かと思考するが………ダメだ。それは出来ない、確かにグランゾンの力をもってすれば、聖槍の力や世界の果てに対抗する位訳はないだろう。

 

しかし、そうなってしまったら聖都────いや、聖槍に取り込まれた人々は解放されないし、下手をしたら大規模な死傷者を出してしまう。そうなったら特異点修復処ではなく、人理焼却を待たずに人類の歴史は終わってしまう。

 

やはり、自分達だけで何とかするしかない。そう修司が改めて王城に向けて駆け出そうとして───。

 

「行かせるかよぉ!」

 

赤い稲妻が修司達の前に落雷のごとく落ちてくる。

 

「くっ、来てしまいましたか、モードレッド卿!」

 

「おう! 来てやったぜチキン野郎! 今度こそその素っ首叩き斬ってやる為に、このモードレッド様が正々堂々、正面から奇襲しにきてやったぜ!」

 

舞い上がる砂塵。煙の向こうから意気揚々と名乗りを挙げるのは反逆の騎士とされるモードレッド。暴走のギフトを持つ彼女の周囲には赤雷の光が迸っている。

 

そんなモードレッドを見て、修司は静かに拳を鳴らし始める。パキパキと聞こえる骨の音にモードレッドは一瞬ビクリと体を震わせるが、首を横に振って気持ちを建て直す。

 

「そして山吹色のテメェ! 俺の事を次に会ったら鎧を剥ぎ取るなんて嘗めたこと言ってくれたが───残念だったなぁ! 鎧はとっくに俺の手から離れてんだよぉ!」

 

砂塵の向こうから現れるのは、鎧を脱ぎ捨てて肌を露出させたモードレッドだった。次に修司の前に現れたら鎧を剥いて農具にしてやると脅されてから、モードレッドはアグラヴェインに頼み込んだ。お前から獅子王に取り成してくれと、剣を失った自分では殴ることしか出来なくなる。それでは流石に円卓の騎士とは言えないと、らしくない懇願の果てにモードレッドは再び剣を手に入れた。

 

その代償に、モードレッドは自身の鎧を捨て去る事となった。元より次に会ったら鎧は剥かれる運命、だったらその前に自ら脱いでやるつもりでいたモードレッドは、獅子王から提示された代償の要求に嬉々として受け入れた。

 

この手に握るのは嘗て自身を守っていた鎧。それが今とは自らの新たな刃となって新生を果たして見せた。これなら父上の役に立てると、満足そうに鼻息を鳴らすモードレッドに対し……。

 

「ね、ねぇ修司さん。モーさんって………あんなアレな感じだったっけ?」

 

「もしかしたら、これも暴走のギフトの所為なんかな? 魔術回路だけじゃなく、思考回路まで暴走しているから、あんなアホな感じになっているとか」

 

「ふ、二人とも、流石に言い過ぎなのでは!?」

 

修司と立香は、可哀想なモノを見るような眼差しをモードレッドに向けていた。修司という怪物から鎧を護るために鎧を脱ぎ捨てる道を選んだモードレッド、本人はしてやったりな顔をしてドヤ顔を晒しているが、端から見ると痛々しいことこの上ない。

 

殆ど上半身が裸に近い少女が剣を片手に不敵に笑っている。その何とも言えないシュールな光景に誰もが言葉を失うが………。

 

「さて、そんじゃあいっちょ殺し合うか。覚悟しろよテメェ等、こうなった俺は少しばかりしつけぇぞ」

 

それでも、モードレッドの強さは変わらない。鎧を脱ぎ捨てた事で身軽さを会得した彼の騎士には魔力放出による推進力を得ている為、その厄介さは折り紙つきだ。ならばそれに翻弄される前に仕留めるだけだと、修司が前に進もうとして……。

 

「じゃあ、ここは私と藤太で引き受けるから、皆は先に行っててくれる?」

 

しかし、その歩みは三蔵法師と俵藤太によって阻まれる。

 

「修司、お主はこれから獅子王との戦いに備えて体力を温存しておけ、これだけの仕掛けを仕出かすのだ。恐らく彼の王は既に人の枠組みから外れているのだろう」

 

「……………」

 

「ならば、ここはお主の力を奮う場ではない。往け、若き武人よ。高き天にてお主の輝きを目にするのを、楽しみにしているぞ」

 

 獅子王との決戦に備え、修司には極力体力を使わせない方がいい。そう判断した藤太もまた、三蔵と供に足止めをする事を由とする。そんな二人を尻目に、一行は王城へ向けて走った。

 

「………ざけんなよ。テメェ等ごとき三下英霊が、俺の足止めを出来ると、本気で思ってんのかよ!? いいぜ、テメェ等を殺したあと、もう一度連中の頚を切り落としてやる!」

 

「ハッハッハッ、先程まで震えていた小娘が、調子の良いことを言う!」

 

「あぁ!?」

 

「もう、ダメじゃない藤太、彼女も一端の騎士。余計な無礼は説法モノよ? ………でも」

 

シャラン。心地のよい錫杖の音を鳴らし、三蔵法師は身構える。

 

「素直になれない貴方にも、説法をプレゼントしちゃうんだから!」

 

「────殺す」

 

 ぶつかり合う三騎の英霊。白亜の城のキャメロットの城下町にて、赤き雷が荒れ狂った。

 

激闘を繰り広げる三蔵達、そんな彼等を背にしながらひた走る修司達は、黄金の光に包まれる王城を見上げながら、王城へ続く道を探していた。

 

