ご了承下さい。
コロナワクチン二回目、副反応がやや強めに出ている模様。熱はもう引いたんだけどね、筋肉痛がキツイッス。
追記。最後の主人公の台詞を改変しました。
「ほう、貴様が噂に聞く山吹色の男か」
荘厳壮大な大神殿。広大な砂漠の大地に自らの権威と威光を示すように建てられた光り輝く黄金のピラミッド。その深奥にある聳え立つ玉座にて、その王はいた。
「お初にお目にかかります。太陽王、此度はお目通しの赦し、誠に有り難うございます。我が名は白河修司、英雄王の臣下の末席に数えられ、今はカルデアに属する者です」
己の民草は照らし、敵には容赦ない灼熱を見舞う太陽王オジマンディアス。居城としている大神殿同様に尊大且つ偉大な王の前に、修司は片膝を付いて跪く。そんな修司に立香達は驚いたが、太陽王は然程関心がないように口を開く。
「ふむ、最低限の教養はあったか。弁えている様で安心したぞ、して? 此度はどの様な件で参った? 確かに余はお前達にこの
跪く修司を一瞥し、その視線は立香達へと向けられる。鋭い目だ。ここでふざけた事を口にし、一言でも言葉を間違えれば、きっと自分は殺される。立香はそう確信に思いながらも………。
「お願いします太陽王、貴方の力を、どうか私達に貸してください!」
藤丸立香は何時だって、そのちっぽけな命を張ることしか出来ない。自分なりの覚悟と決意をもって口に出した言葉は、思っていた以上に大神殿に響き渡り。
「ふむ、まぁ………いいだろう。山の民達との共闘、応えてやらんこともない」
「────ふぇ?」
そんな決意の籠っていた言葉は、嘘のように受け入れられていた。
「ブフォウッ!?」
「なんだ、余の力とその軍勢を望んでいたのではないのか?」
「い、いえ! そうではありません! そうでは、ないのですが………」
「太陽王、確かに我々は君の力を得たいと画策していたし、一度や二度の懇願では聞いては貰えないとも思っていた。それなのに此処へ来てあっさりと承諾されてしまったら、立香ちゃん達が呆然になるのは仕方がないよ。ていうか君、たった今までそんな素振りは見せなかったじゃないか」
自分達の要望が、あまりにもアッサリと受け入れられた事に、立香達は困惑する。確かに自分達は太陽王の言う通りにこの特異点を巡った。聖都にて円卓の騎士達と獅子王の蛮行を目にし、山の民の営みと、世界に迫る“果て”を知った。だが、それだけで目の前の太陽王が素直にハイそうですかと首を縦に振るのも、立香達にとって違和感が過ぎた。
そして、そんな立香達に対して、太陽王オジマンディアスはやれやれと肩を竦め………。
「全く面倒くさい連中よ、余が力を貸すと言うのが其処まで怪訝に思うとはな。とは言え、確かに貴様達の言う通り、唯で貸すわけではない。余の力と軍勢、そして守護獣を貸し与える代わりに、余は聞きたい事がある」
「聞きたい事?」
「そうだ。そこのいつまでも頭を垂れ下がっている貴様だ! いい加減面を上げ、立ち上がらんか」
「え、俺?」
聞きたい事がある。そう言って太陽王が突き付ける指の先には、未だに頭を下げたままの修司がいた。突然の指名に驚く修司だが、太陽王に聞きたいことがあると言うのなら断る訳にもいかない。オジマンディアス王の言葉に従い立ち上がると、次に太陽王は驚いた様に目を見開いた。
「ほう、やはり貴様も山の翁の頭目と相対した者か。貴様、あの死神を相手にどうやって生き延びた? アレは命乞い等で見逃す輩ではない筈だぞ?」
太陽王が目を剥いた理由は、修司の体に刻まれた無数の切り傷の痕。完治し、完全に塞がった後からでも分かる鋭すぎる剣筋に身に覚えのある太陽王は、それがあの山の翁によるものだと瞬時に理解した。
