苦手の方はご了承下さい。
─────染み渡る青空。雲一つなく、自分達を見下ろす光帯を除けば、満天の青空が広がっていて、世界の行方を決める決戦としてならある意味、これ以上ないシチュエーションである。
そんな青空の下、決戦の舞台に立つ当事者達はこれから戦うとは思えない程に静まり返っていて、たった今起きた出来事に唖然として見つめていた。
聖都キャメロットを守る正門。白く気高い騎士を顕した白亜の城門は、その面影が一切残らない程に崩れ落ちていた。
白亜の門の中央に突き刺さる巨大な剣、人が奮うには
「ヨシ、取り敢えず正門の問題は片付いたな。後は───」
正面の最も厄介な正門が崩れたのは大きい。巨大な正門はそれだけ頑強で、攻城戦に於いては厄介な関門の一つとされているが、それはあくまで正攻法で挑んだ時の話である。本来なら正門の攻略に割く筈だった戦力も、他の所に回せる事が出来る。後は自分達が突入して獅子王を倒すまでの間、いのちをだいじに戦法で撹乱して貰えれば良いだけである。
これならば、戦いで犠牲になる人の数も比較的減少する事だろう、そう頷きながら次の行動に移ろうとした修司に………。
『待ってぇ!? お願いだからちょっと待ってぇぇぇぇッ!?!?』
「うお、ビックリした。いきなりどうしたんだよロマニ、もう戦いは始まってるんだぞ?」
『ビックリしたのはこっちだからね!? あと動いてないから! 君の所為で誰一人動けないでいるから! ねぇ、何で君はいつもいつも突拍子の無いことをするの!? 君、魔術師じゃないんだよね!? 魔術回路ないんだよね!? なんであんな事が出来るの!? 止めてよ、これ以上僕の脳細胞と胃を虐めないでよ!!』
唐突に開かれるカルデアからの通信、開かれた映像通信の向こうには、半ば発狂しながら問い詰めてくるロマニがいた。酷い顔だ。きっとマギマリがサービス終了を告知された時も似たような反応になるんだなと、半泣きで訴えてくるロマニに対し、修司は───。
「いや、普通に科学技術の力だけど?」
シレーッとそう宣う修司に、ロマニは自身の頭から血管が二、三本程千切れる音を聞いた気がした。
『普・通・は!! あんな風にデッカイ剣が亜音速で飛んでったりしないから!! て言うかどっから出てきたのあのデカイ剣は!? ハッ、まさか………アレも君の相棒のなのかい!?』
「そうだけど?」
『なら、どうしてあの時ちゃんと教えてくれなかったんだい!?』
グランワームソードなる大剣、恐らくアレは修司が相棒としている代物なのだろう。だが、一体どうやったらあんなモノが音速を超えて飛来するのだと考えられる? 相変わらずメチャクチャな事をしでかす修司に、今回ロマニは初めて八つ当たり気味の糾弾を口にした。許容オーバーによる暴走とも言える。
「どうしてって………巨大ロボに大剣がデフォルトで備わっているのは当然だろう?」
そんなロマニの心情を全く察した様子もなく、修司は平然と答えた。ロボにパンチ、ドリル、ソードは必須という三大原則を網羅している修司にとって、今更論ずるに能わない話である。
尚、この話を聞いたとある二人の発明家は同調するように深く頷き、マハトマの幼き母にしばかれている。
閑話休題。
『あぁぁぁもうやだぁぁぁぁっ!!』
『落ち着いてください所長代理、気を強くもって!』
通信の向こうで頭を抱えながら発狂するロマニ、近くにいたオペレーターの女性が宥めながら消えていく光景を尻目に、改めて修司は聖都へ向き直ると、今度は呪腕のハサンが近付いてきた。
「は、話には聞き及んでいましたが、まさかこれ程とは。修司殿、開戦の狼煙としてはこれ以上ない一撃でしたな」
正門は崩され、正門付近にいた騎士達も衝撃に巻き込まれ吹き飛んでいる。ガウェインの姿も見えない以上、後は獅子王の下へ修司達を送り届け、その間の戦線を維持するだけである。
しかし、そんな呪腕の思考とは裏腹に………。
「何を言ってるんだ呪腕先生、俺のターンは………まだ終わっちゃいねぇぜ?」
「────ひょ?」
白河修司は、再び空間に孔を開ける。黒く、奈落を思わせる暗黒の底、そこから顕れるのは………先程修司が投擲した巨大な大剣。