「モードレッドを二人に任すのはいいとして、ここから実際どうする? 俺がかめはめ波でぶち壊してみるか!?」

 

「そ、それだと取り込まれている人々まで被害が及ぶのでは!?」

 

「だが、このままでは世界の果てが完成し、特異点は完全に崩壊してしまう! やれる事が限られている今、迷っていられる時間はないぞ!」

 

どんどん光の強さが増していく。このままでは世界の果ては完全に自分達を呑み込み、世界は消滅してしまう。ならば、取り込まれた人々の安否を度外視するしかない。

 

それでも可能な限り巻き込まないよう気を付けながら、修司は両手にエネルギーを収束させていく。極力被害を出さないように、獅子王だけを狙えるように神経を磨り減らしながら力を溜めていると。

 

『フハハハハハ! 余、復活である!!』

 

 

 

 遥か砂漠の向こう、エジプト領から目映い光が、王城に向けて放たれていく。恐らくは太陽王オジマンディアスの宝具、これまで腹痛で離れていたファラオの登場に、一同は息を呑んだ。

 

『獅子王め、このタイミングで最果ての塔を出すとは、存外追い詰められているようではないか!』

 

「た、太陽王!?」

 

『とはいえ、流石にこれだけでは足りんか。ならば、世界を果てとするその不敬に、最早大神罰では生温い!』

 

光だけでは足りないと、全域に響く声を轟かせながら、太陽王は宝具を解放させる。それは、嘗て自身が巨大神殿であるピラミッドを移動させたという逸話から生まれた………最大級の質量兵器!

 

『喜ぶがいい獅子王! 貴様には、余の墓をくれてやる! 太陽の碑石、巨いなる巨石、宇宙を司るピラミッドよ! 我が無限の光輝、太陽は此処に降臨せり! 落ちよ────光輝の大複合神殿(ラムセウム・テンティリス)!!

 

 空から、ピラミッドが落ちてくる。キャメロットを覆うほどの巨大神殿。純粋な超級の質量兵器と最果ての塔となった王城は激突し………ピラミッドは砕け散った。その衝撃は特異点全体を揺るがし、戦っている全ての者の動きを、一時的に封じ込めた。凄まじい衝撃だ。消失していく黄金の光に修司もやったと喜ぼうとした瞬間。

 

エジプト領から、二つの気が消えた。それを感じ取った修司は、太陽王と彼女に敬意を示す様に敬礼し、改めて先へ進むのだった。

 

“さぁ、見せてもらうぞ。貴様の輝きを”

 

遥か空の彼方から、太陽王の捨て台詞を聞いた気がした。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ぐっ、よもや貴卿にこれ程の力があったとはな。侮りがあったのは私の方だったか」

 

「御託はいい。聞きたくもない、貴様は此処で王に顔を見せる事なく───此処で死ね」

 

 獅子王の座す玉座より、少し離れた王城の何処か。カルデアの一行とは別口から聖都へ侵入を果たしていたランスロットは、自身の遊撃部隊を引き連れ、獅子王の間違いを糺すべく、奔走していた。

 

モードレッドの遊撃隊を蹴散らし、他の騎士達を倒しながら歩みを進めるていると、ランスロットの前に一人の騎士が現れた。

 

アグラヴェイン。鉄の騎士として知られ、生前から人嫌いとして知られる王の補佐官。彼が目の前に現れた時、ランスロットは嘗ての自分の犯した罪と直面した気がした。

 

 全ては王の過ちを糺すため、そう吼えるランスロットに対し、アグラヴェインは何処までも平坦に、冷静に返した。“またか”と。

 

「貴様は、一度ならず二度も王を裏切った。最早言葉は要らん。ただ死ね。意味もなく、王の記憶から一片も残さず消滅しろ!」

 

凄烈のギフトを有するランスロットに対して、アグラヴェインにギフトはない。ただ王の為に全てを捧げる鉄の男は、自分には何も要らないと“不要”を貫いた。

 

実力では到底及ばない筈、それでも湖の騎士に食らい付いているのは、偏に両者がサーヴァントであり、アグラヴェインの執念が凄まじい事にあった。

 

アグラヴェインは人を嫌い、ランスロットを憎み、蔑んだ。しかし、それ以上に王に忠義を誓っている。例え獅子王と呼ばれ、嘗ての在り方とは異なっていようと、今度こそ最期まで遣えて見せると、誰よりも強く誓っていた。

 

故に───。

 

「世界を、人類を救えるのは、我が王に於いて他になし。消えろ、ランスロット!」

 

「────いやぁ、それは無理なんじゃねぇかなぁ?」

 

地に膝を着けるランスロットに向けて奮われた剣は、その一声によって止められる。

 

「───貴様、今何と言った?」

 

向ける視線。そこに滲み出るのは濃い嫌悪の色、鉄のアグラヴェインの一身に受け止め、それでもその男は平然と歩み寄り………。

 

「ん? 聞こえなかったか? ならもっとハッキリ言ってやるよ」

 

白河修司は、アグラヴェインの前に現れる。

 

「人類救済なんて大業、獅子王には土台無理な話なんだよ」

 

鉄の心を砕くのは、騎士の一撃に非ず。

 

山吹色の男の一言は、鉄の心に確かな一筋の罅を刻み込んだ。

 

 

 

 




Q.現在のアッ君の心境は?

A.ボッチ「所詮、獅子王は敗北者じゃけぇ」
 アッ君「はぁ、はぁ、………敗北者?」

みたいな感じ(笑)


次回はちょっとアンチ要素多目かも。

どうかご了承下さい。

それでは次回もまた見てボッチノシ



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