大神殿内にいた自分の首を、容赦なく撥ね飛ばした者の斬擊。斬る事ではなく、殺すことに特化した死神を相手に生きている事、それ自体が太陽王にとって称賛に値する出来事だった。
「えっとその………色々と経緯は語るのに難しいのですが、主観で宜しければ」
「構わん。申せ」
何故か喰い気味の太陽王に、修司は戸惑うが、変に断って空気を悪くするのも違うと思い、素直に話すことにした。初代山の翁に誘われて霊廟に入ったこと、戦った事、一度そこで死にかけ、どうにか翁の仮面を
その全てを話終える頃には、太陽王は笑いを堪えるように片手で顔を覆っていた。
「く、クハハハ! 叩き落としたと!? あの死神の面を!? 正面から!? これ迄数多くの命知らずを目にしてきたが、貴様ほどの者は余も見たことがないな!」
「我ながら、信じがたき事かと思いますが、全て真実でございます」
「分かっている。貴様の言葉には一切の偽りがない事くらいはな、だからこそ面白いと言ったのだ。あの死神を相手に生き残り、未だ成長し続けるその底無し具合………成る程、英雄王めが臣下と認める訳だ」
「では………」
修司の語る初代山の翁との戦い、それを耳にした太陽王は面白おかしく笑い飛ばした。このような人間がいるのかと、尋常ならざる成長性と何処までも高みへ挑まんとする向上心。その圧倒的可能性は成長というより進化に近い、一体何処からこの様な人間が生まれたのか、太陽王オジマンディアスはその可能性に賭けてみたくなった。
「とは言え、唯で守護聖獣を貸し与えるのもつまらんな。よし、ならば一つ余興としよう。ニトクリス、供をせよ!」
「ハッ! ファラオ・オジマンディアス!」
「ちょ、太陽王!?」
「なんで戦闘態勢に入るんだい!?」
突然杖を構える太陽王とニトクリスに、三蔵やダ・ヴィンチは戸惑うが、対するマシュと立香は身構えている。
「ダ・ヴィンチちゃん、やるよ。太陽王は私達を直に見定めようとしている」
「えぇ? だってさっきは……」
「それは修司さんに対してのモノだよ。私達はまだ、目の前の王様に何一つ示していない。それに、ワザワザ向こうから見定めてやるってその気になってくれたんだ。此処でそれを逃してしまったら、きっと私はあの人に認めては貰えない」
「ハッ! 分かっているではないか小娘よ、その若さで大した度胸だ。女にしておくのが勿体ないな!」
「マシュ!」
「了解! マシュ=キリエライト、太陽王の無茶ぶりに全力で応えます!」
「あぁもう! 二人ともすっかり逞しくなっちゃって! 寂しいったらないね!」
膨れ上がる太陽王の
「えぇっと………もしかして我々は」
「蚊帳の外、だな」
「ぎゃてぇ………」
目の前で繰り広げられる戦い、それを目の当たりにして完全に置いていかれた二人の騎士と一人の法師は、大人しく隅っこで見学に徹するのだった。
◇
─────それから暫くして、太陽王から無事に認められた立香達は、今度こそ同盟を結び、山の民たちへ報告する事が出来た。
そして現在。山の翁達に連れられ、移動した新たな集落に辿り着いた一行は、その光景に唖然としていた。
「な、なんて数の人達………これ、完全に百や二百じゃきかないよね!?」
「明らかに千人単位、いえ、下手したらそれ以上の………!」
一つの集落に集まるには、過剰に過ぎる集団。一体何処からこれ程の人員が集まるのか、未だに呆けている立香達の疑問に応えたのは、山の翁の一人である百貌のハサンだった。
「お前たちがいるなら、協力するんだとさ」
「百貌さん?」
「わ、私達って?」