バカな、アレは既に正門に向けて放たれた筈。もしや、この大剣をあと何本も隠し持っているのか、戦々恐々たる思いで正門に視線を向ける呪腕だが、そこにあった筈の剣は姿を消している。
ワームホールとは、重力操作によって開かれる重力の門。そこに空間による差異など意味はなく、そしてそれは空間に対して強い感能力を持ち、グランゾンという規格外の存在を脳波である程度遠隔操作が可能となっている修司にとって、相棒の一部である剣を回収、投擲を繰り返すのは然程難しい事ではない。
「………呪腕先生、何回だ?」
「え?」
「獅子王の裁きってのは、これ迄何回地上に叩き落とされた?」
これ迄、修司は地表に出来た巨大なクレーターを何度も目撃してきた。その数は一つや二つじゃきかず、その全てに嘗て人々の生きた場所があったと聞かされてきた。
目には目を、歯には歯を。別に修司は自らを山の民や原住民の人々の代弁者を気取っているつもりはないが、それでもやり返さなければ気が済まない気持ちはあった。無抵抗のまま蹂躙された者、子供の未来を憂いながら、親の事を想いながら死んで逝った者、ルシュドと同じ被害者を何人も出しておきながら、素知らぬ顔で開き直る騎士を騙る者共。
「ほーれ、ドンドンいくぞォッ!」
全てが気に食わない。そして、それらを生み出している獅子王が、修司が今最も殴り倒したい者の筆頭である。とは言え、聖都には未だ取り込まれた原住民達もいる。彼等の安否を気遣う為、相棒の力を十全に発揮しない所だけは、修司なりの慈悲は確かにあった。
故に十発。30mを超える質量の塊を重力加速によって十回程だけを打ち出し、聖都キャメロットの外壁を打ち崩すだけに留めておいた。
崩れ落ちるキャメロットの外壁、そこには嘗て人々にとって畏怖の象徴として描かれた白亜の城門は無く、無惨な瓦礫の山が築かれていた。
「フーッ、こんなものか。本当なら整地してやりたい所だけど、生憎其処まで時間はない。ここから先は呪腕先生達に任せたい所だけど………頼めるか?」
「いや………うん、そうですな。此処までお膳立てをされてしまった以上、退くわけには行きますまい」
「太陽王も、構わないか?」
『えっとその………ファラオ・オジマンディアスは現在腹痛の為に席を外されておりますので、私が代弁させて頂きます。“構わん、好きに暴れろ”との事です。ファラオの同盟者に相応しい振る舞いを、どうか忘れないよう』
空に浮かぶニトクリスが、オジマンディアスの代弁者として映し出され、戦線に異論はないと告げてくる。何故オジマンディアスが離れているのかは知らないが、背後に彼等がいるのなら、安心して前を見ていられる。
「さて、舞台は整った。後は獅子王をぶちのめすだけだ」
「整ったというより、蹴散らしたの方が正しくない?」
「ですね。こればかりは先輩に同意します」
「フォフォーウ!」
これ迄愕然とした様子で佇んでいた立香とマシュの二人は、初めてみたグランゾンの一端を目撃したのにも関わらず、割りと平然としていた。
二人とも、順調に白河修司の起こすハチャメチャに染まってきている様である。
そして、一行は歩き出す。外壁は崩れても未だ衰えぬ白亜の塔、その頂上で佇む獅子王に挑む為に……。
「それじゃあ、行きますか」
戦いの火蓋は、今度こそ切って落とされた。
◇
「う、ぐ………なんと、出鱈目な」
崩れ落ちた白亜の城門。嘗て尊大だったキャメロットの外壁は今では見る影もなく崩れ去り、今では土埃にまみれた瓦礫の山と化している。
そんな瓦礫に巻き込まれ、壁上で待機させていた弓矢部隊は壊滅し、地上の部隊もその多くが瓦解している。自身にのし掛かる瓦礫をはね除けながら、太陽の騎士ガウェインは辟易としながらも立ち上がり、迫り来る敵軍に目を向ける。
確かに、白亜の城の外壁は崩された。しかしそれだけ、依然として獅子王の聖槍ロンゴミニアドは輝きを失ってはおらず、寧ろその輝きは前より強くなっている。城門を砕かれるという前代未聞の展開に流石の獅子王も危機感を抱いたか。否、それは有り得ない。
(そうだ。我等が王は完璧であらせられる。如何なる侵略者が相手であろうと、その輝きが損なわれる事は、決して───ない!)
手に握られている太陽の騎士の新たな剣。それは以前まで使っていたガラティーンの様な太陽の炎を司る力こそ持ち合わせてはいないものの、その性能は決して劣りはしない。
それは、ある焔の巨人が奮うとされる終末の剣────を、模倣した遥かに型落ちした劣化コピー。世界に刻まれた伝承通りの出力こそないが、それでもギフトを授かった自身が奮えば無二の焔が濁流となって戦場を蹂躙し、敵味方関係なく殲滅出来る諸刃の剣。
獅子王から使い処を見誤るなと云われ、これ迄固く封じてきた浄化の焔。遂に、これを奮う時が来たのだと、ガウェインは握り締めた剣の柄に己の魔力を通していく。
溢れ出る熱量は天地を喰らいながら荒れ狂い、周囲を融解させながら呑み込んでいく。燃え盛る業火の中、ガウェインは静かに迫る迫り来る敵対勢力を見据える。
ガウェインが魔剣を解放したと同時に、撤退を始めているが………もう遅い。相対し、キャメロットに侵攻を始めた時点で、既に此方の射程範囲に入っている。
奮えば自軍含めて全滅必死な破滅の一撃、されどこの身には既に一切の躊躇はなく。
「呑み込め、燃え尽き、灰塵に帰せ───
遂に、魔剣は奮われた。津波となって戦場を蹂躙し、敵味方問わずに終らせる焔の一振り。これで我が王の望みは護られた。そうガウェインが確信した次の瞬間。
炎は消えた。パンッと軽い音と共に、余りに呆気なく、消失した。
「────な、に?」
まるで最初から何もなかったかの様な光景、目の前の現象に理解の追い付かないガウェインの口からは間の抜けた声しか出せていない。一体何が起きたというのか、混乱する思考で呆然となるガウェインの前に………ソイツは現れた。
それは、まるで夜空に浮かぶ星の様な輝きだった。淡く輝く小さな光、そんな光を纏いながら此方に歩いてくるのは、これまで幾度と無く辛酸を味合わされた相手、忌々しい我等が天敵、白河修司だった。
何故、あの様な輝きを纏っているのか、どうやって今の己の一撃を掻き消したのか。否、どうでもいい。分かっている事はただ一つ、目の前に悠長に歩いてくる男を決して獅子王には会わせてはならないという事。
瞬間、ガウェインは駆けた。瓦礫の足場を踏み抜き、炭化しかけた自身の腕を省みず、ガウェインは修司に肉薄し、その脳天に向けて剣を振り下ろした。一片の無駄無く、ギフトの影響で常時三倍の力を持つ自身の全てを乗せた渾身の一撃、避ける暇も与えなかったこの特異点に於けるガウェイン最高の一撃は………。
虚しく、空を切るだけに終わった。目の前にいた筈の修司の姿は其処に無く、先程までと変わらない様子でガウェインの後ろを歩いていく。変わり果てていたのはガウェインの握る魔剣だけだった。
砕かれている。握り締めていた魔剣は柄から粉々となり、ガウェインの手から溢れ落ちていく。二度目の理解の及ばない光景に、今度こそガウェインの思考は停止する。
そんな時、彼の耳にカルデアのマスターと思われる少女の声が聞こえてきた。
「し、修司さん、いいの?」
「ん? 何がだい?」
「ガウェインだよ。なんか剣を砕かれた事以外変わった様子はないんだけど………その、これまで修司さんってば敵対した相手には誰であろうと容赦しなかったからさ」
そう、立香の言う通り、確かにガウェインには魔剣の反動以外傷らしい傷はなく、実際に修司はガウェイン本人には一切の攻撃を仕掛けてはいない。これ迄の修司ならば、ガウェインも殴り飛ばしている筈だと確信していただけに、立香は少しばかり疑問を抱いていた。
そして、そんな立香に───。
「いいんだよ。もう、意味ないし」
修司はたった一言、そう口にした。
意味はない。そこに込められた言葉には文字通りのモノでしかないが、それを耳にしたガウェインは膝から崩れ落ち、特異点が消滅するその時まで愕然と項垂れるオブジェとなるのだった。
最初の関門である正門を抜け、修司達は獅子王のいる中央の塔へ向かうのだった。
Q.今回出てきたガウェインの宝具って?
A.ガラティーンの欠片を集めて、獅子王が無理矢理新たな剣にした魔剣。某焔の巨人の持つ炎剣を模倣した代物だが、流石に神剣を模倣する術は持ち合わせておらず、結果、名前だけの粗悪品となってしまった。
とは言えその威力は凄まじく、純粋火力だけならガラティーンを上回り、本当ならマシュの宝具で防がなければならない程。
Q.その炎を、ボッチはどうやって消したの?
A.ボッチ「こう、パンって感じ」
Q.最後の意味はないって?
A.獅子王をどうにかしないと世界の果ては止められないから、部下のガウェインを殴っても意味はないという事。
それでは次回もまた見てボッチノシ