「自分達とは人種も、信じる神も、何もかもが違うのに自分達を助けてくれた。そんな連中がいるなら一緒に戦ってもいいと、一から十、十から二十、二十から四十と増えていってな。今ではこの通りよ」
「他の各村からそれぞれ戦力が集まっておりますゆえ、そこに太陽王とそこの湖の騎士の戦力と合わせれば、数で言えば円卓の軍勢と渡り合えるかと」
「全く、我々が説得した時は歯牙にもかけなかった癖に、調子のいい連中だ」
百貌の説明を補足するように現れた呪腕は、此処まで山の民達が集まってくれたのは、偏に立香達のお陰だと語る。異国の人間で、自分達とは価値観も何もかもが違うのに、それでも必死に助けてくれた人達がいる。そんな人達と一緒に戦えるのなら、自分達も戦うと、一人一人がそんな小さな希望を頼りに集まったくれた人達だと知り、立香は自分達の行いは無駄ではなかったと、目頭が熱くなった気がした。
「ともあれ、これで全ては整った。初代様のお力を借りられるか定かでないのが不安だが、代わりに此処には初代様から認められた修司殿がおられる。太陽王との協力が得られた今、この機を逃す事はありますまい」
「では、いよいよかい?」
「えぇ、今宵我等は里を発ち、夜の内に聖都へ出立する所存。皆様はその間、どうかゆっくりと休んで下され」
呪腕から最終決戦へ挑む事を告げられた一行は、自然と引き締めた表情をする。その後、ランスロットは山の翁達と進軍の際の具体的な連携を、三蔵やダ・ヴィンチ、ベディヴィエールは集落の人々に食料を提供する藤太の手伝いをしたり、立香はマスターという立場から早々に就寝するように勧められ、有り難くそれに甘えたりと、それぞれ最後の休みを満喫していた。
そんな中、修司だけは立香同様に休むように勧められていたが、妙に目が覚めてしまい集落を彷徨いていた。時間帯はまだ夜更けに入る前、武装した山の民達が出立の準備を進める中、修司は一人佇む呪腕のハサンを見付けた。
「呪腕先生、幾らサーヴァントと言えど休みは必要だ。いい加減、仮眠の一つくらい取ったらどうだ?」
「ハハハ、嬉しい気遣いではありますが、今だけはそれを受け取る訳には参りませんな。何せ、嘗てない程に気持ちが高揚しております故」
「それは………ルシュド君の事か?」
「………えぇ」
静かに山岳地帯の向こうにある聖都を見据えながら、ルシュドなる少年の事を思い返す。十字軍の驚異から逃げ延び、ただ救いを求めて聖都に訪れた哀れな子供。
最初は、ただの私情からだった。嘗ての想い人が残した忘れ形見、彼女が最期に残した彼女自身の最期の希望。あの子を死なせてはならないと、無意識の内に優先順位を跳ね上げた呪腕のハサンは、自分のソレはとんだ見当違いであったと、思い知らされた。
「マシュ殿から聞きました。あの子は自分こそが母の命であると、自分が生きている限り母の人生もまた続くのだと、だから死ぬ訳にはいかない。例え辛くて苦しくとも生きるのだと………そう、言ったそうです」
「そっか………格好いいなルシュド君は、これもアーラシュさんの薫陶の賜物かね」
「恐らくはマシュ殿や立香殿、修司殿達を含めた全ての人から影響を受けた結果でしょう。いやはや、この歳になっても、教えられた気分です」
「………本当、そうだよな。獅子王はルシュド君の爪の垢を飲んだ方がいいんじゃないか?」
「ハハハ、修司殿も言いますな」
「決戦の前なんだ。口くらい軽くなる」
ルシュドという幼くも確かな希望に、呪腕は確かな救いを見出だしていた。そこに嘗て修司が目にした悪辣さはなく、やはり人は環境次第で変われるのだと、改めて理解した。
────それはそれとして。
「………所でさ、俺から一つ提案があるんだけど」
「むむ? 改まって如何した?」
「聖都にある正門、アレを崩す秘策があるんだけど………聞いてみない?」
第六特異点の最後の戦いまで後僅か、ここまで来たら後は進むだけだと、誰もが決意や覚悟を固める中で、修司が告げてきた提案に───。
「正気ですかな?」
呪腕のハサンは至極全うな言葉を口にするのだった。
◇
────朝。晴天が広がり、終末の世界とは到底思えない晴れやかな青空の下で、太陽の騎士は静かに目の前の軍勢を見据えていた。
「───来ましたか」
聖都の円卓軍と対と成るように展開された軍隊。その多くが山の民達であり、中には粛清騎士達と似た装いの甲冑兵も多数確認している。恐らくは、獅子王の決定に背いた騎士達の成れの果てなのだろう。そして、そんな彼等を率いて王に糾弾しようとする者も、恐らくは彼の騎士で間違いないのだろう。
そして、それらを懐柔し、かき集めてきたのは紛れもなくカルデアの者達である事は間違いない。いつぞやの予言が現実味を帯びてきたな、と誰かが邪推するが、太陽の騎士は一蹴する。
我等の王は完璧である。既に聖槍は完成され、後は選ばれた人間達を人理焼却から守るだけ。自分はただ、その時まで時間を稼げばいい。
(相手が誰であろうと切り捨てる。それが喩え、共に円卓を囲んだ同胞であろうと!)
あの日、実の妹を手に掛けた瞬間から、太陽の騎士ガウェインは自分の在り方を定めた。必ずや王を守り、今度こそ己の忠誠を貫くのだと。盲信であろうと構わない、それが自分に出来る忠節なのだと、ガウェインは決して揺るがない。
此方には壁上から狙える弓矢が無数に配置されている。加えて、聖都の正門も万全となっており、喩え宝具であっても耐えきれる強度を誇っている。
そして、それを守護するのは太陽の騎士である己自身。ならば勝利は約束されたと、ガウェインが確信を抱いた────その時だ。
「なんだ………アレは?」
空に───孔が空いている。より正確に言えば、山の民達の頭上に、孔のような黒い空間が出来上がっている。大規模な魔術によるモノ? 生前にも見たことがない現象を目の当たりにするガウェインは、孔から顕れるソレに目を剥いた。
剣である。巨大で、無骨で、凡そ人には扱えない巨大な剣が、黒い孔から顕になっている。その光景にガウェインを含めた騎士達も驚愕し、何故か味方の筈である立香達も驚いている。
そんな、誰もが目を見開く程に驚愕している中。
「ワームホール展開、距離、空間補填、その他諸々誤差修正───グランワームソード、発射ァッ!!」
グランワームソード。自身の相棒が扱う大剣を重力加速によって射出し、聖都の正門に直撃。爆撃の様な音ともに瓦解した正門を前に、白河修司は指を突きだし───。
「どうだ見たかぁ! 円卓のナルシスト共がァッ! これからテメェ等が壊してきたモノ、そのまま熨斗付けてお返ししてやるよぉっ!!」
静寂に満ちた戦場で、修司の罵倒の混じった叫び声を発端に、戦線は開かれるのだった。
Q.どうしてグランワームソードなん?
A.質量には質量をぶつけるんだよぉっ!!
尚、太陽王と呪腕さんには事前に話は通していた模様。
Q.どうして太陽王そんなに気前がいいの?
A.あの死神の翁とやりあって五体満足でいる時点で、相当な使い手である事は分かっている為、手を貸すのを了承した模様。
因みに、既に獅子王だけじゃなく魔術王も必ずぶちのめす旨も伝えている為、先の言葉も含め、信じる事にした。
尚、修司が正門をぶち破った光景に腹を抱えて笑っており、カルデアの英雄王も笑いすぎで医務室に運ばれた模様。
それでは次回もまた見てボッチノシ